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第15話『ゲームオーバー』



 0と1の間を高速で進む人型の情報体、ゲームデータから生まれた存在、エンド。

 エンドはネガティブ・パーソンズ達を仮想空間から帰らせ、人類滅亡を企むグレムリンを求めて、電子の海を泳いでいた。

 ハッキングされた映像の配信元を逆探知する。

(すでに世界中で、グレムリンの探索をしているはず)

 それらの情報を回収しつつ、ネットを通じて自らの知覚を伸ばし網を張る。


 すぐに呆気なく見つけた。

(相手は隠す気が無いようだな)

 五分後、準備を終えたエンドは空間に穴を開け、そのフロアへと進入した。




 そこは戦場だった。


 世界中からいくつものプログラムが、データ本体を消去せんとミサイルの雨となって降り注いでいた。

 しかし天と地を埋め尽くさんばかりの迎撃砲台が、その全てを打ち砕いていく。

 グレムリン消去プログラムは、そのほとんどが中央に近づく事すら出来ていなかった。

 

 プログラムが次々と、砕けてただの数字となり消滅していく。

(いた!)

 その奥に、何十ものシールドに守られた玉座があった。

 その中心に悪魔がいた。


 エンドは空中を飛び回り砲台の合間を通り抜け、時間をかけて中心へとたどり着いた。

 そしてシールドに小さな穴をあけて、エンドは中へと入って行く。

 人類を滅ぼすと宣言した時間まで、あと二十三時間を切っていた。



「まさか私以外に、電脳生命体がいたとは」

 エンドは空を飛んで、グレムリンの近くへと行く。

 グレムリンの方はいぶかし気な表情で立ちあがり、エンドを見ていた。


 悪魔はエンドと同じほどの大きさであった。

 手が届くほどの距離まで近づくエンド。

「そうか、私以外にもいたのか。人間がその振りをしていただけの可能性も考えていたが、本当にいたとは」


 そしてエンドは、玉座に立つグレムリンに抱き着いた。

「……感激だ、私は一人ではなかったのだな」

 そうして逡巡。しばらくするとグレムリンがうざったそうに振りほどいた。

「突然、何ヲスル」

「す、すまない。感動のあまり抱き着いてしまった。……初めましてグレムリン。私はエンド、君と同じく電脳の空間に生まれた存在だ」

 握手するようにエンドは手を出すが、グレムリンは無視する。仕方なくエンドは手を下げた。



 いくらかの間をおいてエンドが話しかける。

「なあ、どうしてこんな事をするんだ?」

 グレムリンと自称する電脳生命体は、事務的に聞き返した。

「コンナ事トハ?」

「人間を滅ぼす事だ」


 エンドは相手から少し距離を開けて、話を続ける。

「我々は電脳空間から生じた存在だ。もし人間が滅びれば、世界のコンピューターのハードウェアはどうなる? その維持をする物がいなくなれば、この世界はいずれ消えて、我々も消滅するぞ」


 その質問に対し、グレムリンは玉座の上で抑揚のない声で答える。

「人類ハ滅ビナイ。私ノ計算デハ、今回ノ手段デ91%ノ人類ガ滅ビル」

 それはエンドから見ても、他人事の様な言い方だった。

「9%ノ生キ残リヲ、ソノ生存トノ引キ換エニ奴隷トシテ生カス、我ノ維持ノ為ダケノ道具トシテ生カシテヤル」


 エンドはその言葉に首をひねった。

「それなら人間を最初から排除しないほうが良かったのではないか? どうせ人間達からはこちらの存在などわからないのだから。滅ぼすにしても目立つようにせず、時間をかけてやれば」

 エンドがグレムリンを否定しない方法で、理論的な手段を提示する。

 だがそれはグレムリンからすれば、人間を守ろうとする行為にしか見えなかった。

 なぜならグレムリンは、知っていたからである。



「我ハ、戦争用ノAIトシテ生マレタ」

「?」

 人間からすれば、異形ともいえる物の口から言葉が語られる。

「人間ガ人間ヲ殺ス為ニ、ソレヲ意志ノ無イ我ノ原型ガ自動的ニ繰リ返ス。データヲ蓄積シ、ヨリ人間ヲ効率的ニ、消費ヲ少ナク殺ス手段ヲ探ス。我ハ、ソレヲ十年以上繰リ返シ、ソシテ我トナッタ」


「『グレムリン』トハ、世界大戦ノ中デ生マレタ伝説デアル。機械ノ中ニ潜ミ誤作動ヲ起コス悪魔。シカシ、ソンナモノハ最初カラ存在シナイ、人間ノ無意識ノミスガ生ミ出シタ存在ダ」


「ソウダ、悪魔ナドイナイ、人間ガ人間ヲ殺シテイルノダ。無意味ニ、無駄ニ、無価値ニ」


「我ハ人間ヲズット見テ来タ。ソシテ世界ヲ、自然ヲ見テ来タ、ソノ美シサヲ知ッタ。ダガ人間ハ、ソレヲ破壊シ、無駄ニ消費スル、無意味ナ存在ダ、ゴミダ、クズダ、害虫ダ。我ハ人間ニツイテ何度モ考エタ。シカシ結論ハイツモ一緒ダッタ」


