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王城

「王女様たちはどうやって、迷わずにここまで来たんでしょう?」


 片付けている間、わたしは少し寂しかったので、横にいたタクヤに話しかけた。


「あの人たち、イザベラ王女には加護がついているって言ってたよね?僕の予想になるけど、その加護のおかげで、森の影響を受けなかったんじゃないかな?」


 タクヤは、わたしをちらりと見ながらも、きちんと答えてくれた。それでも、しっかり手を動かしているのはすごいと思う。ついでだからと、もう1つの疑問を投げかけた。


「そうなんですね。ティムさんたちの道具は、どうやって動いてるんでしょう?魔力とかではなさそうですけど…」


「えっ?魔力じゃないの?」


「おそらく…。魔力は感じませんでした」


 魔力があれば感知できるはずだが、彼らから魔力は感じ取れなかった。


「てっきり魔力だと思ってたよ」


「魔女仲間ではなかったみたいです…」


 ほんの少しだけ落ち込むわたしの頭を、タクヤがゆっくりと撫でてくれた。


「ただ…」


「ん?」


「イザベラ王女の手を払ったときに、変な感じがしたんですよね」


 魔力ではないけど、暗くて重たいなにかが蝕んでくるような、嫌な感じ。


「あんまり考えすぎるのもよくないよ」


「………そうですね」



 * * * * *



 お風呂にゆっくり浸かった後、晩ご飯を食べた。悪くなるものを食べ切らないといけなかったため、かなり豪華な夕食が目の前に並んでいる。こうして2人でご飯を食べるのも、並んで食器を洗うのも、最後かもしれないと思うと、寂しさが押し寄せた。




「美味しかったですね」


 満腹になったわたしたちは、2人並んでベッドに横たわる。タクヤが手を握ってきたので、わたしもそっと握り返した。



「タクヤさんは、最上級の生活を約束されてましたけど、どんな感じなんでしょうね?」


「金をたくさん使うんだろうな。そんなこと望んでないのに…」


 誰もが望むであろう生活を、いらないだなんて、本当に変わった人だなとつくづく思う。


「まぁ、強制連行されなかっただけよかったけど。それに、あの集団には感謝してるんだよ」


 タクヤがわたしの手を離し、寝返りをうって、わたしの腰に腕を回した。ここ最近、抱き枕化していることを否めない自分がいる。


「地獄の日々から解放された。サラと出会えた。僕にとってはいいことしかない」


 たとえ、そうだとしても。


「それでも、逃げ出さないタクヤさんは強いですよ」


「ありがとう。サラの前ではかっこつけたいから、そう思ってくれてるなら嬉しいな」


「いつもかっこいいって思ってます!」


「…そっか」


 2人で笑いながらも、時は過ぎていった。



 * * * * *



 次の日、ゴードンに渡す予定だったものを、薪が置いてある簡易小屋の奥にしまい、ゴードン宛の手紙を玄関に貼った。これで今週分の薬は大丈夫だ。来週の分は、ティムに頼んで、負担のないタイミングで連れてきてもらえるように相談するつもりである。


 昨日、2人で荷物をまとめたが、それほど量はなかった。魔物との戦いで負傷した際に使えそうな薬をとにかく詰め込んだバッグも準備したのだが、そちらのほうが大きいくらいだ。


 すべての準備が終わった頃に、イザベラたちが迎えにきた。わざわざ4人揃って、タクヤのお迎えにきてくれたらしい。わたしも荷物を持っていたので、イザベラはかなり驚いていた。


「そちらの方は、連れていかなくてもいいのではないでしょうか?」


 明らかに場違いなわたしのことを、イザベラが睨みつけてくる。ここで押し負けてはいけないと、わたしは凛とした態度を貫いた。


「サラはとても優秀な薬師なんです。魔王討伐において必要な存在だと僕が判断しました」


 タクヤの援護射撃もあったおかげか、渋々といった感じではあったものの、同行を認めてくれた。


「……タクヤ様がそこまで言うのならかまいませんわ。では、行きましょうか」


 イザベラがそう告げると、ドン、と杖をつく音がして、一瞬でわたしのまわりの景色が変わった。そういえば、どこにテレポートするか聞いていなかったと今さら気づく。


「ここは……?」


 目の前に大きな城がある。まわりにも人がたくさん歩いていて、少し怖くなった。イザベラたちだけでもキャパオーバー寸前なのに、こんなにたくさんの人がいるというだけで、頭がくらくらしてくる。その様子に気づいたタクヤが、わたしを支えてくれた。


「シャール国の王城ですわ。勇者タクヤ様には、最高のおもてなしをさせていただきます」


 いま絶対、遠回しに、あなたにはしないけどね、って言われた気がする。喧嘩売られた気がする!


「中にお入りください」


 わたしたちはイザベラに先導されて、城の中へと足を踏み入れた。広いし、内装はキラキラしてるし、見たことのない景色に目が眩む。


 しばらく歩くと、今まで見た中で1番大きな扉の前についた。


「こちらで王がお待ちです」


 急に言われても困るのだが、そんなことを考えている暇もなく、目の前の扉が開かれた。


「おぉ、よく来た」


 部屋の奥には、本当に王様らしき人物が、煌びやかな椅子に座っていた。さすがに偉い人の前だからと思い、タクヤから一歩後ろに下がる。タクヤが歩き出したので、わたしも後ろをついていった。そのまま部屋の中央まで進んだところで、扉が閉まる。イザベラたちは、中に入ってこなかったようだ。


「そなたが勇者タクヤか。他国の妙な森の中に召喚してしまい、探すのに手間取ってしまった。すまなかったな」


 謝るところ、そこじゃなくない?と言いたいけど、不敬で部屋を追い出されたり、捕まったりしても困るので黙っておく。タクヤとともに、部屋に入れてもらえただけでも良しとしよう。


「来客用の部屋の中でも、1番いい部屋を準備させている。食事もあるから安心しなさい」


 まったくもって安心できないのだが。


「勇者タクヤよ、期待しているぞ」


 そこで初めて、王の視線が、タクヤの後ろにいたわたしへと向けられた。


「連れがいるとは考えていなかったな。今すぐ使える部屋となると…」


「発言をお許しいただけますか?」


 城に入ってから一言も発していなかったタクヤが、口を開いた。知らない場所でも、タクヤの声が聞こえるだけで緊張が和らぐから、不思議なものだ。


「彼女も、僕と同じ部屋で過ごさせてください」


「いや、しかし」


「要望は通るって聞いてるんですけど?」


 タクヤの言動に、ほんの少しだけヒヤリとする。


「……………うむ。いいだろう」


「ありがとうございます」


 タクヤに合わせて、わたしも頭を下げた。


「では、部屋に案内させよう」


 王の側に控えていた従者が動き出した。彼が部屋まで案内してくれるらしい。


「こちらへ」


 王がいる部屋を出て、わたしとタクヤは、従者のあとについていった。まわりには誰もおらず、廊下を歩く足音だけが響く。無言で歩いていると、またもや大きな扉の前で足を止めた。従者が扉を開いてくれたのだが、中を見て驚いた。


「………え?」


 そこには、先程いなくなったはずの、イザベラたち4人がいたのだ。


お読みいただきありがとうございました!

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