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「いい男になったじゃねえか。試合を見に行けねえのが残念だ……が、その顔ができりゃ安心だろう。楽しみにしてんぜ?」
親方の左手が、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
ゴツゴツといかつい男の手だ。力が強く、首まで動いてしまう。
「はいっ! では、今日はここで失礼します。ありがとうございました。また遊びに来ますね!」
僕は髪を整えながら立ち上がり、コロマルを縮ませてから抱き上げる。
「なんだ、もう帰んのか? じゃあ最後に、テイマーの先輩がどんなもんか教えてやるよ。坊主の筋力は、自分のと従魔の加算値合わせて200かそこらだろ? その槍で思いっきり俺を突いてこい」
「……え? いや、でも。そんなの無理ですよ」
森へ向かおうとしたところ、ダグランス一号で体を突けと言う。
驚いて振り返るが、親方が立ち上がった親方の目は真剣だった。冗談ではなさそうだ。
でも、いくら命じられたとはいえ、恩人に対して槍を向けるなんてできない。
それに、今の僕の筋力は201。オークどころかオーガが相手でも負けないだろう。
そんな僕の一撃をまともに受けて、作業着姿の親方が無事で済むはずがない。
「いいからやれ。俺をオークだと思って、どこでも好きなとこを攻撃してみろ。遠慮だけはすんなよ? ザンブって野郎と戦うためのヒントくらいにゃなるはずだぜ」
「なるほど、分かりました。いきますよ!」
どうやらパッセの親方は、オークと戦うときのコツか何かを教えてくれるらしい。
僕の槍をオークの拳に見立てて体捌きを見せてくれるのかな?
だったら遠慮は要らない。
「——えいっ!」
大きく踏み込んで距離を詰め、オークの弱点である心臓を狙う。
上昇したステータスによる踏み込みは、自分でも驚くほどに鋭い。
突き出した両手。体重を乗せて放った突きはビュッと風を切り裂く。
親方はまだ動かない。
ギリギリまで引きつけて躱そうというのだろうか。
陽光を反射して輝く銀色の穂先が、斜め下から親方のみぞおちあたりに迫る。
ちょっと待って、このままじゃ当たっちゃう。
もう僕の体は止まら……。
——キィンッ!
鉄の棒同士を打ち鳴らしたかのような金属音。
刃はたしかに親方の作業服を貫通している。僕の両手は衝撃で痺れている。
でも、パッセの親方はなんでもなさそうに笑っていた。
「……え、なんで?」
おそらく槍の穂先が体表で止まっている。力づくで押し込んでもびくともしない。
恐ろしく硬いアイアンゴーレムでも相手にしてるみたいだ。戦ったことはないけど、例えるならそんな感じ。
「どうだ坊主? これがケンカの技ぁ教えて鍛えたゴブリンたちの前で拳を振り回し、自ら道を切り開くテイマーの姿だ。半端な攻撃なんざ通じねえのよ。街のゴロツキを躾けながら、もしかしたら闘士になれるんじゃねえかなんて夢を見たこともある。……まあ、諦めちまったんだけどな。俺の防御でだいたい4500。Bランクのダンジョンならソロで攻略できるくらいか」
僕に微笑みながら、どこか悲しそうな表情を浮かべる親方。
話を聞くかぎり、相当な実力だ。
冒険者にはランクがあり、ランクによって受注できる依頼や潜れるダンジョンの難易度が違う。
最初は誰でもEランクから始まるのだが、D、Cと上がっていき、Aランクにもなれば一か月の稼ぎが庶民の年収を超えるらしい。
そのさらに上がSランク。闘士になれる最低条件にもなっている。
多分、パッセの親方は元Aランク冒険者だ。ソロでBランクダンジョンをクリアできるなら、仲間と協力すればその上だって目指せたはず。
Aランクダンジョンに挑戦できるテイマーなんて一握り。親方ってすごい人だったんだな。
「レベルを上げ続けても限界がある。でも、僕とコロマルなら無限に成長できるかもしれない。つまり親方は、僕にどんな相手にだって無傷で勝てるような最強のテイマーを目指せって言いたいんですよね?」
「ま、そういうこった。この世界で坊主にしかできないんだぜ? 夢見れるなんて最高じゃねえか! お前が世界をひっくり返すとこを想像したら笑えるな。がはははは!」
バシンバシンと僕の背中を叩く親方と一緒に笑った。
すごく世界が明るくて、今の僕なら何でもできる気がする。




