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ミラクの果てしない旅 ~千年後の後始末~  作者: 橘 珠水
第三章 グリニカ王国編
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87.ニケアに戻り、そして発つ

 ニケアに戻った私達は、運のいいことに、サブリアナ大陸に渡ってきた時に泊まった同じマリエル商会系列の宿に部屋を取ることができた。

 海の幸亭の前までナーシャを送り、カディスと一緒に宿にチェックインする。カディスは、こんないい宿に泊まるなんて、と腰が引けていたけれど、龍の鱗っていうとんでもないお宝を持っているのだから下手な安宿に泊まったりしたら危ないと説得して、何とか納得してもらった。

 部屋に荷物を下ろして落ち着いた後、受付カウンターに戻り、マリエル商会の特別会員証を呈示して、重要な商談があるので商会の責任者に会いたいと申し入れる。すると、あっという間に宿の支配人が飛んできて、丁重に挨拶をされ、すぐに手配をいたします、という返事を貰えた。やっぱり、この特別会員証の威力は凄まじい。

 しかも、何故だか前回泊まった時よりも、宿の対応が格段にいい。というより、良過ぎて気の毒になってくる。

 だって、宿の食事は明らかに他の宿泊客よりグレードが高いし、従業員が何か不便なことはないかって頻繁に聞きにくるし、一体どうしたって不思議を通り越して不審に思ってしまう。カディスは、都会の宿はサービスがいいんだなーってただ感心しているけれど、そんなんじゃないから。

「恐らく、ここ数日の間に、私達のことをリムルラントに問い合わせたのでしょうね。何故、私達が特別会員証を持っているのかその理由を知った上、マリエル殿から丁重にもてなすようにと言われて舞い上がっているのかも知れませんよ」

 フレイユの推測を聞いて、なるほど、と納得した。

 四日前にチェックインした時には、特別会員証を持っている理由を、ただマリエルが困っている時に力になったから、としか説明していなかったけれど、その内容がリムルラントの悪徳商人の野望からマリエルを救い、魔族を倒してサレドニアとエルドーラとの軍事衝突を防いだなんて聞いたら、そりゃあ態度も変わるだろうな。

 その夜は、一部屋に私とマーナにオークル、もう一部屋にフレイユとカディスが寝ることになった。

 カディスと一緒じゃあ、フレイユはフードを外すこともできないけれど、何も知らないカディスからしてみれば、私達がカディスと同部屋って方がおかしいもんね。

「一晩不便をかけるけど、ごめんね」

 そうカディスのいない時にフレイユに謝ると、突然ボワサンが眠そうな声を上げた。

「ちょっと儂をその部屋まで連れて行ってくれんか?」

 不思議そうに首を傾げながら、マーナがフレイユに白蛇の杖を預ける。すると、カディスとの相部屋に戻っていったフレイユが、間もなく戻ってきた。

「あれ、どうしたの?」

「ボワサン殿の神力で、カディスが眠ってしまいました」

 えっ、と目を見開いた私達の前で、杖に絡まったままの白蛇が首だけ持ち上げて得意そうに赤い舌をちらつかせている。

「朝、起こすまでぐっすりじゃろうから、安心して耳でも何でも出して過ごすがいいぞ」

「ありがとうございます」

 マーナに杖を返すと、フレイユはすでにマーナのベッドの上で丸くなっているオークルを抱き上げた。

「うおっ、何だ、何すんだ」

「カディスが朝まで起きないとのことなので、久しぶりに二人でゆっくり語り合いましょうか」

「はあっ!?」

「猫の姿だからって、当たり前のように女性と同部屋というのは駄目ですよ、オークル」

「は? そんなんじゃないって。ただ、あの漁師と一緒の部屋だったら会話ができねえからってこっちに残ったんじゃねぇか」

「ハイハイ。その心配もなくなったので、私と一緒に向こうの部屋に行きましょう」

 そんな遣り取りをしながら、フレイユはオークルを連れて部屋をあとにしたのだった。



 翌日、支配人がやってきて、マリエル商会ニケア支店で責任者がお会いすると告げられた。

 早速、指定された時間に足を運ぶと、そこで待っていたのは、マリエル商会のグリニカ王国支部長であるランカスという人物だった。まだ三十代半ばくらいの年齢で、黒髪をきっちり撫で付けた、雰囲気としてはマリエルに似たやり手の商人って感じの人だ。

