プロローグ
幼い頃から努力は惜しまなかった。親が読み聞かせてくれた本の物語の人物のようになりたいと思い頑張った。
筋力強化、魔力量上昇、魔法技術上昇、格闘術上昇、勉学…と辺境の田舎村でできる事はしているつもりだ。
最初の方は嬉しさもあった。魔力という力の扱い方を身に着けた時にはここから…
何でもできそうだ
と思えるようだった。
その言葉の通りで簡単な魔法などはあっという間に身に着けていけたと思う。
「凄いな!」「流石ね!」
という両親の言葉は僕の心に更なる希望のような物を与えてくれた。
その希望を糧に更に凄くなりたい、そう思ったのだ。
そんなある日の日常で僕は幼いながらも嫉妬する事が起きた。妹の存在だった。
妹は病弱だった、生まれつきの病気を患っておるが治療すれば治すことができる病だった。けど…治すことはできなかった。病を治す費用が驚くほど高く捻出できなかった。
そんな妹が見せたのだ。明らかに当時の俺の歳で僕より成長が遅いと思われた妹が魔法の練習をすることなく無意識に火の玉を出現させたのだ。
まぐれだ…
そう思わずにはいられないがそんな気持ちを妹は知る事は当然なく、更に驚くべき事に火の玉を複数出現させて自身の周りをくるくると操作していたのだ。
「天才だ!」「神の子だ!」
などと辺境の田舎村の住民たちには直ぐに知れ渡ることになった。
くそ…妹は凄いかもしれないけど僕も努力すればもっと!
あんな風に褒められたい、そんな感情を抱えずにはいられない。だから更に頑張る。頑張って…頑張って、そんな頑張った僕を妹は直ぐに越えてしまった。
そこからほんの少しの月日が流れ妹はまだ4歳という年齢ながら更に成長していた。
俺はというと…伸びなかった。
成長限界だと言うことだろう。自分で思うのも何だが覚えはいいほうだと思ったから、けどそれに伴う才能を俺は持ち合わせていなかった。それでも8歳の俺にはまだ未来がある。魔法の才能が無かったとしてもそれを補うかそれを超える武術を身につければいいと考えて鍛錬した。自己流ながらも、今まで魔法を重点的に練習してきた方向から武術という方向へ舵を切った。
クタクタだ…
筋肉を痛めつけた身体の疲れは魔力を枯渇した時の身体の疲れよりもより心に響いてきた。
もう辞めたい…
そう肉体を動かし動きにくくなる度に思ってしまう。
それでも辞めないのは自分の存在を守りたかったからなのだろう。妹に負けないために…
その日の夜は筋肉の痛みに目を覚ました。しかし目覚めた直後に再び眠くなりそのまま落ちようとした時に会話が聞こえた気がした。
「ねぇ…あなた、本当にこれしかないの?」
「…………」
「ねぇ…」
「すまないとは思ってるさ、けどこのチャンスがいつまた来るか分からない。いや…もう来ないと思う。」
そんな会話を朧気に聞き取りながら目を閉じていった。
あの日の会話を聞いた次の日の朝からはいつも通りだ。両親の不安げな会話に入りたくないという気持ちもあるからか聞かずにそのままいつもの日常を…ルーティーンをこなすようにした。
今夜の食事は豪勢だった。いつもはでないお肉が並べられておりご馳走であることは間違いなかった。
母が僕に肉を取り分ける。そしてその肉を食べる。こんななんて事の無い日になぜ肉をと聞いても本当の答えを教えてくれなかった。
「たまにはいいでしょ…」
それだけを聞いて両親の目の前で僕は妹と食べ進める。
妹は食べて眠くなったのかな寝てしまった。
「あれ…」
そんな俺も椅子から落ちるように寝入ってしまった。微かに聞こえた母の声…
「ごめんね……ごめんねぇ…」
グスグスと鳴く声を最後に意識が途切れていった。
何時間寝ていたのだろう…
そんな風に考えながら目を覚ますと見知らぬ場所に俺は仰向けで動けずにいた。
「目覚めたかい…バッドボーイ」
「……っ!ここは!?」
思わずそう口に出してしまうほど焦ってしまっている。
「落ち着きたまえバッドボーイ、君には最後に知る権利がある。」
「最後って…」
分からない…どういう事だか理解できない。怪しい服に身を包んだ落ち着きのある声を放つ男の言うことを聞くことしかできなかった。
「君の妹さんは……素晴らしい、そう言わざる負えない程の才能だ。嫉妬するほどに」
僕もそう思う、僕も嫉妬した。
「だが…悲しい事にあの子には持病があった。折角の才能を持て余してしまうほどの病がね。君の両親では治せないほどの莫大な金がかかる。」
そうさ…金がかかるのは知っている。けど…
「しかし…そこに奇跡が舞い降りた。ある貴族の期待の息子が特殊な病にかかってしまっており最早最大限の治療を施しても治ることはできないそうだ。」
あぁ…何となく心の奥底で理解した。そういうことかと…
「貴族は裏である取引を持ち掛けた。自身の息子と同体型のドナーを欲しい、そして代わりに莫大な金銭を補償するとな…その言葉に食い付いたのが君の両親だ。」
「…そうですか…」
「もちろんこの国ではそういった取り引きは禁止されている、生まれた子は国によって基本的な情報を管理されるからな…。だがあくまでそれは側面的なもの、貴族ともなればその情報を操作する事も可能…抹消する事すらね」
「死なないという道は無いんですか?」
分かりきったことを聞く、力無き声で、手を震えさせながら、涙を流しながら。
「無い、貴族が欲しているのは心の臓だ。そして両親は既に金銭を受け取り契約は成立している。」
死にたくない!死にたくない!と言わない僕に男は聞く。
「最後に何か言い残すことはあるか…」
「…グスっ…生きたいです」
「それは無理だ」
「なら…痛くしないでください」
最後に痛いで死ぬのは嫌だ、せめて夢の中で眠らせて欲しい…そう願った。願うだけ、それだけでこの人は理解してくれただろう。
「分かった…補償するバッドボーイ、そして願おう来世の君に未来があることを…」
そうやって俺は何かの魔法を施され静かに眠って行く。それらと並行してあの人と僕の周りに人が募っていく。
これ以上の意識はもう無かった。
8歳という年齢で僕は家族の、妹の為、そして何処だか分からない貴族の息子の為にこの身を捧げた。
俺の人生は終わった。




