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色の消えた帰り道を歩く。
大通りを笑顔で往来する人々。気持ちよく囀る鳥の声。全てが煩わしい。
一番憎いのは自分の愚かさだけど、自身への怒りが強すぎて、それが反射して他人にも向いてしまう。
家に帰りたくない。
どんな顔でママにただいまと言えばいいのか。
今日はどんな一日だったのかとパパに報告する日課も、地獄の時間になるだろう。
そして、僕の両手にある折れて上下に分かれてしまったダグランス一号。ダグラスさんが魂を込めて作ってくれた槍を、自分の油断のせいで壊してしまった。
一生大切にしようと思っていたのに。僕の宝物だったのに。
「おう坊主! まだ学校のはずだろ? どっか具合でも悪いん……っておい、そりゃうちのダグラスが作った槍か?」
野太い低い声に名前を呼ばれた。
筋骨隆々の山みたいな大男。両サイドを刈り上げた短い朱色の短髪に、射殺されそうなほど眼力が強い強面。
暗い気持ちに押し潰されそうになっていたところで、パッセの親方に見つかってしまった。
ダグランス一号のことを知っているみたいだ。
おそらくダグラスさんに聞いたのだろう。
槍の制作にあたり、ダグラスさんに迷惑をかけたということは、上司であるパッセの親方にも面倒をかけたのと同じ。この状況であまり会いたくない人に出会ってしまった。
逃げてしまおうか。挨拶だけして通り過ぎるべきか。嘘をついて誤魔化す……のは嫌だな。
「こんにちは、パッセの親方。ちょっと色々ありまして。申し訳ないですけど、今日は失礼します」
「あぁそうかい。ダグラスの野郎から、何で小僧に槍を作ってやったんか理由まで深くは聞かなかったけどよ……おめぇ、負けたな?」
「……え?」
「見りゃ分かる。敗北者の目ぇしてんぜ? 俺から逃げようとして、現実を受け入れらんねえからって、どうせ自分からも逃げようとしてんだろ。完膚なきまでに叩きのめされた負け犬の顔だ。……負けたらなぁ、また戦いが始まんだよ。てめえと、その周りとのな。……ちょっと来い。坊主はまず、うちのダグラスと話すべきだ」
パッセの親方は、出店で串焼きを買ってくれたり、端材でおもちゃを作ってくれたりと、いつも僕とラビちゃんに優しくしてくれる。
でも今日は、あれこれ聞かれたくない。
早くどこか誰も居ない静かな場所に行きたい。
もし心の中をこねくり回されたら、どうにかなってしまいそうだ。
「いや、僕は……」
「ここで逃げたら、お前は終わる。負けた相手に一生ナメられて、そんな自分を受け入れんだよ。僕はあいつよりも下なんだ……ってな。時には逃げることも必要だろう。でもな、戦うべきときに戦かわねぇと、人間てのは心が腐っちまうんだ」
「何も知らないくせに! もういいんです、放っておいてください!」
無遠慮に踏み込んでくるパッセの親方に、ついムキになって大声を浴びせてしまった。
走って逃げようとしたところで、背後から両脇に手を差し込まれて掬い上げられてしまう。
そのまま空中でくるりと半回転。向き合う形で地面に下ろされる。
パッセさんは、強面から想像できないほど優しい顔で笑みを浮かべながら、僕と目線を揃えてしゃがむ。
僕の頭の上には、親方のゴツゴツした手のひらが。
「……あんなぁ、坊主。こんなこと言うのは小っ恥ずかしいんだがよ、俺らぁみたいな嫌われもんのテイマー集団に、手ぇ振って挨拶してくれるおめぇと嬢ちゃんには救われてんだ。俺はよ、たった一回人生に負けただけでぶっ壊れちまった人間を何人も見てきた。このままじゃ、きっとお前もそうなっちまう。助けてやりてぇんだわ。……大人を頼ってみねぇか? 俺を信じてくんねぇかな? 嫌ならいいんだけどよ」
気づくと、僕の頬は涙で濡れていた。
説得力のある大人の言葉に、小さく頷いていた。
優しく見えた親方の顔。でも、目だけはなんだか愁いを含んでいるようで……。
僕の顔を真っ直ぐ見つめながらも、遠い景色を映しているような……。
「泣くほど悔しかったんだな。安心しろ、棚だって家だって坊主の心だって、うちの工房で直してやっから」
大きくて暖かい手のひらに右手を引かれて、パッセ工房へと向かう。グシグシと鼻を慣らし、左腕で鼻水を拭いながら。




