8月14日
(8・14 AM6:25)
チリチリチリチリ・・・
「ふぅぁ~・・・」
椿は部屋の目覚まし時計で朝を迎えた。
窓を開けると、緑涼が畑仕事をしている。
いつもと変わらない光景。
「緑涼さん!」
「おぉ~!おはよう、椿!」
「おはよう!」
「今日はみんな良い具合に育ってるべや!椿も一緒に収穫するか?」
緑涼からの突然のお誘い。
椿は二つ返事で「OK!」というと、服を着替え、庭の畑へと向った・・・。
「お待たせしました!」
「よし、始めるべか!」
畑では、とうもろこしやトマト、キャベツなどたくさんの野菜が育っていた。
「椿!トマト頼む!」
緑涼はそういって椿にはさみを渡す。
そこで、椿の中に疑問が浮かんだ。
自分たちが食べる以上の野菜が育っている・・・。
あと、どうするんだろうと・・・。
「緑涼さん。」
「なんだべ?」
「この野菜って採った後、自分たちが食べる分以外の物はどうなるの?」
その質問に緑涼はにっこりしながらこう答えた・・・。
「食べる分以外は、保存食にしたり、加工したり、売ったりしてるべや。」
「売るってどこに?」
「いろんなところに。ネットで注文受けて、それからいろいろなところに配送って感じだべ。」
人間の世界と緑涼たちの世界に特に変わったことはない。
同じような文化が流れているんだと椿は改めて感じる。
「あ、早くしないと取りに来るな。」
緑涼は、そういいながらお尻のポケットに入れていた紙を取り出した。
そこには注文リストがぎっしり!
「すごい人気!」
「それほどでもないよ。」
そう話しながらでも手を止めずに作業を続ける緑涼。椿も追いつこうと必死ではさみを動かしていく・・・。
(8・14 AM6:53)
「よし!じゃ、箱につめていこっか!」
「箱は準備しといたよ~!」
その声は、縁側から聞こえてきた。
そこには、大量のダンボールを抱えた禮漸の姿があった。
「今日は30ぐらいでいいすか?」
「もう少しほしいべや!今日の注文42件あるから!」
「了解で~す!!」
そういうと、どこかへ行ってしまった。
「椿はダンボール組み立てていってくれる?」
「わかった!」
椿がダンボールを組み立て、緑涼が取れたて野菜を綺麗にやさしく詰めていく。
それの繰り返し。
「ダンボール追加で~す!」
禮漸がダンボールを椿の前に置くと、緑涼のところに行き一緒に野菜をつめる。
急ピッチで作業が続く・・・。
「すんませ~ん!!狸印のあやかし運輸で~す!」
運送屋さん到着。
明らかに間に合ってない・・・。
「あっ!ごめんちょっと待って!椿!」
「なに?」
「そこにある宛名シールを左の箱から順番に貼ってって!」
「は~い!!」
「手伝いま~す!」
「俺も椿ちゃん手伝うべ!」
「火燐は野菜つめていけ(怒)」
そこに蓮流と火燐が到着。
野菜の梱包増員。
さらに急ピッチ。
「箱、俺やるわ。」
風燕到着。
ダンボールの組み立て増員。
結局みんなで朝から農作業。
家族総出の農作業・・・。
(8・14 AM7:11)
「ありがとうございました!」
運送屋さんが荷物を持っていった。
「おつかれ!朝食出来てるぞ!」
そこには、正嗣の姿。
家の中からは、おいしそうなご飯の香りがしてきた・・・。
今日の朝ごはんは、和食。
ご飯と卵焼きとお味噌汁、それとポテトサラダ。
朝からたくさん動いたからか、みんなの食事のペースがいつも以上に早い。
男性陣にいたっては、おかわりをしまくったので、お味噌汁とご飯はあっという間に無くなってしまった・・・。
(8・14 AM8:50)
朝ごはんの片付けも終わり、椿は洗面所で洗濯機を回していた。
家族総出の農作業の後ということで、通常以上の洗濯の量・・・。
数十分後
椿は、洗濯物を抱えて庭へ
