第三譚 幽霊少女と魔力吸収(エナジードレイン)
骨の獣の襲撃に、暗器十字の術式が発動するッ!…──。
正面から骨獣がこっちへ向かって来る…──この手に握った十字架は輝き無数に分かれて俺の両手に移る。後はそれを投げナイフの様に対象に射出する。
「■■■■■ッ…──。」
複数体いた骨獣に全てが命中…それらは崩れ砕けて動物の骸に帰り、手元には暗器十字が戻って来る。やはり死霊術だ、俺の暗器十字ならどんな魔法も魔術も破壊できるから相性は良い筈だ。
「行ける!…行けるぞ!初めての実戦にしてはやるじゃないか俺!この調子なら楽勝だ!」
…だが、それでも骨獣は次々に現れる。不味いな、術者を倒さなければ限が無い。仮に骨獣と呼ぶ事にしたが、コイツらは統率が取れていない…術者が操作してる訳ではなさそうだけど…
「遥架くん、大丈夫ですか?…」
「ごめん、調子乗った…下がってて言った手前で情けないが、幽夢に頼みたい事があるんだ」
そういや幽夢は『空を飛べる…』って言ってたんだ…なら上空から術者を探してもらえば良い。俺達以外にこの人払いの影響を受けていない奴が入れば…そいつが術者だ。
「幽夢、上空から他に人が居ないか探してくれ」
「助けを呼ぶんですか…了解しました!幽夢、行って参ります!」
若干、意図が伝わってないみたいだが良いか…誰が何処に居たか、その情報さえあれば良い。向かって来る骨獣に再び無数の暗器を放つ。
「■■■■■…」
またしても命中する…正直、術者が人払いの外にいた場合はお預けだ。人払いには中に居る人間を閉じ込めて迷わせる効果もある。
「しまっ…外れた!……」
再び骨獣達に放った暗器は、一体にだけ命中せず空を切ってしまう。急速に接近した骨獣は、大きな顎を開けて俺に飛びかかって来る。
「■■■■■ッ…!」
何とか対応する為、手に持った十字架の大きさを剣の様に変えて全力で振りかぶる。…暗器十字は、ある程度なら大きさを自由自在に操る事が出来る。
「吹っ飛べ!…」
目の前に砕けた骨獣の破片が散らばる…危なかった、少し遅かったら腕くらい持って行かれてしまったかも知れないな。ただ安心するには早い…──流石にまた骨獣が現れると思ったんだが…魔法陣が現れない?…
「遥架くん!…駅の方に向かう人影が!」
「えっ?幽夢!?見つけるの早っ!…」
「幽霊なので距離はあまり関係ありませんので!」
幽霊なので距離は関係無いの意味は良く分からないが…思った以上に早い段階で発見できた様だ。なるほど、死霊術師が逃げたから骨獣の召喚が止んだのか。
「遥架くん後ろです!避けて下さい!」
「えっ、後ろ?…避けっ…」
背後を振り返ると紫の魔術攻撃…極めて威力の高い魔術だ。でも、幽夢は術者は駅の方にって…関係ない、魔法だろうが魔術だろうが暗器十字があれば…
「がぁっ…ぁあ!?」
突然、身体に走った痛みで思わず暗器十字を落としてしまう…──気付くと暗器十字を持っていた右手と、左足にも骨獣が噛み付いていた。不味い…そうか、砕かれる前に自壊する事で術式の破壊を防いだのか…ヤバい、これは死んだ。
「遥架くん!…──」
すると目の前に幽夢が飛び出す…今日出会ったばかりの幽霊を名乗る少女は俺を庇った。そして、魔術による爆発が…──あれ!?…起きない?
「えっ!?…幽夢、無事なの?」
「はい、大丈夫みたいですけど…」
何故か、目の前には地に足を着けた幽夢が立っていた。その脚は先程までの様に透けてなどいないし…いったい何が起こったんだ?…
「うわぁ!久々の地に足を着いている感覚…もう忘れかけていましたぁ…何故か私、歩けます!…ぴょんぴょん出来ますよ!?」
目の前で無邪気にジャンプする幽夢、幽霊ってジャンプも出来ないんだろうか?…と思っていると、急に周りに人が歩き始める。手に噛み付いた骨獣や骸に帰った物まで全て砂になってしまっていた。
「幽夢、ありがとう…どうやら人払いの効果も切れたみたいだね」
流石にこんな人混みの中で命を狙って来る奴なら、最初から人払いなんて使わないだろう…多分、危機は去ったと思って良いだろう。それと、俺の手足の傷は幸いにもそこまで深く無いみたいだ。
「わぁ〜、遥架くん!良かったぁ!」
「わぁぁぁぁ!?ちょっと幽夢さん!?」
緊張が解けたからか、幽夢は俺に涙目になりながら抱きついて来た。いや、これは不味い…周りからは見えないとはいえ…あれ?…何かめちゃくちゃ他の人から見られてない?…俺が一人で騒いでるから?