 フレイユの推測通り、以前、宿で特別会員証を呈示した時点で、私達の身元照会は密かに行われていたらしい。マリエル様から皆様のお話はお聞きしています、と最初に丁重に挨拶された。つまり、私達を信用し、できるだけ力になると言ってくれたってことだ。

「実は、この品について、出所を伏せたまま適正な値で買い取っていただきたいのですが」

 本題に入ると、カディスが龍の鱗を一枚テーブルの上に置く。今日持ってきているのは一枚だけ。あと残り何枚あるのかも、いつどれだけ換金するのかも、相手の出方と価格を見てからにするらしい。

 龍の鱗を見たランカスは感嘆の声を漏らし、カディスの許可を受けた上で手に取り、裏返したり翳したりして品を改め始めた。そして、深い溜息を吐くと、鋭い眼光でカディスを見据える。

「これは、どちらで手に入れたものですか? ……ということも秘密ですか」

「できれば。けれど、盗んだわけでも奪い取ったわけでもありません。正当な手段で手に入れたものです」

 カディスも負けてはいない。村の復興がかかっているのだ。どんなに国宝級のお宝でも、換金できなければ家も建て直せないし、食糧を得ることもできない。文字通り、宝の持ち腐れになってしまう。

「これは間違いなく龍の鱗ですね。私は、とある国の王城で国宝とされている本物を見ているので分かります。ただ、少し陰がありますね。瘴気で曇ってしまったのか、輝きが足りない」

 魔穴の近くで採取されたのですか、と独り言のようにランカスが呟いてカディスの表情を窺うけれど、カディスは一切感情を表情に出さない。ぐっと唇を引き結んで、ランカスを見つめている。

「よろしい。当方で買い取らせていただきましょう。額はこちらでいかがでしょうか」

 提示された金額に、カディスは一瞬目を剥いたものの、冷静に頷いた。

 それだけで、村人達が一年暮らしていくには充分そうな額だった。その間に、山から木を伐り出して家を建て、船を修理し、流された漁具を作り直せばきっと村は復興できる。

 代金は余りに高額な為、マリエル商会が壊滅した村への支援金の形を取って、分割して納めることに決まり、その場で契約書が作成された。



 契約書を手に、満足した表情を浮かべて村へと帰っていくカディスを見送った私達は、ニケアを発つ準備を始めた。昼食をとってから辻馬車に乗って出発すれば、日が暮れる前に次の大きな街に辿り着ける。

 昨日のうちに「海の幸亭」に戻ったナーシャに別れを言いがてら、近くの露店でお昼を食べようと街に繰り出した私達の前に突然現れたのは、筋肉隆々の日に焼けた強面のお兄さん達だった。

「何か私達、悪い事した?」

 振り返ってみても、マーナもフレイユも首を横に振る。思いつくのは、龍の鱗を狙っての襲撃だけれど、カディスやマリエル商会がそう簡単に情報を漏らすとは思えない。

 ま、いっか。結局、トスカナ村では暴れられなかったし。

 にやけてくる口元を抑えながら、ポキポキ指を鳴らして迎え撃とうとした時だった。

「ちょいと待ちな!」

 横から声が上がり、強面のお兄さん達の倍以上はいる警備隊員たちがあっという間に私達を取り囲んだ。

「お前ら、こいつに頼まれて、この人達を痛めつけようとしていたことは分かってるんだ。大人しくお縄につけ!」

 サイファに襟首を掴まれて引きずり出されてきたのは、ハリス坊ちゃんだった。ここに連れて来られるまでに丁重に扱われていたわけじゃないのは一目瞭然で、涙と鼻水にまみれた顔に鼻血と泥が混じって、それが仕立ての良さそうな白い服をドロドロに汚している。

