24話 罪と罰
「いくぞ!」
扉を蹴破り倉庫内に踏み込んだ俺達は間髪入れず、敵に向かって突進した。
「な!?何だ!?」
敵の中から声が上がる。
作戦通り!いいぞ、奴等は完全に意表をつかれ、固まってる!
しばらく使われていないのか倉庫内はがらんとしており、そう広くない室内の奥には敵と、縛られたライとラナが見えた。
敵は五人。それぞれが顔を隠すように、麻のような袋を被っている。
「くそっ!奴等の用心棒か!」
その中のリーダー格と思わしき男が、持っていたショートソードを引き抜き、俺達に向かって突っ込んできた。
「私が引き受ける、いけ!」
そいつの前にゲッコウが立ちふさがる。その横を抜けライ達の元に走った。
「ライ、ラナ!助けに来たぞ!二人とも大丈夫か!?」
「ミナトさん!?僕達は大丈夫です!!」
俺の問いにライがしっかりとした声で応える。
縄で上半身を拘束されてはいるものの、二人とも無事のようだ!
ライとラナの前には残る四人の敵がいる。そのうちの一人が俺達に、包丁のようなナイフを向けた。
「……来るな!来るな!」
そいつが大声でこちらを威嚇してきた。しかし、俺に向けたそのナイフの切っ先は、緊張の為かぷるぷると震えている。
「くそっ!お前ら、逃げろ!」
突然、俺の背後から声がした。
振りかえるとゲッコウが男を組み伏せている。がっちりと押さえつけられ、男は微動だに出来ない。勝負あり、だ。
「フィン兄ちゃん!」
対峙していた仲間の一人が、悲鳴のような声を上げた。
……ん?兄ちゃん?
その言葉に違和感を覚える。
改めて冷静に敵を観察する。みな体格が小さく今までの黒蛇の奴等に比べ明らかに劣っていた。持っている武器も錆びた包丁に角材、鉄の棒等、おおよそ武器とは言えない、その辺に転がっているようなものばかりだ。
「リン、こいつらを足止めしてくれ」
「分かった」
リンが俺の肩から飛び降り、敵の前に立つ。ナイフを取り出すと光刃を発動させる。そして素早くブン!とひと振りした。
「ひっ!?く、来るな!来るなぁ!!」
ナイフを向けたまま敵が叫ぶ。光刃を見た他の連中も驚いたのか固まったまま動かない。明らかに戦意が低い。
「よし、ライ、ラナ、今だ!俺の声の方に走れ!」
敵が怯んだと見て二人を走らせる。俺の声に素早く反応したライとラナが立ち上がり、俺の方に走った。
「あっ!?し、しまった!」
奴等の一人が叫ぶ。
敵をすり抜け走り込んできた二人をしっかりと抱き止める。
「ライ、ラナ!無事でよかった!」
「はい!」
ライは俺の顔を見て、ほっとしたように返事をする。
「……なんで……もっと早く助けにこないのよぉ……」
ラナはと言うと、今まで一生懸命、恐怖と闘っていたんだろう。狸人族特有の丸い耳と大きな尻尾が震えていた。
「二人とも、よく頑張ったな。すぐ助けられなくてごめんよ」
「………怖かった、……怖かっ……たんだから……ミナトぉ……わぁあああ……」
ラナは安心したのか泣き出してしまった。泣きじゃくるラナを優しく撫でる。俺の不注意でこんな怖い思いをさせてごめんな。
「く、くそぉ!でやあぁぁ!」
破れかぶれのつもりか、リンの前に立っていた男がナイフを振りかざし、攻撃しようとした……が。
「ガアァァ!!」
「ひっ!?ひい!」
リンが発した威嚇の一声で、男はナイフを取り落とし、頭を抱えてしゃがみこんでしまう。他の奴等も怯えているのか、攻撃してくる気配はない。
……よし
「これ以上は無駄だ!大人しく武器を捨てろ!」
戦う気がないと見て降伏を呼び掛ける。無駄に争いをする必要もない。
「くそっ!放せ!お前ら早く逃げろ!」
ゲッコウに拘束されたリーダーの男が叫ぶ。しかし、俺とリンが退路をふさいでいる為、逃げるのは不可能だ。
「これ以上は無意味だ。もし、それでも抵抗するつもりなら……ただじゃおかない」
威圧感を漂わせつつ、低い声で脅しつける。
カラン、と武器が落ちる音がした。次の瞬間。
「わああぁぁん!だからこんな事、やめようって言ったんだ!みんな捕まって殺されちゃうんだ~!」
一人が火が付いたように泣き出した。するとそれが呼び水になったようにその場に居た敵たちが武器を放り出し、一斉に泣き出してしまった。
えぇ……何?なんなの?