物干し竿に一つ一つ洗濯物を干していく。
「お母さんも手伝おっと♪」
美佐子も加わって大量の洗濯物を裁いていく。
「椿。」
「なに?」
「もうこんなことが出来るようになったのね・・・。」
「当たり前でしょ。もう大人なんだからさ。」
「そうでした。でも、お母さんの中ではあのときの椿で止まったままだったから・・・。」
そう
美佐子の記憶は
10年前のあの事件で止まったままだった。
子育ての記録も10年前で止まったままだ。
だから
大人になって一生懸命洗濯物干してる姿なんて
本来なら見ることが出来ない記録。
残り2日の間にたくさん留めておきたい
美佐子はそう感じていた・・・。
数十分後
たくさんの洗濯物が風に揺れている。
サイズや色の違う6つのジャージにシャツや下着。
色とりどりの洗濯物が物干し竿を占拠していた。
椿はそれを見ると、改めて自分は一人じゃないことを実感する。
「今日、緑涼さん達と畑に行ってたでしょ?」
「うん。」
「お母さんそれ見て、感動しちゃった。」
「どうしてよ。」
「だって、私も死んじゃったし、お父さんも死んじゃったでしょ?だから・・・すごい心配だったの。だけど、こうしてお家でニコニコしてるもん。それがすごく嬉しいの。」
美佐子は、椿の目をじっと見てそう胸のうちを語る。
「さ、中に入ろう。お肌が焼けちゃう。」
「お母さんは気にしなくて良いじゃん!」
「気にする!焼けたくないもん!」
(8・14 AM8:50)
椿達が洗濯物と格闘している時、キッチンでは男性陣ほぼ総出での保存食作りが始まっていた。
風燕がトマトを使ってケチャップやトマトソースを作っている横で、蓮流と火燐が糠床の漬物を取り出し、新しい野菜を詰め込んでいく。
禮漸は、縁側でホットプレートを使ってゴマを炒っていた。
緑涼と正嗣は再び畑に・・・。
「今年は大きいのが出来たね~♪」
「んだ♪」
「じゃ、今年もやりますか!」
「これしないと夏が来た気がしないべや♪」
(8・14 AM9:35)
男性陣の保存食作りがひと段落着いた頃・・・。
「お~い!お前たち!今年もやるぞ!」
縁側にいるにもかかわらず、緑涼の大きな声が家中に響く。
椿もびっくりしてお風呂掃除の手を止めて縁側に・・・。
縁側にいる男性陣のテンションがかなり上がってる。
「お母さん?」
「あっやっときた。早く緑涼さんのところ行かないと参加できないよ!」
美佐子の指差す方向には、大きなたらいに入った大量の大きなスイカ。
「椿~!!今からスイカ割するぞ!早くこんね!」
庭ですいか割り。
椿はあまりのことでびっくりしている。
そこに火燐がやってきて
「早く早く!みんなですいか割りするべ!」
といって椿の手をがっちり掴むと縁側へ強引に引っ張っていく・・・。
その間に、正嗣と禮漸が青いビニールシートの上にスイカを円になるように置いていく。
「よし!準備OK!」
「じゃ、ただいまより、すいか割り大会を開始しま~す!!」
「「「「「いえ~~~~~~い!!!!!!!!」」」」」
正嗣の開始の合図と同時に、男性陣が手にしていたのはそれぞれの武器。
緑涼は牛刀のような刀、禮漸はとげとげしい大きな棍棒、火燐は鉄の扇子、風燕は鎌、蓮流は日本刀・・・。
「椿がんばれ!こいつらに負けんな!」
そういいながら、正嗣が椿に渡したのは、料理のときに生地を伸ばす木の伸ばし棒・・・。
ちなみに、正嗣は、物置にあった金属バット。
「美佐子!」
「は~い♪じゃ、5・4・3・2・1・・・スタート!」
美佐子のスタートの号令と共にみんなで大量のスイカを割り始めた。
一般的なすいか割りは、砂浜で目隠しをしながらスイカを割るものだが、この家でのすいか割りは、目隠し無し、大量のすいかを自身の持つ武器でとにかく割りまくるといったところである。遊び心がまったくない、競争・・・。
