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帰路の悲劇


 地平線より昇った太陽が燦然と輝きを放ち、カルディナ達の凱旋を彩る。

 敵襲を警戒しつつも一日で二都市奪還という快挙に皆、興奮冷めやらぬ様子であった。


『…この調子なら来週までには帰れるんじゃないか?』


『だったら最高だな!』


『あー、早く帰ってビストロ・アディのローストビーフが食いたい!』


『俺も〜!』


 耳元のインカムを通して作戦本部も聞いているというのに、和気藹々と他愛も無い話に花が咲く。

 エクスレイ中尉率いる第二攻撃隊の連中は、気の良い輩ばかりである。


『アディの店と言えば、そろそろバーの方も行きたいな。また《ローレライ》の歌を聴きたいもんだ』


 そう零したエクスレイ中尉に士官達が一様に同感だと唸る。


『…ローレライ?』


 カルディナは思わず訊ねた。


『少佐もビストロ・アディには行ったことありますよね?』


 士官の一人が確認し、カルディナはあると答えた。

 王都に来て間もなく、自身の歓迎会で連れて行って貰った王都郊外のレストランである。


『あの店の地下に月イチで開くバーがあって、そこでしか歌わない歌姫がいるんですよ!その名も魔女(ローレライ)ビビ・ラパン!』


『王都勤めの士官なら、彼女の歌う《餞の歌》を聞いてから出撃しろって言われるくらい有名なんですよ』


『その歌がまた俺達の心を語るような良い歌なんですよねぇ』


 片や熱烈に、片やうっとりしながら語る彼らに対し、カルディナは淡白な反応である。

 正直、あまり興味がない。


『まあ、少佐も聴いてみれば虜になりますよ!』


 そうエクスレイ中尉が話を締め、見えてきた前線基地の誘導灯に誰もが安堵の笑みを浮かべる。

 ―――その刹那だった。

 何かに気付いたセルシオンは、背後を振り返ると同時に翼を打って急停止。

 機械竜を先頭に左右に雁行陣形を組んでいた戦闘機の士官達は、流石に止まり切れずその背を追い抜いた。


『セルちゃん!?少佐、どうしました!?』


 滑走路目前で高度を上げ、仲間達と共にUターンしたエクスレイ中尉は驚きのままに訊ねる。

 前線基地は眼の前だと言うのに、セルシオンは背後を睨んて、その場でホバリングを続けている。

 仕方なく、速度を落として陣形を組み直そうとした矢先だった。


『敵襲!!全員、基地に退避っ!』


 インカムに轟いたカルディナの声に士官達は耳を疑った。

 直後、敵襲を知らせる警告アラートが鳴り響き、同時にセルシオンは高度を急激に下げながら来た道を引き返した。


『シャンティス少佐!何処へ!?』


 遠ざかる姿に同中尉が叫ぶ。


『地上からも狙われてる!皆逃げて!』


 そう叫んだ直後だった。

 大地から飛び上がって来た誘導弾から戦闘機を守らんとセルシオンが大火力の息吹を放つ。

 その熱に空中で爆ぜた弾の衝撃は凄まじく、機械竜の頭に取り付けていたアンテナの角が吹き飛んだ。


『少佐!…クソおおおおぉ!』


 その様に血気盛んな士官が指示を無視して接近。

 カルディナは絶句した。


「来ちゃ駄目ぇ!!」


 その悲鳴が轟くと同時だった。

 接近する戦闘機の真横を小さくも強い閃光が横切る。

 瞬間、戦闘機のコックピットの窓ガラスに鮮血が飛び、その機体が炎に包まれた。

 堕ち行く仲間にカルディナは堪らず手を伸ばすも、その姿は無情にも地上の森に飲み込まれ、間もなくしてそこから火柱と黒煙が立ち上った。


「そんな…!…よくもっ!」


 溢れた涙を散らし、地上に潜む影にカルディナは操縦桿を握り締める。

 セルシオンはそんな主人の怒りに呼応して咆哮を上げた。

 その声にまたも誘導弾が撃ち込まれるが、セルシオンはそれを振り上げた尾で打ち返し、森の中に身を隠す敵軍へと叩き返した。

 途端に爆ぜた炎は敵だけでなく周りにも延焼し、見る見る森を焼いた。


「撤退!急げ!」


 焼け出された帝国の伏兵が悲鳴を上げながら平原へと次々に吐き出される。

 機械竜の援護をせんと上空で機会を窺っていた第一攻撃隊は、ここぞとばかりに敵兵へと銃撃を浴びせた。


『少佐!早くお戻りに!』


 インカムを通してエクスレイ中尉が叫ぶ。

 けれど、カルディナはその声を無視してセルシオンを上空へと上昇させた。


『第一攻撃隊各員へ!ベインベイ方向にかなりの数の敵兵がいます!エクスレイ中尉は皆を連れて前線基地の防衛に向かってください!私とセルシオンが時間を稼ぎます!』


 無謀だとは分かっていたが仲間をこれ以上、失う訳には行かなかった。

 この先、待ち受けるベインベイの奪還では熾烈な海上での戦闘が予想され、襲い来る帝国海軍を蹴散らすには第一攻撃隊は作戦の要となる。

 これ以上一人でも欠ければ、勝機は薄まり、作戦は失敗しかねない。

 ―――セルシオンが最初に気付いたのは、遥か後方ベインベイの方角より接近する大量の戦車隊の群れだった。

 恐らくフォンデとビスローク奪還に対する帝国の報復攻撃で、規模としてはざっと見ただけでも大隊に相当した。

 護衛に就いた第一攻撃隊の戦闘機に残された弾と燃料では、それを迎撃するのはあまりに無謀―――。

 燃料の心配のない機械竜が暴れ回って時間を稼ぐ間、眼前の前線基地より援護部隊を派遣させて迎え討つのが最善だった。


『少佐…!っ!畜生!』


 止める間もなく空の彼方へと遠退いた機械竜に、エクスレイ中尉は悔しさを滲ませる。

 計器に表示される数字は残酷な現実を突きつけ、選ぶ道を一つに絞った。


『全隊!防衛陣形展開!基地に急げぇ‼』


 尚も続く地上からの凶弾を掻い潜りながら中尉が叫ぶ。

 一刻も早く援軍を―――!

 戦闘機達は命辛々眼前に迫った前線基地への撤退を余儀無くされた。

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