いきなりの事態に混乱する。ゲッコウを見たが彼の表情も困惑気味だ。
どうすりゃいいのよ、これ……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、ひとまず全員を倉庫の一角に集めた。泣き叫んでいた子供達は、すっかり戦意を喪失している。まぁ、逃走する心配はなさそうだ。
集めてみて驚いたのは全員が子供だったという事。上は12歳から下は5歳の女の子までの四人の子供達。うーむ。どうりで小さいわけだ。
唯一、ゲッコウに取り押さえられたリーダーだけが成人で、俺と同い年(肉体的に)だった。
どうやら黒蛇とは全く関係なかった様でそこはいいんだけど……。
リーダーのフィン(と、いっても俺からすれば、他のメンバーとそんなに変わりもしない男の子に見えるけど……)に何故こんな事をしたのか問い詰めると、どうも食べる物がなく、思いつめた末の犯行だったようだ。
子供達はもともと全員がみなしごで、同じ家で共同生活をしているが、そこの親代わりの人物が病を患い、食うに困る生活になってしまったらしい。
リーダーのフィンもそこの出で、一年前に独立していたが出戻ってきた。ちょうどその時、子供達から窮状を聞き、何とかしようとこの計画を立てる。
サツマイモが狙われたのは「今、街で甘くて美味しいと噂になっているサツマイモという芋を一度でいいから食べてみたい」と言う子供達からの願いを無下にできなかったから、らしい。
その話を聞くと同情の余地がないこともない。しかし……。
「サツマイモが欲しいなら、働いてお金を稼げばいいだろう。こんな事して良いと思ったのか?」
「当たり前だろ。芋を背負った奴が時々、奴隷を連れている。俺はこう思ったね。「きっと奴隷をこき使って育てているに違いない。サツマイモを手に入れるついでに助けてやらねば!」ってな!」
「お、おう……」
「奴隷をこき使う悪の主人からサツマイモを盗んだとしても、それは悪い事じゃない。更に奴隷も解放してやれば感謝されるに違いない。お前らみたいな悪の手先と違って、俺は正しい事をしてるんだからな!」
……とんでも理論乙。
てか俺は悪の手先か!?
しかし、あんな事を真顔で言われた時は正直どうしようかと思った。そもそも盗難の時点で犯罪だし正当化される謂れはないじゃないか。
「えっと……もし僕達を逃がしたとして、その後は勝手にしろ、と言われても僕達はどうしたらいいんですか?行く当てもないし隷属の首輪は外せない。それに逃亡奴隷は、拘束の対象なんです。普通なら捕まった奴隷は酷い罰を受けるんですよ?その責任をあなたはとれるんですか?」
ライが真顔で質問する。
「いや、そんな事を言われても……」
ライも呆れ顔だが、フィンと話していて感じたのは
「……残念な子だなぁ」
という事。何というか、何もかもが足りてない。やってはいけない事を後先考えずやってしまう思慮のなさ。一般的な教養である学のなさ。剣の腕もお粗末だし、それに、こんな犯罪に小さな子供を巻き込んでしまうなんて、本当にやるせない気持ちになってくる……。
「ゲッコウさんから見てどう思いますか?」
「浅慮というか、短絡的というか……もう少し考えて行動できないものか」
「そうなんですよねぇ……」
二人してため息をついてしまう。しかも彼は俺と同じく冒険者らしい。さらに同じDランクというんだから頭が痛い。
見た感じ体格も良く、運動神経だけなら見れない事もない。冒険者向きと言えば冒険者向きだと思うんだよ……。
「……で、これからどうする?主犯格のコイツは当然として、他の連中も子供とはいえ窃盗と誘拐に荷担したんだ。このまま衛兵に引き渡すか?」
そう言われて、改めて集まっている子供達を見た。
みんなやせ細り、満足な食事もとれていない事が見てとれる。リーダーのフィンもやった事は許されない事だけど、この子達を見て何とか窮状を救おうとしたのだという点だけは、同情の余地がある。
「とりあえず育ての親って人に会ってみましょう。そこで判断します」
「分かった。ではそこへ向かおう」
ひとまず全員を引き連れ、子供達の住んでいる家に向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
子供達の案内でやって来たのは一軒のボロ家だった。俺とリンがゲッコウから譲り受けた、最初の廃屋よりは少しはマシかな、と思う程度にボロい。子供達を引き取って育てていると聞いていたから、孤児院のような施設を想像していたがまるで違った。
