初陣
なるべくゆるーく書いてます。
わたし自身、痛いのが苦手です…。
「荷物を置いてすぐに出発しましょう。手下が潜伏している場所が特定できたので、そちらへ向かいます」
アレクの発言に、背筋がピンと伸びる。
「わかりました」
タクヤがそう答えたあと、わたしとともに荷物を置く。そのまま出発するのかと思いきや、イザベラに止められた。
「タクヤ様にとっては初めての戦いですし、少しだけ魔物の話をした方がいいのではないでしょうか?」
イザベラの一言に、それもそうだと思ったのだろう。その場にいた全員が、適当な椅子に腰掛けた。
「今回の魔物はどういう特徴があるんですか?」
タクヤに問われたアレクが、手に持っていた本をパラパラとめくる。
「マジュサスという魔物です。マジュサスそのものはそこまで強くないのですが、かなりの数の小物を従えているという話も出ています。その小物が、毒持ちでなかなか厄介らしいですね」
「毒ならいいものがありますよ!」
わたしは、薬の入ったバッグの中から瓶を取り出した。
「なんだ、このなんともいえない紫の液体は…?」
フェルナンドが訝しむのも無理はない。瓶の中にはお世辞にも美味しそうとは言えない色合いの液体が入っている。
「サラ特製の毒消しです」
タクヤが、わたしの代わりに、害のあるものではないと説明してくれた。
「今回の魔物は毒を扱うんですよね?飲んでおいて、損はないと思います」
イザベラは、加護持ちで毒は効かないため、イザベラ以外に配られる。タクヤがそのまま一息に飲んでしまったので、怪しいものではないと判断してくれたようだ。皆、顔をしかめながらも飲んでくれた。
「サラ、ありがとう」
「いえ…」
わたしは戦う術をなにも持っていない。かといって、自分自身を守る術も持っていないのだ。
座っているわたしの頭を、タクヤが優しく撫でてくれた。タクヤが1番怖いはずなのに、こんな時でさえ、わたしを心配してくれる。
「サラ、やっぱり待って…」
「待ちませんよ。負傷者が出た時に、ここで呑気に待っていたら手遅れになるかもしれません」
そんなのは嫌だ。大切な人を失う恐怖は、母だけでもう十分である。
「そうだね。サラが手当てしてくれるなら、僕も安心だよ」
タクヤが立ち上がるのに合わせて、皆が一斉にティムのところに集まる。
「行きますよ」
* * * * *
ティムたちとともに降り立ったのは、元魔王国の領地だ。この先にある廃墟に、手下の魔物が潜伏しているらしい。
未だに、突然変わる景色に慣れないわたしの顔を、タクヤが心配そうに覗き込む。心配をかけまいと笑いかけると、タクヤも目を細めて笑い返してくれた。
それらしい建物を見つけて中に入ると、予想通り、小さな魔物がウロウロしていた。わたしは小さく悲鳴をあげて、一歩後ずさる。
そんな中、フェルナンドが先陣をきって進んでいった。タクヤがその後ろで剣を構えて、次々と襲いかかる魔物を斬っていく。その姿がかっこよくて、自然と目が奪われる。
「すごいな…。本物の勇者みたいだ」
どうやら、聖剣が導くというのは本当だったらしい。この調子なら、大きな怪我をせずに済みそうだとほっと胸を撫で下ろした。
タクヤが魔物を斬り、ティムは杖で殴り、アレクが弓で援護射撃をしていく。フェルナンドは、魔物に対して、殴る、蹴る、放り投げるを繰り返していた。わたしはイザベラの隣で、行く末を見守っている。イザベラは加護持ちなので、戦闘においてそばにいても問題はない。それに彼女には、タクヤたちの魔王軍討伐を見守るという使命が国から課せられてるらしい。予想になるが、言い方を変えれば、タクヤたちが逃げ出さないようにする見張り役だろう。
戦っている雰囲気を見るに、いま戦っているものはすべて小物で、すぐに倒せるものばかりのようだ。しかし、その小物たちが、妙な粘液を吐き出していた。おそらく、事前にアレクから聞いたもので、この粘液に毒が含まれているらしい。
