夏には食べる 61
水着を買った二人は先ほどの砂浜とは違い、海の上にロープが張られている砂浜に来ていた。先に訪れた砂浜は遊泳禁止だが、こちらはロープの範囲内であれば許可されているとのことだ。
「リーナ!向こうのロープにタッチして、どっちが先に帰ってこれるか勝負よ!」
「うん!勝負って言うことなら、何か商品が無いとね。何にする?」
「あそこの料理にしましょ!一個だけ好きなのをおごるってことで!」
アムリテが指さした方向には、海の家と書かれた店のような建物があった。そこには飲み物や料理の看板が吊るされていた。
「合図は……コレを投げるから、海に入った瞬間にスタートよ!」
アムリテは砂浜に落ちていた貝殻を一つ広い上げ、リーナに説明した。リーナが頷くと、アムリテは海に向かって貝殻を投げた。投げられた貝殻は放物線を描き、海に───
───チャポンという音を立てて、入って行った。
その音を聞くが早いか、見るのが早いか二人は貝殻が沈んだ瞬間に砂浜から走り出す。
反応速度はほぼ同時だったが、やはり魔法を得意としているアムリテは、近接を得意としているリーナに脚力では負けてしまい遅れを取る。
リーナはそのまま海に入り、湖や川で泳ぐように体を海に浮かべて足をばたつかせる。湖や川との違いに違和感を感じるが、決して遅くはないスピードで泳ぐことに成功する。
一方、リーナに先を越されたアムリテは、リーナは泳ぎだしたタイミングでようやく海に足を入れた。
「このまま。海の水を使って浮いても良いけど、あくまで泳ぐのがルールだからね」
アムリテはリーナと同じように海に体を預けて、体を浮かせる。しかし、リーナと同じように足をばたつかせることはない。
「水場の勝負であたしに勝てると思わないことね!」
突如、アムリテの周りの海水が水色に光りだしたかと思うと、足を取り巻くように渦ができた。
「発射!」
アムリテがそう言い放つと、足を囲っていた渦の流れが急激に早くなり、アムリテの体ごと大きく前進した。そのスピードは泳いでるリーナの比にならないほどだ。
リーナは異様な水の音に気付き、後ろを振り返るとそこには大きな水しぶきを上げながら接近してくるアムリテの姿があった。
「な!魔法使うの!?」
「使っちゃダメなんて言ってないわよ!悔しかったら、剣でも弓でも使ってみたら?」
そう話している間にも二人の距離は近づき、会話が終わるころにはリーナとアムリテの順位は逆転していた。
アムリテが通り過ぎる際に、リーナは顔に大量の海水を浴びせられ少々穏やかでない気持ちになる。
「そっちがその気なら!」
リーナは前進することをやめて、海の底にめがけて潜水を始めた。幸い、海の深さはそれほどなく二メートルほどだ。
リーナは海の底から貝を二つ手に持ち、海面に上がる。すると、ロープをタッチしたであろうアムリテがこちらに向かってくるのが見えた。
「さぁ!轢かれたくなければそこをどきなさい!」
アムリテは細かい調整ができいのか、リーナがいるにもかかわらず直進してくる。そんなアムリテに狙いをつけて、リーナは手にした貝殻を投げつけた。
「は?」
アムリテは前方から飛んでくる何かに反応できず、額をぶつけてしまった。アムリテはその拍子に意識が遠のき、魔法を解いてしまった。
「がぼぼぼぼぼぉ!」
アムリテは混乱からか、元から泳げないのか海面で溺れ始めた。水の魔法を使うのだから、後者ではないと思い、リーナはアムリテの傍まで泳ぎ肩を貸した。
「……アムリテって、泳げるよね?」
「…………」
「……水の魔法使うし、水の球体の中に入ってたよね?」
「…………」
アムリテはリーナから顔を逸らし、なおも黙秘を続ける。その行動が指し示す答えは一つだった・
「…泳げないんだ」
「うっさいわね!なによ悪い!?自分の魔法で操ったら。いくらでも泳げますけど!?」
それは魔法で操らなければ、泳げないと公言していた。耳元で騒ぐアムリテに肩を貸したまま、リーナはロープにタッチする。その間もアムリテは声を荒げるものの、体は一切動かなかったので泳ぐのは楽だった。
「はい。これで私の勝ちね」
最終的にアムリテを抱える形でリーナは砂浜に上がり、アムリテを降ろす。
「うぅ…。ほんとはあたしが勝ってたらふく食べるつもりだったのに」
「最初に一個だけって…」
「もう!早く行きましょ!あたし、お腹減ったわ。勝負の奴以外は割り勘か自分で持ってよね!」
アムリテの魔法で海水を払い落とした二人は海の家に着くと、お昼ご飯替わりの注文をする。
「あたしはフランクフルトで。リーナ、やきそばは割り勘でいい?」
「うん。私は焼きとうもろこしで!」
「なら、あたしはとうもろこ分を払えばいいのね?」
「あ、おごってほしいのはデザートだからこれは自分で払うよ」
二人は注文をして料理を受け取ると、海が一望できる外の席に着いた。二人のほかにも外で食べている客は何組かいるが、席が埋まるほどではない。
「んー!海を見ながら、太陽の下で食べる料理は一味も二味も違うわね!」
「うん!景色がいいからかな?すっごく美味しい!」
二人は初めて食べる海の家の料理に満足しながら、それぞれの料理を完食した。
「料理も食べ終わったし、デザート買いに行きましょうか?」
「うん!私、この店を見た瞬間にかき氷のイチゴ味って決めてたの!」
「いいわね。あたしは金欠だから、指をくわえてあんたのを一口貰うわ」
指をくわえて一口貰うという発言がリーナにはいまいち理解できなかった。
「もし、頼むなら何にするの?」
「うーん。ブルーハワイってやつかしら?想像もつかないし!」
二人は席から立ち上がり、リーナのかき氷を注文する。
「すみませーん!かき氷、イチゴ味でお願いします」
笑顔でアムリテから注文を受け取った店員は店の奥に行こうとする。それをリーナは一言声をかけて止める。
「かき氷、ブルーハワイもお願いします」
「え、リーナあんた…」
「勝負は私の勝ちだけど、アムリテに魔法で海水を取ってもらったからね!その代わり、一口ちょうだいね!」
二人はその後、受け取ったかき氷を交換して口に入れる。そして、お互いのかき氷をもう一度交換して一口ずつ食べた。二人がかき氷を食べ終えた後に言った言葉は
「「頭いったーい!!」」