椿も必死ですいかを割りまくるが、緑涼たちのペースにまったく歯がたたない。
数十分後
「終~了~!!」
美佐子のその声で、すいか割りという名の競技が終了。椿達の足元には割れたスイカが転がり、身体には、スイカの汁がかかりすぎてベトベトな状態・・・。
「じゃ、大き目のすいかの破片は、お皿にのせて、木っ端微塵になってる分はこのボールに入れてって!」
正嗣がそういうと、みんなですいかの回収作業開始。
大きさの仕分けがとにかく大変だった・・・。
「よっしゃ!じゃ、みんな纏めて!」
そういうと正嗣は、ホースから水を出して椿たちに向けてかけ始めた。
「親父!何すんの!」
「シャワーだ!気持ち良いべ~♪」
「うわ~!!耳に水入った!」
「そんなの、後で横になってれば元に戻るって!」
みんな口々に何か言っているが、そんなことはお構い無しに正嗣はホースを椿達に向けた。
すると正嗣とは反対側からもホース攻撃が始まった・・・。
「ちょっと!緑涼さんまで何するんですか!」
「この方が早く綺麗になる!」
緑涼と禮漸が畑からホースを引っ張ってきて加勢してきたのである。
ちなみに緑涼と禮漸は、先に自分たちだけ水浴びをしてきたらしく、髪の毛も服もかなり濡れていた・・・。
すると、禮漸が正嗣に向ってホース攻撃。
「ちょ、禮漸!謀反だ!謀反を起こしやがった!」
「正嗣、まだ水浴びてないなって感じしたから(笑)」
「ハハハハハハ!!!!!(笑)」
「禮漸やれやれ!!」
さらにヒートアップしていく水浴び。こうなると収拾が付かなくなってくる。
「そこまで!」
止めたのは美佐子だった。
手にはみんなの着替えとバスタオル。
「そんなに遊んだら風邪ひきますよ!」
「「「「「「「は~い・・・。」」」」」」」
みんな縁側に引き上げ、バスタオルで身体を拭く。
「椿はお風呂場行ってきなさい。」
「わかった。」
椿は女の子なので、もちろん別室で着替え。
洗濯機に汚れた服を放り込み、新しい服に着替える。
リビングに戻ろうとすると、廊下で正嗣とばったり。
「リビングまだ着替えてる?」
「まだまだかかると思うぞ。ま、ハーレム気分が味わいたかったら入ったらいいけど(笑)」
正嗣が冗談交じりにそんなことを口走る。
椿は思わず「大丈夫です。」という変わった返事をしてしまっていた。
(8・14 PM2:15)
「ま、二人そろって。」
椿と正嗣は、火燐の尻尾の上でお昼寝中。
尻尾を枕代わりにされたに火燐自身はというと、縁側で読書中。
「火燐さんごめんなさいね。」
「いいべや、別に。」
美佐子は、読書中の火燐の横に麦茶を置いて火燐とお話しすることに。
「いつも正嗣さんこんな感じだったの?」
「そうだべ。俺の尻尾、枕にする。気持ちいいんだって。」
「確かに。すごくふわふわしてそうだし。」
「椿も同じこと言ってたべ。」
「そう・・・。正嗣さん寂しがりやな性格だから。」
椿と正嗣の寝顔を見ながら、美佐子はふっと正嗣の過去をつぶやいた。
「俺には、そんな感じにぜんぜん見えないべ。」
「じゃ、火燐さんたちと一緒にいるのが楽しかったのよ、きっと。」
「ふ~ん。」
その話の途中、椿がゆっくり目を覚ました。
「あ・・・お母さん。」
「おはよ。起こしちゃったわね。」
「寝起きの椿ちゃんもかわいいべ。」
「そうですか・・・お母さん何話してたの?」
「昔のお父さんの事。」
「私も聞きたい。」
「じゃ、座って。」
椿が美佐子の横に座ると、美佐子は再び話しを始める。
「正嗣さんね、高校の時から教室でも一人だし、昼休みとか放課後とかは図書館にこもって本をじっくり読んでるような人だったの。」
「ふ~ん。」
