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椿が知らなかったお正月の風物詩


(1・1 AM7:29)



「「「「「「あけましておめでとうございます!!」」」」」」



この言葉を皮切りに、椿たちの新年が始まった。

テーブルの上には、山の幸中心の御節に、酒やジュースにお雑煮が並んでいた。

椿がお雑煮を食べている横で、火燐は黒豆の煮物を食べているのだが・・・



「きゅ~(泣)すべる!!箸で掴みにくいべや!!」



悪戦苦闘・・・。



「がんばれ~火燐(笑)」



そういいながら、頼漸は酒を口にする。クリスマスにプレゼントされたあの徳利とお猪口で。

蓮流と風燕は、卵焼きや大根の煮付けなどをつまみにして一杯。あれやこれやといろいろ話をしていた。


椿はあることに気づいた。


緑涼がいなくなっていたことに・・・。



その頃、緑涼は自分の部屋でお悩み中。



「いくらが相場なのかわからないべ・・・。」



5つの袋が机の上に並んでいた。



・・・お年玉である。



「去年、正嗣からいくらもらったけな・・・?」



そういいながら、引き出しにしまっていたノートを取り出した・・・。



(1・1 AM9:45)



「うぅりゃ~~~~~~!!」



庭では、羽子板大会が始まっていた。

風燕は、酒によっている勢いで大暴走。一回板を振ると、周囲に積もった雪が舞い上がっていく・・・。

普通の人であれば、軽く羽のように飛ばされてしまうが、火燐は普通に返していた。

それを審判として見守る頼漸。ラリーが止まると、羽を落としたほうの顔に墨で落書きをしていった。気がつくと、風燕も火燐も顔が墨だらけ・・・。

椿は、その光景を蓮流と一緒に砂糖菓子を食べながら観戦していた。


「毎年こんな感じ・・・?」

「そうだよ(笑)」


「羽子板っていうより・・・テニスの試合、見てるみたい(笑)」

「正嗣も一緒になって遊んだことがあったよ、一度だけ。」


「あれを?」


「そう。風燕が思いっきりぶっ飛ばしちゃって、畑にすぽってはまったんだよ。すぽって(笑)それで、緑涼さんにものすごく怒られるし、正嗣は怪我して、凛香先生に正月早々来てもらうことになったし・・・」


「あの試合に入ろうとしたお父さんが信じられない・・・。」


そこへ、緑涼がやってきて、椿と蓮流の後ろにドンと胡坐をかいて座った。



「やってるな~(笑)」

「意地のぶつかり合いみたいになってきてますよ、あれ(笑)」



蓮流はそういうと、手元の砂糖菓子を緑涼に渡す。

緑涼は、それを口に入れると



「じゃ、そろそろ休憩してもらうべか(笑)」



といって、庭で遊んでいた風燕達を呼ぶ。

縁側に円を描くように座ると、緑涼はジーンズの後ろポケットから封筒を出す。



「ほい!」



そういいながら、緑涼は禮漸から順番に封筒を渡していく。



「こ・・・これって・・・」

「お年玉だべ(笑)」



まさかのお年玉。椿にとっては10年ぶりの光景・・・。



「こんな年になってもらうとは思わなかった(笑)」

「いらないべか、椿?」

「いや、遠慮なくいただきます。」


そんなやり取りの向こうから・・・



「わ~今年も諭吉だ!」

「諭吉の登場だべ!!」



火燐と蓮流が中に入っていたお札をうれしそうに持ってはしゃいでいる・・・。



「え?諭吉?ってことは・・・一万円!」



椿も中身確認・・・折れ目のない一万円が入っていた。




「お年玉の相場がわからなかったから、去年、正嗣からもらったお年玉の金額を確認して入れたべや(笑)」



緑涼がにっこりしながら椿にそう話す。それを聞いた椿は、驚きのあまり開いた口がふさがらなかった・・・。



(1・1 PM2:37)


