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幼馴染のひと  作者: 夜明天


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3/3

第3話

お久しぶりです。

5分くらい歩いて、僕らは錦糸町パルコに向かっていた。錦糸公園の近くにある信号で足を止める。

「で、パルコで何するの?」

「ちょっと夏服が欲しいんだけどさぁ…」

燕はそれだけ言って、またスマホに目を落とした。何かを調べているような手つきだった。

「……?」

信号が青に変わって、僕が一歩踏み出したタイミングで、燕がスマホの画面をこちらに向けた。

「やっぱ、ここ行かない…?」

そう言って向けられたのは、ラブホテルの予約サイトだった。

「……なんで」

「近いから?」

燕はそれだけ言うと、なにごともなかったかのように雑踏の中歩き出した。

「……」

僕はしばらく立ち尽くしてから、その背中を追った。

パルコの前に着き、自動ドアが開く。冷房の風が顔に当たった。

「そういえば、何が欲しいんだったっけ?」

「夏服だってば」

そう強く言ってから燕は、エレベーターの横に貼ってあるフロアガイドを見て、目当てのお店を探していた。

エレベーターを使って5階までやってきた僕らは目的の洋服屋に入る。僕は夏服を買うと聞いていたのだが、燕はなぜかそこを通り過ぎてしまう。

「ねえ、夏服を買うんじゃなかったの?」

「んー?そうだよー」

「でも、通り過ぎたじゃん」

「まあついてきなって」

燕についていく。立ち止まった場所は、水着売り場だった。

「ねえ、水着は夏服って言わないと思うけど」

「夏に着るものなんだから夏服でしょ」

燕は平然とそう言いながら、2着の水着を手に取る。黒いビキニと真っ赤なビキニ。

「どっちがいいと思う?」

「なんで僕なの?」

「こういうのはさ、第三者の意見が欲しいじゃん?」

「なら僕じゃなくても、同性の友達でいいんじゃない?」

「七海は私が友達のいない可哀想な子って言いたいの!?」

「いやいや、むしろ逆。友達ならいくらでもいるでしょ」

石川燕という人の周りから、人がいなくなったところを僕は全くと言っていいほど見たことがない。クラスの中でも、駅でも、街中でも、どんなところでも。気づけば誰かが燕の近くにいる。

だからこそ、燕が僕を選ぶ理由なんてないと思っていた。

「とにかく、私は七海に決めてもらいたいの」

その一言が、妙に嬉しかった。

「……そういうこと言っちゃうんだ」

思わず口元が綻んでしまった。たったそれだけのことで、少しだけ嬉しくなっている単純な自分がいた。

「?」

「いや、なんでもない」

「そう。それで、どっちが似合うと思う?」

「個人的には黒かな」

「どうして?」

「そっちの方が燕って感じするし」

「……それってどういう意味?」

燕が少し意味ありげな眼差しを向けてくる。

「まあ、そういう意味……的な?」

「それじゃ分かんないよ。もっとちゃんと説明して」

「えぇ……」

少し、ほんの少しだけ考えて、僕は言葉を探した。

「なんて言うんだろう。シックな感じが、大人っぽい燕っぽいっていうか……」

そこまで言うと、燕の顔がみるみる嬉しそうになっていった。

「なんだ、七海くん。ちゃんと考えてるじゃん」

「そりゃどうも」

「じゃあ、この黒とこっちの黒だったら?」

「それだったら……」

その後も燕に何着か見せられた末、彼女はリボン付きの黒いビキニを選んだ。

「今日はありがとね、七海」

「いやいや、結局なんやかんや楽しかったからいいよ」

「でもせっかく錦糸町来たんだし、まだ帰りたくないなー、なんて」

「しゃーないな、気が済むまで付き合ってあげるよ」

「やった、七海大好き」

「はいはい」

僕らは水着コーナーを後にし、しばらくパルコの中を散策した。

「……そういえばさ」

「どしたの?」

「さっきのホテルの話、本当に行くつもりだったの?」

「さあ?どうだろうね」

燕は言いながら笑う。

「七海くんは行きたかったのかなぁ?」

「別に、そんなわけじゃないし」

「ふーん」

燕はそれ以上何も言わなかった。ただ、どこか楽しそうだった。

僕らはパルコを出て、今度はオリナスというショッピングモールに向かった。

外にあるエスカレーターを下り、地下にあるゲームセンターにやってきた。買い物をしている途中に燕が急に、『プリクラを撮りたい』などと駄々をこね始めたからだ。

「うわ、やっぱりプリクラコーナーは女子でいっぱいだ」

「そもそもここのプリクラって男だけとかだといけないんじゃなかったっけ?」

「あ、そっか。確かに」

「……七海はプリクラとか撮ったことある?」

「え?ないけど。」

「友達同士とかでも?」

「男同士で撮ってるやつ全員ゲイでしょ」

「そんなことない、それは失礼だよ。そんなこと二度と言わないで」

珍しく燕が怒りの表情を見せた。

「ごめん、気をつける」

「よろしい」

改めて、プリクラコーナーには女子中学生や女子高校生、なんなら小学生っぽい子までおり、男の姿はカップル以外にはいなかった。

「こういうのってどうやって動かすの?全然わかんないや」

「操作は私に任せて」

「よろしくお願いします」

燕が手際よく投入口にお金を投入していく。

「え、500円もするの?」

「そうだよ、意外と高いんだよねー」

そんな会話をしながら、プリクラ機の中に入っていく。燕は慣れた手つきで操作し、撮影画面まで移行した。

突如カウントダウンが開始し、燕が抱き着いてくる。

「はい?」

「そういうポーズなの、七海も同じようにしてみて」

驚いていると、燕がそういう風に言ってきた。同じようにしているうちにカウントダウンが0になり、シャッターが切られた。

そのまま何回か撮影がされ終了。撮った写真が一覧で並べられている。

「七海、顔すごいよ?」

「いやいや、急にこんなことされたら緊張しちゃうでしょ」

「今日は七海のこの顔が見れただけで万々歳だよ」

「だめ、これは永遠にどこかに封印する」

「はいはい」

燕は僕の抗議に対して、特に気にも留めていない様子だった。そして、燕はタッチペンを使って落書きを始めていく。

「なんで女の子ってプリクラで目大きくさせんの?」

「盛れるから」

「盛れるって何、ビジュイイじゃん的なこと?」

「そう、そんな感じ!」

燕は書き込みを続ける。

「へー」

僕はいまいちよく分からなかったが、女の子の間では結構常識的なことらしい。

燕は黙々とプリクラに落書きをしていた。僕は隣から、その横顔を眺めていた。

いつもと変わらない燕だった。でも。

ふと、完成したプリクラを見て。

「……僕は、燕は何もしなくてもかわいいと思ってるけどね」

言ってから気づいた。

「……七海くん」

燕の手が止まる。

「……なんでしょう?」

「あんた、自覚ある?もう1回言って」

「……いやぁ、何が?」

「何が?じゃなくて」

「……言いたくない」

「なんで?」

「恥ずかしいから」

「ふーん」

燕はタッチペンを置いて、ニヤニヤしながら僕のことを見る。

「七海って、私のことかわいいって思ってたんだ」

「……」

「しかもずっと」

「……忘れて、絶対」

「やだ」

「お願い」

「もっとやだ」

燕は楽しそうに笑っている。僕は顔が熱くなるのを感じながら、視線を逸らした。

どうして僕は、あんなことを言ってしまったんだ。

そして、どうして燕は、こんなに嬉しそうなんだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

よければ、評価とブックマークよろしくお願いします。感想も書いてくれると幸いです。

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