不自由はないんだ?
蓮君にランチでも食べながらご相談と言うことで呼ばれた先は、焼肉屋だった。
ちょっとお洒落で個室が多い店で、予約時に追加費用なしで個室を予約できるとの事だった。
しかもランチセットだったらお値段はお手頃。
食べ放題じゃあないので、育ち盛りな男の子に足りるのかは知らないが。
と言うか、18歳か19歳だとしたら、もう『育ち盛り』は終わってる?
それでもまだまだそれなりに食べそうだけど。
「今日はどうもありがとうございます。
こっちが妹のエリです。
エリ、以前コムギを見つけてくれた時に一瞬会ったと思うけど、退魔師の藤山碧さんと長谷川凛さんだ」
蓮君が私たちをお互いに紹介した。
エリちゃんもそこそこ大きくなった感じだなぁ。
迷子になった猫のコムギちゃんを連れて行った時は猫にだけ注意がいっていて、まだまだ子供だな〜と思ったけど、今はもう少し当たりを見回せている感じ?
「「「こんにちは〜」」」
お互いに挨拶し合って席につき、まずはランチをオーダーする。
こう言う個室じゃあ以前は店員を捕まえるのが大変だったけど、タブレットでオーダーなので大分と気楽になった。
店側も楽になっただろうなぁ。
どのくらいでメニューを決め終わるかなんて客によって違うから、待たせ過ぎたらクレームが来るけど早く行っても自分が待たされるだけだもんねぇ。
「ちなみにそう言えば蓮君は大学は行かない事にしたの?」
まあ、退魔師に大学の学歴は不要だけどね。
私らみたいに親が学費を払ってくれて、卒業後も自分の生活費だけ稼げば良いと言う気楽な立場ならまだしも、彼は家族をまだまだ経済的に支えているんだろうし。
「大学なんて、意味ないでしょ?
哀れな母子家庭で大学にも通えずにフリーターをやっているなんて近所の人に思われない様に、退魔協会が提供しているコンサル会社の名前を勤め先として借りてる」
蓮君が答えた。
「そう言えば、個人事務所にしないの?
家の一部を事務所として使っているって事にしたら、家賃や光熱費の一部を経費として税金を減らせるよ?」
谷敷さんと共同事務所にするか、個別の事務所にして協力して仕事に当たっている事にするかは知らないけど。
自営業の方がサラリーマン扱いより税金上は多分お得だよ?
自営業で不利になりやすい社会保険料は退魔協会が負担してくれるし。
「あ〜。
税理士を雇って色々やるのって面倒そうだからなぁ。
正式にフルタイムで働いてどの位税金を取られるかを見てから来年考えるつもり」
ちょっと困った様に頭を掻きながら蓮君が言った。
「確かに仕事と報酬が増えたら税金も上がるからね。
1年間働いた後に、年末調整後び源泉徴収票を見ていくら税金を引かれているかを確認してから、国税局のe-taxのサイトで自営業だったとして税金が幾らになるか、試しに確定申告の入力してみれば良いよ。
大体の税額が勝手に計算されるから」
「え??
偽物の仮定な確定申告するの?」
蓮君が目を丸くして聞き返してきた。
「いや、試算するだけ。
最終的な提出ボタンをクリックしなきゃ問題ないよ。
実際に自営業として確定申告しようと思ったら青色申告の申込とか帳簿の準備とか色々あるから、少なくとも最初は税理士を雇った方が良いわね。
でも、大雑把だけど税額がどのくらい変わるかが分かる方が、税理士に相談するかどうか決めやすいでしょ?」
もっとも一度税理士に頼んだら、面倒そう過ぎてその後もずるずる頼む事になる事が多そうだけどね〜。
税理士の費用も収入から控除出来るし、って自分に言い訳しながら。
まあ、蓮君のところは無駄な支出を最小限にする為に、お母さんなり妹さんなりが手伝って自力でやるかもだけど。
そんな実務的なことを話していたら、ランチの肉が来たので皆でそれぞれ焼きながらランチを始めた。
やっぱ、焼肉は店で食べると美味しいよねぇ。
切り方が違うのかな?
家で薄切りの肉で鉄板焼きなりすき焼きなりしても、やっぱこの美味しさは違う。
『焼肉屋のタレ』って言うのを使っても全然違うんだよねぇ。
雑談をしながら肉を食べ終わり、デザートのアイスを食べ始めたところで、エリちゃんがスプーンを置いてこちらにしっかりと顔を向けて背筋を伸ばした。
既にアイスを食べ終わっているなんて、凄いな。
「私、退魔師になるべきだと思います?」
ちょっと思い詰めた様な顔をしているね。
「退魔師になりたいの?
なりたくないの?
経済的な面では、蓮君が一級退魔師として働くならやりたくないのにエリちゃんが退魔師になる必要はないと思うよ」
まあ、エリちゃんと弟君が大学に通う場合は奨学金をある程度は利用する方がいいだろうけど。
退魔師になろうと思ったところで、一人前に稼げるまでそれなりに時間とお金が掛かる。退魔師の弟子入りとか授業料とかは奨学金が無いから、下手をしたら退魔師になる方が大学に行くよりも経済的負担は大きいかも?
「ちなみに、悪霊が見えるとか、恨みの声が聞こえるとか、うっかり火や鎌鼬が出るとかってあるの?」
碧が尋ねる。
そう言うちょっと微妙な問題があるなら、退魔師にならないにしても鍛錬するか、力を封じる必要がある。
「どうなんでしょう?
特に日常生活に違和感はないんですけど、以前父が亡くなった時に来た親戚とやらは私に退魔師の才能があるって言っていたんです」
エリちゃんが首を傾げながら言った。
ふむ。
違和感が無いねぇ。
それだけ自然に自分でコントロール出来ているのか、もしくはまだ殆ど能力が覚醒していないのか。
どっちだろう?




