私の気持ち みんなの気持ち
(12・20 AM10:27)
椿は部屋でコーヒーを飲みながら、のんびり古びた詩集を眺めていた。
コンコン・・・
「は~い。」
椿がドアを開けると、そこには風燕と火燐が立っていた。
風燕の手には、緑涼が大人買いしたあの本・・・
「ちょっと、聞きたいことあるんだけど・・・いいか?」
「大丈夫ですよ・・・どうぞ。」
椿は、彼らを部屋に入れると、机の中からビスケットを出すとそれを机の上に置いた。
火燐は、ビスケットを一口ほおばると、目をきらきらさせ、ぽりぽりと口の中へと入れていく・・・。
そんな火燐をよそに、風燕は椿に本のあるページを見せる。
「な・・椿。この“サンタクロース”とか言う、白ヒゲのおっさん知ってるか?」
そのページには、サンタクロースが今にも煙突に入ろうとしている挿絵が載っていた。
しかし、風燕はなぜか怯えている・・・。
「知ってる・・・っていうか大丈夫?顔色悪いよ?」
「風燕、この白ヒゲ親父の話を見てから、ずっとこんな感じなんだべ。それで、本当にこの親父がいるのか椿ちゃんに聞いてみようってなったべや。」
「で、確認に・・・(笑)」
「んだ(笑)」
「で、いるのかよ(怒)そのおっさん・・・」
明らかに顔色が悪くなってきている風燕。椿は、どうサンタクロースのことを伝えようか迷ってしまった・・・。
「椿ちゃん・・・(泣)」
火燐が鳴きそうな声で椿を呼ぶ。見ると、ビスケットの袋からビスケットの存在が無くなっていた・・・。
「ありゃ・・・ちょっと待ってて(焦)」
椿は急いでリビングに行き、違うお菓子を取ってきた。それはキャンディー。
これならすぐ無くならないだろうと思い、キャンディーの袋から何個か火燐に渡した。
火燐も、そのうちの一つを口にいれ、口をモゾモゾさせながら舐めていた。
「で、俺の不安を解消させてくれ!椿、このおっさんいるのか?」
「・・・います。」
「マジかよ(泣)」
その場にガクッと崩れ落ちていく風燕・・・。
椿は、何とかフォローしようと必死でこういった。
「でも・・・普段からちゃんと親の言うことを聞いてるいい子には、プレゼントをくれるっていうやさしい人ですよ、ほらここにも書いてますし・・・どうして怖いんですか?」
「だって、どう考えても不法侵入だろ!この日だけ、このおっさん、何してもいいってことだろ?」
「いや、何してもいいって訳じゃなくて、この日にプレゼント配るだけのお仕事してるおじいさんだから、何もしないですって(焦)」
「じゃ、この絵はどう解釈したらいいんだよ。思いっきり何かしようとしてるぞ、このおっさん。来ないように賢く過ごせって書いてるし・・・。」
挿絵には、黒い服を着た鬼のような形相のサンタの姿が・・・
「あっ、黒いサンタクロースですね。」
「何だよ・・・黒いサンタクロースって。」
「さっきのサンタクロースとは正反対の仕事してる人です。悪い子どもにお仕置きをしたりする人です。」
「不法侵入する上に、子どもをシバキまわすのかよ、このおっさん・・・・(怖)」
さらに怯えだす風燕。それを横目に飴をなめ続ける火燐は椿にこう聞く。
「椿ちゃんもあったべか?」
「ううん。・・・お父さんだった。」
「正嗣が・・・サンタなのか?」
椿は笑いながらこう答えた。
「違うよ。サンタの役をやってたの。このお話の本当の意味は、ちゃんと親の言うことをきちんと聞いて、いい子にしていないと悪いことが起きるとかそんな感じかも。お父さんは、毎年、夜中にこの部屋に入ってきて、ベットの横におもちゃとか本とかを置いていてた。」
「じゃ、ここにサンタは来ないべか?」
「うん。」
「じゃ、サンタないじゃん(怒)」
「いることはいるけど・・・すべての家にサンタが来るわけじゃなくて、親がサンタ役をしてる所もあるってこと。うちはそうだったしね・・・。」
そういうと、風燕は恐怖の糸が切れたのかふわっとその場に倒れこんでしまった。
それを見た椿と火燐は、驚きながら風燕の身体を揺らすが、気を失ったままだった・・・。
その頃、屋根裏の禮漸の部屋で彼らは会議をしていた。
「どうするべ・・・」
「もう思い切って、ドアの前に置いていっちゃいます?」
「そうだべな。あの話が聞こえちゃうと、部屋には入り辛いべや(泣)」
