第一譚 幽霊少女と魔法都市
魔法都市に引っ越して来た遥架は、ユムという霊にとりつかれてしまう。
俺の名前は黒部遥架…──今日、この魔法都市にあるマンションに引っ越して来た。魔法も魔術もロクに使えない俺が、この町に来たのには訳がある。
それは町にあるルーンリアス魔法魔術学園に入学する為だ。しかし、今の俺は学園に行く前日にとある困難に直面していた。
「またか…何なんだよ、いったい…」
今は荷解き作業をしているのだが、何処からか視線を感じる…──まさか管理人のお姉さんが言ってた事が本当だったとかじゃないよな?昔、ここで女子学生が不審死を遂げたとかいう話…
そういや無駄に家賃が安かったし、入居者だって俺を含めて三人くらいだったから可笑しいな…とは思ってた。でも貧乏学生にとっては好条件で、部屋も一人暮らしにしては少し広いくらいだったし…不動産屋だってなにもないって言ってたんだ。
しかし実際に引っ越してから管理人に聞いたらガッツリ訳ありじゃねぇか!?騙したな不動産野郎!…告知義務とかどうしたんだよ。これなら学生寮に住むべきだった…
「…でも門限とか面倒だよなぁ」
「遥架くんは知らないんですね。賃貸契約の場合だと、死亡事件発生から概ね3年が経過すると告知義務は無くなるんですよ」
「へぇ…そうなん、だ?」
あれ?ちょっと待って、今これ…俺って誰と話してるの?この部屋には俺以外に誰も居ない筈だよね…というか、後ろから聞こえたのって女の子の声だったよな?しかも、俺の名前を知ってたよな?
…いや、俺だってヤバいとは思ってる。女子学生が死んだと言われる曰く付きの部屋で、知らない女に話しかけられているこの状況…『背後を振り向くな。』と俺の心臓が警鈴を鳴らしている。
最初はこの状況に陥るまで管理人さんの話も半信半疑だったが…此処は魔法都市だ、魔法も魔術だってある。そんなオカルト染みた町なら幽霊が存在しても可笑しくないけど…どうする?ずっとこのままって訳にもいかないし、覚悟を決めて振り向くべきか?
「…──かくん?遥架くん?…おーい、黒部遥架くん?」
「いや、待ってくれ…少し心の準備が……」
後ろを思い切って振り返ってみようかと悩んでいると…いつの間にが、目の前に見知らぬ少女が居た。頭に白いはんぺんみたいな布を付けた学生服の少女…えっ?いや、これって…
「…──ぎゃぁぁぁ?!出たァ!!」
「どうしたんですか?いきなり大声を出して…まるで幽霊でも見たみたいな反応ですよ?」
「…みたい、な反応じゃなくてお前が幽霊だろ!?」
「そうでした!…私、幽霊になったんでしたね。まさか自分が死んじゃうなんてビックリですよ、アハハ!」
あれ?…何かイメージと違うな?想像していたよりも…元気な幽霊だな、茶髪でツインテールだし。てか、この幽霊…普通に可愛くないか?いや、でも相手は幽霊だし…
「…えっと、自分でも幽霊にこんな事を聞くのはどうかと思うけど…取り敢えず君の名前を聞いても良い?」
「私の名前ですか…良くぞ聞いてくれました!私の名前はユム!…幽霊の『幽』に夢と書いて幽夢です!」
何かノリノリで自己紹介してくれた…何で俺は幽霊と普通に話してるんだろう。でも、この子って幽霊なのに普通の女の子みたいで全く怖くないな…何か貞子みたいなのを想像してたから拍子抜けだ。
「ん?…そういえば何で俺の名前知ってるの?」
「最初に管理人のお姉さんに挨拶してたじゃないですか」
「ああ、あれ聞いてたんだ…道理で知られてた訳だよ」
「じゃあ自己紹介も済みましたし、荷解きを手伝いますね!」
「えっ…良いの?手伝ってもらって…という荷解きできるのか?幽霊なのに…」
「遥架くん、幽霊をナメないでいただきたいです!念動力的なのでホホイのホーイですよ!…それにこれから一緒に住む訳ですし」
「じゃあ、お願いしようかな?…っていうか、一緒に住むって!?」
「…だって元々は私がこの部屋に住んでた訳ですし、遥架くんは乙女の部屋を勝手に奪いとった訳です。でも幽霊なので、私の立場は居候で結構です」
「あっ…うん、ありがとう?…これからよろしくね」
「はい、遥架くん!よろしくお願いします!」
何だが幽霊に荷解きを手伝ってもらっているという何とも不思議な状況…というか、一緒に幽霊と同居とかこの展開をすんなり受け入れてしまっている自分も怖い。もしかして魔法都市なら気さくな幽霊とか普通なの…かな?
「そういや遥架くんは何で魔法都市に来たんですか?」
「ああ、俺は魔法魔術学園に行く為に来たんだ…亡くなった両親が魔術師だったみたいでね。育たての親に言われて学園に入学する事にしたんだ」
俺の亡くなった母がとある魔術師一族の末裔だったらしく、その家で代々受け継がれた魔法具『暗器十字』…──魔法と魔術の両方を殺す十字架形の暗器で、一族の血を引く俺だけに使える。
最初はそんなものは継ぐ気はなかったが…何の才能も無い俺が、産んでくれた両親や育ての親にできる唯一の親孝行として俺は暗器十字を手にした。
「それがその十字架なんですか?…じゃあ学園に入るのも立派な魔術師になる為なんですか?」
「いや、実は遺言で暗器十字だけは継承して欲しいって話で…跡継ぎが必要なんだよ」
「…つまり、お嫁さん探しなんですか!?入学理由が不純です!」
「違っ…くはないけど、相手は魔力が高い同じ魔術師か魔導師が良いらしくて…その好条件が揃ってるのは魔法魔術学園の生徒という訳なんだ」
「…遥架くんも大変なんですね。ならば同居人として、私もお手伝いしましょう!遥架くんと未来のお嫁さんの恋のキューピット基、恋のゴーストです!」
「何かそれだと上手くいかなそうなんだけど!?」
「ではラブ・ゴーストでいきましょう!」
「それ英語しただけじゃ…まあでも、俺は女子とあまり喋った事ないから助かるけど…」
「一応、私も女子なんですが!?…まあ、その代わりと言っては何ですが、遥架くんにも私の事を手伝ってほしいんです!」
「えっと、手伝ってほしい…って何を?俺に出来る事ならするけどさ」
「良いんですか!?…遥架くん、ありがとうございます!なら、遠慮無く……」
…とは言ったが、何を頼まれるんだ?…幽夢の頼みってなんなんだろう?まあ幽霊とは言ってもこんな感じだし、ヤバいお願いはしないだろう。
「…──私の復讐を手伝って欲しいんです!」
えっ…復讐って、えっ?…──。
『魔法都市』…──様々な魔法技術により作られた空中都市。そこにある魔法魔術学園で魔術を学ぶ為に訪れた俺、黒部遥架は幽夢という幽霊少女と出逢う。
その出会いで俺の運命は大きく変わっていった。色んな出会いがあって別れもあった…色んな人達との沢山の思い出があって、それで今の俺は此処に居る。ましてや俺が…いや、これは話さなくても良いか…
これは魔術師一族の血を継いだ落ちこぼれの俺が、幽霊の少女である幽夢を…──成仏させるまでの物語だ。
第1話 幽霊少女と魔法都市.END。
この物語は落ちこぼれ魔術師の僕と、魔法都市の幽霊少女の物語…──。




