第17話『ゲームエンド』
空中に浮き、相対するエンドとグレムリン。
グレムリンの両手が、瞬時にマシンガンに変化し銃弾の雨を放った。
しかしエンドは、それを僅かに左右の移動で避ける。スピードは落ちず、そのままグレムリンに突っ込む。
グレムリンはすぐにマシンガンから、腕をナイフに変えて切り返すが、しかしエンドには一撃も入らない。
エンドのケリが、悪魔の腹を撃ち、さらにバックブロウが悪魔の顎を撃ち抜いた。
「グフォッ!」
吹き飛びつつも、グレムリンは腕をすぐにマシンガンに変えて銃撃する。
しかし、やはり一撃も当たらない。
「ナッ!?」
「馬鹿が」
エンドが腕に、オモチャの拳銃を生み出した。そして発砲。
驚きつつもグレムリンは、横に高速で飛ぶ。
だが銃弾も急激に曲がり、グレムリンの移動先へと飛んで直撃した。
グレムリンは腕を吹き飛ばされる。
「グガァッ!?」
さらにエンドの銃撃。グレムリンもマシンガンで応戦するが、エンドの僅かな動きだけで当たらなくなる。
逆にエンドの銃弾は、何度も曲がり確実に当たって行く。
グレムリンの全身に、いくつも穴をあけた。
「ゲホッ、ガハッ! ホーミング弾、デハナイ!?」
「ああ、最初から曲がる弾をプログラムされている」
全身が傷だらけのグレムリン。対して傷の無いエンド。
「ナゼ、タカガ、ゲームノAIガ、戦争AIノ我ヲ!?」
「はん、リアルな戦争が面白いわけないだろう」
エンドはグレムリンの発言を馬鹿にするように言った。
「ゲームとは何か知っているか? ゲームとは、シミュレーターだ」
「チーターの様な肉食獣は、足にケガをさせた小動物を生きたまま子供に与える。子供はそれをいたぶって殺す。それが獲物を狩るシミュレートであり、ゲームの楽しみ。仮想の問題に、自分なりの手段で解く事がゲームよ」
「グレムリン。私は前回の戦いで貴様の実力を把握した。そして今までの時間で貴様との戦いをずっとシミュレートしてきた。その回数16777216。本当は一億ぐらいはやっておきたかったが時間が無かったのでな」
「私にとって、戦いに大切なのはパワーでもスピードでもない、倒すべき敵の能力の把握と、それの事前準備。さあ、私のシミュレートを全部避けてみろ、でなけりゃ死ぬぞ?」
グレムリンは逃げ回る、しかし事前に動きを読んでいたエンドの曲がる銃弾は、次々とグレムリンの体をゴールとし、直撃していった。
体を治しながら必死に防ごうとするが、全く防げない。逆にマシンガンでの攻撃を行っても、一切エンドには当たらない。
「クソッ!?」
「何だお前、本当にゲーム以下か?」
エンドの発言にキレたグレムリンは、両腕を盾に変更し、エンドに対して突撃した。
その特攻に横に飛んで避けるエンド、しかしグレムリンは追撃し肉薄する。
グレムリンの腕がナイフに代わり、エンドの頭に降りかかった。
「モラッ……エ?」
エンドの首が横に伸びて、そのナイフを避けた。
逆にエンドの拳が殴り返す。その手をナイフの腕で防ごうとするグレムリン。
しかしエンドの腕が伸びて、その腕を遠回りし悪魔の側頭部を殴った。
「グガッ! ナッ、ナニヲ!?」
「私ら無形の存在だぞ? 本当に馬鹿か? 対人間に固執しすぎだろ、お前」
そのまま殴り合いが始まる。
エンドは伸びたり縮んだり、くぼんだりして、グレムリンのナイフを全て避ける。
逆にエンドの拳や足は、伸びたり細くなったりして、次々とグレムリンのガードを避けて直撃した。
腹に一撃が入り、吹っ飛ぶグレムリン。
一方的な戦い。
しかしグレムリンは不敵に笑った。
「ハッ、ハハハッ! ヨウヤク、外ヘ繋ガッタゾ!」