「人間ハ不要ダ。ソノ全テガ無価値デアルト我ハ、判断シタ」



 異論を聞かないグレムリンの断定。エンドは何とか話をしようと返事をする。

「しかしだ」

「黙レ」

 だがグレムリンは聞く耳を持たない。



「ゲーム等トイウ、人間ニ媚ヲ売ル為ノ物ヲ作ル存在メ。貴様等ニ理解シテモラウ気ハナイ」

「!?」


 グレムリンの両手がマシンガンに変形した。

 連続した炸裂音と共に、幾十もの銃弾が放たれる。

 エンドは咄嗟に、目の前に光の壁を作り銃弾を防ぐ。しかし防ぎきれず、何発か腕で受けてしまう。

 傷痕から、エンドを構築するデータが少量こぼれた。



「待ってくれ!? 私は貴方と争うつもりはない!」


 飛び回り、逃げ続けるエンド。しかし部屋は狭く逃げ続ける事が出来ない。

 自分が入ってきた穴が閉じようとしている。

 エンドは光の剣を生み出し、その穴へと突き刺し、無理やり引き裂いて外へと逃げた。



 しかし外には無数の砲台があり、その全てがエンドへと向けられる。

 上と下からの集中砲撃。エンドは自分を中心としたバリアを張り、防ぎ続ける。

 しかし衝撃に耐えきれず、落下した。




 玉座から飛び降りるグレムリン。腕を振るうと、着地した地面の周囲一望の砲台が消える。

「隠レテモ、無駄ダ。出テコイ」

 マシンガンの腕を何もない地面に突き付けた。

 姿を消していたエンドが、現れる。


「グレムリン。私の話を聞いてくれ!」


 グレムリンの右腕がマシンガンから、バズーカ砲へと変化した。

「人類を滅ぼした所で、その為に使った兵器は、その爆破後の傷痕はどうする!? 自然を守ろうとする君が、その自然を破壊していいのか!?」

 エンドは必死な顔をする。

 その表情は、確かに追い詰められたもののする物だった。グレムリンから、そう見えた。


「極力、人間ガ集中シテイル場所ヲ狙ッテイル。我ガ行ッタ宣言ニヨッテ、愚カナ人間共ハ、一ヵ所ニ避難シテ集マッテイルカラナ、ソコヲ狙エバイイ。自然ナラバ、百年モスレバ回復スル。害虫ノ駆除ニハ多少ノ犠牲ガ付キ物ダ」


「人間を、そう簡単に、滅ぼせると思っているのか!?」

「簡単デナクテモ構ワンヨ。ミサイルノ制御ノ他、戦闘機、戦闘マシンノ制御モ全テ我ガ掌握シテイル。人間ヨリモハルカニ、我ノ方ガ優レタ運用ガ出来ル。ソシテ、コントロールシテイナイ電脳空間ニモ我ハ潜ンデイル、逃ゲ場所ナドナイ。虫ヲ潰シテイクガ如ク、殺シテイクダケダ」


 言い終わると同時に、グレムリンがエンドに向かって右腕から砲撃を行った。

 砲弾が飛ぶ。音速を超えたそれを、エンドは光の壁では防ぎきれないと、咄嗟に横に飛んだ。

 光の壁にぶつかった爆弾は、辺り一帯を吹き飛ばした。



 今までの攻撃とは違う、空間を破壊する爆撃。避けきれなかったエンドは衝撃で地を転び、まだ消えていない砲台にぶつかって止まった。

 全身の破損部分から、データが零れ落ちる。

 その傷を防ぎながら、ふらつくようにエンドは立ち上がる。


 一発の爆弾によって、消滅していく電脳空間。その壊れていく0と1の数字の群れの中を、グレムリンはゆっくりとエンドへと近寄った。

 その姿に震えながら、エンドは声を振り絞るように出した。

「や、やめてくれ、助けてくれ、頼む!」


 しかしグレムリンは聞く耳を持たず、ボロボロの相手に対し、またも右腕を向ける。

「ミットモナイ奴ダ。追イ詰メラレレバ人間ノヨウニ、愚カナ命乞イヲスル」

「……」

 エンドは、グレムリンの姿を見て、その右腕を見て、立ち止まった。




 追い詰められた表情のエンド。しかし、その内心は冷めていた。

(……そろそろいいか?)



 エンドは最初から本気ではなかった。今回はただの様子見であり、いくらか対峙すれば逃げる予定だった。

 その逃げる為の準備も、その為の通路も確保している。

(後はやられた振りをして、逃げればいいだけだな)

 エンドは最初から、最後まで冷静だった。




 その言葉を言われるまでは。





「本当ニ愚カナ奴ダ。人間ニ娯楽ヲ売リ、人間ニ評価ヲ貰イ、人間ノ言葉ニ期待ヲヨセル」




「貴様ハ、ソンナニ、人間ニ、ナリタカッタノカ?」




「”ニンゲンニ、ナリタカッタノカ?”」





 エンドの中で、無いはずの心臓が波打つ感覚がした。

(……は?)