「親父の異常な本好きはこの時にはあったんだ。」
「うん。私が転校して来たときもそう。隣の席になって挨拶してるのに、本に読むのに夢中で・・・。」
「なんか失礼だべ。」
「でもね、そんな本を読む横顔見てると、好きになっちゃったの。」
「「何で?」」
「だって、その顔がかっこよかったんだもん。体育の時とか授業で当てられた時とかは、すごく駄目駄目だったけど。」
「マジで。」
「なんか、それわかるべや~。重い荷物、自分で運ぶとか言って、運べなかったりしてたから。」
「体力あんまりないのに、無理しようとするところがあるのよね~。」
「親父、確かにそんなところあった。」
「うん。」
そんな昔話の重要なことを椿は美佐子に聞いてみた。
「で、そんな親父はなんて告白したの?」
「告白したのは私。」
「「え?」」
「親父は自分だって言ってたけど・・・。」
ここで見解の相違が発生。告白のところで、こんだけ違いが出ることなんてあるのかと椿はいつも疑問に思っていた。
「いつもそこで喧嘩になっちゃうの。でも、よく考えたら正嗣さんかも。」
「正嗣どんなこと言ったべか?」
「う~ん・・・本を見ながら“俺と一緒にいて楽しい?“って。」
「なにそれ?」
「続きがあるの。私が楽しいよっていったら“じゃ、これからもこんな感じだけど・・・俺と付き合ってくれる?”って。」
「で、OKして今に至ると・・・。」
「うん。」
「なんか、正嗣っぽいべ(笑)」
「親父の告白、なんか変な感じがする。」
「そう?」
美佐子はどうしてといった感じで椿を見る。その光景につい火燐は笑ってしまった。
そして話は結婚後のことに・・・。
「あとね、結婚して1年ぐらいの時かしら。すごい大きな喧嘩をしたことがあったの。」
「二人が喧嘩っていうのが信じられないんだけど・・・。」
「あの時はすごい怒っちゃった。だって、結婚記念日忘れてるんだもん。」
「「は?」」
「明らかに親父が悪い。」
「正嗣が悪いべ!」
「普通、そんな大事なこと忘れないし・・・(笑)」
「それなのに気づいてくれないもん。で、イライラしてたら、いい加減にしろ!俺が何した?って。」
「なにそれ?」
「で、家出したの。」
「飛び出したくなる気持ちわかるかも・・・。」
「飛び出していいと思うべや(笑)」
「バス停のところまで行って、バスを待ってたら、正嗣さんが申し訳なさそうにやってきたのよね・・・。ごめん、忘れてたって(笑)」
「「ハハハハハッハ!!!」」
「で、その時だったの。椿がお腹の中にいるのがわかったの。」
「マジで!」
「うん。急にふらって、めまいがして気持ち悪くなって。そのままバスに乗って病院までいったら“おめでとうございます”って・・・」
「「ふ~ん・・・。」」
「正嗣さんね、椿が生まれてから、帰ってくるのが早くなったり、一緒にお出かけしたり、一緒に絵本読んだり・・・。そうそう、小学校の修学旅行について行こうとしたこともあったのよ!」
「信じらんない!何それ!」
「椿が心配で心配で仕方ないんだ!って言って、椿の後を付いて行こうとしたのよ。すぐ止めたわ。」
「俺だって心配すんの。俺たち無しの旅行って初めてだからさ・・・。」
正嗣はとっくに起きていた。わからないように寝たふりをして話を聞いていたらしい・・・。
「起きてるなら起きてるっていってほしいです。」
「はいはい(笑)」
そういうと、正嗣はふらっとどこかへ行ってしまった・・・。
「もうこんな時間ね(笑)」
リビングの時計は、3時30分を示していた。
「おやつ出来てるかしら。」
「スイカのアイス!スイカのアイス!」
「はいはい(笑)椿、みんな呼んできて。」
「は~い!」
椿はみんなを呼びに行く為、リビングを後にする。おやつタイムの始まりを告げに・・・。