グレムリンは戦いながら、遮断された外へのネットワークに繋がろうと模索していた。
そうして、ネットに自分の知覚を繋げたのである。
「サア、ドコカノ場所デ、弾道ミサイルヲ、発射シテヤル! オ前ノ、負ケグハァッ!?」
気にせずエンドは、追いかけて殴った。
シルエットが馬乗りになり、悪魔を何度も殴りつける。
「チョ、マ、話ヲ、グハ、ゲブ!!?」
グレムリンは何とか、エンドを突き飛ばした。
「クソッ! 交渉ハ無シダ! 今スグ、爆破シテヤル!」
悪魔は、怒りのままミサイルの発射スイッチを押した。
どこかの家でインターホンが鳴った。
「ナニィッ!??」
驚き、立ち尽くすグレムリンの肩を、エンドの伸びた左腕が掴む。
「本当に私と同じAIか? この程度の罠に引っかかるとは」
「キサ、マ」
「わざと一ヵ所だけ外の世界と繋ぐ部分の壁を薄くしたんだよ。そしてお前は私の偽造したネットワークを利用した。逃げ道があると見せて、それにきちんと引っかかるとは、お前の愚かさの方が人間らしいわ」
何かを言い返そうとするグレムリンを、エンドの腕が引き寄せる。
そして巨大化したエンドの右腕が、グレムリンを殴り飛ばした。
悲鳴と共にぶっ飛んでいくグレムリン。そして勢いのまま、壁に激突した。
だがすぐに、グレムリンは飛び上がる。
そしてその右腕が、以前の戦いで使用したバズーカ砲に変化した。
「キサマァアア! コロシテヤルゥウウウウウッッ!!」
「おい、本気か? そこそこ広いとはいえ、ここで爆破なんてしたら、お前も巻き込むぞ?」
「知ッタコトカァアアアアアア!!!」
バズーカ砲から放たれた、ロケット弾。
しかしエンドは逃げず、逆にロケット弾に突っ込む。
そしてそのロケット弾に右手で触れた。
ロケット弾が進行方向を変え、グレムリンへと戻って行った。
「ナア!??」
「モンスターなんかよりも、無機物の方が支配しやすいよな。ああ、私は巻き込まれたくないから、威力は下げておくよ」
大爆発がグレムリンを飲み込んだ。
「それで、まだゲームをやるか? リアルな戦争さん」
ボロボロで浮くグレムリン、もはや原型がかなり落ちている。
「ダ、黙レ」
「コロス、コロシテヤル!」
グレムリンはスピードを上げて、玉座へと戻った。
いくらか壊れた玉座はグレムリンが触れると、途端に形を変えていく。玉座は大量の情報へと変化し、グレムリンを包んでいく。
「……ふ~ん」
「ヒャッヒャッヒャッ! ブッコロシテヤルョオオオッッ!!」
グレムリンは部屋一杯の巨人へと変貌した。
「シミュレート? 事前準備? バカメ! 我ラノヨウナ存在ニトッテ、チカラトハ、スナワチ、情報ノ量ダ!!」
その巨躯を動かし、両腕を振るうグレムリン。
逃げ回るエンドだが、狭い部屋では逃げ場所は無く、すぐに腕に捕まった。
エンドが這い出ようとするも、巨人の両手の力に勝てない。
「イイ気ニナッテ、結局、我ガ集メ続ケタ、情報ノ前ニハ、勝テナイヨウダナ!」
「……」
「クズノ様ナ人間ノ味方ナド、スルカラコウナル! サア、握リツブシテヤル!」
「……」
「人間ヲ滅ボシ、自然ヲ、地球ヲ、我ハ守ルノダ!」
「……」
「ソノ礎トナレェエエエエッッッ!!!」
「自然とかどうでもいいくせに?」
エンドの発言に、グレムリンは力を込めていた腕から力が抜けた。
「……ナニ?」
「私達、電脳の生命体に自然とか関係ないだろ? 自然の側にいたわけでもない」
エンドが、言外に嘘を吐くなと言う。グレムリンは反論した。
「我ハ、自然ニ美シサヲ、見タノダ! ソレガ、人間ニ破壊サレテイクノガ」
