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会心の一撃


 奪還作戦の難関ベインベイには、既に敵方艦隊が押し寄せていた。

 風情ある港町は瓦礫の山と化し、その戦闘の凄まじさを物語った。


『畜生!海軍は何をしている!?』


『もう無理です!中尉!一旦引きましょう!!』


『駄目だ!ここで俺達が後退したら地上部隊がやられる!!』


『しかし!』


 敵方を翻弄するべく上空を飛び回る第一攻撃隊は、砲撃の嵐の中で悲鳴を上げる。

 機械竜不在の戦いは苛烈を極めた。

 一瞬でも戦闘機の操作を誤れば命はない。

 皆、逃げ回るのが精一杯だった。


(くそっ…!燃料の残量も厳しいってのに…!)


 隊長のエクスレイ中尉は機器と周囲を見合いながら反撃の機会を窺う。

 有り余る武器と物資は帝国の強みで、敵方艦隊は湯水の如く弾丸やら砲弾を放つ。

 消耗戦に持ち込まれ始め、戦況は不利に陥っていた。


『こちら第三攻撃隊モーヴ中尉より、エクスレイ中尉へ!セドリック!もう良いから下がれ!君達がやられたら!』


『ふざけんな!オメェら地上部隊を見殺しになんか出来るか!!』


 耳に轟く地上部隊からの連絡に、エクスレイ中尉は怒号を上げる。

 その時だった。

 真横で爆ぜた誘導弾が自機の翼を掠める。

 ―――しまった!

 しくじったと思った瞬間、機器が警報を鳴らし操縦桿が制御を失った。


『『『中尉!!』』』


 部下達の悲鳴が聞こえる。

 ここまでか―――。

 黒煙に包まれる片翼に覚悟を決めた。

 せめて敵艦隊の一隻くらいは道連れにと、海に向けて狙いを定めんとした瞬間だった。

 不意に大きな影が太陽を遮り、ずしりと機体が揺れる。

 そのまま不自然に景色が陸地へと向き、海面を滑るように地上の仲間が待機する港の脇へと放り込まれた。

 ―――まさか!

 沈み行くコックピットから這い出し、上空を見上げた。


『皆、お待たせしました!』


 耳元に響いた声に全身が震える。

 戦場でこれほど胸が熱くなったのは、いつぶりだろうか。

 その目に映ったのは、頼もしい白銀の守護者の姿だった。


「セル、短期決戦で行くよ!」


 操縦桿を握り直し、カルディナは海に押し寄せる戦艦に狙いを定める。

 主人の指示にセルシオンは雄叫びを上げ、大砲を向ける戦艦へと果敢に突撃。

 翼を翻して砲弾の嵐を掻い潜り、炎の息吹で甲板を炙る。

 あまりに機敏な動きに敵艦隊は味方に当てまいと攻撃を躊躇い、その隙にセルシオンは船体の脇腹に次から次へと豪快な蹴りを食らわす。

 強烈な体当たりに敵艦体は大きく揺さぶられ、追い打ちとばかりに蹴られた箇所から海水が船内に押し寄せた。

 こちらの猛反撃に進攻から迎撃に転じ始めた敵方の動きに、カルディナは勝機を見出した。


『こちらシャンティスより本部へ!枢機の息吹(グランブレス)の使用許可を申請!』


 尚も反撃を加えながら通達。

 それを聞いた作戦本部はざわめいた。


『こちらハインブリッツ。十五分以内に全軍を南西拠点まで後退させる。それまで時間を稼げるか?』


 間もなく対応した大佐の冷静な声に、カルディナは思わず笑みを零した。


『やってみせます!』


 任せろとばかりの返答を返し、奥の手を繰り出すべく気合を入れた。


『作戦本部より全軍に通達。十分以内に南西拠点まで後退せよ。繰り返す。十分以内に南西拠点まで後退せよ』


 直ちに駆け巡った通告に、王国軍誰もが勝利への王手を掛ける会心の一撃を確信した。


「モタモタするな!!急げぇ!」


 特務機動連隊の地上部隊を取り纏めていたランドル大尉他、戦地に散在していた士官達が撤退する数多の同胞を急かす。

 追撃する敵方を空から牽制する第一攻撃隊は、その時が来るギリギリまで殿(しんがり)を務めた。


『こちらハインブリッツ。全部隊の撤退を確認した。カルディナ、奴等に思い知らせてやれ…!』


 その連絡を受けたのは、きっかり十五分後だった。


『感謝します!』


 敵方の砲撃を躱しながら言い放ち、時を待っていた相棒を天高く空へと誘う。

 そして、沈み行く夕日を背負うようにして、敵意を向ける敵艦隊を睨んだ。


「セルシオン、枢機の息吹(グランブレス)発動!!」


 主人の号令に、セルシオンが大きく息を吸い込むように口を開く。

 その喉元に稲妻が走った次の瞬間―――、爆風を伴う強烈な閃光が海を引き裂き、敵の主力艦隊を完膚無きまでに焼き払った。


「これが…、機械竜…!」

「なんて破壊力だ…」


 後退した拠点より海を見つめ、王国軍の誰もが息を呑んだ。

 神の怒りとでも言うべきだろうか―――、その力は圧倒的としか言いようがなく、味方ですら恐れを抱かずにはいられなかった。




 ベインベイから前線基地への帰還中、作戦の最終段階であったモティ村の敵方残存部隊が無条件降伏したという知らせが届いた。

 それは事実上の作戦成功を意味する知らせだったが、前線にその勝利に酔い痴れる者は居なかった。


「救護班急いで!」

「バイタルいくつ?!」

「ちょっと止血道具まだ!?」

「…死亡を確認。安置所にお願いします」

「おい!次のもう来てるぞ!」


 ごった返す基地内には三都市から運ばれた死傷者が溢れていた。

 手負いのカルディナもセルシオンに輸送用コンテナを乗せて怪我人の運搬を手伝ったが、その夥しい人数にこの作戦における犠牲を思い知った。

 たった三日の攻防で一年あまりを掛けて準備した武器の殆どを消費し、同時に出撃した下士官や末端の兵からの犠牲は想定を遥かに超える結果となった。

 付き合いの比較的長い小隊だった頃からの士官に命を落とした者がいなかったのは最早、奇跡としか言い様がなかった。


「カルディナ…!」


 何度目かの搬送を済ませた時、基地内で大佐に呼び止められた。

 気付けば空が白んでいて、太陽が昇り始めていた。


「もう休みなさい。身体が限界の筈だ」


「ですが、まだ搬送待ちの人が…」


「他の基地から輸送機を頼んだ。もう時期に来る」


「ですが…」


 頑なに作業を続けようとするカルディナに、大佐は痺れを切らせた。

 強引に手を引かれて格納庫にセルシオンを待機させた直後、彼女はその背におぶわれた。

 何処へ行くのかと訊ねるも大佐は答えてはくれなかった。

 次第にその背の温もりと、揺れの心地よさに負け、気付けば夢の中に落ちていた。

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