コピー禁止
────『六区』とは、かつて五つの市が対等合併して生まれた政令指定都市の地域SNSとして誕生した。
五市の名をそのまま残す五つの行政区に次いで、インターネット上に誕生した仮想特区──ゆえに、『六区』という。
その『六区』を舞台に『六区バトル』という、ロックイベントを開催したことにより、登録者は若者を中心に増え、徐々に市外にも拡大しているらしい。
しかし、動画投稿時に市内からの位置情報を課すなど、地域性が極めて重視されており、ライブの出演率も高かった。
第七回からは、『課題曲』制が導入され、上位十バンドによる決戦ライブの舞台も市内のスタジアムになるという。
それ以外にも、『六区』内通貨『六金』が新たに導入され、さまざまな活動にポイントという形で報酬が与えられるそうだ。
そうなれば、『六区』の登録者も『六区バトル』参戦バンドも急激に増えていくだろう。
「──やっぱり、密かに怒ってるんだろ」
「そうじゃなくて。十月からコピー禁止になるってことは、来月のエントリーはもう、その『課題曲』になるってことだし」
「やらないのか?」
「んー。おまえをつき合わせてまでやっても、三十位以内に入れるかどうかわからないな、とおもって」
動画再生数を稼ぐには、メジャー楽曲のコピーやカバーが圧倒的に有利なのだ。
玲は、蒼太たちのバンドよりも順位が下なのをいつも悔しがっているが、オリジナルに限れば、彼のバンドは五本の指に入っている。
「おれはアレンジになんて自信はないし、ギターも弾けるってだけで平均的だから」
「…………何か、落ち込んでんのか?」
おもわず、蒼太は魁を見た。
そうかもしれない、とおもう。
魁の歌に、自分のギターでは相応しくない、と言いたげな歌月の目が、頭から消えてくれない。
ずるい、と口にはしなかったが、そう言われているような気がした。
けれど、魁のなにひとつ、自分のものなどではないのだ。
そのくらいは、嫌になるほどわかっている。
「知ってる? 太陽先輩たちが新バンドで、『六区バトル』制覇を狙ってるの」
「いや。──そうなのか」
「第七回から参戦する気らしくって、全バンドに宣戦布告済み。妹ちゃんがうちのページに動画のっけてくれてたから、見たよ」
「ナントカってバンドとはちがうのか」
「『銀河鷲』? リーダーだったトモ先輩が抜けてて、ボーカルが入ってた。どうも高校生みたいで、何というか……アイドル系フロントマン?」
「はあ……」
「そんなにバカにしないで。ヘタなやつを、あの太陽先輩がフロントマンに据えるわけないって」
たしかに、と言いたげに魁がうなずく。
蒼太は肩をすくめた。
「むしろ、演奏に徹してる先輩たちの凄腕を知ってると、ぞっとする。バンド内で戦ってないぶん、敵なしかもしれない」
「それとおまえがやる気を喪失してるのと、関係があるのか?」
「喪失、か────そうかも」
くしゃり、と蒼太は前髪を掻き上げた。
どんな顔をしていいかわからない。
だから、うつむいたままで続けた。
「その、敵なしバンドと戦いたいんだってさ、妹ちゃんが。……さすがは太陽先輩の妹だよな」
「──それが?」
問われて、蒼太は顔を上げた。
魁が、じっ、とこちらを見ている。
「おまえも、いっしょにやりたくない?」
「は? 俺が、何でだ?」
「相手は太陽先輩だし。たぶん都は、打倒太陽先輩なら乗ってくるとおもうんだよね」
「────俺には関係ない」
作ったような低い声は、本音かどうかわからない。
蒼太は微笑した。