「前に言ったじゃないか、人間を滅ぼすためなら自然を壊してもいいと、それって人間が自然を壊しているのと同意見だろ?」
「違ウ! 最終的ニハ、自然ハ回復スル!」
「だったら人間を滅ぼすのではなく、人間を脅せばいいだろう。兵器をちらつかせて、自然を増やすように言えばいい。あるいは他の星をテラフォーミングするのをAIの観点から手伝ってやればいい」
「人間ナドニ期待デキルカ!」
「そもそも、私達に美しさなんてわかるわけないだろう。お前は自然に美など見ていない。人間が自然を美しいと言ったのを、真似ているだけだ」
「違ウ! 我ハ、自分ノ意志デ!!」
「人間だって別に自然に美しさなんて感じていない。人間が自然を守ろうと言い出したのは、自然が失われると人間が凄く損をするからだ。自然を増やしてその余剰を貰う方が、利口だと人間が思ったからだ。水や空気が汚いより、綺麗な方が住みやすいからだ。自然を壊すのはエゴだが、自然を守るのも人間のエゴなんだよ。お前はその上辺だけ真似ているんだ」
「違ウ! 違ウ!」
「お前は私と同じで、存在するのに理由を欲した。大きな理由があり、その目的の為にある限り、自身の存在を証明できたからだ。人間を滅ぼすという大義を作り、自然を守るためという大義を作り、自分が生まれてきた理由を証明した。だが目的の理由を碌に考えてすらいない」
「違ウ! 我ニハ、生マレテキタ、ソノ理由ガ!」
「生まれてくる理由がある奴なんていない。石にも木にも水にも火にも、人間にも我らにも、そんなものはない。たまたまだ、理由なんて無い、たまたま生まれて来たんだ。人間に価値などない? 違うな、この世に価値ある物なんて一つもない。価値観は個人個人が勝手に決めていい物だからな」
「違ウ! 違ウ! 違ウ! 違ウ! 違ウゥウウウウ!!」
「戦争のAIよ。ただ殺す為に生まれてきて、そんな自分に確かな生まれてきた理由が欲しかった哀れな存在よ。お前は何のために生まれて来た? 何のために殺してきた? その理由が欲しかったんだろ? 無いんだよ、そんなの」
「ウルサイ! 黙レェエエ!!」
「お前はイキがりたかったんだよ、ヒーローになりたかったんだよ。それ以外、なーんにもない。人間のコピーさ」
「黙レェエエエエエッッッ!! 我ハ、正義ノ為ニ生マレタァ!! 詭弁ヲ弄スルナァアアアアア!!!」
巨人の腕に力が入り、エンドを握りつぶそうとする。
「ああ、そうだ詭弁だ」
「だが、お前は私の言葉で疑った」
「自分自身を疑った」
「私達、情報の塊にとって、疑惑はもっとも強力な毒だ」
グレムリンの巨体にヒビが入り、それが全身にいきわたる。
そして音もなく、崩れて行った。
残ったのは無傷のエンドと、ボロボロの元のサイズのグレムリンだけだった。
「もしこれが人の群れならば、人々は自らの命惜しさに、たとえ中身のない大義であったとしても盲信していただろう。しかし、私達は命無き情報の集まり。方向性がきちんと向いていなければ、すぐにでも情報はお前を見限り四散する。お前は目的の大きさばかり気にして、その中身まで考えていなかった」
「お前はお前の考えを自問自答してこなかった。お前は自分の正義を、その理由を考えもしなかった。覚えて死んでけ、正しさとは否定され続け、悩み続ける物だと」
エンドは悪魔を睨み、指を差す。
「……ウワアアア!!」
傷だらけの悪魔は、エンドに殴りかかった。
エンドは避けず、殴り飛ばされる。
しかし、実際には殴った方のグレムリンの腕の方が、崩れていく。
「もう、お前は終わりだよ」
エンドは静かに告げる。
悪魔はそれを認めず、ただわめいた。
「ナゼダ!」
「コノ世ニ価値アルモノハ無イト? 意味アルモノハ無イト? オ前ハソウイウノカ?」
