手術跡の異変ー蜂窩織炎ー
術後半年ほど経ち、脳の手術をしたため禁止されていた車の運転も許可されて、徐々に以前の生活を取り戻しつつありました。教員の仕事は連休明けから休職したまま、自宅療養の日々を過ごしておりました。
定期的な脳外科の受診では「手術跡の筋肉の腫れが見られるが、徐々に収まっていくでしょう。」といわれ、あとは日にち薬かな、と思っていた頃のことでした。
時々、頭骨を戻したあたりに刺すような痛みを感じるようになり、そして、そのうちにそのあたりの頭髪が抜けはじめ、まるくはげてきたのです。手術跡の細菌感染「蜂窩織炎『ほうかしきえん』(皮膚の深層から皮下脂肪組織にかけて細菌に感染し化膿性の炎症がおこる病気)」でした。
主治医の話によると、くも膜下出血の手術では、1回目に頭骨を外して出血点をクリップで留めるクリッピング術を行った後に頭骨を外したまま閉じ、脳の腫れが治まるのを待って後日改めて頭骨を戻しているのだそうです。外した頭骨の保存でも、手術でも、感染を起こさないよう最善を尽くしてはいるが、どうしても脳内という無菌状態が空気に触れることになり感染のリスクはある、と。さらに、私は1型糖尿病のため、もともと抵抗力が人より落ちており感染しやすいというリスクも持っていたようです。
しばらくは入院による抗生物質の投与で炎症の値が標準になり退院。しかしその後、手術跡の皮膚の下が明らかにぶよぶよしてきて、皮膚から膿のようなものがしみ出してくるようになりました。
驚いて病院に行き、その場ではげた部分を切開しそのまま入院。取り出した膿は検査にまわされ、菌の特定が行われました。
しかし、検査では菌が見つかりませんでした。
主治医から、「炎症の値も上がってなくて、菌も見つからないのです。となると、ほとんどないのですが、脳内のチタンクリップにアレルギー反応を起こしている可能性があるので、金属アレルギーの検査を行いますね。」と言われ、「もしそうだったら、また頭骨を外してクリップを取り出すのですか?」と聞くと、「いえ、手術から半年以上経っていて、クリップにはもうまわりの組織や肉が巻き付いてきているので、取り出すこともできず、そうなると困ったことになるんです。」と、正直な言葉が返ってきました。
この言葉を聞いたとき、私は思った以上にショックを受けませんでした。それよりも、一生懸命に原因を突き止め治そうと力を尽くしてくださる主治医に、感謝の気持ちの方が大きかったのです。
「いえ、先生。私もしあの時助けていただかなかったら、自分が死んだことも知らないまま、まわりの方々の思いにも気付かないまま、自分にもまわりにもさようならを言うこともできないまま死んでしまうところだったんです。助けていただいて、もういつ死んだっていいと思っているんです。」
これもまた、私の正直な気持ちでした。
「いや、そうならないように頑張ります。」
そう言って主治医はこの後も力を尽くし続けてくれました。
結局、アレルギー検査で陽性は出ず炎症の値が上がることもありませんでした。
そういえば中学生で盲腸炎を起こした時、検査で白血球の値が上がらなかったため自宅に帰され、腹膜炎を起こしかけたという経験のある私。今思うと、ここでも同じような事が起こっていたのですね。
しかし切開箇所を見る限り炎症を起こしているのは確かで、これ以上抗生物質の投与を行っても、戻した頭骨には血流がなく血液を通して抗生物質を届けることもできないため、感染源と思われる頭骨を外す手術が行われることに。その後は、2,3ヶ月は頭骨を外したまま過ごし、感染が落ち着くのを待って人工骨を入れる手術をすることになりました。




