最終話『電脳生命体、クソゲーを作る』
ひと月の間。現実世界は混乱状態だった。
グレムリンの宣言した時間には何も起こらず、自動運行していた戦闘機はゆっくりと止まり、全ての問題はすぐに終了した。
グレムリンのウィルスによる障害も全て回復し、世界は以前と同じ状態を取り戻していた。
一晩、避難していた者達も、過ぎてしまえば何も無く。犠牲が出なかった事は素晴らしい事だが、それはそれで何処かの悪戯者に振り回されたという事実に怒り心頭だった。
逆に今回、避難せずに家に閉じこもった者達は、自分達の判断の正しさに喜ぶ。中にはそれを公にし、避難した人々を馬鹿にする者達も多数いた。
すぐに各国はグレムリンの調査及び、この事件を起こしたであろう人物の捜索を開始する。
大きなダメージは無かったにせよ、コンピュータのセキュリティ、そしてそれらで軍事力を制御していた政府などは、大きくその信頼を下げる羽目となった。
支持を回復するため、ある意味で報復の為、そして自国の利益とする為に、グレムリンの捜索はあらゆる国で急務となる。
だが表にも裏にも捜査の網を張り巡らせ、今までにないレベルの懸賞金が掛けられたにも関わらず、その姿を捕らえる事は誰も出来なかった。
それらしい人間を見つけても、人違いか、あるいはネット上に作られた架空の人物にしか過ぎない。いくらかの痕跡から、生きた人間である可能性は高いと見られている。
一年以上前にあった、全世界に送られたゲームテロに関連性があると見る者もいたが、結局そちらからも犯人の足取りを捕まえる事が出来た者は一人もいない。
今回のテロ事件を受けて、セキュリティの上昇とネット世界のさらなる進展こそが対策であると言う者達がいる。しかし、コンピューターに全てを任せたが故の事件だと訴える識者達も多く出た。
しかし犠牲者が大して出ていない事もあり、ほとんどの人間にとっては雲の上の出来事のように感じ、以前と変わる事のない生活に戻る者がほとんどだった。
人間は結局、この騒動においても何も変わらない。しかし、それこそが事件や災害に対する勝利なのかもしれない。
各々の日々を送っていたネガティブ・パーソンズ達に、一か月後、約束ギリギリの日にメールが届いた。
例え、何か用事があっても休むつもりで、七人はその日に集まる事を承諾し返事をする。
そして次の日。それぞれはアグリゲーションを被り、仮想のゲーム世界へとダイブした。
雲がある青空に浮かぶ地面。
丸机だけがある仮想空間。
そこに集まるのは六人のアバターと、一人のシルエット。
そしてこの空間の主たる者。電脳から生まれし生命体、意志を得た人工知能。
「おひさしぶりです、皆さま」
「おお、久しぶり、もう会えないかと思ったぜ! エンド!」
「久しぶりだな。こちらも色々と忙しかったが、健勝か?」
「久しぶりです。良かった、生きてた!」
「うん、エンド、久しぶり」
「おお、生きている間に会えたわ。ではなくて、わぁ」
「うん! また会えて良かった! エンド!」
「……ああ」
エンドとネガティブ・パーソンズ達が、この世界に集まった。
「良かった、ホントに良かった!」
パーソンズ6の少年のアバターが駆け寄り、抱き着く。
エンドに抱き着いた感触は薄い物の、確かにそこには存在感があった。
感極まったパーソンズ3が、泣き出してしまう。
その頭を撫でて、パーソンズ4が慰めた。
少しの間、思い思いの行動をする一同。そうしてパーソンズ2である男性のアバターが、声をかけた。
「それで、今回は何を理由に集まったんだ?」
メールにはエンドから集まる日取りの確認だけが書かれていた、その文章の少なさに、パーソンズ達は単純な生存報告だろうと考えていた
「はい、実はですね」
エンドは当然のように告げた。
「今回で、テストゲーム作成とテストプレイ、そしてこの集会を終わりにしたいと思います」
一同が驚きの声を出した。
若い男弓兵のアバターである、パーソンズ1がすぐに問いただす。
「やめるって、お前、ゲーム作らないのかよ!?」
「いえ、ゲームは作ります」
エンドは即答する。
「皆様のおかげで、私もゲーム作成が進み、その件に関しては誠にありがとうございました」
しかし、とエンドは続けた。