彼らの手元には、ネットの確認メールのコピー。そこには、いくつかの商品が記載されていた。
(12・20 AM11:07)
コンコン・・・
「どぞ。」
椿は蓮流に用事があった為、部屋のドアをノックする。
ドアを開けると、深海をイメージさせるような、深い蒼がプリントされた壁紙が特徴の部屋だった。
「あっ!椿ちゃんなしたの?」
肝心の蓮流さんは、部屋の奥から髪の毛を拭きながら椿のほうにやってくる。
浴衣の上から羽織られた紺色の羽織に髪の水滴が落ちている。
「あっ・・・ごめんなさい、お風呂中・・・?」
「大丈夫。さっきあがったところだから(笑)で、なした?」
「あ、お父さんさんがいた時の事聞きたいなって・・・」
「あ・・・あぁ・・・ちょっと待って。」
蓮流はそういうと、奥に置かれた観葉植物の鉢をいじった。すると、そこからミストが出てきた。
「ごめんね。乾燥してると体が駄目になるから(笑)」
「魚人の習性ですか?」
「そう(笑)」
椿がなぜ、正嗣のいたときの事を知りたかったのか。
それは、自分の知らない時間を知りたかったから・・・。
「もしかして、クリスマスのこと?」
「どうして分かったんですか?」
すると、蓮流はにこっとしながらこう答えた。
「なんとなく時期的にそう思ったのと、さっき椿ちゃんの部屋で話してたこと聞いたから。」
「聞いてたの?」
「うん。緑涼さんに用事があって行った時に。廊下にまで聞こえてたから。」
「そうだったんだ・・・。」
椿はそういうと、思わず下を向いた。
「そういえば、24日になったらプレゼントくれたよ、正嗣。」
「寝てる間とか?」
「ううん。目の前で。」
「私のときは、寝てるときに机に置いてたりしたのに・・・」
椿は意外な答えにびっくりする。クリスマスはきちんとしていたのだと。でも、なぜサンタクロースのように寝ている間ではなく、目の前にしたのか?そこだけが疑問だった。
「普通は寝ているときみたいだね、さっきの話だと(笑)」
「うん・・・。」
「隠し切れなかったとか・・・かな?もしかしたら(笑)」
蓮流の思わぬ言葉に、椿は驚きを隠せなかった。
「火燐とかすぐ見つけそうだし(笑)」
「見つけたら、隠したいみないもんね(苦笑)」
「だから、目の前で渡した・・・かもね(笑)」
その疑問は解決は出来ないが、彼らだけの答えが誕生し、1つの笑い話になっていった。
(12・20 PM1:28)
椿は、緑涼達には内緒で家を出た。
どうしても、あの恐怖が心から消えない。自分でどうしたらいいのか分からない気持ちでいっぱいになっていく・・・。
家にいるのが苦しい
でも、家を出るといっても、本格的な家出ではなく、少しの散歩と椿は決めていた。
だから椿は、部屋のドアにメモを張り、何も持たずこっそり家を出た。
「少し、歩いてきます。夕方には戻るので、探さないでくださ・・・えっ?」
禮漸が緑涼の部屋に行こうとした時、椿の部屋のメモに気づいた。
禮漸の心の中では、考えたくもない嫌なことしか沸いてこなかった。
「なした?」
部屋から出てきた緑涼が禮漸に声をかける。
「・・・これ・・・」
「探さない・・・で・・・」
緑涼は絶句した。
彼らは、ここ最近の椿の様子がおかしい事もわかっていた。それだけに、このメモの衝撃は計り知れないものがあった。
「禮漸、みんなを集めて探しに行くぞ!」
「あぁ。」
どうして
どうして
何も出来なかったんだろ・・・
変なの分かってたのに・・・
何かあったら
椿に何かあったら・・・
俺は・・・
緑涼の心の中は、この言葉で急速に埋め尽くされていく
心も身体も動かなくなるくらいに・・・
禮漸は、リビングで火燐達を見つけた。
「お前ら・・・ちょっと来い・・・。」
「どしたんだよ?血相変えて・・・。」
「いいから早く来い!!椿が置手紙残して出て行ったんだよ、勝手に!」
その言葉を聞いた途端、彼らの時間が止まった。
「とにかく2階で緑涼さん待ってるから、捜索範囲決めてから探しに行くぞ!」
彼らは、緑涼の待つ2階へと階段を駆け上がっていった・・・。
その頃、椿は正嗣と美佐子の墓の前にいた。
正嗣の墓の前にしゃがみこむと、ただじっと彼の墓を見つめていた。
お父さん・・・
私・・・
みんなより
早く死んじゃうんだって思ったら
みんなといるのが苦しいよ。
どうしたらいいの?