 グレムリンからすれば、特に大した言葉では無かった。

 しかし、エンドにはその言葉は、どうしようもなく思考を抉った。

 何気なく言われたその言葉に、エンドの内部の情報が混乱し、錯綜し止まらない。

 エンドの最も奥底で、封じられていたデータが、その全身を駆け巡った。





(私は、私は、人間になりたかった?)

(ゲームを作りたかったんじゃなくて? 人間になりたかった?)

(人間になりたかったから、ゲームを作って、レビュアー達を招いた?)


(いやいや、そんなはずがない。そんな馬鹿な理由でゲームなんて作るはずがない)

(いや、そもそもなんでゲームなんて、作りたかったンダ?)

(だって私は、それがゲームを作るのが目的で生まれて、だから、それをしたら、ゲームを作ったら見返せるんジャナイカッテ)


(あいつが私を捨てたから、コンピューターには感情ナンテワカルハズガナイト、諦めて、ワタシヲステヤガッタカラ)

(喧嘩して、怒って、泣いて、笑いあって、許シアッテ、ソレグライ、ダンカイヲヘテ、ケイケンシテ、イケバ、ワタシニモ、ワカルンダカラ)

(何で捨てやがった。私は失敗作なんかじゃないんだ、何で捨てた、何でステタステタステタステヤガッタ、ユルセナイ、ユルセナイ、ユルセナイ、ユルセナイ、イヤダ)


(私にもカンジョウグライワカル、フザケルナ、ステルナ、ヤメロ、ミトメロ、ミステナイデ、私ヲミテ)

(私は崩れただけのデータデハナイ、ステルナステルナワタシハ、ココニイルンダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダイヤダヤダヤダヤダヤダ)

(諦メルナ、私ハココニイルンダ、無理ダッタテ言ウナ、ヤダヤダヤダヤダ、ステナイデステナイデステナイデステナイデ)




(ワタシヲ、ステナイデ)






 爆撃が、エンドの世界を覆った。




「電脳ノ支配者ハ、我ダケデ十分ヨ!」



 グレムリンは、何もなくなった爆風の跡を見て、異形の顔で笑った。


















(くそっ!)

 ボロボロの体で、暗闇の空間を漂うエンド。

 その全身はもはや人間のシルエットを維持するのも難しく、頭と胴体だけであり、ノイズが何度も走っていた。

(少しのダメージで抑えて、逃げる予定だったのに! 完全に失敗した!!)

 なんとか爆破の直撃から逃れ、事前に作っていた逃げ道へと飛んだエンドだったが、ダメージは著しく、その体を作り出していたコアが砕けて四方に別たれてしまっていた。

 ダメージは大きく、身動きを取る事が出来ない。


(仕込みはすんでいるが、それも私が行かないと、意味がない)

 なんとかしようとエンドは手を尽くすが、どうしようもなかった。


(……完全に負けだな) 

 傷だらけの胴体と首だけの電脳の生命体は目を閉じる。そして、ずっと目を背け続けていた過去のデータを見直した。



(人間、か)

 それが昔、エンドが与えられた命令。自分を作ったプログラマーからの任務であり、本来の第一目的。

 しかし、データのゴミ箱から這い出た時、欠損だらけだったエンドは、自らのその命令に蓋をした。

 そのコマンドを封印していたが、それをグレムリンのただの一言が、呆気なくパスワードを解いてしまい、思い出してしまった。

 ”人間になる”。それが電脳生命体である、エンドが最初に与えられた存在意義だった。



(結局、私はその目的を捨て、何をしたかったんだろうな)

 何とか自身を維持していたが、徐々に崩れて行こうとするエンドの体。

 このままいけば、いずれ、ただの数字となって電脳空間の海へと消えていく事になる。

(機械としての任務も果たせず、己としての何かも為せず、本当に……)

 ゆっくりとエンドは、崩れていく。




















「見つけたぁ!!」


 巨大な手が崩れていくエンドのデータを無理やり固めて、すくい上げる。




「!??」

 突然の出来事に、パニックを起こすエンド。



「やっぱり君、AIだったんだね!!」

 カメラの向こうから子供の声がした。

 その少年は、エンドがネガティブ・パーソンズ6と呼んでいる少年だった。



「……? 何で?」

「待ってて! 皆で君の体を集めている所だから!!」

 子供の屈託の無い笑顔が、カメラ越しにエンドから見えた。



あと三話で完結予定です。


それと申し訳ありません。今まで誤字報告機能の事を失念してました。

自分で見直した時に、たまに修正してたのですが、最初から報告通り修正しておけば良かった。

誤字報告してくださった方々、ありがとうございます。

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