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飛んで火に入るなんとやら~ある公爵夫人の回想~

主人公母、アルクーメ公爵夫人目線のお話です。

 ごきげんよう紳士淑女のみなさま。娘がご迷惑をかけていないか心配しております。申し遅れました、わたくしリンドナー・アルクーメの母、マイセン・アルクーメと申します、以後お見知りおきを。


 わたくしと主人の愛の結晶であるリンドナーですが、……こう、少しだけ、ズレたところがありますでしょう?自分の気持ちとか、相手からの好意だとか……なんというか、鈍いというか……鈍感というか……いえ、こういうのはハッキリ言った方がいいですわね。恋愛感覚0の阿呆というか。本当に、アレほどまでに恋愛初心者とは思いませんでしたの、わたくし。殿下には本当にお手数をお掛けしましたわ。


 娘リンドナーを婚約者候補に入れたいと打診があったのは、リンドナーが9歳の頃でしたから、かれこれ6年前になりますか。


 アルクーメ公爵家は比較的穏やかな気候に加え、豊かな実りとレア鉱山のおかげで賑わいある領地です。数代前に臣籍降下した王族が楚となっている歴史は古くない家でもあります。数代前の公爵の意向もあり、政治には中立であることを心がけております故、現公爵である主人も、必要以上に政治の中枢に関わろうとはしておりません。無用な詮索をされないようにするため、とも言えます。臣籍降下の際に何かあった、とだけ匂わせていただくことでご容赦下さい。それも五十年は前の話です、今は水に流せる程度の話ですので、我が公爵家の御輿は担げませんよ、あしからず。


 話が逸れましたね、失礼。

 このような事情がありますためアルクーメ公爵家としましては、第二王子殿下に打診をいただきましても首を縦に振ることは避けたかったというのが本音です。可愛い娘を手元に置いておきたいから……だけでは無かったんですのよ、本当に。

 けれども、第二王子アイザック殿下は……手に入らない珍しい玩具に興味をこじらせた、というのが第一印象ですわね。否と言われた事がないからこその執着とも言えましょう。一年かけて夫に切望し続ける様を見て、執着を断ち切るためにも婚約者候補に加えることに頷く事としました。これ以上のこじらせは、強引な手を取らせてしまう懸念を感じたからです。

 そこで殿下の執着を断ち切るもよし。娘が頷くのであれば婚約者とすることも、大変遺憾ではありますがよしとしよう、これが夫婦で出した結論です。わたくしと主人は、貴族でありながら幸いにも恋愛結婚でしたので、可能であれば娘が望む人と添い遂げてくれればと、親馬鹿ながらに考えていたせいもあります。娘は公爵令嬢ですので、娘が望むのであれば身分的には釣り合いも良く、何の障害もありません。政治的にもこの上ないと、諸手を挙げて喜ばれるのも明らかです。だからこそ、娘が望むのであれば……そう考えておりました。殿下の執着の行方も気になりましたしね。


 けれど物事は巧くは進みませんでした。『未来の神託』を行う異世界からのご令嬢の登場です。令嬢本人の資質はともかく、何かしら思うところのある輩には好機と映る事は明白でした。

 王家に忠義の篤いパルフェ伯爵が異世界からの令嬢を保護し、中立を貫いてきアルクーメ公爵家が仮の婚約者となることで、不穏な芽を摘むための準備が進められました。

 そこに、わたくしたち夫妻が願ったリンドナーの心を考慮する事はできなかったのです。


 思えば殿下の婚約者となった頃から、リンドナーは……奇声?を発するようになっていました。いくらかくぐもった声ではありましたが、よく通るあの子の声は響いておりました。

 曰く、『めろめろにさせてから振ってやる……』でしたかしら?あらあら、と夫と共に顔を見合わせて苦笑するしかありませんでしたわ。それから何度も、奇声とも言えるくぐもった声は聞こえてきました。正攻法で婚約解消したい、と言ってくれれば手を打ちましたけれど……、娘の本意が違うことなど母にはお見通しです。夫である主人は婚約解消したそうでしたけれどね。