椿は部屋で、お年玉を有効利用する方法を考えていた。



「親父の大ボーナスって感じだ・・・。10年前のお年玉にはこの金額、ありえなかったし・・・。」



コンコン・・・



「はーい!」




ガチャ・・・




ぎゅ~・・・



「椿ちゃん今から出かけるべ!!」



椿は、ドアを開けるとすぐ火燐に、右手を思いっきりつかまれた・・・。



「ど・・・どこに?」

「正嗣のところだべ!!」

「ちょ、ちょっと待って!着替えさせて!!」

「じゃ、俺もここで・・・」



ガシッ・・・



「待たなくていい(怒)」



火燐の後ろから大きな手が現れ、火燐の首元をつかむ。



「椿、着替えたらキッチンに来てね。手伝ってほしいことあるから!」

「わかった!」



禮漸はキセルを銜えながら、火燐を無理やり引きずるように掴んで下へと降りていった・・・。



(1・1 PM2:48)


キッチンに下りると、みんな総出でいろいろ作っている・・・。



「椿~こっち手伝ってくれねぇべか?」



緑涼は、いちごを餡と一緒にお餅にくるんでいた。



「イチゴ大福!!おいしそう~♪」



男性陣総出でイチゴ大福や豆大福、それにいくつかの和菓子を作っていた。



「一個食べるか?」



緑涼はそういうと、椿の手に出来立てのイチゴ大福を乗せる。

椿はその大福をほおばると、口の中に甘酸っぱい味が広がった。



「おいし~い♪」

「よかったべ(笑)」



イチゴ大福を食べ終わると、流し台で手を洗い、手伝いに参加する。



「こんだけのイチゴ、どうしたんですが?」

「みんなが寝ている間に、森の近くで果物育ててる農家仲間から分けてもらったんだべ。」

「すご~い!!」

「毎年、野菜と交換って感じだよな(笑)」

「んだ♪今年は、にんじんとだいこんと交換だったべ。今年は、野菜で何作ってくれるんだろうな~。」



緑涼と風燕の話を聞いていると、この光景は椿がいない間に、春河家の風物詩になっていたようだ。



「でも、お父さんのところにこんなにたくさん持っていくんですか?」

「いいや、正嗣と美佐子さんのお墓に持っていくのは少しだけ。」

「じゃ・・・あとは・・・」


「あやかしの森に持っていって配るんだべ。」


「配るんですか?」

「んだ♪」



大量のお菓子の行方は、98%→森で配る分 2%→森の礼拝堂に収める分と正嗣・美佐子の墓に持って行く分となっていた。



「・・・泊りがけですか?」

「車中泊になるのべか、禮漸?」

「今回は・・・そうっすね。」


「何にも準備してないよ(泣)」


「え・・・(驚)」


椿は、夏祭り同様のあやかしの森泊りがけ旅行ということを聞いて驚き、緑涼はそれを椿が知らず、何も準備していなかったことに驚いていた。



「俺、伝え忘れてたべ(笑)」


「か・・・り・・・ん・・くん(怒)」


「ご・・・ごめんだべ(泣)」


「とにかく、椿は、いったん準備しておいで。1泊2日分でいいよ。」

「わかった!!すぐ戻ってくるね。」


椿は部屋に戻って、旅行の準備を始めた・・・。



(1・1 PM3:40)


「やっと・・・出来たべ(疲)」


リビングの机の上に、大きな木箱が5つ積みあがっていた。中には、いろいろな味の大福と和菓子類が詰まっていた。


「こっちも出来たぞ!」


風燕と火燐がキッチンから大きななべと箱を持ってきた。鍋の中身は、ぜんざい。箱の中身は白玉だった。


「これも配るんですか?」

「配るよ。向こうは結構寒いからみんな飲んでいくんだよな~・・・」

「俺たちの分が毎年無くなったりするんだべ。」

「で、今年かちょっと多めに作って、別の鍋に入れてるんだな(笑)」

「んだ♪帰りの車の中で飲むんだべや!」


椿はみんなの話を聞くだけでわくわくする。お正月の森でいったい何が起こるのかを・・・。



(1・1 PM4:16)