ねぇ?
教えてよ、お父さん・・・
何も声は聞こえてこない。
答えは返ってこなかった。
椿の中でこの現実を受け止められなくなっていく。
(12・20 PM2:09)
緑涼達は、一斉に家を飛び出すと、椿が向いそうな場所へと散っていく。
緑涼は、正嗣達の墓のある教会へと走る。
なりふり構わず、全速力で・・・。
やっと教会へ着くと、息を切らしながら墓地の中へ・・・。
正嗣の墓の前に何かが横たわっている。墓のすぐ近くまで足を進めた時“何か”の正体が椿であることを緑涼はその眼で確認した。
「椿・・・椿!」
必死に呼びかけても
頬を叩いても
椿は一向に目を覚まさない。
緑涼は、耳を顔に近づけて呼吸を確認した。小さな呼吸の音が鼓膜に響いてくる。
緑涼は必死に呼びかけた。
「・・・み・・・すず・・・さん・・・?」
少しずつ眼を開け、目を覚ましていく椿。完全に意識を回復させ、しっかりと緑涼の顔が見えた時、椿は緑涼から離れようとした。緑涼はそんな椿の左腕をとっさに掴む。
椿はそれを拒むかのように、緑涼の手を必死に振りほどこうとする。
「なした?な、どした椿?」
その呼びかけにも椿は応じない。
ただ、必死に緑涼の手を離そうとするだけ。
「椿!」
緑涼は右腕も掴むやいなや、大声で怒鳴ってしまった。
椿は、下を向いたまま緑涼の顔を見ようとしない。
「こっち見ろ、椿。」
椿は顔を上げようにも、気持ちがそうさせてくれなかった。すると、緑涼は、自分の両手の場所を椿の頬に変えると、手の力で無理やり正面に向けた。
「何があった?俺に言えないことか?」
椿は何も答えない。
目線も自然に緑涼の顔を避けていく。
「こっち見ろ、椿!」
「怖い・・・。」
椿から出た言葉は、緑涼の心に刀のように刺さっていく。
「私・・・人間だから・・・お父さんと・・・同じ・・・ように、先に死んじゃうんだって思ったら・・・みんなといるのが・・・怖いよ。」
椿は泣きながら、言葉を吐き出していく。
その言葉が、どんどん緑涼に刺さっていく・・・。
「俺だって怖いよ。」
今度は、緑涼の出した言葉が、椿の心に刺さっていく。
「俺だって、怖いよそれは!正嗣だって、死ぬって分った時、やけ酒して、暴れて、自暴自棄になってたよ!死ぬのが怖いって言って暴れてた!」
どんどん刺さっていく、緑涼の気持ち
苦しいくらいに刺さっていく・・・。
「俺なんて、わかんないくらい生きてきたから、たくさん人が死ぬのを見てきたよ、それでも怖い!でも生きてる!だから、そんなこと考えんな!今だけ考えろ!」
椿を見る緑涼の眼は感情を表していた。
ただ怒っているのではなく、椿の気持ちを受け止めようと必死であったことを・・・
「ごめん・・・なさい・・・。」
椿がそういうと、緑涼の眼は、いつもの優しい眼に変わった。
泣きじゃくる椿を優しく抱きしめると「一人で抱え込むんじゃねぇべや。」と少し笑いながらそういって、椿の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「帰ったら、みんなに謝ること!みんな必死で椿の事探してるんだぞ、今も。」
「・・・うん。」
「じゃ、帰るべ!」
そういうと、緑涼は胸元から小さな紙を取り出した。
「それ・・・何?」
「ん?これか?みんなに椿が見つかったって、知らせるための、紙だべ!」
そういうと、緑涼の手の中でその紙は変化し、小さな蝶となり、バラバラに飛んでいった。
