雌伏と至福
おはようございます。
以前から前書き後書きの方で話しておりましたが、
今回の130話でいわゆる『第一部』が終わりとなります。
完結扱いにして第二部を別途とも考えましたが、悩んだ結果、僕はこの初めて書いた作品をできるだけ納得できるものにしたいので、休止という扱いで少し執筆のお時間を頂きたいと思っております。
活動報告の方でもう少し細かく書いておきます。
感想、評価等大変励みになります。
よろしくお願いします。
一先ず、
ここまでお読みいただきありがとうございました。
3人での話し合いも、あまり集中して聞いていなかった。
話が右耳から左耳へ流れていくだけで、ほとんど入ってこない。
今日はもう休め、とアカネに言われた。
アカネの方がよっぽど大変だったはずなのに、本当に情けなさすぎて泣きそうになる。
あの時、アカネをなんとか受け止めた。
状況を把握するために相手を見て、ようやく気づいた。
アカネを殺そうとしていたのが、ユウ君であったことに。
全力で走っていたから上をじっくり見ている余裕はもちろん、相手が誰かなんて考える余裕など欠片もなかった。
そして、いつの間にかユウ君の後ろにいた子も見たことがあった。
ユウ君が好意を寄せている女の子。
ユリヤ様が変身してみせた姿。
アカネは、その少女こそが狩人の宿敵…闇女であると私に告げた。
『2人とも同じくらい大切で、好きなんだ』
ユウ君はあの日、ユキという女性と私についてそう話した。
ユウ君の好きな子が、闇女…?
小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた、
私と同じくらいに?
アカネはユウ君が、ずっと前から闇女に操られていたらしいと言った。
でも、そんなことは絶対にない。
ユウ君はあの時、私に嘘をついていなかった。
馬鹿にしないでほしい。
私には分かる。
ユウ君は本気であの子を…闇女に好意を寄せているんだ。
一番最後に家で話した時は確かに違和感があった。
アカネや杏は知っていたらしいが、ユリヤ様によって記憶を喪失させられていたとかなんとか。
確信を持つことはできなかったが、何か言葉では言い表せない…よそよそしさのような物は確かに感じていた。
おそらく、それは本当の話なのだろう。
しかし、私にアカネを投げつけた時。
最後に私がユウ君を呼び止めようとした時。
それぞれの反応は、紛れもなくユウ君のものだったと思う。
『神楽を頼む』
『ごめん』
今のユウ君…アカネ曰く、『ユウキ』の中に元のユウ君は確実に存在している。
どうすればいい?
どうすればユウ君を元に戻せる?
時間が経って記憶を全部思い出したら…?
でも、記憶を失う前からユウ君は闇女を好いていたはず。
思い出したところで、
闇女を捨てて私たちのところに戻って来てくれる
なんていうのは都合の良すぎる考えだ。
いっそのこと、また全てを忘れてしまえば…
傲慢な考えを振り払う。
ユウ君の記憶をなんだと思っているのか。
ユウ君は決して私の所有物ではない。
それに、記憶を失くした結果が『今』ではないか。
おそらく、記憶を失って最初に話したのが闇女だったのだろう。
それが自分だったら、逆の未来が…
今度は無い物ねだり…?
いい加減にしなさい!神楽!!
どうしたらいいか分からず、変なことばかり考えてしまう。
第一、ユウ君をどうにかしようにも居場所が分からない。
闇女は神出鬼没で見つけることも追うこともできない。
下手したら…もう、一生会えない……
視界が歪む。
泣くなと奮い立たせようとも、心が全く言うことを聞いてくれない。
会いたい。
ユウ君に会いたい。
もう一度会って、本当の『ユウ君』の想いを…
…助けて!
…助けてよ!お姉ちゃん!!
『お手伝いをして差し上げましょう』
変なことを考えすぎて、
変な声が聞こえてきた気がした。
『変な声とは失礼な。幼い頃にも綺麗な声だと褒められたこともあるのですよ?私の数少ない取り柄だと思っています。』
「…えっ!?その声はまさか、ユリヤ様っ!?」
『しっ!声が大きいです。』
突然脳内に聞こえてくるユリヤの声に動揺を抑えることができない。
「ユリヤ様、ご無事だったのですか?身体を乗っ取られてしまったはずですが…」
『私は無事…とも違いますが、ひとまず大丈夫です。それより、考えるだけで意志疎通が可能なので言葉を口に出すのはお止めなさい。万が一にも私の存在を悟られるわけにはいきません。』
考えるだけって…どういうこと?
『そういうことです。』
ああ、なるほど…。
『私はユウ君の、『ユウキ』の力についてずっと考えていました。魂の操作という人知を超えた神業。その一端でも理解することができれば、彼に対する抵抗も少しは可能になるはず。その成果が、今のこの状態です。』
…?
この状態と言いますと?
『今の私は身体を持ちません。魂だけの存在となっています。あのまま身体に残ったままだとシロとクロに私の存在を塗りつぶされていたので、一か八か…自らに研究途中の秘術を試みました。うまくいって良かったです。』
魂だけの存在…?
それは、大丈夫なのですか?
