逆恨みは避けたい
東京から諏訪まで車で移動して、その後直ぐに特級クラスの依頼に取り掛かるのはちょっとどころでなくハードそうだ。なので午後の昼食後に東京を出て、諏訪で一晩過ごしてから碧ママに源之助を任せて我々は松本に来た。
朝もまだ早い時間帯に指定されたお屋敷に車で乗り付けたのだが……。
「なんか、意外と穢れはないね」
周囲を見回して碧が言った。
「だね。
なんか聖域に近い感じ。
ここってどこぞの氏神が居るのか、居たのかなんじゃない?」
聖域のような結界に囲まれて、境界門を開けた際に流入した魔素が濃厚に溜まった環境ではない。が、現代地球の中では妙に魔素が濃い。
怨みマシマシな悪霊とかが居ると穢れが集められ、それが多少なりとも魔素に近い効果があるが、ここは穢れも然程は無い。
これが伝説の呪われた一族の本拠地?
なんか怪しい。
怪しいが……まあ、取り敢えず、中に入らなければ話が進まないので、我々はインターホンを鳴らした。
中に案内されて、応接間で待っていた老女が依頼に関して私たちに説明してくれた。
「戦争で亡くなった方を除き、基本的に曽根家の血を引く人間は全て40代か50代で寿命が尽きます。
どれだけ治療に金を掛けようが、徹底して健康的な生活を心掛けようが、ここから離れた地に行こうが、運命を逃れられた者は居ません」
どう見ても50代じゃあないから、この人は死んだ曽根家の誰かの奥さんなんだろうなぁ。
「誰1人、ですか。
例えばここを離れた一族から生まれた子で、一度もこの地に訪れた事が無くてでもですか?」
碧が尋ねる。
「そうですね。
ごく稀に、例外的に寿命が長いものはいます。ですが先日近年では唯一60代まで生き残った者のDNA鑑定をしたところ、実は曽根家の人間では無い事が判明しました。他の例外的に長生きした者も浮気の結果の婚外子である可能性が高いと思われます。
そう考えると、この地を離れても呪いからは解放されないようですね」
曽根さん(確か下の名前が奈緒子さんだったかな?)が応じる。
「ちなみに、曽根家の皆さんは何かをやろうと頑張ると、成功する事が多いと聞きましたが、それも例外なくですか?」
奈緒子さんに聞く。
ある意味、若死するよりも、そっちの方がよっぽど不自然なんだよね。
若死は遺伝子異常とかだったら不思議は無いが、100%成功を約束する遺伝子なんて、無い。
「ええ。
金銭的な成功とは限りませんが。基本的に曽根の人間は全員、野心を抱いた分野で成功していますね」
奈緒子さんが頷いた。
「ちなみに、何も野心を抱かない無気力な人って今までいましたか?
そんな人が居た場合の寿命もお伺いしたいですが」
寿命を使って成功を手に入れているように見えるけど、成功を求めなくても若死するのかね?
「曽根の人間は活動的な人間ばかりで、野心というか趣味と言うか、何かを成し遂げたいと思う人間ばかりで何もやろうと思わない無気力な人間は私が知る限りではいないと思います」
奈緒子さんが言った。
う〜ん。
引きこもりニートが発生しないとは、羨ましい家系だね〜。
いや、引きこもりニートじゃなくても無気力に惰性で働くだけの人が多い現代日本で、珍しいタイプが集まった家系だよね。
それとも必ず成功するなら、無気力になんてならないのかな?
「ちなみに。
もしも呪いが、成功を与える代わりに寿命を短くと言うもので、呪いを解呪したら曽根家の人たちが享受しているあり得ない程の人生における成功率の高さも無くなるとしても、やはり呪いは解除したいのですね?」
碧がズバリ、私が思っていた事を奈緒子さんの聞いた。
そうなんだよね〜。
どう考えても、異様に高い人生での成功率って若死と繋がってるでしょう。
呪いを解除して、寿命が伸びた代わりにこれからは人生の負け犬になるかもってリスクを曽根家の皆さんは負う気があるの?
そうなるとこれから生まれる曽根家の人は、良くても一般的な成功と失敗が散りばめられた普通な人生を歩むことになると思う。
だが、下手したら。
今まで成功を楽しんでいてまだ死んでいない人は、今までの成功の対価としてこれから死ぬまで失敗ばかりに襲われて、最後には一文無しになって自殺するなんて結果にだってなりかねない。
この曽根家の敷地って何か力のある存在がいるように感じるけど、それは特に穢れているわけでは無い。つまりこの曽根家の呪いって、『呪い』と言うよりも曽根家の先祖が力のある存在と結んだ『契約』なんじゃ無いかな?
「曽根家の成功が寿命で贖った紛い物だと言うのですか!」
奈緒子さんが怒りに身を震わせながら聞いてきた。
「元々成功出来るだけの能力はあったのでしょうが、人生って能力や努力だけではどうしようもない運に左右される部分もあるじゃないですか。
それを寿命で贖ってきた可能性があると思います」
運に頼る部分が少なかった人は50代後半まで生き延び、多かった人は40代で早くに亡くなった可能性が高いと思うんだよね〜。
「そんな運と寿命を左右できるような存在は、我々の力で強制出来る範疇を超えています。話し合いで曽根家との契約を解除してくれと頼むことは可能ですが、後からやはり戻して欲しいと言われても不可能でしょう。
それでも依頼を遂行しても良いのかを、確認させて頂きたく思いまして」
碧が私の言葉を引き継ぐ。
流石相棒。息がぴったりだわ〜。
今まで長年成功して富を貯め金出来た一族から逆恨みされては堪らないからね。ちゃんと解呪(契約解除?)した結果について、共通の理解をしっかり固めておかないと。