椿たちは、正嗣たちの墓の前にいた。正嗣と美佐子の墓をきれいにすると、お昼に作った大福とゆりの花束を置く。


みんなで、数分間の黙祷をささげた。



「「「「「「行ってきます!」」」」」」



「じゃ、行くべか(笑)」



緑涼のその言葉を合図に、墓地を後にした。



(1・1 PM5:28)


火燐の運転で車は森に向けて走り始めた。

キャンピングカーのキッチンで簡単な缶詰おかずを作って晩御飯。

今日は、キッチンに大量の和菓子の入った箱を詰め込んでいるので、ベットルームの床で食事。


「緑涼さん。」

「なした?」


椿は、緑涼に率直な疑問をぶつけてみた。


「お父さんも参加してたんですか?」

「んだ♪一緒に作って、一緒に配ってたべ。」

「そっか。」


椿の顔が一瞬曇った。


「椿ちゃん?」


蓮流が椿の顔を覗き込んでくる。


「お父さんにしては以外だなって。」

「なして?」


「お父さん・・・甘いものあまり好きじゃなかったから(笑)」


そのことを聞いた緑涼達はびっくり。正嗣が甘いものが苦手だということを知らなかったのだ・・・。


「おら達が作った大福・・・普通に食べてたべな、禮漸?」

「う・・・うん。まさか苦手とは・・・」

「そんなこと一度も言ってなかったぞ、正嗣。」

「うん、言ってなかった。」

「きっと、克服したのかもしれないね(笑)」

「そうだべな、好き嫌いは体に悪いし(笑)」


「そうですね(笑)」


そんな話をしながら車は、暗闇の中をひたすら走り続ける。



(1・2 AM5:39)



「椿・・・ついたべ。早く起きんね(笑)」

「う~ん・・・」



緑涼に起こされたことで、あやかしの森に着いたのだとわかった椿。みんなが荷物を降ろしている間に服を着替え、ヘアメイクを済ませる。



「お待たせしました!」

「看板娘登場!」


「看板・・・娘?」


蓮流の言葉がうまく理解できない椿。



「各農家でひとつのお店をだすんだ。無料配布だから儲けとかはないけど、どこが一番早く完売するか競争するんだ。ってことで・・・」


「私が・・・看板娘として呼び込めと・・・。」


風燕の言葉でやっと看板娘という言葉が理解できた椿。そこに見慣れたバイクがやってきた・・・。



「椿さ~ん!!」

「あっ!結城さん!」

「あけおめ!!おひさしぶりっす!!」


それは、和希と結城佐奈のカップルのバイクだった。


「食べ歩きするんすか?」

「ううん。出店するほうなの。」

「まじっすか!どの店ですか?」


結城はそういうと、出展リストを椿に見せる。


「ちょっと待ってね。緑涼さん・・・あれ?」

「緑涼さんなら、礼拝堂行ったよ。」


禮漸によると、緑涼は手続きの関係で、先に礼拝堂に行ってしまったらしい。

椿は、禮漸に店の場所を聞いてみる。


「禮漸さん、私たちのお店どれですか?」

「え~っとね・・・あっ、これ26番。」


「レインボーファーム?」


「そう。あっ、お菓子とか、ぜんざいとか配るから遊びにおいで。」

「ありがとうございます。絶対行きます!!ねっ、和希?」

「絶対行きます!」


「待ってま~す♪」


それを聞いた結城達は、ラブらぶな雰囲気を振りまきながら森のほうへ向かっていった。



「結城さん達に会えると思ってなかった。」

「たぶん、近衛さん所も来ると思うよ。」


蓮流の意外な言葉にびっくりした椿。なぜそう思ったのか蓮流に聞いてみる。


「どうして?」

「だって、去年出店してたから(笑)」

「出店してるんですか?」

「そうだよ。たぶん今年の参加だと思う。」


そんな話をしていると禮漸から「行くぞ!」と声をかけられた。

椿達は、大量のお菓子と共に森へと入っていった。



(1・2 AM6:17)



