読む力 ーリーディングー
「せ、成功した!?やったわね!ユウ君!」
姉さんの出した炎は俺の力によって完全にかき消された。
驚き、そして自分のことのように喜んでくれる姉さん。
「姉さんが協力してくれたおかげだね。もっと離れて試したいんだけど、良いかな?」
「ええ、勿論よ。ユウ君ならきっとすぐにマスターしてしまうわ。どんどんいきましょう!」
言うと同時に炎を発生させる姉さん。
俺も最初にチャレンジしようとして失敗した、3m程距離が開いた位置に移動する。
そして姉さんの方に向き直って炎を確認するが、
…これじゃ練習にならんな。
もう一度、姉さんに背を向けて今度は壁まで歩いてみた。
「ユウ君?そんなに離れて大丈夫なの?」
「うん、多分ね。」
1度やったから感覚はもう理解した。
遠いから炎はハッキリ見えないが、その力の源に関しては集中すればしっかり知覚できる。
消えろと念じてみる。
炎は即座に消え失せた。
「す、すごいわね。流石はユウ君…。」
「多分端っこまで行っても変わらないと思うけど、念のため確認したいから姉さんも端に行ってくれる?」
「分かったわ。」
姉さんは俺に背を向けて端の壁まで歩く。
測ったわけではないが、100m弱くらいだろうか。
「いくわよー!?」
離れているから気を利かせて声を張ってくれる姉さん。
同時に炎を発生させるが、とても小さく見える。
しかし、あくまでそれは視覚的な話だ。
俺の感覚は鋭敏にそれを捉えていた。
『消えろ』
遠くて見えづらいが、姉さんの前に出されていた白黒の炎が消えたことは分かった。
「やったわ!成功よ!すごいわ、ユウ君!!」
姉さんもとても喜んでくれているようだ。
この力の遠距離での使い方、プロセスは完全に理解した。
俺の視線、感情を読む力…
いや、いちいち長いから呼び名をつけよう。
『読む力』…でいいか。
読む力によって神通力を探知。
探知した力に消えろと念じればそれでOKだ。
非常にシンプルかつ使いやすい。
おそらく神通力を消す瞬間、つまりは神通力の無力化を使う瞬間だけ、リーディングが効力を失うだろうが、およそ弱点と言えるものでもないだろう。
今まで無意識にやっていた読む力を意識的に行うようにして、どんな不意打ちの攻撃も無効化して打ち消す。
そして無理矢理こっちの土俵に引きずり込んで近接戦闘に持っていく。
格闘家の選手や、メグのような人殺しのプロみたいなやつでも無ければ基本制圧できる自信がある。
そもそも相手は基本的に神通力に頼った者が殆どだろうし、能力を消した段階で俺が格段に有利を取れるだろう。
神通力の無力化の前任者がどうだったのかは知らないが。
ひとまず、これを俺の戦い方として極めていく。
神通力の無力化に関してはおそらくもう問題はない。
どちらかというとリーディングの感覚を鍛えることが、俺の戦闘の精度を上げていくと確信した。
「姉さん、またお願いしたいことがあるんだけど良いかな?」
近くに寄ってきていた姉さんに声をかける。
「もちろんよ!とはいえこれ以上距離は開けられないから、もっと遠くというなら外にでも行かないとだけど…。」
「いや、距離に関しては大丈夫だよ。多分ある程度はいけると思う。それより姉さんの炎は複数出せたりするかな?」
「…なるほど。複数同時での遠距離の修行ということね。分かったわ!」
「さっすが姉さん。よろしく頼むよ。」
皆まで言わずとも姉さんは俺が言いたいことを理解してくれた。
姉さんは俺から少し離れた位置で向かって右、左、そして上に3つの炎を発生させた。
「さぁ、どうぞ。ユウ君。」
「うん、姉さん。」
3つの炎を視界に入れる。
そして念じた。
『消えろ』
同時に左右2つの炎がかき消える。
だが、上の炎は一瞬揺らめいた後に再び安定を取り戻してそこにあり続けた。
「あら?惜しいわね、ユウ君。」
「うん、やり方は間違ってないと思うんだけど、どうしてだろう。」
俺の出力…つまりは威力的な問題か、他の要因なのか。
少なくても距離に関しては問題ないはずだ。
3つの炎の内、2つは消せた。
残り1つも揺らぎはしたのだ。
しかし、消すまでには至らなかった。
やはり最も可能性が高そうなのは出力不足か?
それとも神通力の無力化の発生位置がズレた可能性も考えられるか?
先ほどの壁の端から端での位置で試した時は視覚的には曖昧であったが、姉さんの炎の感覚はしっかり感知できていた。
先ほどはどうだろうか?
よくよく考えてみると、先ほどより感覚は曖昧だったような気はする。
複数だからだろうか?
