碌なことがない
さて。
『ご用件は?』なんて聞くのは流石にぶっきらぼう過ぎるよねぇ。
取り敢えず、時間稼ぎ目的に先の日付で約束して、どうしても今話したいって粘られたら何故かを聞くとするか。
『ちょっと最近太ってきたし、大学卒業間際で色々とバタバタしてるので、5月のゴールデンウィーク明けぐらいでどうかしら?』
卒業間際だと言えば、卒業旅行に行くとか就職先の近くへの引越しとかもあると考えても不思議はない。
まあ、実際のところは実質職場に住んでいるから引越しは必要ないんだけどね。
でも谷敷さんはそんな事は知らないだろう。
知っていたら下心があり過ぎそうで近づくのはご遠慮したいし。
それに諏訪のセカンドハウス兼支部(?)の準備が実家を離れる引越しの代わりと言ってもいいし。
直ぐに私のメッセージに既読マークが付いたが、新しいメッセージは来ない。流石にお茶に誘ったら3ヶ月後に会おうと返事されるのは驚くのかな?
でもまあ、業界パーティで初めて会ったばかりの人と直ぐに再会したい理由は特にはないからねぇ。
相談したいからお茶をと誘って3ヶ月後を指定されたら、退魔協会のパーティで出会った赤の他人の相談に乗りたくないと言うこちらの気持ちも伝わるだろう。
取り敢えず直ぐには返事が来なかったので、アイピロー用の符を作っていたら、暫くしたら着信音が鳴って返答メッセージが入っていた。
『すいません、ちょっと退魔師事務所のことに関してご相談させて頂ければと思ってお茶に誘いました。
お忙しいところ申し訳ありませんが、出来れば今月中にでもお時間を割いて頂くのは可能ですか?』
「なんかさっきのお茶を誘ってきた人、退魔師事務所に関して相談したいって言ってきたんだけど。
何を求めているんだと思う?」
描き終わった符を横にどけ、筆もそっと置いてからリビングの方に声をかけて碧に聞いてみる。
なんかこう、初めて会った人に相談したがる時点で私としては非常識だな〜と感じるんだけど、退魔師業界ではこう言う相談を押し付けてくる人にも親切に対応するのが常識なの??
情けは人の為ならずみたいな、回り回って自分を助けるから善行を積め、っぽく?
「退魔師事務所の開き方みたいな事務手続きに関しての相談を受けるような会話をしていた訳ではないんだよね?」
碧がソファの向こうから首を突き出してきて尋ねた。
「マッチングアプリで出会う男の親の圧の酷さの話から出産の負担についての話題になって、そこから方向転換して仕事に何を着て行くのが無難かとか、後は適当にパンダの話題で時間を潰したかな」
退魔師は国外に出るのを推奨されていないし、パンダの母国はマジで下手に足を踏み入れたら国家自体に適当な濡れ衣を着せられて冤罪で有罪判決を喰らい、20年無料奉仕で退魔の仕事をさせられる羽目になりそうだから、誰も絶対に行かないと言っていた。
なので上野のパンダが居なくなったらもう二度とパンダを見れないかも〜と言う話でちょっと盛り上がったのだ。
まあ、まだアメリカとかにはパンダがいるらしいんで、私と碧はまだしも他の連中はアメリカに行ってパンダを見るのは可能だけどね。
10時間以上かけて他国に旅行に行って態々パンダを見に動物園に行くかは不明だけど。
「で、そのマッチングアプリの文句を言っていたのがお茶に誘ってきた人?
結婚したくなくて現状に不満があるなら、今いる事務所で変な圧力が掛かっているから、快適生活ラボに入れてくれって相談なのかも?」
碧が指摘した。
「え〜〜?!
そこまでずうずうしい事言ってくる??
快適生活ラボって特級術師二人で開いている事務所だよ??」
そこまで非常識に面の皮が厚い感じでは無かったと思うんだけど。
「ダメ元だとか?
あと、凛が私に寄生して特級術師になったんだから、自分も少し助けてもらうぐらい良いじゃないかぐらい思っているかも?」
碧が指摘した。
マジか〜。
確かに、綾杉さんが私が碧に出会えてラッキーだったねと当て擦った時に、誰も庇うような事は言わなかったからねぇ。
マジで業界全体で私は碧に寄生していると思われているんかもなぁ。
そう思うと、退魔協会が私らを一緒に昇級テスト受けさせたのって良い迷惑かも。
まあ、私が目立たなくて済んだと言う面もあるから一概に悪い事だったとは言えないが。
ぽっと出の私が退魔師になって4年で特級術師になるなんて、ちょっと違和感バリバリかもだし。
変に疑われて調べられて前世の事がバレるよりは、寄生していると思われた方がまだマシではある。
「私としては将来的にリタイアを考え始めた頃に若い人を事務所に入れて、独り立ちを助けるとか育てる感じを考えていたんだよね。なので現時点では誰かを事務所に入れのは勘弁してほしいな〜って思っているんだけど、碧的にはどう考えてるの?」
私は自分の異世界仕込みな技術や知識を見せるのは現時点ではちょっと避けたい。
でも、考えてみたら碧は信頼できるパートナーがいて依頼先で変なセクハラを避けられれば良いだけなんだから、それが私である必要はないんだよねぇ。
「そうだね、事務所に新しく誰か入れるなら、20歳ぐらい年下の方が変に対抗心を持たれたり僻まれたりしなくて良いかな。
子供の頃に、退魔師業界の同業者が集まる際に子供だけで遊ぶこともあったんだけど、私が白龍さまの愛し子だと知ると皆ちょっと微妙な反応を示したんだよねぇ。
流石に大人になればそう言う内心を上手く隠せるだろうけど、嫉妬されるのは変わらないと思う」
顔を顰めながら碧が言った。
「私だって白魔術師の才能は羨ましいな〜とは思うよ?
でもまあ、何を言いたいかは分かる。谷敷さんにはしょうがないから会ってくるけど、事務所に来たいとか提携したいって話だったらきっぱり断ってくるね」
あ〜面倒そう。
本当に、退魔協会のパーティは行くと碌なことがないなぁ。