着いたところは、大きな公園のような広場だった。地面には、各店につけられた番号と名前が書かれたシートが広げられ、ショーウィンドウなどの必要な機材がおかれていた。



「はい、これ着て。」



蓮流はそういうと、いきなり椿に緑色の羽織を渡した。

背中には“レインボーファーム”と雲のようにもくもくした字体で書かれている。


「これ・・・。」

「浴衣のときに測ったサイズで、空我に作ってもらったべや(笑)」



緑涼さんがいつの間にか合流していた。



「さ、礼拝堂のほうに行くべ!」

「お店の準備がまだだべや(怒)」

「ほんとだ(笑)ここから急ぐべ~!!」



お店の準備が着々と進んでいく。

緑涼の手で、ショーウィンドウの中に次々とお菓子が飾られていく。後ろで、火燐と風燕がお菓子ごとに箱を分け、すぐに取り出せるようにしていた。

禮漸は、お菓子を入れる箱やぜんざい用のコップを準備。椿と蓮流は、お品書きを書いていく・・・。


「できた!!」

「蓮流さん、こんなのでいいですか?」

「OK!っていうかすごくかわいいお品書きだね(笑)」


椿が書いたお品書きは、商品の紹介以外に彼らの似顔絵など、いろいろなお絵かきまで施していた。


「かわいいべな(笑)」

「みんなの似顔絵入れてみました(笑)」

「うん。これ、正面入り口のボードに張ろう!」


緑涼の提案で、正面入り口のお店紹介ボードに張ることになった。

椿は、蓮流と一緒に入り口に向かう。


入り口ボードも会場同様に番号で区切られていた。


「よいしょっと。」

「いい感じに目立ってる(笑)」


ポスターを無事に貼り、お店に戻ろうとした時のことだった。



「春河さん?」



振り向くと、そこには着物姿の近衛百合歌がいた・・・


「近衛さん!あの・・・あけましておめでとうございます。」

「おめでとうございます(笑)」

「ケーキありがとうございました!」

「いえいえ(笑)お店出されるんですね。」

「はい。レインボーファームをよろしくお願いします。」

「うちもお店出すのでよろしくお願いします。」


そういうと、百合歌からお店のチラシをもらう。


「39番のLファクトリーにいますので、遊びに来てくださいね。」


「はい!よろしくお願いします。」



そういうと、百合歌は会場のほうに戻っていった。


「Lファクトリーは、毎年すごい人だからな・・・。俺達もがんばろう。」

「そんなにすごいんですか?」

「うん。うちと争ってる、いつも。開場したらすぐに椿ちゃんにもわかるよ(笑)」

「そうなんですか・・・」

「じゃ、戻ろう。礼拝堂にも行かないといけないし。」

「うん♪」


椿と蓮流がお店に戻るころには、お店のディスプレイも出来上がっていた。


「お~!!戻ってきた!」

「おせ~よ(怒)」

「遅いべや(怒)」


「ごめんなさい。」

「ごめんごめん!」


「じゃ、行くべ!」


椿達はそろって、礼拝堂へ向かう。

みんな同じ緑の法被を着、胸元にピンと時計(椿は腕に装着)。周囲は、緑涼達の姿を見ると“今年も来たぞ”とざわつき始める・・・。

礼拝堂の内部では、たくさんの関係者がすでに座っていた。



「おらだけ向こうの席だから(笑)」



そういって、緑涼は先頭の一列を指差した。各席の前には、お店の商品が・・・


「各チームの隊長は、別席だから(笑)」

「そうなんですか・・・。」

「じゃ、行ってくるべ(笑)」


緑涼と別れ、椿達は席に着く。

それぞれの店の特徴が、店の制服などで分かるくらい、その場所がすごく華やかになっていた。


「火燐さん。」

「なんだべ?」


「今から何が始まるんですか?」


椿は隣に座っていた火燐に聞く。火燐はニコニコしながらこう答えた。



「新年の挨拶と、豊作を祈る儀式らしいべや。」

「そうなんだ。」


「で、その後お菓子や料理を配ってお祝いしようってお祭りみたいだべ(笑)俺も、初めて参加する時に緑涼からそう聞いた。」


「風燕さんから配布競争があるっていってたけど・・・」

