案外ノリノリだな
しばらくして、明蘭の細い手がカーオーディオに伸びた。しらけきった空間は突然ビッグバンドの賑やかなスウィングに包まれた。その音源に時折混じる雑音が、録音された年代を物語る。
「何だ、このザラザラした音楽は」
「バディ=リッチだよ。パパのお気に入り」
味わい深い洒落た調べだが、タツの耳には壊れたラジオが鳴っている様にしか聞こえない。
「こういうのが好きなのか」
「うーん、何も無いよりいいかなぁ。って」
「だったら……」
今度はタツがオーディオをいじる。すると、レトロなスウィングはたちまちビートの効いたファンクソングに。
ハスキーな男の声がキレよく歌詞を刻む。
「あ、ブルーノ=マーズだ」
そう言って明蘭は眩しく微笑んだ。洋楽専門のラジオチャンネルに変えたらたまたま流れていただけだったのだが、予想外の反応にタツが固まる。
「おま……いや、お嬢様。こういうの聴くんだ」
「うん、大好きだよ。大学の友達も皆聴いているよ」
「マジか。いや、でもカッコいいよな」
はしゃぐ二人。曲はサビに差し掛かる。気がつけばタツも明蘭も口ずさんでいた。
サビが終わり、曲がフェードアウトしていく。
「すごい、歌が上手なんだね」
「だろ。振り付けも完璧だぜ」
オーディオから次のイントロが流れる。
「わぁ、テイラーだ。これも大好き」
「……なんだコイツ、案外パリピじゃねぇか」
ふと、タツにいい考えが浮かんだ。
「今夜クラブにでも行ってみようぜ」
聞き慣れない言葉に、明蘭はキョトンとした。
「あー……。こういう音楽を流して皆でパーティーするんだ」
「素敵、行きたい行きたい」
喜ぶ彼女。だがそれ以上に喜んでいるのはタツだ。
クラブに連れて行って適当に踊らせておけば勝手に疲れてくれる。帰る頃には自分にあれこれほざく元気も無くしているだろう。
そう踏んだ彼は心の中でガッツポーズをした。
「お前でも楽しめるよ」
「だからメイのことはお嬢様と呼びなさい」
「……ケッ」
こんな調子で窓の向こうはオレンジに表情を変えていった。




