51 ヤンキー少女と聖母
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「あ、やべ地球儀の存在忘れてた。ちょっと今日の日直の、梶谷…とその隣の佐藤取ってきて貰っていいか?」
日直はペアで、俺と刈谷さんのはずなのに、何故か佐藤さんを指名する先生。
「まじですか?」
「いや、頼むよ。用具室に置いてあるから、わかりやすいと思うしさ」
先生も来るではなく、完全に俺と佐藤さんに押し付けようとしてきている。
「佐藤さん大丈夫?」
「私は全然いけるよ」
「じゃあ、行きます」
「お、ほんと?じゃあ、6個頼むわ」
地球儀を2人で6個は普通に多くないか?
「じゃあ佐藤さん行こうか」
「うん」
少しため息をつきながら、教室を出て先生に言われた通り用具室へ向かった。
「お、発見」
用具室着いて、中を確認するととてもわかりやすい位置に地球儀が置かれている。
「これを6個持ってくんだったよね」
「そうだけど、難しくない?」
地球儀の大きさは、小さめと言うより少し大きめのサイズ。持っていくにしても、両手で1個づつが精一杯だ。
「難しそうだけど頑張ってみよ」
握りこぶしを作って、ファイトのポーズをする佐藤さん。
「これを乗っければ…できた」
両手で地球儀を持ち、その2つの上にもう1個地球儀を置くことで、地球儀を3つ同時に持つことに成功した。
ただし、このまま普通に歩くとバランスが崩れて、支えのない1番上の地球儀が落ちることだろう。
「佐藤さん、先生への腹いせもあるけど、ゆっくり行こうか。地球儀って壊れやすいし」
「先生には申し訳ないけど、それしかないよね」
慎重に用具室から出て、扉を足で上手く閉めてから、教室へゆっくり歩き出した。
上に乗せている地球儀は、何かの拍子で落ちかねないくらい、不安定でこの行動にとても緊張感がある。
「おう!優じゃえねえか久しぶり!」
「ちょっと、背中叩かないでくださ…あぁ!」
ゆっくりと廊下を歩いいると、後ろの方から初愛佳さんがやってきた。
唐突な声にびっくりしたのと、初愛佳さんが挨拶代わりに背中をバシバシ叩いたのもあって、俺の地球儀が重力で地面に落ちていく。
「おっと、ごめんごめん」
地面につく寸前のとこで、初愛佳さんが地球儀をキャッチしてくれた。
「ほんとに、びっくりしましたよ」
「いや、ごめんって。地球儀運んでたのか。てか、隣にいんの佐藤だな」
「う、うん、久しぶり初愛佳ちゃん」
意外なことに初愛佳さんと佐藤さんは、知り合いだったみたいだ。
「2人は知り合いなんだね」
「うん、私たち幼馴染だから」
「つっても、高校に入ってからはそんなにあってねぇけどな」
ヤンキーでサボりがちな生徒と、クラスの模範生徒がまさかの幼馴染。そういう関係性は、漫画とかだけの世界だと思ってたけど、いがいと世界は狭いな。
「ていうか、なんで初愛佳ちゃんここにいるの?授業は?」
「えっとー」
「まさか、サボり?良くないよ」
初愛佳さんは、佐藤さんにサボりの件は話してないみたいなのか、とても気まずそうにしている。
「あ、そうだ優今日昼食べようぜ」
「逃げてるでしょ」
「……ま、まあまあ佐藤も一緒に食べようぜ。久々にさ。それに、今日の弁当は俺が作ったし」
「え、初愛佳ちゃんが作ったの?」
佐藤さんの質問に、当たり前だろみたいな感じで返答する初愛佳さん。
佐藤さんの反応的に、初愛佳さんの料理のまずさを知ってるっぽいな。
「まあ、話はおいおいするとして」
「俺も手伝ってやんよ。これもってけばいいんだろ?」
佐藤さんの持っている、3つめの地球儀をとって、さっき拾ったのもあわせ両手に地球儀を装備する初愛佳さん。
「いい感じにしてるけど、やっぱサボりごまかしてるでしょ」
「わぁってるって、次の授業は参加するからよ」
「普通は全部参加するんだよ…」
この後の初愛佳さん弁当が不安でしょうがないけど、初愛佳さんサポートのおかげで楽に教室まで、地球儀を運ぶことができた。
「戻りましたー」
「いやーすまんすまん。2人とも大変だっただろ」
「めちゃ苦労しましたよ、ほんとに。まあ、途中から何とかなったから、よかったですけど」
「途中?」
「失礼しまーす」
初愛佳さんがこのクラスの人かのように、教室に入ると少し前までのがやがやした空気が、凍りついたかのように静かになった。
「おい、初愛佳またサボりか?」
「いやー、さーせん2人が困ってるように見えたもんで」
初愛佳さんは意外と先生と仲がいいのか、お互いに友達みたな感じで話している。
「まあ、いいから教室に戻るなりしなさい」
「すみません、そんじゃ失礼します」
軽くお辞儀をしてから教室を出ていく初愛佳さん。
「あー怖かった」
あ、仲がいいわけではなかったんだ。
「一息ついてから、授業再開するから梶谷たちも少し休憩しててくれ」
初愛佳さんが出て行ってからも、いまだに全員黙っている。
初愛佳さんからは、覇気のようなものでも出てんのかな。
「優、お前も災難だったな」
「なんのこと?」
地理の授業が終わってすぐ、夜梨が俺の席にきた。
「ほら、初愛佳さんのことだよ。あれだろ、優しさの押し付け的な」
さっきの初愛佳さんの行動は、俺や佐藤さん以外から見るとそう見えるのか。それは、初愛佳さんの噂のせいなのか、また別の物なのか。
そんなのはどうでもいいけど、とりあえず本心で助けてくれた初愛佳さんが不憫すぎるな。それに、優しさの押しつけは、しないよりかはいいことな気がするけど。
「そんなんじゃないって、実際俺と佐藤さん困ってわけだし」
「まあ、わかるよ初愛佳さん怖いもんな。俺にはわかるぞ」
「だから、そんなんじゃ…佐藤さん…」
流石の夜梨でも、今のは俺も少しイラっと来た。再度訂正しようと、したところ俺の手の甲に佐藤さんが手を置いて俺の怒りを鎮めた。
「なんでさっき俺のこと止めたの?」
授業も一区切りついて、初愛佳さんとお昼を食べる場所に向かう途中、さっきの真意を佐藤さんに聞いてみる。
「私も訂正したかったんだけど、多分言っても無駄かなって」
「それでも…」
「初愛佳ちゃんと私、久々にあったって言ってたでしょ」
そういえば、幼馴染発言で気を取られてたけど、そんなこと言ってたな。
「初愛佳ちゃんね、あの噂があるから私にあんまり接触しないようにしてくれてるみたいなの、たぶん私の評判とかも気にしてなんだろうけど」
確かに、優しくしただけであれなら、仲良くしてるとこを見られたら、佐藤さんに変な噂がたってもおかしくない。
逆に初愛佳さんはそこまで考えて、行動してるって友達思いというか、気配り上手というか。
「初愛佳ちゃんの噂ってね、そのレベルなの。だから、たぶんさっきのも何度訂正しても、無駄だと思うんだ」
「そうなんだ…」
多分だけど、1個目の噂ぐらいならどうにかなったんだろうけど、根も葉もない噂のせいでここまで来てるんだろう。
「難しいね」
「難しんだよ」
多分1個目の噂自体、正当な理由あってなんだろうし。それに初愛佳さんが関係ない嘘の噂で、初愛佳さんが精神をすり減らすのは、どうにかできないものか。