先ほどまでとの環境の違いは…
最初に成功させた時は遠距離とはとても言えない距離であったが、それでもかなりの集中を要していた。
2度目、3度目は成功後というのもあるだろうが視覚的にも曖昧だったのにも関わらずリーディングでハッキリと炎(の神通力)を認識し、1度で消すことに成功した。
そして次はしっかり場所も視認できる程の距離で1つ消し損ねた。
…まだ情報が足りない。
試行回数を増やす必要があるだろう。
「姉さん。数は3つのままで良いから、少し距離を離すようにしてみてくれる?それぞれ1mとか、それより少し多めに離してみてほしいんだけど。」
「分かったわ。任せて、ユウ君。」
姉さんは二つ返事で了承してくれ、俺の希望通りにそれぞれ距離を持った状態で炎を出してくれた。
位置取りに関しては先ほどと同様、上と左右だ。
しっかりと視界にも入っている。
俺のリーディングも、前方から発せられる神通力を認識できている。
『消えろ』
今度はできると思って神通力の無力化を発動させる。
結果は…
「…失敗、みたいね。」
姉さんの言う通り、それぞれの炎を揺らすことに留まり、1つも消えることはなかった。
「なんでだろう?さっきはかなり離れてても消せたのに、やっぱり複数っていうのが難しいのかな。でもさっきは2個消せたし…」
強いて言えば先ほど消せた2個に関しては高さに関してはほぼ同等だった。
距離も近かったし、どちらかを消した時の力が余って隣の炎もたまたま消せた、ということも考えられる。
…いや、むしろ可能性としては高いな。
今、距離を開けた途端1つも消せなかった。
しかし、揺らぎ自体は発生した。
影響自体はあったのだ。
出力の原因もまだ否定できないが、
『おそらくは座標…神通力の無力化の発生地点のズレか。』
物は試しだ。
「姉さん。何度もお願いして申し訳ないんだけど、今度は2個で良い。俺の正面、それと背中側に1つずつ。出してもらっても良いかな?」
「えっ?それはもちろん良いけれど…、背中ってことはユウ君からは見えなくて良いってことよね?見えても成功していないのに、大丈夫かしら?」
「うん、色々と試したいんだ。協力してほしい。」
「分かったわ。それがユウ君の望みなら。」
姉さんの疑問は至極当然と言えるだろうが、俺を拒否することはしない。
姉さんが力を込めると同時に俺の前後に炎が発生させる。
当然、目の前の炎はハッキリ視認できるが、背後の炎に関しては全く見えない。
しかし、俺の読む力は完全にそれを捉えている。
『消えろ』
「えっ!?」
その驚きの声を発したのは姉さん。
正面の炎は先ほどと同様、揺らいだだけで消すには至らない。
そして俺は振り返る。
そこにあったはずの炎はどこにも見当たらなかった。
「すごい、ユウ君!…でもなんで見えない側だけ?正面のほうは消せていないのに…」
姉さんは不思議そうだ。
それはそうだろう。
目の前にある炎すら消せていないのに、見えてもいない、事前にも見てすらいない炎を消して見せたのだ。
そして俺は確信する。
まだ読む力を無意識的に使ってしまっていたんだ。しっかり意識的に力を行使すれば、寸分違わぬ位置に神通力の無力化を発動させて、それぞれの炎を完全に打ち消せたはず。先ほどまでは視認も出来ていたのに消せなかった、というわけではない。視認ができて、視覚に頼ってしまったから失敗したのだ。
神通力の正体は、その炎ではない。
炎を発生させる、見えない力だ。
それを俺は、視覚で捉えた位置で消そうとしているからズレができていた。
最初は読む力を意識的に行い、高い集中の上消すことができた。
2度目、3度目は視覚で捉えるのが難しいために、無意識的に読む力を行使し、位置を正確に把握していた。
複数になってからは炎が目の前にあったから、読む力を意識的に行わずに視覚で補おうとしたために失敗した。
おれはそう結論付けた。
そして、それを確かめる方法もある。
「姉さん、どこでもいいから俺の周りに炎を…そうだね、3個出してもらえるかな?前でも後ろでも上でも、どこでもいいよ。ただ、それを俺に言わないで。」
「え?…ええ。了解よ。」
姉さんは俺が何かを掴んだことを察したのか、即座に了承して炎を発生させた。
「あれ?ユウ君、どうしたの?」
姉さんは俺に不思議そうに声をかけてくる。
俺が両目を閉じているからだろう。
視覚は闇。
しかし、俺の読む力は完全に3つの炎を認識している。
左後ろ上方、頭上、そして右前下方。
『消えろ』
その後、
目を開いた先にいた姉さんの、
目を真ん丸に見開いて口をポカンと開けた顔は可愛すぎて一生忘れることはないだろう。
★朗報★
深き夜 カンスト達成!!