「見てよ、あの子達…ラブラブねぇ…」「多分、付き合い始めたばかりなんだろ、良いねぇ青春」「リア充、爆発しろ。幸せになれクソが…」
何か…幽夢の事、見えてない?…というか今の顔真っ赤で痴態晒してる俺も見られてるのか!?えっ、何で!?…というか、ヤバい…何がとか言わんが色々当たってる!
「待って!?一旦!…一回、離れて!」
「はい?…どしたんですか遥架くん」
「幽夢、何か皆んなから見えてるぞ」
「そんな訳無いですよ、私幽霊で…──ほ、本当だ!?私、もしかして生き返った!?」
「…って、そんな事が有り得るのか?」
「遥架くん、私生きてる…夢じゃないですよね?」
「わぁ!急に泣かないで!…取り敢えずどっかの店に入ろう!」
取り敢えず、近くで買った包帯で軽く手当を済ませた俺達はそのままファミレスへ…本当は幽夢のリクエストで店を探したかったけど、何かドタバタしてたから何でもありのファミレスへ。
店に入ると店員さんが水を運んで来てくれた。ちなみに注文は俺がカレードリアで、幽夢はハンバーグとポテトを頼んだ。後、ソフトドリンク無料。
「コーラ、ポテト、ハンバーグ!…まっだかな~!」
ドリンクコーナーからコーラを運んで来た幽夢は、うっきうきで席に着く。それを周りの人がチラチラ見ている…高校生くらいの子が、ファミレスあんなにはしゃぐとは思わないもんな~…
「…取り敢えずだけど、実体化したってのは間違え無さそうだね」
「何となくなんですけど、これって一時的なものだと思うんです」
「幽夢、自分で分かるのか?」
「はい、残念ながら…空気がタイヤから抜けるみたいに、力が身体からゆっくり抜けていく感じがします」
「力が抜ける…力?…もしかして魔力かな?」
つまり、あの魔術を受けた事でその魔力を吸収して実体化したって事かな?…そんなのって普通じゃない。今ままでは魔法都市では幽霊なんて普通に居るもんなのかと思ってたけど…流石に魔力を吸収する幽霊なんて聞いた事がない。
「幽夢はきっと魔力を吸収できるんだよ」
「つまり?…私は選ばれし幽霊!…その名も幽夢!」
「あんまり大声で言うと頭おかしいと思われるよ、今は普通に見えてるんだから…」
そうしていると店員さんが料理を持って運んで来る、どうやら先程の店員さんとは別の金髪の少女…同い歳ぐらいの様だ。
「あの、失礼ですがお客様…お二人様でしたよね?」
「えっ?…あっ、はい、そうですけど…」
店員さんは料理を置いてから頭を下げて、戻って行ってしまったが…あの質問の意図はすぐに理解できた。どうやら幽夢の実体化の効果は切れてしまった様だ。
「美味しい~!Yummy!」
最初は物理的な意味で食べれるか心配したが、どうやら霊体の状態でも食べれるみたいだ。これ他の人から見たら、食べた物が宙に浮いてる様に見えたりしないのだろうか…?
俺の心配の必要も無く、帰り道に騒ぎになる事も無かった。帰ってから荷解きの続きをしようと思ったが、幽夢が寝てしまったので…というか、幽霊って寝るんだ。いや、幽夢が特別だからかもだけど…
「遥架くん、もう食べられませんよ~…」
寝言言ってるし…まあ、でも俺も早く寝た方が良い。いきなりの実戦で疲れたし、明日は待ちに待ったルーンリアス魔法魔術学園への入学の日だ。ちゃんと未来の花嫁を探さなきゃな…
来て早々に襲撃とか、幽霊に取り憑かれるは、で、魔法都市でのこれからの日々が不安になるが…明日から始まる学園生活を楽しみにしている自分が居た。
第3話 幽霊少女と魔力吸収.END。
この幽霊少女…只の幽霊ではない!?いったい何者なんだ?…──そんな事より明日は入学式!




