人違い事件
『もしもし?
退魔協会付けになっている警視庁の田端 亨です。
ちょっとお願いしたい事があるのですが……お留守ですか?』
おや。
田端氏の声が留守電から流れてきた。
「もしもし?
藤山です。
どうしたんですか?」
碧がスピーカーのボタンを押して電話を受けた。
固定電話って詐欺か押し売りか宗教勧誘かの電話が多いから、基本的に登録した番号以外からだと一旦留守電で受けてるんだよねぇ。
登録した番号からなら着信音が違うようにしてある(遠藤氏は一人だけ更に違う音で登録してある)ので、音で大体判断しているんだけど。退魔協会からかけて来たんじゃないのかな?
電話を覗いてみたら、携帯番号ではないが見慣れない番号だ。
『実は……先日鎌倉市の方でとあるご老人が誘拐されました。
ただ、どうも近所の反社会組織と関係にある別のご老人と人違いで誘拐された可能性が非常に高いということで、何とか被害者が生きている間に救出できないかと警察組織総出で頑張っているところなんですが、捜査が行き詰まってしまっているんです」
田端氏の声が続く。
うん?
誘拐されて死んじゃったから、死体を見つけたいので被害者の霊を召喚してくれと遺族から頼まれるならまだしも、まだ被害者が生きている想定の誘拐事件に私らを呼んでも意味がなくない??
「被害者が亡くなっていないか、確認の為に召喚の呼びかけをして欲しいんですか?」
碧が尋ねる。
なんで退魔協会からの依頼では無く田端氏からの電話になるのかは微妙に不明だが。
『いや。
実は、誘拐されたのが人間違いではないかとこちらが考えて敵対組織などを捜査している間にしれっと身代金の要求がきたんです。誤った人間の名前で。
大元の狙いだった方のご老人が迷惑をかけたと身代金を提供したのですが、受け取りに来た人間を追跡している最中にその男が交通事故で死んでしまいまして。おかげで結局真相は闇の中、犯人側とも連絡が取れずと言う状況になってしまい。
もしかして事故現場か遺骸のそばに本人の霊がいるなら、被害者がどこにいるか聞いてもらえないかとお願いしたいんです』
あれ〜?
遺族じゃなきゃ召喚しちゃいけない決まりだから、犯人側の遺族を見つけなきゃダメなんじゃないの?
それとも事件に関わっていて、誰か別の人間の命が危険に晒されているって状況だったら遺族の要請なしに警察の判断で召喚して良いんだっけ?
いや、召喚するんじゃなくって、死霊がまだ事故現場か死骸のそばに漂っているなら、その霊から話を聞くのは法令違反では無いって論理でお願いして来てるの?
確かに、召喚が禁止だろうと浮遊霊に話を聞くのはオッケーな可能性はあるよね。
微妙にグレーな気もするが。禁じられていなければ、やった者勝ちってところなのかな?
『どうする?』
碧が念話のカードを手に取ってこっちに聞いて来た。
『まあ、やっても良いけど。
依頼主が誰で、報酬が幾らになるのかは事前に確認して録音しておこう。
「一般市民の善意の協力」って事で無料サービスを提供させられるのは嫌よ』
間違って誘拐されたのかも知れないご老人には同情するが、子供ならまだしも老人って事はそれなりに生きてきたんだろうし。
子供だろうが老人だろうが、事件性がある時だったら無料で協力するお人好しだなんて警察に思われたら今後も協力依頼が果てしなく来そうだから、お断りだ。
退魔協会にも睨まれそうだしね。
「ご協力するのは吝かではありませんが、これって退魔協会経由の正式な依頼ですか?」
碧が尋ねる。
『いや。急ぎだし、悪霊が関わる訳でもないので警察からの協力要請になる』
田端氏が答えた。
そうだよね、退魔協会ってまず調査っていう流れになるから時間的制約がある時はちょっと困るんだろうね。
誘拐って72時間以内に救出されないと生存率がダダ下がりするって話だし。
いや、それは変態に誘拐されたのか可能性が高い子供の誘拐の時の話なのかな?
まあ、老人だってちゃんと世話をみてもらえていないとポックリ逝っちゃうリスクが高いだろう。
「我々は無料でのボランティア活動はお断りしてますよ?」
碧が指摘する。
マジでこっちが言わないと報酬の話をしないって、慌てて忘れているのか、出来れば善意のヘルプで済ませたいと言う警察の方針なのか。
一瞬沈黙の後に田端氏からちょっと安いめだけどまあ許容範囲内な報酬額が言われたので、依頼を受けることにした。
なあなあで誤魔化されて依頼を受けた後の交渉なら難しいかもだが、ちゃんと合意した報酬だったら踏み倒したら白龍さまの天罰が降りる事は田端氏や警察本体もわかっている筈。
覆面パトカーが迎えに来るとのことなので、急いで着替えよう。




