湖と因縁と焦り 21
リーナはお風呂に入り、一息ついた後に宿の入り口まで行くとそこには刀を外し、軽い服装のミサキの姿があった。
「お待たせ。涼しい風が吹いてるね」
湖があるおかげか、村の周辺はひんやりとしていて、お風呂上りの体には気持ちよかった。
「うん、ネルももう一回誘ったんだけど、限界みたいだった」
二人はネルが指さししていた方向に向かって、ゆっくりと歩き出した。
「ネルって、どうしてあんなに眠るの?それに、仕事へのプロ意識というか…」
「ネルの魔法は燃費が悪いからね。睡眠することで節約しているんだよ。プロ意識に見えるのは罪悪感か
らなのかな?そんな必要どこにもないのにね」
ミサキは少し悲しそうに喋った。
「ま、悪い奴じゃないから仲良くしてあげてくれないかな?」
「うん、いい子なのはなんとなくわかる。プロ意識も私はしっかりしてるなぁって思っただけだから」
「リーナも良い子だね!」
ミサキはそう言って、リーナの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「あ、見えてきた!あれじゃない!?」
村を抜けて、しばらく歩いていると月に照らされて、神秘的な輝きを放つ湖が見えてきた。
「意外と大きいね!もう少し寄ってみよう!」
リーナとミサキは水辺に寄り、手で水をすくう。その水は驚くほど透き通っていた。
「リーナ、入ってきなよ!冷たくて気持ちいよ!」
ミサキの方を見ると、靴を脱いで湖に入っていた。リーナも真似るようにして靴を脱ぎ、ズボンの裾をま
くり水に入る。
「ほんとに気持ちいですね!」
「もう少し暑い季節の昼とかなら、泳げそうだな!」
リーナとミサキはしばらく水辺を歩いて、辺りを散策した。
「さて、そろそろ帰ろうか?」
「うん、明日も早いしね」
時間にしたら三十分もしないうちに、冷えてしまったので村へ戻ろうと靴を履き直す。
すると、対岸の方から大きな岩ほどもある影が見えた。
「ミサキ!あれ!」
リーナが影の方向に指を刺し、ミサキに声を掛ける。ミサキも同じ方向に目を向けると影を捕らえることができた。
「あのサイズ、魔獣クラス!」
ミサキはどこか嬉しそうに、影から目を離さない。影は湖に近づくにつれ、はっきりと輪郭を表しだす。口から飛び出たかのような大きい牙に大きな鼻だった。それは紛れもなく猪だった。
「ミサキ、早く逃げよう!目を付けられたら…!」
リーナはミサキの腕を掴み、村へ走ろうとするがミサキはその場から離れない。
「リーナ、あいつあたしたちに気付いてないよ。ほら、水を飲んでる。猪の魔獣なら、多分、狩れる…!」
「ダメだよ!武器もないし、魔法を使ってくるかもしれない!」
人間界で発見されるおおくの魔獣は突然変異であることが多い。それは、多くの場合が目の前の猪のよう
に体が倍以上になることがほとんどだが、中にはまほうを使うものもいる。
「あいつを狩れれば…!」
「ミサキ!」
リーナは思わず、ミサキの顔を手のひらで打った。リーナは魔獣の恐ろしさをよく知っているからの行為だった。
「今は逃げよう。どうしてもって言うなら、明日の朝にネルと一緒に探しに行こう」
それは、一日置いたら冷静になってくれると思っての発言だった。
「…そうだね。ごめん、今日は戻ろう」
それからリーナはミサキの腕をしっかり掴み、速足で宿に戻った。
翌朝、リーナが目を覚まし、宿の入り口に向かうと人だかりができていた。その人だかりの外側にミサキと頭の上で眠っているネルの姿があった。
「ミサキ、ネル、おはよう!何かあったの?」
「リーナか、おはよう。あいつが来たんだよ…」
ミサキは人だかりの中心に顎をクイと振る。その動作につられ、中心を見るとギルドでモミジを困らせていた大男、デルゴンがいた。
「昨日、この辺りで猪型の魔獣が出たはずだ!見たものは俺に話せ!」
デルゴンは周囲を威圧するように、大きな声で発した。その声と内容に周囲の住民はどよめく。
「あ、あの猪型の魔獣って、本当なんですか?」
一人の男性が恐る恐るデルゴンに近づき、尋ねる。
「あぁ、足跡からでも三メートルはあると思える。糞もまだ新しかったんだ!この辺りにいるはずだ!」
デルゴンは疑うように、周囲を見渡すとリーナ達を見つけて近づいてきた。
「っち」
隣でミサキが小さく舌打ちする。そして、踵を返しここを去ろうとするが
「待て!お前ら、冒険者だろ!?ん?頭に子供…」
デルゴンは顎に手をやり、何かを思い出すようなしぐさをする。その後、顔をニヤリと歪ませ
「そうか!おもりのミサキとエルフのコンビか!」
ミサキはその言葉に足を止める。だが、まだ向こうを向いたままだ。
「おい、ミサキ。そのエルフを置いていけ!そいつがいれば、魔獣なんてすぐに見つかるはずだ!」
ミサキはデルゴンの方を向き、大きく息を吸い
「ふざけるな!ネルを置いて行くわけないだろ!魔獣を探したいなら、あんた一人でやってろ!」
ミサキは声を荒げ、デルゴンに向けて発する。その声で住民は、どこかへ消え去った。
「おいおい、俺はこの村を守りたくて魔獣を討伐に来てやったんだぞ?」
「何を白々しく!お前は報酬とSランクへの切符が欲しいだけだろ!」
デルゴンはそう言われても、顔のニヤつきをおさめず
「そうか、なら仕方ない!帰りたければ帰るがいいさ!この村がどうなるかは分からないがな!お前がそ
れを置いて行けば…なんてことにならないといいな!」
デルゴンはそう言言い残し、笑いながらどこかへ消えてしまった。
「っく!」
ミサキは下を向いて、肩を震わせる。過去に何かあったのか、デルゴンへの憎しみがあるようだ。
「ミサキ…」
リーナが心配して声をかける。ミサキは下をずっと向いたまま
「昨日の時点でやれていれば…」
「でも、あの時は夜だったし、武器もなかったから…」
「うるさい!あんたが、邪魔しなければ────」
続く言葉を発しようとミサキが口を開くと、眠っていたはずのネルの腕がミサキの口に入った。ミサキはモガモガと暴れようとしたが、すぐに落ち着いた。
「ミサキ、冷静?」
「……ネル、悪い。焦ってた」
「ううん、謝るのは私じゃない」
ネルはミサキの顔をもって、リーナの方に向けさせる。
「あ、えっと、リーナごめん。あたし、つい…」
ミサキは頭を下げ、リーナに謝罪する。その時にネルは頭から飛び降りた。
「ううん、私もミサキがそこまで魔獣を気にしてただなんて…」
「リーナ、悪くない。けど、ネル、ミサキの気持ちわかる」
ネルはしずんだような顔を見せた。出会ってから、無表情というよりも寝てばっかりだったので少し衝撃だった。
「リーナ、ミサキ、一旦宿に。話し合い」
ネルはミサキの腕を引っ張り、宿に入って行った。その後を追うようにリーナも入った。




