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李の旦那、行ってらっしゃい
ーー夜、マンションの前にて。
「ではタツ君、娘を頼んだよ」
お高いスーツに着替えた李は、黄色いネクタイを締めながら言った。天然石が埋め込まれたカフスや、まばゆい黄金のゴテゴテした時計が袖から覗く。
「娘はお任せあれ。それにしてもスーツはヴェルサーチ、時計はロレックス。いやぁーさすが、お似合いでございます」
大きな荷物を持ちながら、タツは調子良くおだてた。
「ははは、板に付いてきたようだな」
李はそう言いながらタツの背中を軽く叩いた。
正面には迎えに来た黒いレクサスセダンが停まっている。
タツは荷物をトランクに載せ、後部座席のドアを開けた。
「あぁ、ちなみにだが……」
乗り込みながら李はタツに目を向けた。
「はい、何でっしゃろ」
「私の時計はブライトリングだ。覚えておけ」
彼はそう吐き捨て、自分でドアを閉めてしまった。レクサスはそのまま夜の街へ消えて行く。
「やれやれ」
タツは大きく肩を落としマンションへ戻った。