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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
1:8月の荒れ模様 シーン4-ボーカルとギター-
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変な誤解

「玲と魁が手を貸してあげたら、あの子なら、先輩たちに勝てる音を作るかもしれないな、とおもって」

「小早川はしらないが、俺はやらないぞ」

「どうして……?」

「俺は、おまえのバンドのボーカルだ。他で歌う気はない。小早川のときもそう断わったこと、しってるだろ?」

「……玲に変な誤解されて、後悔してるんじゃないかとおもって」

「誤解?」


するどい視線を向けられて、蒼太は口を閉じた。

本当は、すがりついて、他のやつのバンドでなんか歌わないでくれと言いたい──

魁は、そんな蒼太のきもちをわかっていて、歌わないと言ってくれているのではないだろうか。

それは──魁の望みでは、ない。

醜くすがりつくこともせず、魁のやさしさに、自分はただ甘えているだけだ。

ずるい、という歌月に、なにも反論できない。

ずるすぎる自分を、蒼太は痛いほど自覚していた。


「つづけるもやめるも、好きにしろ。俺もそうするだけだ」

「──そうだね」

「八月のライブには出るぞ。ちゃんと歌うし、練習にも顔を出す。放っといて悪かった。……機嫌なおしてくれ」


実験台を下りて近づいてきた魁の重い手が、肩に乗せられる。

反射的に、蒼太は両手で厚い胸板を押し返した。

そうしておいて、自分の反応に自分でぎょっとする。

見開いた魁の目と、視線がぶつかった。

蒼太はあわてて両手を引いたが、やってしまった行動は取り消しようがない。


「あ、ごめん。おれはその、アレだから……ちょっとふつうじゃなくって」

「いや、──気安く触った俺が悪かった」

「魁は悪くない……! その……ごめん。すこし考え事したいから、先に帰ってくれる?」


落としたままだった部室の鍵に気づいたのか、屈んだ魁が拾い上げてくれる。

目の前で動いた空気に、鼻腔をくすぐられて蒼太はとっさに顔を背けた。


「これは、職員室に返しとくぞ」

「うん。ありがとう」

「──鴻池」


声に振り返れば、入口の戸に手をかけた魁もこちらを見ていた。


「何かあったら、メッセ送れ。返信は遅いけど、ちゃんと返す」

「うん……ありがとう」


ほほえみを返せば、魁が目を細めて見る。

バカなやつとおもわれているのか。

それとも、面倒なやつ、だろうか。

重い不安も、苦い罪悪感も、当たり障りのない微笑でくるんで覆い隠す自分を、魁はどう見ているのだろうとおもう。


「じゃあな」

「うん。いろいろと聞いてくれて、ありがとう」


向けられた背中が、戸の向こうに消えてしまう。

それだけで、泣きたいきもちになった。

ごめん──

それと、──ありがとう。

他に、いったい何と言えばいいのか、わからない。

これ以上、困らせたくなかった。

困った顔だけは、見たくない。



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