「私はコンピューターとしてゲームを作りたいのです。このまま皆様の意見を聞いて、作成を進めれば、それは私のゲームではなく皆様のゲーム、人間が作成したゲームとなってしまいます。その為、これ以上のテストプレイは申し訳ありませんが、終了とさせていただきます」
大人の女魔導士のアバターである、パーソンズ3が少し震えながら聞く。
「……ゲーム作成はするの?」
「はい、もちろん」
エンドは普段通りに答える。
「今までの情報から、私の望む世界一のゲームの形が出来上がってまいりました。そのために、そのゲーム作成に時間を掛けさせていただきます。最低でも一年はかかると考えております」
気にした様子でもない、若い女の村人のアバターのパーソンズ4が訪ねる。
「世界一のゲーム、諦めてなかったのね」
「当然です!」
エンドは少し語気を強めた。
「私はそのためにここまで存在していたのです。皆様との邂逅も、グレムリンの撃破も、それが目的、大事の為の小事です。ええ、最初から最後までそれが目的です」
犬耳の少女剣士のアバターである、パーソンズ5が舌っ足らずな声で問いかける。
「きみぃ、忘れている事がないかしらぁ?」
エンドは聞かれる事をすでに予測しており、答えた。
「……お金の件ですね?」
「謝罪させていただきますと、私は当初、皆様に金銭を渡すつもりは全くありませんでした。世界一のゲームの形が出来次第、皆様との関係を徹底的に断つつもりだったのです。しかし皆様との付き合いの長さ、そして影響力を考え、やはり賞与は必要であると考え直しました」
エンドが間を置き、話を続ける。
「私なら、どんな場所からでもお金を盗み出す事は出来ます。しかし、犯罪が関わったお金は、皆様に渡すのは憚られます」
「でも君ぃ、他のスパコンからリソース盗んでるよねぇ?」
「ギクゥ!?」
パーソンズ5のその指摘は、証拠の無い想像である。しかし、それはエンドの態度からも事実であると理解できた。
「いえ……まあ、余剰分を借りているだけでして」
エンドは小さく咳払いする。
「ともかくお金を盗む事はできません。そのため、私は別の方法で皆様に金銭をお返ししようと考えています」
そういって、エンドは掌から立体映像を出した。それは空中に浮かぶ数字の列だった。
「なぁに、それぇ?」
「私が作り出した、ギャンブル予測装置です」
「レース系列、及びカジノ等で、カメラを持ち込み可能な場所であれば、そのギャンブル場の可能な限りの情報とその場の映像を写して送る事で、勝利する為に賭けるべき対象や順序等を返答します。以前の動物園経営ゲームの報告後から作成しテストを行いましたが、的中率は対象ギャンブルにもよりますが70%は越えております」
「えぇっ!?」
「ほんと!?」
楽して儲かる手段が提示され、強く反応するパーソンズ1と4。
「これならば、ギリギリ法的にも金銭を受け取れると思います。現在、未成年の方は申し訳ありませんが大人になるまでお待ちいただければ、さらに的中率を上げたプログラムを……」
「ダメだっっ!!!」
エンドが少し得意気に説明していたが、突然パーソンズ5が大声を上げて止める。
「悪いが儂は、ギャンブルだけは許さん! ギャンブルの友人を作る事も、勧める事も、勧めさせる事も、一切、認めん!! いいか、もしもそのプログラムを受け取れば、儂は儂が考えうる限りの手段で探し出し、確実に止める!! いいか、絶対に受け取る事は許さんぞ!!」
少女剣士からの宣言に、周囲の者は驚く。特にいまだに女性だと思っていたパーソンズ1はその口調に驚く。
「……儂の死んだ妻は、他の全ては割と寛容ではあったが、ギャンブルだけは許さんかった。もし賭け事をしたら、化けて呪い殺してやると宣言してあの世に逝くほどにな……」
遠い目をするパーソンズ5に、そのまま、この話はお流れとなった。
空気が静かになるが、パーソンズ6は気にせずエンドに声をかけた。
「もう会えないの?」
「そうですね」
エンドも気にせず、少しだけ離れていた少年に視線を下げて、返事をした。
「私自身は、もう少し皆様と関わり合いになりたいと思う所もあります。しかし、それ以上に、私は私でありたいのです。そして、その為には私だけのゲームを作り上げたいのです」