家を訪ねると出てきたのは、女の子に体を支えられながら、何とか奥から出てきた中年の男
痩せ細り歩くのもやっと、という感じで、病を患っているというのは、本当の事だったみたいだ。名前はイアン。彼は俺達を見て怪訝そうな表情を浮かべたが、事情を説明するとショックのあまりその場に崩れ落ちてしまった。
「お、お前たちは、何という事をしでかしてくれたんだ!」
「それがどんなに悪い事か分からなかったの!?」
イアンを支えていた女の子も驚き詰問する。ショートカットの活発そうな子だ。歳は前世なら中学生くらいだろうか。
「イアンさん、カーラ姉ちゃん、ごめんなさい!お腹がすいてどうしようもなくなって……」
「フィン!お前はバリーさんの所に弟子入りしたはずだろう!?今も頑張っていると思っていたのに、これはどういう事なんだ!」
「それが……仕事が嫌ですぐに辞めちゃったんだ」
「な、何だと?」
「で、でもさ。天職を見つけたんだ!俺、今は冒険者をやってるんだ。ほら、ランクだってDランクに上がったんだぜ!」
どうやら成人したフィンは独立し、街の家具職人に弟子入りしたのだが、下積みが嫌で、すぐにそこを飛び出してしまい、以降は職を転々としていたようだ。
その後、居づらくなったのか、ノースマハから南にあるサウスマハの街に流れ、そこでも仕事が長続きせず、最後の最後に行き着いたのが冒険者だったらしい。
「冒険者は誰でもなれる。中には食うに困ったり、仕事につけず仕方なくなるような者もいるようだ。ルークも嘆いていたよ。冒険者登録した者で、これだけで食っていく覚悟のある奴がどれだけいるか、とな」
ゲッコウが呟くように言った。
冒険者になったフィンは、他の職業とは違い、順調にクエストをこなし、Dランクに上がった。そこで受けたのが「育成クエスト」。Cランク以上のパーティに一時的に加入する事で経験を積み、冒険者としての技量と技術を学ぶためのクエストだ。昇格し自信を深めた彼は、ここで一気にステップアップを狙ったらしい。
しかし、間もなく彼はそこを無断で飛び出してしまう。理由は「大変な雑用ばかりやらされ、何も教えてくれない。一日中、早くやれ、と怒鳴られっぱなしだ。魔物とも戦わせてくれない。一人前になりたいのにこれでは強くなれず、しんどいばかりで経験も積めず嫌気がさした」からだそうだ。
「お前からみればそう写るかもしれん。しかし、そもそも一人前とされるCランクとDランクになったばかりの冒険者では実力差がありすぎる。実戦の経験も乏しく、連携も満足にとれない、そんな奴が「魔物と戦わせろ」と主張したところで通るはずがないだろう。足手まとい以外の何者でもないぞ。実力があればまだいいが、まともな戦闘訓練も受けていないだろう?」
確かにゲッコウの言う通りなんだ。
育成クエストは、戦闘より普段の冒険者の行動を間近で体験することで、自身の経験の糧にするためのものだ。雑用を通して、先輩冒険者の知恵と技術も身に付く。初心者にはありがたいクエストという位置づけだ。
「俺も防衛隊にいたから分かりますが、チームの中にズブの素人が入るのが、いかに危険でいかにチームワークが乱れるか。そのパーティは、リスクを取ってまで育ててくれようとしてたのに、惜しい事をしましたね」
「そうだな。逆にもし、前線で戦わせてやる、なんて言うパーティがあれば疑った方がいい。肉壁かいざ、という時の囮に使われる恐れが大だ。そういう意味ではお前を引き受けたパーティは、まともだった。だが、今頃は逃亡したお前のせいで、そのパーティはもう育成クエストを受注する事はないだろう」
俺は冒険者の心得を、エリスに死ぬほど叩き込まれたから分かるけど……フィンはそれに自分で気付けなかったのだろう。それを冒険者に向いていない、と突き放すのは簡単にできるけどさ。うーん……。
それはともかく、今回フィン達のやった事は窃盗と誘拐。立派な犯罪だ。この落とし前はつけないといけない。
「ミナトさん!今回のフィン達のしでかした事、育ての親としてなんとお詫びしていいか分かりません、本当に申し訳ありません!」
イアンが俺達の前で、這いつくばるように土下座する。
「今回の件の責任はこの私のいたらなさにあります!こちらからお願いできる立場ではありませんが、どうかこの子達の代わりに私を衛兵の元に!どうかお願いします!」