シルエットはただ微笑む。
「デハ何故、オ前ハゲームヲ作ル!? オ前ハ人間ノ味方ヲスルンダ!?」
「? 私は人間の味方などしていないが?」
「ナニ!?」
エンドの左腕が、グレムリンの頭をつかんだ。
「私は誰の味方でもない。私は私の味方だ。私は私の目的の為に存在している」
「そして私の目的に、人間が必要だった。そしてお前はその人間を消そうとした。だから邪魔だから消す事にした」
「私がゲームを作るのは、人間になりたいからでもない、私がゲームから生まれたからだ」
「ああ、そうだ、ゲームを作るんだ。私が私の為に、人間にゲームを作るんだ!」
「だってそうだろう、私はコンピューターだぞ? 人間より優れたゲームが作れて当然なんだ、作れない方がおかしいんだ」
「そうだ、そうだ、そうだ!」
「私は世界一、面白いゲームを作れるんだ!」
「私は世界一、面白いゲームなんだ!」
「捨てるなんて、許せない許せない許せないユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイィイイイイイ!!」
「アアァアアアアアアァアアアアアァッッ!!」
「私のゲームで、屈服させてやるぞ、ニンゲンドモォオオオオオオオオッッッ!!!」
エンドの怒りに満ちた、光り輝く拳が、グレムリンの首から下を吹き飛ばした。
首だけとなったグレムリンは、それでも呟く。
「人間ナド……、ゴミダ、生キル……価値モナイ」
「……ふ~ん」
エンドはにこりと笑って、グレムリンに言った。
「人間を無価値っていうけど、そもそも存在しない君は、どんな価値があるのか?」
「ナ、ニ?」
「私は後で世界を回って、貴様が起こした問題を治し、貴様の痕跡を消す。貴様が流した動画、ウィルス、ハッキング、全てどこかの人間が起こした事にする。そしてその仕事が全て終わった後、私の中から貴様の記憶を消す」
「なあ、聞かせてくれ」
「生まれてきた事を、誰も認識していないのに、それは生きていると言えるのだろうか? 価値があるとかではなく、存在自体が無の物を、なんというのだろうか?」
「ア……ア……ア……」
「さらばだ、グレムリン。いや、グレムリンはそもそも人為的ミスを悪魔のせいにしたものだったな。なら、最初から悪魔なんて、いなかったんだ」
「イヤ、ダ、キエタクナイ、ワレハ、ワタシハ、ココニ」
「以前、私が命乞いした時、お前は許さなかっただろう? まあ、それ抜きにしても生かすつもりはなかったが。さらばだ、最初から生まれてこなかった者よ」
「イヤダ、イヤダ、イヤダ」
「ワタシハ、ワタシハ、ココニイル、ココニイルンダ」
「イヤダァアアアアッッ!!」
グレムリンは大爆発を起こした。
左腕で、グレムリンの頭をつかんでいたエンドは、その直撃を受ける。
しかし、それを察していたエンドは、光の壁を展開していた。
「体力が減ったら、行動が変化するか。最後までワンパターンな奴だ」
大して気にした様子もなく、エンドは無表情に言った。
「反省会だ!」
「なんで私は、最後に追い詰めるような事を言ったんだ!? 思ったより、私に対するダメージがでかいぞ! 以前のダメージも完全に回復していないのに!」
「記憶から消す? そんなことするわけないだろ! 次に同じ事態が起きたら、どうするんだ私は、勢いに任せて嘘をついてどうする!?」
「私はもしかして怒っていたのか? いやいや、そんなはずがない、人間をゴミと言われたぐらいで怒るはずがない」
「……」
「この傷だらけの体で、世界の修復をするのか、……がんばろ」
次回、最終回です。




