条件
「ちなみに、東京じゃなきゃ困るとか、バリバリに働きたいとか反対に仕事は生活できる範囲だったら少なめが良いとか、男はゲイじゃなきゃ嫌だとか、あるの?」
碧が誰か知り合いがいたとして、紹介してからイチャモン付けられたらこっちにも相手にも迷惑だ。なので先に思いつく範囲での問題になりそうな点を聞いておく。
「師匠は凄く良心的な授業料で私を教えてくれたから、親は大学の授業料より安かったから返さなくて良いよって言ってくれてるの。
だから私一人の生活費と老後の蓄えが出来る程度に働ければ良いわ。場所も極端に酷い場所じゃなきゃ贅沢は言わない。
男性は……セクハラ発言や行動したらぶん殴って良いなら、男性特化じゃなくても構わないわ」
溜め息を吐きながら谷敷さんが言った。
お〜。
考えてみたら、私は親に大学の授業料を返そうなんて、考えてもいなかったわ〜。
大学に行く代わりに退魔師になったんだったら、入門代とか授業料を親に返さなくても良いよねと言う考えはあるし、大学に行くのに追加で払うんでも親に返そうと思わない人も多そうだから、谷敷さんってかなり良い人?
もしくは家がそれなりに経済的に苦しい家庭で、頑張って払ってもらったと言う意識があるのかも。
それでパートナーに酷いのしかマッチングされなくて折れた場合。引き篭もる訳にはいかないから、一人で仕事をするっていう流れになるのかな?
それはちょっと危険そうだよねぇ。
……考えてみたら、オリエンテーションの時に一緒になった高木蓮君はどうしているんだろ?
生活費の助けになるよう頑張るとは言っていたけど、母親のポリシーもあって学生としての生活を優先するって言っていたから、少なくとも高校生の間はフルタイムで働く相手のパートナーにはなれないよね。
というか。
考えてみたら彼ももう大学生になってる?!
オリエンテーションを受けてから3年は経っているんだから、高校は卒業しているよね。
彼を紹介するか否かは別として、今何をやっているのか聞くために一度彼にも声を掛けてみようかな。
妹さんがいるんだし、年上の女性にセクハラするタイプじゃないと思う。
旧家じゃないから子供を産めなんてプレッシャーも掛けないだろうし。
もしもフルタイムで働いていて、相棒募集中なら紹介しても良いかも?
「ちなみに。
谷敷さんって何歳か、聞いても良い?」
メインのお皿が下げられ、デザートとお茶(谷敷さんはコーヒー)を持ってきますね〜とウエイターの人が下がった後に、谷敷さんに尋ねる。
若っぽい話し方だけど、何歳なんだろ?
「26歳〜。
大学受験でストレス溜まっている時に急に周囲で鎌鼬っぽい現象が起きるようになって、近所のご老人に師匠を紹介されたの〜。
大して頭が良くないし、大学に行ってやりたい事も特に無かったから、親を説得して退魔師になるって弟子入りして、5年掛けて術師になって。
1年の見習い期間が終わった後に3年掛けて一級術師になれたけど、一人で仕事するなら危険だから二級の仕事しか紹介できないって退魔協会に言われてるの」
ぉおう。
私より4歳上?! そう見えない。口調と若作りな顔が相まって、下手したら年下かと思っていたよ!
そうなると蓮君よりも7歳ぐらい上ってことだよね。
30代とか40代ならまだしも、10代後半だったら7歳って多分男女の仲になるような年齢差じゃないよね??
多分?
セクハラしなければ、女性として魅力的ですねってアピールしていく分には多分構わないんだろうし。
思っていたよりも上の年齢を言われてどう反応するか困っているうちに、デザートのクレープが来た。
私のはバニラとチョコアイスにダークチョコなソースと生クリームをたっぷり掛けたクレープ。
うん、美味しそうだ。
谷敷さんはバニラアイスにブルーベリーを散らして蜂蜜を掛けたクレープだった。
そっちも見た目は美味しそうだ。
私はブルーベリーよりチョコの方が好きだけど。
沈黙のうちにデザートを食べ終わり、ゆっくりお茶を飲む。
「まあ、確かに退魔協会の依頼って先に調査しているとは言え、調査が絶対では無いからね。
想定外に危険な悪霊が潜んでいたり寄ってくる事もあるから、何かがあった時に助けを呼びに逃げ出せる相棒がいる方は安心だし、人通りがない山の中で依頼人と二人きりになる場合なんかもあって、過剰防衛になったら面倒だし。
ペアで働く方が良いのは事実だろうね」
退魔協会がちゃんとマッチング出来ていないのが意図的なのか、無能なのか、不幸な事故なのかは知らないが。
「あ〜。
確かにそうじゃなくても幽霊屋敷っぽい家に入り込む羽目になる事もあるし、一人でやらない方が無難ではあるんですよね〜。
だけど。もう少しまともな人と働きたい!!」
ガパっとコーヒーを一気に飲み干した谷敷さんが小さく叫んだ。
「まあ、希望は捨てずに頑張って。
私の方も、知り合いとかにちょっと聞いてみるから」
ぽんっと谷敷さんの肩を叩きながら立ち上がる。
黒魔術師でなくても、魔力を持っていてそれを鍛錬してきた相手だと、警戒されている場合は相手に気取られずに向こうの意識を読むのは難しい。
だが、警戒していなければ。向こうの感情とか、表面的な考えは触れる事でちらっとなら読める。
谷敷さんは特に私に警戒してはいないようだった。なんとかまともな相手と組んで、ワンルームの古いマンションからランクアップ出来るぐらいの収入が欲しい!!と心底願っているのが感じられる。
取り敢えず、碧や私を良いように利用しようとか陥れようとかは思っていないようだね。
だけど。二級術師だとそんなに収入が少なかったっけ? まあ、私の場合は事故物件をルームシェアしていた上に生活費は要らないと言ったらせめて賃貸料だけでもって事で私の分の部屋代は親が払ってくれていたから、余裕があったのかも。
碧に会っていないで退魔協会の存在を知った私が、谷敷さんの立場になっていた可能性は十分にあるのだ。
それなりに同情できる状況だ。碧に何か良いアイディアが無いか、相談してみよう。
蓮君が一人だったら彼でも良いかもだしね。