「んだ。毎年大変なんだべこれが(泣)」

「なんでですか?」

「忙しいから休憩取るのやっとなんだべや(泣)」

「私できるかな?」


「できるべ、きっと!あ・・・」


火燐が話すのをやめた。椿は疑問に思い・・・


「どうしたんですか?」と聞く。


「休憩・・・一緒にとりたいべや。いい?」


「大丈夫ですよ(笑)」

「やった!」


「ってことは、椿と火燐ってことだから・・・」


その会話を後ろで聞いていた禮漸がメモを取る。


「そうだ、椿、火燐。」

「なに?」

「何だべ、禮漸。」


「うん?ちょっとお願いごと。」


そういうと、椿と火燐に耳打ちする・・・。



“いろんなお店回って、一杯集めてきて。みんなのご飯になるから。”



と・・・



(1・2 AM6:30)


豊作の儀式が始まった。たくさんの巫女が舞い、宮司がお払いを始める。緑涼の元にも宮司がやってきて、払っていった。

椿達もその厳かな雰囲気の中で緑涼を見ていたのだが・・・


「緑涼、緊張してるべや(笑)」

「本当ですね(笑)」


椿と火燐はこそっと小声で話していた・・・。


「こら(怒)」


禮漸に怒られた・・・。



(1・2 AM6:58)



「やっと終わったべ・・・。」



儀式が終わり、緑涼がつかれきった顔で戻ってきた。


「もう疲れてるじゃん(笑)」

「今から大変なのに・・・」


お店に戻りながら緑涼は、みんなから気合の集中砲火を浴びる。


「よし、がんばるべ!」



「「「「「お~!!」」」」」



朝7時と同時に会場にほら貝が鳴り響く・・・。


ここから、壮絶な一日が始まる・・・。



開門したと同時になだれ込む観衆。

椿達の店もすぐに妖怪達でごった返した。


「お一人様2つ迄です!」


「2列に並んでくださ~い!」


「火燐!いちご大福追加!」


「わかったべ!」


「こっち蜜柑大福追加!で」


「了解!」


休憩の暇さえも与えないくらいの人・・・

それはどの店も一緒で、椿はこの光景がデパートのセールでむる光景のように感じていた。

向かいの列にある近衛夫妻の店の同様で、ありのように群がっている。


それが一旦途切れたのは50分後・・・。



「火燐、椿!休憩行って来い!」



「「はい!」」



禮漸の合図で彼らは休憩に向かった。


「椿ちゃんいっぱい回るべ!」

「了解。」


椿達は、色々な店を手当たり次第に回る。



彼らは、手に持てなくなると店に戻り、置いてからまた休憩に戻る。それを何度か繰り返した。



その時・・・



「春河さん!」



椿と火燐が振り向いた先には、娘を抱える近衛亮輔の姿があった。


「椿お姉ちゃんだ。こんにちわ!」

「こんにちわ。ちょうど向かうところだったんです、近衛さんの所に。」

「本当?実は俺も春河さん所に行く所だったんだ。」



「「はい!」」



椿と近衛は、同時に箱を出し、交換した。


「1種類ずつ入ってるんで(笑)」

「ありがとう。俺の所も一通り入ってるから。」

「ありがとうございます。」



「あっ、結城さん所もこられてますよ。」


「まじで?もう一セット作らなきゃ。」



そんな話をしている時だった・・・



「痛い!痛いべや!」

「ふわふわ~!」



ひなたが火燐の耳を引っ張っていた・・・



「ひなた!放しなさい!」


「やだ!」


「お兄さん痛がってるだろ!」


「や~だ~(泣)」



「ひなた(怒)」



その瞬間、火燐はやっと痛みから開放された。

火燐はとっさに右耳を押さえてうずくまってしまった・・・。



「ひなた、お兄さんにごめんなさいは?」


「・・・ご・・めん・・・なさい・・・」



火燐は「いいよ。」といって、左手でひなたの頭を撫でた。



「本当にすいません。」

「大丈夫だべ(笑)」



そうして彼らは、それぞれの持ち場へと帰って行った・・・



(1・2 AM9:27)




