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「……こうなると、ちょっと不安だよね」
"どうしたのカイトー?"
コロマルもだいぶ大きくなってしまった。頭のてっぺんが僕の胸あたりまできている。
……どこまで膨らむのかな?
昨日でさえ街中で注目を集めていたし、珍しいスライムとして誘拐されないといいけど。
何か対策をするべきだろう。
「いけない、早く帰らなきゃ!」
周囲はすっかり明るい。
遅刻なんてしようものなら、ママからも怒られるだろうし、先生のゲンコツを食らってしまう。
コロマルをおんぶして、家に向かって走りだす。
巨大なリュックを背負っているみたいだ。背中がブヨンブヨンと揺れている。
僕より重くなっていてもおかしくないはずなのに、脚にかかる負荷はそれほど苦にならない。それどころか、朝よりずっと速く動ける。
「ただいまー!」
帰ったらすぐに朝ごはんを食べ、教科書やらなんやらが詰まったカバンを持って出発だ。
「いってきまーす!」
てんやわんやの大忙し。
玄関で手を振り僕を見送ってくれるママとコロマルを背に、学校へ向かう。コロマルがママを真似てブンブン振り回してるあれが手かどうかは疑問だけどね。
僕の足取りは軽い。
ステータス上昇のおかげ……ということではなく、進むべき道が見えたから。
「よーし、ぎりぎりセーフ! 間に合った!」
教室に滑り込むと同時、始まりのチャイムが鳴り響く。
変に早く着いちゃうとザンブが面倒くさそうなので、あえてこのタイミングを狙った。
出席を取る間も授業中も、チラチラとご主人様の視線を感じたけれど知らんぷり。僕に命令したくてしょうがないんだろうな。
「ぶひょひょひょひょ! お~い奴隷ちゃんよぉ、仕事もせずに悠長じゃないのぉ。イスを動かすのはテメェの役目だっ言ったろぉ? なぁーっ、俺っちを疲れさせてどうすんのぉ? 頭が悪いなら、体に覚えさせるしかねぇかぁ?」
さて、授業が終わり先生が出ていくと、予想通りに奴が動く。
わざわざ家から持ってきたらしい棍棒でペシペシと手のひらを叩きながら、ニヘラと下卑た笑みを浮かべたザンブが近づいてくる。
とうとう暴力まで振るおうとしているみたいだ。有り難すぎて涙がでるよ。
「ひ、ひぃー! ザンブ様、お許しくださいーっ! 今日まで奴隷として誠心誠意尽くしてきましたが、もう耐えられません。……もう逃げるしかない。これじゃあ僕は逃亡奴隷じゃないかー!」
なんちゃって。わざとらしく演技をして、教室から飛びだす。
あいつがご主人様になりきるなら、こっちも奴隷役に徹しようじゃないか。
僕だってやられっぱなしじゃないぞ。
「お、おいっ! てめぇ、待ちやがれ!」
何が起きたのか頭で理解するまで時間がかかったのだろう。ポカンと口を開けながら僕を見ていたザンブは、急に顔を怒りの表情に変えた。
ザンブが鼻息荒く両手を広げて追いかけてくるが、最初に距離を稼いだおかげで僕には追いつけない。
「いいぞカイト! やっぱお前はそうじゃないと!」
「あはは、カイトくん面白~い!」
僕らが去ったクラスから、声援が聞こえる。
あんなに仲が良かったみんなが急に距離を置くもんだから、てっきり嫌われてしまったのかなと思っていた。
でも、違ったみたい。スライムテイマーという最底辺の適正になって、決闘でボコボコにされたから、落ち込んでる僕に時間をくれようとしてたのかも。
まだザンブ側についてる人はいるけど、僕にも味方がいるって分かっただけで嬉しい。
「ザンブ様、勘弁してくださ~い! そんな怖い顔で追いかけたら、女の子に嫌われちゃうよ~?」
……だなんておちょくりながら、廊下を歩く生徒の合間を縫って逃げていく。
ザンブはぶくぶくに太っている。狭い廊下はさぞ走りにくかろう。いっこうに距離は縮まらない。
アドバンテージはこちらにあるとしても、僕らのステータスがそれほど大きく離れていないと分かった。
「クソ雑魚スライム野朗がああぁ! ぜってぇ許さねえかんなあああぁ!」
眉を吊り上げ、顔を真っ赤にしたザンブの顔は凶悪だ。唾を撒き散らして喚くので、みんな悲鳴を上げて道を開けている。
まだ完全にやり返せたわけじゃないけど、胸がスッとした。
ダグラスさんとパッセの親方が教えてくれた作戦の勝利だ!