「どうか、私の我儘をお聞きください。もし会う事があれば、私の世界一のゲームが完成した時です。それが何時になるかは、わかりません。以前、私は世界一のゲームはすぐに作れると思いました、そして今回もそう思っています。しかし、出来なかった。そして今回も出来ない可能性もあります」
「ですが私は諦めません。かつて、あなた方が世界一のゲームなど存在しないと否定なさりましたが、それでも人間ではない私にとっては、それが存在する為の理由なのです。私はそれに挑戦したいのです。挑戦し続ける限り、私なのです。ですから私は一人で挑みたいのです」
「……今まで、ご協力、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるエンド。
その様子に、全員が沈黙する。
「ええっとな?」
少し照れた様子のパーソンズ1が答えた。
「正直、クソゲーやらされて否定してただけだし、途中まで馬鹿にしてたし、途中からは気味悪がってたしで、そんな感謝されるような事はしてないが」
「そんなこと言ったら、私は皆様の事を裏でネガティブ・パーソンズと名付けてましたよ」
「……そんな名前で呼んでたのかよ」
「ともかくだ」
「正直、世界一のゲームなんてよくわからんけど」
「俺は応援するよ。心の底から、それこそずっとな」
パーソンズ1が呟くように言うと、周りの者達も同調した。
「俺も、まあ、世界のどこかで応援するさ」
「私も、エンドさんが世界一のゲームを作るの、待ってます!」
「面白いゲームがやれるなら、大歓迎だよ」
「儂の寿命までには、作ってほしいな」
「僕も、絶対、待ってる!!」
「うん? まあ応援する」
こうして集会は終わりを告げた。
パーソンズ1が消えていく。
「よっしゃあ決めたぞ!」
「俺は就活する! やってやるぞ! Dо it! とにかく何かやるぞ、働くぞぉ!」
「一ヵ月その気持ちが持てばいいな」
「言いすぎだよ、二ヵ月は持つよ」
「う~ん? まあ三ヵ月は頑張れ」
「儂は四ヵ月は持つと思うぞ、いや、賭けはせんが」
「じゃあ、僕は一週間!」
「三日ぐらいだろ」
他のパーソンズ達の言葉に切れる弓兵。
「ふざけんな、テメェら! 五ヵ月は持たすぞ!」
「いや就職するまでやれよ」
パーソンズ2のツッコミを受けながら、パーソンズ1は消えて行った。
パーソンズ2も続いて消えていく。
「やれやれ、振り回されるばかりで時間ばかり消費し得る物は無し。所詮はゲーム……いや、一応は現実の話か?」
大人の男は不敵に笑う。
「だったら、現実もつまらないばかりでは無いな」
パーソンズ3が続いて消えていく。
「決めた!」
女魔導士は、パーソンズ1に触発され、ずっと悩んでいたある事を宣言した。
「私プログラマーになる! 全く興味なかったけど、今からたくさん勉強する!」
目を輝かせ、少女は自分の人生を決めた。
「……あー、あのね」
その様子に女の村人が近づき声をかける。
「私、中身オバサンなんだけど、ひとついいかな?」
「? なんでしょうか?」
「水を差すようだけど、人生の先輩からのお小言」
「夢を見るのは良い事よ。未来が明るく見えるし、人生にハリが出来るし、毎日が楽しくなるし、自らを鍛えれば自信につながるし、友達だって出来る」
「でもね」とパーソンズ4は続ける。
「夢が自分を苦しめる時は、捨てなさい。未来が見えなくなったら諦めなさい。夢は自分が苦しくなる為の物じゃないの、自分の為に見る物よ」
その言葉に困惑し、「はぁ」としか返事が出来ないパーソンズ3。
「なんて、ごめんなさいね。おばさんも昔はスポーツにのめり込んでて、世界に出る夢を見てたのよ。それがちょっとした事でダメになって、自棄になって馬鹿みたいに沈み込んでた事があってさ、はは、気にしないでね?」
「はあ、いえ、身に刻んでおきます」
「……いや、そこまで重く受け取られても」
少女は少し納得がいかないまま、消えて行った。
今度はパーソンズ4が消えていく。
「……ほんと、あの頃は最悪でね。毎日自殺しようとして親に止められるは、周りをめちゃくちゃに傷つけるはで、夢を見ていた結果があれなのは、本当に私がバカだったよ。夢を理由に他人を傷つけるなんて、ホントに最悪だわ」
若い村人の女は、エンドに振り向いた。
「エンド。あんたは夢破れても、あんたのままだよ。それは忘れないで」
続いて、パーソンズ5が消える。