「ちょっ、ちょっと!パパ!?駄目よそんな事!?」
カーラと呼ばれた女の子が驚いて声をあげる。
「いいんだ。元はと言えば私に原因がある。私は病にかかり働けなくなった。そのせいでカーラや子供達に負担をかけてしまったから……」
「で、でもパパがいなくなったら、私達はどうするのよ!?」
「フィンがいる。多少危なっかしい所はあるが、お前達の事をちゃんと考えてくれる。この体は、病でもう役に立たない。私が最後にお前たちにしてやれる事はこれしかない……これからはフィンを中心に、皆で頑張りなさい」
「ちょっと待てよ、おやっさん!今回の件は全部、俺のせいだ!何でおやっさんが代わりに連れていかれるんだよ!それにそんな体じゃ満足に歩けないだろ!」
「大丈夫だ。詰所くらいまでなら歩けるさ。ミナトさん、どうか私をお連れください。罪は罪として罰を受けようと思います」
イアンに懇願され、返答に困った。
彼は孤児を引き取って育てている。それについてはライとラナと同居している俺と境遇はよくにている。でも、罪は罪だ。フィンや子供達には二度とこんな事をしてほしくないからこそ、俺は彼らに罰を与えるべきだと思う。
「イアンさんの言い分は分かりました。色々考えたのですが、衛兵には引き渡しません」
「え!?いや、それはいったいなぜ……!?」
イアンの顔に戸惑いがみえる。
「でもその代わり、俺からフィン達に罰を与えようと思います。私的な制裁、いわゆる私刑ってヤツです」
「私刑、ですか……?」
「ええ。明日の朝、全員で双子山に来てください。そこで罰を与えます。いいですか?必ず来てくださいよ?」
「……分かりました。必ず全員で伺います。私も這ってでも行きますので」
イアンが決心した瞳で一同を見る。不安な表情ながらも全員が頷いた。
「よし、決まりですね。それじゃ明日、双子山で!っと忘れてました。イアンさんに頼みたい事があるんです」
「私に、ですか?」
イアンの前にフィン達が盗んだサツマイモをドン!と置く。
「盗品になったサツマイモを納品する訳にはいきませんから。なのでこれは処分しといて下さい。いいですか?決して無駄にしないで下さいね」
「は、はぁ……」
「あとこれは独り言ですが、個人的にはイアンさんのような人は応援したいし、頑張って欲しい。だからこそ明日、来て欲しいんです。あとサツマイモはスープと牛乳を入れて煮込み、形がなくなるまでつぶすと病人でも食べやすいと思いますよ。サツマイモは日持ちもするから、しばらくは食いつなげるでしょう」
「本当に……本当にこちらで「処分」してもいいのですか?」
「はい。それとこれを。俺が信用できると思ったら、飲んでみてください」
イアンに一本の液体の入った小瓶を手渡す。それには、日本語で漢方薬の名前が書かれたラベルが貼られていた。
「これは?」
「東洋の神秘、です」
「とうようのしんぴ?」
「まあまあ。それじゃまた明日、双子山で」
そう言ってボロ家を後にする。途中、八百屋に寄りマジックバッグにある、予備のサツマイモを納品し帰宅の途についた。
「それにしてもライもラナも、あの状況でよくあんなに冷静でいられたね。すごいと思うよ」
「ヌシ様のおかげなんです」
「ヌシ様の?」
「はい。「ミナトはお前達をとても大切に思っている。もし、お前達が危機に陥ったらきっと助けに来てくれるだろう。そうなったら信じて待ちなさい」って言われたんです」
「そうだったのか。ヌシ様がね……」
まるで俺達の行動を読んでいるみたいだ。俺を驚かせて楽しんでいる愉快な爺ちゃん、なだけでなく、やっぱり双子山のヌシ様なんだなぁ……。
「ところでミナト、何故、盗まれた芋を置いてきたんだ?」
「え?処分してもらうだけですよ?」
「それは建前だろう?」
「まぁ、そうですね。イアンさん達は食べ物もなくて困ってたでしょ?もともとサツマイモを作ろうと思ったきっかけって、毎日の食事にも困る人の助けになればって思ったからですし、使い方としては真っ当ですよ。そういう人達に「あの時、あの芋があって助かったよ」って言ってもらえたら最高ですね」
「そうか。相変わらず人が良いな。しかし、あれで良かったのか?」
「ええ、二人は無事でしたし、フィン達にはきっちり罰を受けてもらうつもりです」
……誘拐事件はこうして幕を下ろした。二人が無事で本当に良かった。明日はフィン達が双子山にやって来るだろう。多分……来るよね?うん。本当に来いよなー!!