「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」




「終わった~!!」

「完売だべ(笑)」




昨日の昼に作った和菓子はすべて完売した。空っぽのショーウィンドウと空っぽの木箱。

何も残っていないということを椿は実感していた。


「一番早く終わったね(笑)」


蓮流はそういいながら、持参した水を飲む。

横で、緑涼が疲れた表情でいすに座り込み、禮漸は会場の外に一服しに行った。

その頃、火燐と風燕は駐車場に行き、休憩時間に集めたほかのお店の商品を運んでいた。

車の中に詰め込むと、今度は冷蔵庫に商品を入れなおす。



「やっと終わったぜ・・・。」

「疲れたべ・・・。」



彼らはそういいながら車を出ると、再び会場へと戻っていった。



「椿~・・・。」



つかれきった様子の緑涼が椿を呼ぶ。



「おつかれ(笑)」



そういうと緑涼の手のひらには、配布するものとは違う焼き菓子がちょこんと座っていた。



「別で作っといたべや、食え食え(笑)」



椿は眼をきらきらさせながら、その焼き菓子をほおばった。

さくさくした食感と、アーモンドの香りが口に広がっていく・・・。


「おいしい~♪」

「よかったべ(笑)」


「緑涼!俺のは無いべか?」


疲れきった緑涼の背中に、火燐はぎゅっとしがみ付いてきた。



「あるべや(笑)みんな食べられるようにたくさん作ったから・・・離してくれ(疲)」



火燐は素直に緑涼から離れる。すると、緑涼は火燐の口の中にあの焼き菓子を放り込んだ・・・。



「うまいべ(笑)」

「そか、よかった(笑)」



みんなが次々に戻ってくる。そのたびに緑涼はあの焼き菓子を渡していく・・・。

その時、椿は視線を感じる。ショーウィンドウのほうに眼をやると、四つの小さな目が、ショーウィンドウ越しにじっと椿達を見ていた。



「どうしたの?」



椿は子どもたちの前でしゃがみ、視線を合わせる。

4歳ぐらいの女の子と2~3歳ぐらいの男の子。ぎゅっと手をつないだまま、椿の顔を見つめる。


「お饅頭・・・もうないの?」

「ごめんね。」

「おねぇちゃん・・・」


「どうしよう・・・(困)」


泣きそうな顔で子供たちが椿を見つめる。そこへ緑涼がやってきて・・・



「ごめんな・・・これじゃだめかな?」



そういって、子供たちの前にさっきの焼き菓子の詰まった小さな袋を2つ見せる。



「「うわ~!」」



子供たちはきらきらとした目でその焼き菓子を見つめていた。



「よかったらこれも持っていきな。」



禮漸が手にしていたのは、紙コップに入ったぜんざい。自分達用に別にしていたものだった。



「いいの?」


「いいよ。」


「「やった!」」



女の子が小さな手でぜんざいのコップを受け取る。

その横で、緑涼が手提げ袋にお菓子を入れて男の子の肩に提げてあげる。



「「ありがとう!」」



そういうと、子ども達はゆっくりとした足取りで店を後にした・・・。



「もう少し多めに持ってきてあげるべきだったべな・・・。」



緑涼は子ども達の様子を遠めに見ながらそうつぶやく。



「何も出来なくて・・・ごめんなさい。」



「“ごめんなさい”はいらない。」



椿は、緑涼から予想外の言葉が返ってきたことで驚きを隠せなかった。



「椿は、ちゃんとやってたよ。子どもの目線にあわせて、話を聞くことが出来たじゃないか。」

「だから俺たちもそれを見て、何とかしてあげないとって思ったべや。謝る必要なし。」



緑涼はそういうと「さ、他が終わるまで待つべ(笑)」といってショ-ウィンドウの奥に入っていった・・・。



「俺たちも待つとしますか?」

「はい。」



禮漸と椿もショーウィンドウの奥へ帰っていった・・・。



(1・2 PM12:13)