私には理解が追い付かないのですが…。
『身体があれば大丈夫です。』
身体…?
『あなたですよ。神楽さん。』
えっ!?私、ですか!?
『最初はシロとクロが捨て置いた女性の身体を借りようとも思ったのですが、おそらくそんな安易な考えはユウキにすぐ見透かされると考えたのです。それに彼女たちには神通力の素養もない様子。身体を借りたところで、私の神通力が少しでも漏れ出せばユウキには一瞬で看破されてしまいます。だからこその、あなたです。』
………。
『本当にギリギリでした。身体から抜け出た後はあなたの気配を辿ってあの道を必死に進んでいたのです。意識が朦朧となって気を失う…いえ、消滅する寸前にあなたの中に入ることができました。』
…まだよく分かっていないのですが、
つまりはユリヤ様は今、私の身体の中に…同居?しているような形になるのでしょうか?
『その解釈で問題ありません。無論、相応の家賃をお支払しますよ。』
家賃…?
『ユウキと対峙し、ユウ君を取り戻すための力。』
!?
『狩人が2つ以上の神通力を持たない…いえ、持てないのは複数の魂が混在することにより発生する自我の奪い合いや、それによる自我の消失、暴走のリスクが拭えないため。その点、今の私たちの状況はそのリスクとは無縁にお互いの力を行使することができます。』
それはつまり、私にユリヤ様の御力を貸していただける…ということでしょうか?
『そういうことです。あの最終局面、ユウ君がユウキを抑えて出てきたのを見るに、やはり神楽さん…あなたがユウ君を解放するためのキーになり得ると判断しました。私と神楽さんが力を合わせればきっと、ユウ君を取り戻すことができるはずです。』
取り戻せる?
ユウ君を…?
『しかし、今回非常に痛手を負った向こうとしてはしばらく身を隠すことになるでしょう。ユウキが【神通力の無力化】の力を制御してしまっているのもそうですが、闇女に逃げに徹されると私にも追跡が困難です。』
では、どうすれば…!?
『落ち着きなさい。そもそも向こうが弱っているからといって、今の私たちで行っても彼らには勝てません。アカネさんを連れていけば『殺す』ことはできても、ユウ君を救うことができるかはかなり危ない橋になるでしょう。万全の状態を整えなくては。まずはお互いに馴染むことから始めましょう。要は特訓ですね。』
私と、ユリヤ様の息を合わせる特訓ということですか?
『そういうことです。神楽さんの身体がどこまで私の力に着いてこられるか。その上限は神楽さんの才能と、これからの努力にかかっています。』
私がユリヤ様の力を余すことなく使いこなせれば…
アカネの隣で戦うことができる!!
『そういうことです。…分かっているとは思いますが、並大抵の努力ではダメです。ハッキリ言いますが、素の身体能力以外に神楽さんが私を超えているものは今のところありません。血の滲む努力でも足りない。滲んできた血を啜って喉を潤すくらいの気持ちで頑張っていただかなければ。私もスパルタでやらせてもらいますので。』
…よ、よろしくお願いします……。
『ふふっ。そんなに怖がらないでください。良いですか?よくも悪くも時間はあります。彼らが再び力を取り戻す期間…数ヶ月か、半年か、はたまた数年後か。いつ仕掛けてきても良いように、日々の鍛練を怠らないようにしましょう。そして何より重要なのは、神楽さんの中に私がいるとバレないようにしなくてはなりません。』
それは何故ですか?
それではせっかく特訓をしても、その力を振るえないのでは?
『ユウキを出し抜くためです。彼には中途半端な隠蔽など一切通用しません。神楽さんの中にお邪魔したのは神楽さんの神通力に紛れるという狙いもありましたから。ユウキは能力はもちろん、非常に頭が回るため一回限り…それも初回での不意打ちで一気に打倒するのが最善策です。なので、普段の私は少し力を貸す程度に留めます。緊急時かつ、ユウキの手の者がいない場合に限って全力を出すということにしましょう。』
ユウ君を助けるためというのなら、私に異存はありません!
『良い子ですね。あなたのお姉さんも、神楽は素直でかわいいと褒めていましたよ。これからしばらく、よろしくお願いしますね。神楽さん。』
…ひとつだけ聞いてもよろしいですか?
『ひとつだけで良いんですか?』
…はい。
なぜ、ユリヤ様はユウ君の記憶を消したのですか?
話し合いでは、どうにもならなかったのでしょうか?
『…それは、ユウ君を巡る複雑な因果によるものです。これから共に過ごす時間、少しずつお話するとしましょう。無論、そのことは誰にも言ってはいけません。アカネさんにも。』
もちろんです。
ありがとうございます。
『それからもう一つ。やる気が上がりそうなことを教えておきましょう。これからの厳しい特訓でも、決して挫折することがないように。』
ユウ君を救うためなら、私は挫折なんて…!!
『分かっていますよ。でも、プラスの材料なら有って損は無いでしょう?』
まぁ、それはそうですね。
『コホン、では……』
『神楽耶さんは死んでなどいません。まだ手が届かない所にいますが、ちゃんと生きていますよ。』
Xやってます。
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