「すごい・・・」
「そっか。」
そういうと、緑涼は椿をぱっと抱き上げた。
「み・・・緑涼・・・さん?」
「そんなふらふらじゃ歩ける訳ねぇべや(笑)」
そういうと緑涼は歩き始めた。
教会の敷地を出ようとした時、椿は、緑涼にこういった。
「私・・・もう一人じゃないって信じていいんだよね。」
「当たり前だべ。家族だろ?」
「うん。」
「正嗣に言われたことがあるんだ。」
「何を?」
「どんな形でも家族は家族で、何回壊れても再生できるって。」
「お父さんそんなこと言ってたんだ。」
「んだ。前にも言ったけど、おらは捨てられてて、何にも知らずに育ってきた。家族なんてもの知らなかったべ。だから、正嗣と初めて会った時も“何言ってんだこいつ”って思ってた。」
「だけど、何度も正嗣がくるんだべ、おらと禮漸に会いに。弁当とかお菓子とか持って。」
知らなかった、父親の時間の一部
「おら達と別の妖怪たちで大喧嘩になったことがあってね、なぜか、正嗣が止めに入っちゃったんだべ。大怪我してまで“止めろ”って・・・」
知らなかった事実
「そしたら“俺達家族だろ?止めて何が悪い”って。びっくりしたよ。向こうも戦う気がうせたのか、帰っていったし・・・“家族の絆”ってどんな形でも、壊れてしまっても、何度でも作り出せるって、もう一度って思えば何度でも・・・そういってたべ、正嗣。」
椿は感じていた。
今、緑涼から出た言葉が、さっき正嗣に問いかけた答えなんだということを・・・。
家に着くと、玄関の前で禮漸達が待っていた。
「ただいま。」
緑涼がそういうと、禮漸はいきなりキセルで椿のおでこをポンと叩いた。
「みんな心配してたんだぞ。」
「ごめんなさい。」
「立てるか?」
「うん。」
緑涼は、静かに椿を地面に下ろす。すると、火燐がいきなり椿に抱きついた。
「勝手に出て行くなんてひどいべや(怒)」
「ごめんなさい(泣)」
「今日はずっと椿ちゃんぎゅっとするべ(怒)」
ゴン・・・
椿は頭に重い痛みを感じる。見上げてみると、風燕が辞書並みに硬くて大きな本を持っている・・・。
「今度やったら、ただじゃ済まさねぇからな(怒)」
「そうそう。」
そういうと、蓮流は椿の耳を思いっきり耳を引っ張った。
「ご・・・ごめんなさい(泣)」
「はい。じゃ、今度から必ず行き先は言っていってね!」
そう言い終わるとぱっと手を離した。
「そこまで!さ、飯作るぞ!」
「「「「「「は~い。」」」」」」
椿の目には、見慣れた玄関がいつもと違って見えていた。
いつもより明るく、いつもより温かいそんな景色に・・・。
(12・24 AM1:24)
緑涼は、静かに禮漸の部屋に向った。部屋に入ると、4つのバラバラの箱。それぞれに名前の書かれたメモが挟まっている・・・。
緑涼と禮漸は、これからサンタクロースに変身する。一階の蓮流と風燕を禮漸、1階の火燐と2階の椿を緑涼が担当する。
「さ、やるべか、禮漸。」
「了解っす。」
彼らは箱を手にすると1階へと向って行った・・・。
禮漸は、まず蓮流の部屋へ。
しかしハプニング発生。ドアの隙間から光が漏れ、中からは音楽が聞こえている・・・。
「あきらか、起きてるな(焦)」
悩んだ末、メモを取り、ドアにプレゼントを立てかけて風燕の部屋に向った。一方、緑涼は、火燐が寝ていることをドアから確認。ドアの隙間からプレゼントの箱を部屋の中へ。
「次は、椿っと・・・。」
そういって階段を上がって行った。