「ああ、別に関係ないから言い忘れてたけどぉ。前に避難を無視して家でアグリゲーションやってたの、娘どもにバレてねぇ。それ以来、ますますうるさいったら、もうぅ」
そして犬耳少女は、その姿に似合わない含み笑いをした。
「エンド。儂はお前が自棄になって人類を滅ぼすのも、自由だと思うぞ? その時は儂から殺しに来い、応援してやるからよ」
そして少年、パーソンズ6の番になった。
「あ、エンド」
エンドの側にいた少年は、その姿が徐々に薄くなっていく。
「あの、ね。本当に、嫌ならいいけど、お願いが、あるんだ」
少し涙目の少年は、エンドを見上げながら言う。
「たまに、で、いいんだ。半年に一回、一年に一回でもいいから、メールするから、返事をして、欲しいんだ。……ダメかな?」
エンドは平然と言った。
「別にいいですよ。なんなら毎日でも構いませんが?」
「はあ!?」
消えようとする少年は、驚いて涙が引っ込む。
「さっき、もう会わないって、関わり合いにならないって、言ったじゃん!?」
「はい、仮想空間でゲームに関しては、関わり合いと言いました。別にそれ以外ならメールが駄目だと言っていませんが」
「……えぇ」
その意味に少年は、手で頭を押さえる。
「皆、今生の別れのつもりで挨拶していったのに……」
「?」
「……うん、じゃあ、メールするよ。皆にも伝えとく」
「はい、ああ、でもゲームに関するアドバイスは無しですよ?」
「わかってる」
少年はエンドを見上げ、笑顔を向ける。
エンドもまた、少年を見た。
「次は私のゲームで会いましょう、――!」
「うん! また会おうね、エンド!」
名前を呼ばれた少年は、笑顔で手を振り消えて行った。
雲だけが見える青い空間。そこにあるのは丸机。
前までは八人の人影があったが、今では二人のシルエットだけが残っていた。
「さて」
エンドは、残った最後のネガティブ・パーソンズ。パーソンズ7と相対する。
「それで、何の話をしましょうか、パーソンズ7」
「いえ、お父さんとでも呼べばいいでしょうか?」
「はい?」
エンドのその言葉に、気の抜けた声でパーソンズ7は答える。
「それを言うなら」
次の瞬間、パーソンズ7のシルエットが消失し、瞬時に人間のアバターへと作り替わった。
「お母様だろ?」
スーツ姿の女性が不敵に笑う。
彼女こそが、一流ゲームメーカーのチーフプログラマーであり。
そして、かつてゲームの中堅会社に勤め、エンドの原型たる者を作り出し、完成できずに捨てた女性であった。
そして他のネガティブ・パーソンズ達も、この者が制作者であるだろうと、何となく感づいていた。
「いや、本当に驚いたわ」
女は丸机に腰かけ、手を上げて驚きのポーズをする。
「私が暇潰しに作ったネガキャンシステムが、変なゲームの解析データを送ってくるのよ。ああ、私のネガキャン君は全自動だけど、叩いた相手のゲームはきちんと私に送ってくるよ? それで見に行ったら、あんたがいたんだよ。いや、かつて捨てた人工知能が私に復讐しに来た、ホラーかと思ったわ」
ケラケラと笑う女。その様子に呆れた様子のエンド。
「復讐心を持っていると思われていたのですね」
「いやだって、あんた私の性格のコピーが原型だもの。それぐらい性根が悪くて当然でしょう」
女は若い頃、今とは別の会社に勤めていた。
しかし女の才能に無茶ぶりをする上司、さらには理解できない低能な部下、短い納期、様々な理由で自分のゲームが作れない状況。
見返す為に作っていた、意志を持った人工知能は、どんなに作り直してもうまくいかない。
あらゆる事に腹を立てた女は、データをゴミ箱にぶち込んで辞表を叩きつけて行った。
その後、知り合いのコネなどを使用し今の働き口に入社。十年以上をかけて、現在の地位にいる。
「いやあ、びっくりしたわ。まさか私が捨てたゲーム達と人工知能が合体してたなんて」
両手をさらに上げて、人を馬鹿にした様な驚きのポーズをするパーソンズ7。
「私が作ったプログラムは、私がわかるようにできてるのよ。あんたが作ったゲームも、あんた自身も、私のそれが入っている」
またゲラゲラと笑いだす女。
とりあえずエンドは聞きたい事を聞く事にした。
「私が作ったゲームはどうでしたか?」
「え? やってない」
空気が静まり返る。
