変な誤解
「玲と魁が手を貸してあげたら、あの子なら、先輩たちに勝てる音を作るかもしれないな、とおもって」
「小早川はしらないが、俺はやらないぞ」
「どうして……?」
「俺は、おまえのバンドのボーカルだ。他で歌う気はない。小早川のときもそう断わったこと、しってるだろ?」
「……玲に変な誤解されて、後悔してるんじゃないかとおもって」
「誤解?」
するどい視線を向けられて、蒼太は口を閉じた。
本当は、すがりついて、他のやつのバンドでなんか歌わないでくれと言いたい──
魁は、そんな蒼太のきもちをわかっていて、歌わないと言ってくれているのではないだろうか。
それは──魁の望みでは、ない。
醜くすがりつくこともせず、魁のやさしさに、自分はただ甘えているだけだ。
ずるい、という歌月に、なにも反論できない。
ずるすぎる自分を、蒼太は痛いほど自覚していた。
「つづけるもやめるも、好きにしろ。俺もそうするだけだ」
「──そうだね」
「八月のライブには出るぞ。ちゃんと歌うし、練習にも顔を出す。放っといて悪かった。……機嫌なおしてくれ」
実験台を下りて近づいてきた魁の重い手が、肩に乗せられる。
反射的に、蒼太は両手で厚い胸板を押し返した。
そうしておいて、自分の反応に自分でぎょっとする。
見開いた魁の目と、視線がぶつかった。
蒼太はあわてて両手を引いたが、やってしまった行動は取り消しようがない。
「あ、ごめん。おれはその、アレだから……ちょっとふつうじゃなくって」
「いや、──気安く触った俺が悪かった」
「魁は悪くない……! その……ごめん。すこし考え事したいから、先に帰ってくれる?」
落としたままだった部室の鍵に気づいたのか、屈んだ魁が拾い上げてくれる。
目の前で動いた空気に、鼻腔をくすぐられて蒼太はとっさに顔を背けた。
「これは、職員室に返しとくぞ」
「うん。ありがとう」
「──鴻池」
声に振り返れば、入口の戸に手をかけた魁もこちらを見ていた。
「何かあったら、メッセ送れ。返信は遅いけど、ちゃんと返す」
「うん……ありがとう」
ほほえみを返せば、魁が目を細めて見る。
バカなやつとおもわれているのか。
それとも、面倒なやつ、だろうか。
重い不安も、苦い罪悪感も、当たり障りのない微笑でくるんで覆い隠す自分を、魁はどう見ているのだろうとおもう。
「じゃあな」
「うん。いろいろと聞いてくれて、ありがとう」
向けられた背中が、戸の向こうに消えてしまう。
それだけで、泣きたいきもちになった。
ごめん──
それと、──ありがとう。
他に、いったい何と言えばいいのか、わからない。
これ以上、困らせたくなかった。
困った顔だけは、見たくない。