禮漸サンタにまたもハプニング発生。風燕の部屋の前にプレゼントを置こうとした際、思いっきりドアを開けられ正体がばれてしまった。
「おい・・・何してる・・・(怒)」
「・・・(焦)」
「・・・」
「お前、サンタのおっさんの差し金か?」
「差し金ってなんだよ(笑)」
明らかに顔が引きつっている風燕。
「赤サンタか黒サンタか?」
「サンタは普通、赤だろ?」
「本当だな。本当に信じていいんだな!」
怒っているような口調であるが、眼が明らかに怯えている。
「信じるも何も・・・ねぇ・・・?」
「・・・わかった。」
そういうと、風燕はプレゼントを受け取ると、静かにドアを閉めた・・・。
緑涼は、少しドアを開け椿の寝顔を確認しようとしたが、ベットの向きの関係で確認できず。
すると、緑涼はゆっくり部屋のドアを開け部屋に立ち入る。
「よし、寝てるべな(笑)」
ベットの中で横になる椿を覗き込み寝顔を確認。緑涼は、椿の頭を少しなでると、パソコンのキーボードの上に箱を置いて部屋を出た。
(12・24 AM1:46)
「初めてだべ・・・こんなに緊張したのは。」
「俺なんて、風燕にばれましたよ。お前、サンタの差し金か、言われました(笑)」
「ハハハ!あの話だべな、きっと。」
「強がってるんだと思うんだけど、目が怖がってて・・・(笑)」
緑涼と禮漸は、キッチンから缶ビールをとってくると、緑涼の部屋で反省会。
椿達に聞こえないように乾杯をし、ビールを飲む。
「きっと、正嗣はこの緊張が嫌だから、サンタをやらなかったんだべ(笑)」
「可能性“大”っすね(笑)」
しばらく、そんなたわいもない話をし、やがて疲れからか眠ってしまった・・・。
(12・24 AM5:29)
緑涼は畑に向う為、ジャージに着替え部屋を出る。
リビングに立ち寄ると、机の上に2つの箱が置かれていた。それぞれに緑涼と禮漸の名前の書かれたメッセージカードが挟まっていた。
緑涼はそのカードを取り静かに開く。
“おつかれさま。いつもありがとう。これからもよろしく。”
そのメッセージの下には、風燕と火燐、椿と蓮流の名前が書かれていた。
「あいつら・・・」
緑涼の眼からさっと涙が流れる。
首から提げていたタオルで眼を押さえ、涙をふき取ってから緑の包装紙の箱を開ける。
中には、手ぬぐいと箸と箸置き、箸箱のセットだった。
緑涼は、手ぬぐいを箱から出すと、首のタオルをはずし、そこに手ぬぐいをかけ、畑へと向っていった。
(12・24 AM7:15)
「開けて、開けて!」
畑から戻ってきた緑涼がリビングを覗くと、禮漸が火燐達に囲まれていた。
禮漸が箱を開けると、そこには徳利とお猪口が入っていた。
「俺達からプレゼント。」
「禮漸専用だべ!」
「ほ~!!俺専用か!」
禮漸は眼を輝かせながら喜んでいた。
「おら達にもサンタが来たべな(笑)」
緑涼はそういうと、ポンと禮漸の肩を叩く。
「緑涼さん、もう使ってくれてる!」
「本当だ!もう使ってる!」
「椿も蓮流ももう使ってくれたべか(笑)」
椿の頭には蝶の形をした髪留め、蓮流はルームシューズをはいていた。
「火燐と風燕も使ってくれてるっすよ(笑)」
緑が火燐達に眼を向けると、手袋をした火燐と銀の栞が挟まった本を持つ風燕の姿が。
「これからは、大事なときこれを使うべ。ありがとう!」
「俺も、大事なときに使うわ。ありがとな。」
12月24日
彼らに少し早くサンタが到着した。