「サラには指一本触れさせないっ!」
目の前にいる雑魚たちを一気に殲滅する。そのおかげで、わたしのところには、魔物の手が届くことはなかった。アレクたちも毒消しの効果を感じているようで、臆することなくグングン進んでいるようだ。
「あなた、タクヤ様のなんなの?」
イザベラからの突然の問いかけに、思わずびくりと肩を震わせた。彼女は加護持ちなので戦闘において、そばにいても問題はない。それに彼女には、タクヤたちの魔王軍討伐を見守るという使命が国から課せられていた。言い方を変えれば、タクヤたちが逃げ出さないようにする見張り役だ。
「その話、今します?」
わたしは、タクヤがいつ負傷するか分からないという不安でいっぱいだというのに。もちろん、他の人たちが怪我をした場合にも、対処するつもりだ。
「答えなさい」
イザベラから、突き刺すような冷たい視線が向けられる。これは逃げられないなと、思わずため息をついた。
「居場所なんです」
「………………何言ってるの?」
わたしは、タクヤから目を離さずに答えた。顔を見ずとも、イザベラが怪訝そうな表情をしているのが声で分かる。
その時、ほとんどの小物をタクヤが潰していき、ボスがいると思われる部屋へと入っていくのが見えた。わたしたちも後を追いかけるため、この話は強制的に打ち切られたのだった。
* * * * *
「やっと来たか、人間どもよ、待ちくたびれたぞ」
中には、雑魚たちとは比べ物にならないくらい、禍々しいオーラを放つ魔物がいた。最近、これに似たものをどこかで感じたような、と首を傾げるも、よく思い出せない。少しもやもやしたものは残るが、今は考え事をしているわけにはいかないのだと、余計な思考を振り払った。
「ゴタゴタうるさい」
「フン、そんな攻撃をしたって無駄…」
魔物がセリフを言う隙すらも与えず、タクヤが聖剣で斬った。たった一撃で、魔物は倒されてしまったのだ。魔物も驚いていたが、まわりにいたアレクたちもタクヤの初めてとは思えない動きに、驚きを隠せないでいた。一同がタクヤを見て、目をまんまるにしていることがその証拠だ。もちろん、わたしだって驚いている。
一方、倒された手下は、悔しがる素振りを見せなかった。それどころか、タクヤたちに怪しい笑みを向けている。
「………もう…遅い……」
そう言い残すと、そのまま手下は、ピクリとも動かなくなってしまった。
「なにが遅いんだ?」
まさか、すでに魔王復活の手筈が整えられている?
「皆様、お疲れ様でした」
イザベラが、タクヤたちに駆け寄った。わたしも、無意識のうちに握りしめていた手をゆっくり開く。緊張から、変に力が入っていたであろう足をどうにか動かしてあとを追った。
「魔王復活が、間近に迫っているかもしれないという可能性はないですか?」
どうしても、魔物の最後の一言が気になった。
「あり得ませんわ!まだ猶予はあります」
イザベラが言い切るからには、きっとなにか根拠があるのだろう。まわりのメンバーも口を出してくることはない。状況がよく分からないわたしが何か不用意なことを言って、混乱させるのもよくないと思い、これ以上の追及はやめた。
タクヤがわたしに歩み寄ってくる。肩にそっと手が置かれ、ぽんぽんと優しく叩かれた。そこで、自分の肩が強張って、かなり力が入っていたとこに気づき、ゆっくりと力を抜いていった。
「タクヤさん、無事でよかった…」
「サラは怪我してないね?」
「わたしは大丈夫です。でも、皆さん手当てしないと」
命に関わるような大怪我をした人はいなかったが、それでも無傷で終わったわけではない。
「ここよりは、城に戻ってからの方がいいかも。サラも落ち着いて治療できるだろうし」
「では、戻りましょうか」
タクヤの言葉を聞いて、ティムが杖で地面を叩く。次の瞬間にはもう、城へと戻っていた。
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