 そうそう、第二王子殿下ですが。第一印象からの訂正を。

 手に入らない珍しい玩具に興味をこじらせたのだと思っておりましたが、対面以降はそうでもないようで。初めの頃は、ただただ愉快そうに娘を見ておりましたが……いつの頃からか、その眼差しが、見つめるように変わったのでした。


 嬉しそうに娘が摘んでいるクッキーは、とても丁寧に繊細に作られてはいましたが、職人の手によるものでも王室御用達店のものでもありませんでした。殿下からの明確な意思が感じられる品を、娘は意図も考えず『美味しい』と褒め讃え食べています。貴族としてどうなのかしら、と思うところはあれど、純粋に喜ぶ様は我が子ながらとても微笑ましく、また可愛らしい。王子殿下のお心が手に取るようにわかるのは、年の功だけではないと思うのですが……、娘には乙女心の教育が行き届かなかったのかと反省しているところです。




 娘が第二王子殿下アイザック様と婚約して五年、貴族令嬢としての義務である学園の入学時期となりました。

 異世界転移令嬢は『この一年を乗り切れば安泰』との神託を述べました。

 乗り切る、安泰。……なんとも曖昧な表現です。具体的にどのような、と問い詰めたいところですが、曰く『あんまりイジるとルートがめちゃくちゃになって収集つかないから、そっとしておいて』だそうで。ただ、異世界令嬢を担ごうとする派閥に関することのみ内々に処理することは彼女にも了解を得たそうです。『政治絡んじゃうと私の頭だとムリゲーなのでよろ☆』とのことですが、神託とは、異世界言語なのですね。


『この一年を乗り切れば安泰』という一年は、王子殿下の遠まわしな好意に一向に気付かない娘に物凄くハラハラさせられた一年だったと、ここに記したいと思います。

 娘の好きなものを聞いてきたり、手紙を送ってきたり、花束のプレゼントがあったり……といった、関係が良好な婚約者が行うであろう直接的表現はなかったのですが、たまにお見かけする殿下の表情を見れば丸分かりだろう?と思うのは、やはり年の功なのでしょうか。娘は本当に……それはもう本当に、恋愛に関しては阿呆の子でございました。殿下に申し訳なく思うほどに。


異世界転移令嬢の明らかな王子殿下アシストを軽やかにスルーすること数回。他国の王族を巻き込んでの嫉妬作戦からの王子直接頑張れよ作戦の失敗は幾度となく。

 異世界転移令嬢は明らかに当て馬として立ち回ってくれているのが丸分かりで、年長者としてはもう少し分からないようにしては???と思っておりましたが、恋愛レベルが0どころかマイナス、絶対零度レベルの娘には、彼女がそれを繰り返し行う事で始めて気付いたようで。令嬢のアシスト通り、リンドナーが殿下のことで軽く嫉妬を覚えた時には、他人の娘さんながら、異世界令嬢の努力に涙が出ました、ありがとうございます。

 何故娘が嫉妬したことを分かるかって?ええ、例のくぐもった声と……わたくしあの子の母ですわよ?それくらいわかりますわ。

 でも、最後まで異世界令嬢による作戦であったことは気付かなかったようで。リンドナーには、貴族の腹の探りあいを一から叩き込まなければと心を鬼にすると決めた瞬間でもありました、教える時間凄く短いけれど。


 異世界令嬢のアシストや他国王族の作戦の他、第二王子殿下はあの手この手で好意を表現しようとはしていました。直接的ではない事も多数ありましたが。

 リンドナーが好きそうな花を学舎の通学用馬車留め周辺に植え替えたり。学内カフェテリアのお菓子が急に充実したり。他国からのお菓子を王族経由で手配して貰い、それとなく他国に興味を持つようにしてみたり。