 目の前で大捕り物が行われているのを、私達はただ見守った。本当の事を言えば、強面のお兄さん達を逮捕している警備隊員達に加勢しようとしたところを、マーナとフレイユに必死になって止められたんだけど。

 強面のお兄さん達がハリス坊ちゃんと一緒に全員警備隊員に引っ立てられて行くと、サイファはヘラッと笑ってボリボリ頭を掻いた。

「いやあ、すまなかったな。あいつらがあんたらに仕返ししようと探し回っているって話を聞いていたもんでね。とっくにニケアから発ったって聞いて安心していたんだが、まさか戻って来るとは思っていなかった。ま、間に合って良かったよ」

「警戒していただいていたんですね。ありがとうございます」

 マーナが頭を下げると、サイファが首を横に振った。

「いや。当然のことをしたまでだ。それに、あのハリス坊ちゃんの親も近々汚職で摘発されるだろうしな。そうなりゃ、綺麗な女の子が独りで頑張って暮らしていても、危険な目に遭うことは少なくなるだろうな」

「あら。それは安心ね」

 不意にそう声が上がって、驚いて振り向くと、そこにはナーシャの姿があった。

「そうとも。お兄さんは、可愛いお嬢ちゃんみたいな子の為に頑張っているんだぜ?」

「……みたいな子、は余計なんじゃない?」

 マーナがボソッと突っ込みを入れると、サイファが困ったように眉を下げた。

「そうストレートに伝えちゃあ、お嬢ちゃんが困るだろう?」

「馬っ鹿みたい!」

 ナーシャは頬をピンク色に染めながらフイッと横を向く。そのまんざらでもない反応に、サイファは目を輝かせながら口には苦笑いを浮かべた。

「こりゃ、当分は手古摺りそうだな」

「ナーシャのこと、これからもよろしくお願いしますね」

「ああ、分かってるって」

「何言ってるんですか、マーナさん!」

 頬を膨らませて怒るナーシャはまた可愛い。こんな可愛い子がニケアで独りで暮らしていくのは心配で仕方ないけれど、きっとこれからもサイファが守ってくれるだろう。



「あ、そうだわ。私、皆さんを探していたんです。お礼にといっては何ですが、最後にうちのお店でお昼をご馳走させてください」

 ナーシャが落ち着きを取り戻してそう言ったのは、サイファが仲間たちの後を追って立ち去った後だった。

「えっ。でも、海の幸亭は夕方からしか営業してないんじゃないの?」

「ええ。でも今日は特別に、ご主人に頼んで店を開けてもらったんです」

「じゃあ、喜んでご馳走になるよ」

 そして、ニケアでの最後の思い出に海の幸をたらふく食べた後、私は昨日の約束通り、ナーシャにクロスのことを占ってもらった。

 水晶玉に手を翳して眉間に皺を寄せ、目を凝らしながら占っていたナーシャは、申し訳なさそうに眉を下げた。

「ミラクさん達が探しているクロスという方は、生きていると思います。……ただ、どこにいるのかまでは分かりません」

「そう。でも、生きているって分かっただけでも良かった」

 最悪の結果じゃなかったことに、私もマーナもホッと胸を撫で下ろした。握り締めていた拳を開くと、汗でびっしょりと濡れていた。

「それから、何となく感じたのですが、クロスさんに繋がる道は、北東にあるのではないかと思います」

「北東……?」

 首を傾げると、マーナが顔を上げた。

「北東といえば、ウィザーストンね」

「ウィザーストンって、……物見の鏡だ!」

 この世の見たいと思うものを映し出してくれるという神器。壊れて何も映し出さないと、マリエルがウィザーストンの総裁に預けているというその鏡が、やっぱりクロスの行方を捜す鍵になっているんだ。

そう確信した私達は、ナーシャに別れを告げて辻馬車に乗り、次の街を目指してニケアを後にしたのだった。


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