礼拝堂では、表彰式が行われていた。

緑涼と禮漸が代表して賞状や副賞を受け取る。椿達は、その後ろで並んでその光景を見ていた。


その後は、会場を移しての“懇親会”という名の打ち上げ。

パーティー会場のように丸テーブルが並び、ビュフェ形式で食事を取る。

椿達も食事をするが、蓮流は会場の外のテラスに座っていた・・・。



「蓮流さん大丈夫かな?」



近くにいた風燕にそっと聞いてみると



「入れさせられないよ。今年のご飯、シェフのミス発生だし・・・。」



といって、ある一角を指差した。そこには、さまざまな魚料理が・・・



「あれは・・・まずいですね。」


「だろ?最近は、ビュッフェじゃなくて、あらかじめ弁当とか、飯とかがおいてあったんだけどな・・・」


そういいながら、風燕は皿にあったサラダを食べていた。



「移動するべ!」



椿達が振り向くと、緑涼が大量のおかずを乗せた大皿を手にもってニコニコしていた。

横では、禮漸がデザートやパンを乗せた大皿を持っていた・・・。



「外で食うのかよ。」

「違う、移動すんの!部屋を(怒)」



そういうと、風燕に大皿を渡す。



「お、おい!」

「おらは何とかして蓮流をここから連れ出す。お前はそれ持って、禮漸についてけ。」


「・・・わかった。」


そういうと、禮漸と風燕は、妖怪たちを掻き分けながら隣の部屋に移動した。


一方、途中からテラスに移動した火燐。一緒に酒を飲みながら愚痴をこぼしていた。



「あれはないべ!」

「俺からしたら、あの場所だけホラーだ(泣)」

「んだ。」

「まさかの解体ショーまで・・・」

「信じられないべや・・・。」



ガチャ・・・



「「椿ちゃん・・・。」」

「おらもいるんだけど(怒)」



そういうと、蓮流の横に緑涼、火燐の横に椿が座った。その瞬間、火燐は椿にべたっとくっつく。



「違う部屋、用意してもらったから移動するべ(笑)」

「でも、あの前を通らないと出られないよね・・・。」

「そこは大丈夫だべ(笑)」



そういうと、緑涼は着ていた法被を蓮流の頭にかける。



「法被、落ちないように抑えとけ!」



そういいながら、蓮流を担ぎあげた・・・。



「これで回りも見えないべ。ちょっとだけ我慢できるな(笑)」



「・・・うん。」



「椿、火燐行くぞ!ドアを開けてくれ!」



「「は~い!」」



ドアが開くと同時に、緑涼達はテラスから飛び出した。



「どいてくれ~~~~~~~~~!!」



緑涼の大声で会場大パニック。その中を緑涼達は駆け抜けていく・・・。


会場入り口を出るとすぐに



「失礼しました!」



と緑涼が大声で謝罪。そのまま椿と火燐が扉を閉めて、隣の部屋に移動した・・・。



(1・2 PM12:39)