 好意と王子妃教育をないまぜにしつつなので、娘は本当にこれっぽっちも気付いていない様子なのが哀れみを誘いました。むしろ異世界転移令嬢の『リンドナーハーレムルートにシフトしちゃう?』な作戦の方が響いてそうな気配がした時は、流石に王子殿下に同情いたしました。

 

 などなど、様々な方々を巻き込んでもなかなか恋心を自覚しない娘でしたが、ヘルメス侯爵令嬢とウェッジウッド伯爵令嬢の助言により、ようやく気付いたようで。百戦錬磨と呼び声高いヘルメス侯爵令嬢と天才妖精姫ウェッジウッド伯爵令嬢には頭が上がりません。

ヘルメス侯爵家には領地のみで産出される鉱物を、ウェッジウッド伯爵家には半年前に品種改良できた小麦についての論文をそれぞれお贈りさせていただきました。お二方ともとても喜んでくださったようで何よりです。


 恋心を自覚しても罠のように廻らされた第二王子殿下の好意という名のあれこれを、驚くほど軽やかに飛び越える娘でしたが、あの子なりに王子殿下への恋を表現し始めたのには驚きました。あそこまで好意を無碍にするのだから、恋に奥手で自分からは動けないタイプかと思っておりましたので。

 けれど、高位貴族同士にもかかわらず恋愛結婚を勝ち取ったわたくしと主人の娘ですもの、そんな訳ありませんよね。人の手によるものではなく自らの手で。いいんじゃありませんの?

 ただ、どなたかも言ってらしたけれど……、娘はほぼ何もせず恋を勝ち得たみたいですけれど。


 娘からの好意に気を良くしたとあからさまな第二王子殿下は、ついに!直接的表現、『婚約者色のドレス』を贈ってくださった。箱を開けた際の娘の表情については、便箋八枚に書き綴り、王妃様経由で第二王子殿下にお伝えしました。後日物凄いお礼の宝石が殿下から届いた時は若干引きましたけれど。ちなみに、主人は娘の表情を見てとても寂しそうにしておりました。『パパと結婚するって約束は、ついに破るんだね……』ですって、娘馬鹿ですわね、もう!


 殿下色に染め上げられた娘はとても美しい……けれど、まだどこか影がありました。異世界転移令嬢のことを気にしているようでした。王子殿はヤキモキさせられた意趣返しなのか、娘からの愛の言葉が欲しいようで。そのせいか異世界転移令嬢についての説明はなかったようです。

 ……え?そんな、まさか、『王子殿下ってばヘタレねぇ、断られるかもしれないのが怖いのかしら?』なんて、思っていませんわよ。これっぽっちも。



 手薬煉引いて待っていた娘が手に入りそうな王子殿下と、初めて自覚した恋心を暴発させそうな勢いの我が娘。

 どちらの思惑道理になったのか……は、まぁ、後で聞いてみましょうかしら。

 いずれにせよ二人ともお互いに、飛んで火に入るなんとやらって思っているようですが、わたくしから言わせて貰えば、まだまだでしてよ。


 恋はあせらず、けれども覚悟を決めたなら、愛を怖がっては何も得られない、あの二人に伝えたい言葉だけれど、これも年の功がなせる業かしら。

みなさんはどうお考えで? あら、こんな時間ね、長々お時間を頂戴してごめんあそばせ。

 よかったら次の機会にお聞かせ下さいな。では、ごきげんよう紳士淑女のみなさま。



感想ありがとうございました。

ほんとだ、主人公大して何もしてねぇ…と気付いたので書いてみたお話です笑


感想のちょっとした内容で想像妄想広がりますので、今後の生きる糧としても、感想いただけると嬉しいです。


誤字報告ありがとうございます。名前間違え、本当に多くて申し訳ありません…、助かります。

名前を最後につけるせいか、キャラ名があやふやに…

引き続き宜しくお願いします

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