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邪竜の心臓


 連れて来られた廃墟は夕焼けに照らされ、不気味さを助長した。

 小型竜のセルシオンを胸に抱え、両脇を士官に固められつつ潜った玄関扉の向こうには先祖の肖像画が飾られていた。


(これがご先祖様…)


 そう思って間もなく背を押され、連れ去られるように奥へと誘われる。

 半ば罪人のような扱いに、捕虜になった気分だった。


「やはりここだな…」


 宿舎を漁られて持って来られた父の遺書を頼りに、大佐の先導で連れて来られたのは礼拝堂のような場所だった。

 壁には星乙女伝説の場面が描かれており、不思議と仕掛けがあることが分かった。


「元帥、お願いします」


 大佐の声掛けに、元帥は予め渡されていた古びた楽譜を手に設置されたオルガンに向き合い、淡々と旋律を奏でる。

 その音色にカルディナは島に伝わる祝いの歌の方だと気付き、上手くタイミングを合わせて歌い出した。

 瞬間、胸元に下げていた星の欠片が光り出し、射抜くように青みを帯びた閃光が壁画の掠れた部分―――彗星ファルファランを指し示す。

 間もなく、カタカタと音を立てながら壁面に幾何学的な亀裂が入り、サイコロ状に形を崩した壁画の奥に空間が現れた。

 光が収まると同時にカルディナは恐る恐る奥へと歩みを進める。

 そこにあったのはクロスオルベの家紋を施した棺のような容れ物だった。

 皆が見守る中、観音開きの戸を開け、容れ物の各所を確認する。

 基盤のような複雑な幾何学模様を施されたその中は、何とも気味の悪い独特の柔らかな素材に覆われ、まるで人間を納めるように中央だけが縦長に凹んでいた。


「……、…これがデュアリオンです」


 端的にカルディナは告げ、胸元で揺れる星の欠片をそっと服の中に隠しながら、その場から逃げるように踵を返す。

 胸に抱えるセルシオンを強く抱き締め、己の役目はここまでだと示すように、上官等に頭を下げて立ち去ろうとした時だった。

 擦れ違い様に大佐に腕を掴まれ、静止させられた。


「…やはり全てを知っているようだね」


 そんな一言に心臓が跳ねた。

 視線を上げ、冷たく見下ろす瞳に全身が鳥肌を立てて警告した。


「君は隠し事が下手だね。我々が捜索物の形状を把握していない訳がないだろう?」


 溜息混じりに呟いた彼は、隠し持っていた古汚い書物を掲げて見せる。

 それは島の城跡の秘密の地下室に隠してきた筈の禁断の研究書だった。

 その内容は代々言い伝えられてきた島の伝承の真なる意味を解き明かすものであり、島の人間として忌み嫌い、研究室ごと封じてきた筈だった。


「先日、島に残してきた部下が見つけ出してくれた。ご丁寧に入り口を溶接して隠してくれたものだから開けるのに手間取ったそうだ。本当に君は用心深いね…。この研究書には魂授結晶を竜に似た本体に融合させ、その容れ物に万物の語り部(シエンティア)…君が入ることで究極兵器デュアリオンが完成すると記されている」


 告げられていく言葉に、ジワジワと冷や汗が滲み出た。

 腕を振り払おうにも機械の腕で強く掴まれ、逃げ場を失った。


「セルシオンの戦闘用ボディの開発時、枢機の息吹(グランブレス)の発案には違和感があった。君のような優しい子が思い付ける機能ではなかったからね…。デュアリオンの存在を聞いて、やっと納得したよ」


 何処か悲しげに告げる大佐に、カルディナは嘲笑った。


「隠しても無駄ってことですね…。その研究書をお持ちだということは、もう大佐も知っているのでしょう?この装置は究極兵器デュアリオンの心臓だと…。島の城跡に眠っている本体も、もう見つけているのでしょ?」


 腕の中からセルシオンを放り出し、自らが傷付くことも厭わず力任せにその腕を引き離す。

 義手の指先に引っ掛け、じわりと血の滲む腕を押さえながら、カルディナはその瞳に敵意を剥き出した。


「…すまない。皇帝の狙いであると分かった以上、唯、眠らせておく訳にはいかなくなった。君の意に反することは重々承知している」


 研究書を手近な士官に手渡し、大佐は告げながら足元でオロオロと彼女との間を彷徨うセルシオンを抱き上げる。

 その言葉にカルディナの中で固く締めていた何かが千切れた。

 怒りを露わに大佐に飛びかかった彼女は、彼の腰元からピストルを奪い取り、その銃口をその場の全員へと差し向けた。


「カルディナ、落ち着くんだ…」


 誰もが騒然とする中、冷静に大佐は諭し、ピストルを取り返そうと歩み寄る。


「来ないで!」


 その叫びと共に、今度は己へと銃口を向けた。


「邪竜は…っ…デュアリオンは起動させない…!あんなものが目覚めたら世界が壊れてしまう…!魂授結晶セルシオンを…私達をこれ以上戦いの道具にはさせない!」


 涙ながらに叫び、士官等の静止の声が轟く中、覚悟の上でその引き金を引いた。

 けれど、弾は放たれなかった。

 何度やってもカチンカチンと虚しい音だけが響いた。


「無駄だ。弾は全て抜いてある」


 ポケットから抜き取った弾を見せ、大佐は返しなさいと手を差し伸べる。

 全てを見透かされ、カルディナは絶望のあまりその場に崩れるように座り込んだ。

 項垂れ、狂ったように嗤いながら静かに涙を零した。


「全て話しなさい。君に出来るのはそれだけだ…」


 膝を折ってそう諭し、大佐はピストルをその手からそっと抜き取った。

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