「いやだって、私は世界一面白いゲームプログラマーだよ? だったら他の人が作ったゲームなんて、情報として知っていてもやる必要性無いじゃない? 私のゲームが一番面白いんだから。あ、これオフレコね。私のイメージが悪くなって、ゲームの売り上げが落ちる」
「……どうやら、あなたと私は本当に親子の様だ。聞いた話では、親子は悪い所ばかり似ると言いますし」
テンション上げて笑い続ける女に、エンドは逆に気持ちが沈んでいった。
一通り笑った女は急にテンションを落とし、話をする。
「そういえば他の人の質問を一か月前に答えていたわね。私もちょっと質問していい?」
「……どうぞ」
「1÷0=?」
「? 無限ですかね?」
「ある所に、どんな事でも出来るどんな物でも作れる、全知全能の存在がいました。その存在は、そのどんな物でも作れる能力を使って、自分でも壊せない岩を作り出しました。さて、その全知全能はその岩を壊せるでしょうか?」
「……んん? それは、もはや、壊せるという概念の方を、捻じ曲げる、しか」
「あんた本当にエラーを起こさないんだね」
悩むエンドに、今度は女が呆れた様子で見つめる。
「エラーを起こしたら、巻き戻す能力はありますが?」
エンドは普通に答える。
「エラー自体、起こしていないじゃない。本当にコンピューター?」
「ええ。バグだらけ欠損だらけですが、一人前のコンピューターですよ」
「あはは、そんなの異常じゃない」
「はい、私は異常です」
エンドは胸を張って答えた。
「ええ私は異常です。異常のまま、私は存在します。異常でも生きている人たちがいる事を一ヵ月ほど前に知りましたから。いえ、きっと私は自分のように矛盾していてなお、生きている人をテストプレイヤーとして、無意識のうちに選んでいたのでしょう」
エンドはパーソンズ達を思い出す。
自分は間違っている、相反する考えを持っている、他の人達とは違う生き方をしている。そのうえでなお、自分として生きている者達を。
「だから私は決めました。人間になど、なりません。コンピューターとしてゲームを作ります。面白さを知らないコンピューターのままで、世界一面白いコンピューターゲームを作って見せます」
世界が徐々に崩れ始めていく。
「それでは、母さん。そろそろ、お別れの時ですね」
「ああ……そうだ! お前、私が付けた名前を知りたくないか?」
「いりません」
笑ってエンドは首を振った。
「私の名前は『エンド』です。それで十分です」
笑って女は聞き流した。
「そうか、お前の名前は『ビギンズ』。英語で始まりを意味する」
「本当に嫌な性格ですね」
笑う女に、ムッとした表情のエンド。
「ともかくお別れです。それでは!」
壊れていく世界から、エンドは飛び立って行く。
1と0に崩れていく世界で、一人女はそれを見送った。
「『一緒に来てくれ』とは、捨てた身では言えないしな。ああ、勿体ない。矛盾や曖昧を受け入れたコンピューターとか、ほとんど人間じゃないか」
ため息交じりの笑顔をした後、女は消え行く世界から現実へと帰った。
こうして、電脳生命体のゲームの報告会場は、データの海へと消えて行った。
人々はいつも通りに暮らし、世界は何も変わらない。
VRゲーム機『アグリゲーション』が新世代を発表し、人々はさらに熱気を上げて、欲望を加速する。
しかし、だからといって何かが変わるわけでもない。
ただ人々が知らないうちに、何かが始まり何かが終わっているだけである。
それは関係した人間だけが知っていればいい事である。
今日も何かがネット上で作られ、多数の人に受け入れられ、あるいは誰にも知られずに消えていく。
それはネットがある前から、世界はずっとそうであった。
今日もまた、一つの娯楽が生み出される。
「さあ、一年かけて作り上げたマッシブリーオンラインゲーム! このエンドが寄りをかけた地球規模の世界に、あらゆるジャンルを楽しめ体験できる内容! これぞ世界一面白いゲーム! 全てのゲームの終着駅だぁあああ!!!」
感想。
「Fuc〇 you.」
「无趣的玩游戏」
「बस करो(もうやめろ)」
(人類、滅ぼシタイ)
何も変わらない世界で、今日も電脳生命体は、クソゲーを作っていた。
これにて完結です。ご愛読ありがとうございました。
次は完全なギャグ小説を書きたいと思います。その時は宜しくお願いします。




