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変化する機体


 ぐっすり眠れたのか、いつもよりもスッキリした目覚めだった。

 程よい硬さのベッドから下りて上品な作りの出窓を開けば、心地良い春風が部屋に流れ込み、朝の日差しと共に身体を包んだ。

 広い部屋に最初は戸惑ったけれど、一晩も経てば慣れてしまった。

 リノベーションにより付けてもらった風呂場で昨日入り損ねたシャワーを浴び、そこを出てすぐの脱衣所兼洗面所で用意しておいた軍服に着替えた。


「おはようございます。姫様、朝食をお持しました」


 髪を乾かしている最中、ノックと共に入ってきたメイド姿の小母ちゃん達は何処か誇らしげに朝食をテーブルに並べていく。

 女中としての教育を受けたのか、一年前まで煤けた衣服で荒んだ工場にいたとは思えないほど所作が整っていた。


「姫だなんて大袈裟だよ…」


「いいえ!姫様はクロスオルベ侯爵様なんですから!」

「そうですとも!それに王族であらせられるヴォクシス様の養女でもあるのですから!」


 これまで通りの気さくな態度で構わないのに、彼女等は丁寧な言葉遣いで鼻息荒く言い返してきた。

 城内の秘された古代遺跡から戻るや、途端に島民達はカルディナのことを令嬢扱いするようになった。

 昨晩はその所為で気疲れして、夕飯の途中で寝落ちた次第である。


(…稼働試験が午後からの再開で良かった。寝坊だったわ)


 昨晩の内にヴォクシスが置いて行ってくれた予定表に目を通しつつ、壁掛けの時計を確認。

 時刻は八時。普段だったら遅刻の時間である。


「…あれ?何で二人分?」


 席に着こうとした矢先、テーブルに並ぶ二人分の朝食に首を傾げる。

 すると、見計らったようにノックの音が響き、小母ちゃん達は笑み混じりにドアを開いた。


「閣下、お待ちしておりました」


 そんな声を添えて、訊ねてきた人物を招き入れる。

 その姿を見て、カルディナは目を丸くした。


「おはよう、カルディナ。昨晩は良く寝られたかな?」


 気さくに声を掛けるヴォクシスは珍しく私服である。

 見たことがない訳ではなかったが、見慣れない姿に戸惑った。

 正直言うと、お洒落で格好良い。


「嗚呼、今日はちょっと休みを貰ってね。朝食、一緒に良いかな?」


 そう訊ねる彼だがテーブルに準備されている手前、断る選択肢は無かった。




 他愛も無い話をしながらの朝食を済ませ、昨日までの実験調査の結果を確認しに地下研究室に行くと、何やらざわめきが起きていた。


「シャンティス大佐…!丁度良い所に…!」


 戸惑う士官達は助けを求めるように、駆け寄ってきた。

 その理由を理解するのは容易だった。

 研究室中央に鎮座するデュアリオンの姿形が帝国に壊された戦闘用ボディそっくりに変わっていた。

 デュアリオンから取り外された思念の揺籠も大きく形を変え、それまでの棺のような形はなく、コックピットらしい卵型の椅子となっていた。

 しかも、乗り降りし易い可動式である。

 外から見ると出入り口の装甲が旋毛状になっており、必要に応じて腹からも背からも出られるように変化していた。


「ヴィクター・クロスオルベ侯爵、恐るべし…」


 そんな呟きを添えて、先祖の技術力に舌を巻いた。

 皆で手分けしてその場にある研究資料を読み漁って調べた結果、思念の揺籠を搭載した完成形のデュアリオンは魂授結晶(セルシオン)と乗り手の記憶をインプットし、乗り手ごとに最も操縦するに適した形に変化するよう設計させていることが分かった。

 これぞ、オーバーテクノロジーの最たるものである。


「シャンティス特務大佐、如何ですか?」


「むっちゃ乗り降りし易くなってます。乗り心地が最早、戦闘機です…!」


 休憩時間が迫り、機械竜から降りつつ士官の質問にカルディナは興奮気味に答えた。

 搭乗中の全身が包まれる感覚は変わらないが、セルシオンが制御してくれているお陰で昨日はデュアリオンに持っていかれていた人体の感覚がはっきり残っている。

 椅子型になったお陰もあって安定感があり、酔わなくなった。


「明日からは迎撃防衛システムの稼働試験を兼ねて島を一周したいです。島民への説明と領海での実弾演習の許可申請って出来てます?」


 セルシオンを機体から外しつつ士官等とそんな業務連絡をこなしていた時だった。


「やっと俺達の出番ですね〜!」


 飄々と楽しげに告げたのはエクスレイ少佐である。

 この度の稼働試験に伴い、彼率いる第一攻撃隊には同行を願っていた。


「陸軍上層と海軍側にはとっくに話し通してあるよ?今日中に連絡入れれば大丈夫。随行機は三機で十分かな?」


「そうですね、三機体制なら…」


「四機にしてくれる?」


 その声に二人で振り返り、反射的に敬礼した。

 朝の私服の上に軍服の上着だけを羽織ったヴォクシスだった。

 察するに様子を見に来たらしい。


「ちょっとキナ臭い連絡が入ってね。随行機はダイア陣形でカルディナ達の護りを固める方式で頼みたい」


「キナ臭い連絡って何です?」


 即座にカルディナは訊ねた。

 短くはない付き合いを通して、彼は良くない連絡は遠回しに言う癖があると知っている。

 案の定、ヴォクシスは酷く困ったように項を掻いて眉をハの字にした。


「実は、北のアヴァルトが帝国にちょっかいを出したらしいんだ。大きな喧嘩になりそうでね…。王国(こっち)にも影響がありそうなんだ」


「あの、ちょっかいとは?」


 不穏な話にエクスレイ少佐も訊ねた。

 状況によってはスクランブルもありうる為、第一攻撃隊の長として把握しなければと食い付いた。


「アヴァルトが旧アウディシア領土を奪い取ろうと侵攻したらしい。キャスティナ殿下の亡命を知ったのと、第三皇妃だったティスラ王女が帰還したのも理由みたい」


 決して穏やかではない連絡に、カルディナは緊張を滲ませた。

 カローラス王国から見て北に位置するアヴァルト王国は、カローラスよりも長い歴史を持つ強国であり、旧アウディシア公国はその国より派生した兄弟国であった。

 歴史がある分、カローラス以上に帝国との因縁が深く、特に現国王の愛娘ティスラ王女が、かつて結ばれた和平合意の証として皇帝に娶られていたこともあり、その遺恨は根強いと言われている。


「このタイミングですかぁ…。アヴァルトとは軍事協定を結んじゃってるし、奪還作戦での快進撃はアヴァルト王の耳にも入っているだろうから…、うわぁ、完全にセルちゃん目当てじゃないっすか…」


 見え透いた魂胆にエクスレイ少佐は両手で顔を覆いながら天を仰いだ。

 大方、カローラス軍の――、強いては機械竜を後ろ盾に強硬姿勢を取ったのだろう。

 破壊されたとは言え、セルシオンの戦闘用ボディは設計書が残っている為、素材さえあれば三ヶ月で造ることが可能であり、現状として既に予備機として部品の発注を開始している。

 戦況悪化を口実にされれば、協定により否応無しに出撃させられる羽目になる。


「まさか、デュアリオンの情報を嗅ぎ付けている訳では…」


 問い掛けつつ、カルディナは不安の色を見せた。

 その視線にヴォクシスは深い溜め息を吐いて、無きにしも非ずだと零した。

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