表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/244

病室にて


 話し声が聞こえて瞼を開けた。

 視界に映った無機質な天井と、囲うカーテンのパーテーションに病院だと分かった。


「カルディナ、気分はどうだ?」


 その声に頭を傾け、見えた養父の穏やかな顔に思わず微笑んだ。

 握られていた手を握り返し、大丈夫だと伝えるようにそっと頷く。

 その拍子に彼が車椅子に座っていることに気付き、視線を移して膝掛けの下にある筈の脚が無いことに驚いた。


「…大佐…っ…その脚…!」


 問いながら体を起こし、ズキンと傷んだ身体に己の身を振り返った。

 ガラスが割られた時に破片を浴びたらしく身体中傷だらけだった。


「君を盗られまいと焦るあまり、僕も無茶をしてしまった…。またアウラ先生に叱られるな…」


 溜息混じりに告げながら大佐はカルディナの頭を撫で、自身の僅かに残る脚を擦った。


「義足はイカれてしまったが、かなり大きな収穫になったよ」


「収穫?」


「セリカ皇女を捕縛した。既に神聖国側には根回しをして秘密裏に王都に移送している」


 その知らせに目を剝いた。

 何と迅速かつ強行的な行動だろう―――。


「一先ずスペンヒルで少将の葬儀に参列後、近衛隊と護衛を交代することになった。それまで頑張れるかい?」


「頑張るも何も…、私は兎も角、大佐も出るんですか?」


 正直な問いが口を吐いた。

 機械義肢が壊れてしまっては立つこともままならない筈である。


「こんな事もあろうかと戦闘用の脚を持って来てある。ホテルに戻ったら付け替えるさ…」


 それを聞いて安堵した。

 が、間もなく一つの事実に気付いた。


「え、てことは非戦闘用でテラスから飛び降りたんですか?」


「あー、焦っていて…つい…」


 言葉を濁して苦笑する彼に、カルディナは思わず両手で顔を覆って天井を仰いだ。


「何やってんすか!!危ないっしょ!?」


 病院と分かりつつも声を荒らげた。

 非戦闘用――つまりは通常の機械義肢は、人工外皮を纏わせる関係から衣服を着用した状態が綺麗に見えるようにと比較的華奢に作られていることが多い。

 その為、生身の足で飛び降りるのと同等のリスクがある。


「まあカルディナが無事だった訳だし…」


「私より自分の心配をしてください!大佐に死なれたら私もヤバいんですよ!?」


「あ、確かに…。そうか…僕の身に何かあったらカルディナの面倒を見る人間が…」


「今更っ!てか、そうじゃなくて!」


 態となのか何なのか、いまいち自身の立場に自覚のない大佐に苛立ちが募る。


「あら、騒がしいと思ったらカルディナだったのね」


 そんな声にハッと我に返った。

 視線を向ければ、呆れ顔のシルビアと静かな怒りを湛える看護師が佇んでいた。


「す、すみません…」


 肩を竦め、取り敢えず謝った。


「まあ、騒げる程に元気なら別に良いわ…。しかし驚いたわ。昨日の昼間にセリカと会っていたなんて…。どうして報告しなかったの?」


 歩み寄りつつ彼女は訊ね、その脇で看護師はいそいそと繋がれていた点滴を外し始めた。


「その…」


 思わず俯いて言葉を躊躇った。

 神殿での皇女との遭遇は、大佐と口裏を合わせて本国に戻ってから話すつもりでいた。

 スケジュールが込み入っていたこともあり、何より大佐自身の出自に触れる故、大事にしたくなかった。


「…ヴォクシスを気遣ってかしら?」


 不意の一言に弾かれるように顔を上げた。

 その反応にシルビアは深く溜息を零した。


「そんなことだろうと思ったわ…。私は()()の伯母で、親戚としてセリカと交流のあった人間よ?」


 そう告げつつ、息を潜めるように沈黙していた大佐の頭を乱暴に叩く。

 中々の強さだったらしく、大佐は痛っ!と声を漏らした。


「ヴォクシス、貴方も私が知らないと思って?」


 ギロリと睨む彼女に、叩かれた頭を擦りつつ大佐は柄にもなく縮こまる。

 悪魔だ鬼だと恐れられる大佐が、今はまるで悪戯がバレて母親に叱られる少年のようである。

 その様にカルディナはこのお方は王国においては無敵らしいと悟った。


「…こんなことになるなら、私もちゃんと決着をつけるべきだったわ」


 額に手を当て零した彼女の一言に、大佐は気不味そうに俯き、カルディナはキョトンと首を傾げる。


「カルディナ、王都に戻ったら私の知る限りの全てを話すわ…。かなり重い話になるから、覚悟をしておいて頂戴」


 そう告げたシルビアは何処か腹を括ったような様子でスタスタと病室を後にした。


(そんな話なら聞きたくないのだが…)


 そう思うも大きな運命の歯車は、己を巻き込んで動き出しているのだと自覚する他なかった。

 知らず知らずとは言え、隠しておくべき先祖の創り出した傑作を利用し、戦争を停戦に導いた人間として―――、この時代の表舞台に飛び出してしまったことを嘆くしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