「耳が・・・痛い・・・(泣)」


「そりゃ、すぐ隣で緑涼の大声聞いたんだから仕方ない(笑)」


「鼓膜が破れてないのだけが・・・救いだ(笑)」


そんな苦しむ蓮流に風燕は温かいお茶を渡す。


その部屋は10畳ぐらいの会議室で、机の上におかずやデザート、飲み物が並べられていた。



「蓮流さん、大丈夫・・・じゃないですね。」


「ごめんね。今たべられる状態じゃないよ(笑)」


「じゃ、タッパにに詰めときますね(笑)」


「よろしく・・・」


椿と火燐は、持ってきた大きなタッパにおかずとデザートをつめていく・・・。


一方、窓の近くでは、緑涼が大の字になって倒れていた・・・。



「蓮流を担いで・・・お疲れっす。」


「あんなに・・・走ったの久しぶりだ・・・。」


「明日筋肉痛ですよ、きっと(笑)」


「そうだな・・・(泣)」



コンコン・・・



禮漸の耳にガラスの音が入ってきた。窓の外を見ると、さっきの子ども達が立っていた・・・。



「なしたの?」



窓を開け、子どもたちの高さまで目線を落とし、話を聞く禮漸。



「お菓子、ありがとう!」

「おいしかった!これあげる!」



そういうと、子ども達は禮漸に紙袋を渡す。中には木の実やみかんなどと・・・包み。


「これ、何かな?」

「それ、お守り。」

「僕達のおうちで作ってるお守りなの。」

「ほ~お守りか。ありがとう。今度は必ずお饅頭用意しておくからね。」


そういって、禮漸は子ども達の頭を優しくなでた。



「「じゃ~ね!!」」



「気をつけて帰れよ!!」



「「うん!」」



子ども達の姿が見えなくなるまで見送ると、禮漸は窓を閉めた。



「きっと、座敷童子だべな、あの子達」

「そうみたいっすね。お守りもらっちゃいました(笑)」

「家に飾ろうべ。」

「そうっすね。」



コンコン・・・



「は~い。」


椿がドアを開けると、そこには結城と和希、そして近衛夫妻とひなた、仁左衛門の姿が・・・。


「大丈夫か?」

「だいじょう・・・ぶ・・・です。」


そういいながら、蓮流の様子を見る亮輔。


「あれっしょ、魚料理(笑)」

「・・・はい。」

「あれはないですよね・・・主催者の注文ミスだそうですよ。」


女性陣だけでパーティーについて井戸端会議。



「よっ、怪我はどうじゃ?若造。」

「あっ、じじい!もう大丈夫だべ、また戦え!」



火燐と仁左衛門はお互いの積もる話をしていた。



「狐のお兄ちゃん、もう痛くない?」



仁左衛門に抱えられていたひなたは、少し不安そうな顔をして、火燐に話しかけてきた。


「もう大丈夫だべ、ほら!」


そういって耳を見せる。ひなたはにこっと笑う。


「何かあったのか?」

「さっきいろいろ、ね~!」

「ね~!!」


それから、火燐とひなたは一緒に遊び始めた。


一方、和希はグロッキー状態の緑涼に「大丈夫っすか?年ですか?」と聞いていた・・・。

「年って・・・和希から見ると、おらはおっさんなんだな・・・(笑)」


と、悲しそうに返していた。



(1・2 PM2:49)


「すまんな、若造。」

「いや、大丈夫だべ。」


ひなたは疲れてしまったのか、火燐の尻尾の上で寝てしまった。

仁左衛門はそっとひなたを抱え上げる。


「また、祭りのときにでもあおう。」

「その時、決着つけようべ!」


火燐はそういうと、仁左衛門に対してこぶしを突き出した。仁左衛門もそれに答えるようにこぶしをつき合わす。そして、ひなたを連れて先に退室した。


「じゃ、そろそろ行こうか、佐奈。」

「うん。ってことで。」

「私もそろそろ。お父様たちが心配なので(笑)」

「じゃ、またお祭りで会いましょう。」


「「はい。」」


そうして、みんな帰っていった。



「おら達もそろそろか帰るべか(笑)」



むくりと起き上がった緑涼は、疲れを感じさせないくらいニコニコしながらそういった。



「その前に、お皿片付けましょうよ(笑)」

「そうだべな(笑)」



そういってみんなでおかたづけ。ある程度きれいにして、会場を後にした。



(1・2 PM3:15)


車に戻ると、風燕は先ほどの懇親会のご飯を冷蔵庫にしまう。



「今晩は豪華なご飯だべ!!」



緑涼はそういいながら、横になる。蓮流も風燕も火燐も椿も横になるとそのまま眠ってしまった・・・。



(1・2 PM6:28)



「お~い!ついたぞ!!」



禮漸がみんなを起こしていく。



「ふぁ~!!もうついたべか、禮漸。」

「着きましたよ。お疲れさまっす(笑)」

「今日はこのまま部屋に運ぼう、だいぶ疲れてるみたいだから。」



そういうと、緑涼は火燐と椿を担ぎ車を降りる。

そして戻ってくると、今度は蓮流と風燕を担ぎ上げ部屋まで運んでいった。

その間に、禮漸が冷蔵庫から料理を出して運び出していく。



「7時半ぐらいに起こすべ(笑)」

「そうしましょう(笑)」



そういって、緑涼と禮漸は車をしまうと、家の中へと入っていった。





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