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深い、不快、不解、ふかい、フカイ…


僕は赤の中をおちてつづけていた。


それは靄のようであり、そして深い曇り空のなかを飛んでいるようにもおもえた。

僕の体はその中を落ちている…いや、落ちているのか上っているのか横に動いてるのかさえいまの僕には分からなくなっていた。


なにもかもが、もう…過ぎ去ってひどい胸の痛みでさえぼんやりとした自分の意識をどうにもすることができない…自分が自分でなくなって行くようなそんな不思議な感覚…





でも嫌ではない…なにもかも…忘れて…しまい、たい






いままでのことも、自分の死の瞬間も落ちて行く瞬間にみた明日美の顔も。



自分の体があやふやに、あいまいに『僕』という存在が崩れてゆく、そんな感覚。



ふと視線を指先に動かし、僕はぎょっとした。


僕の指はまるで砂のようにさらさらと赤い粒子になり崩れてゆくじゃないか!!!

いや指だけではない、つま先―はすでにくずれひざ下まで崩れかけてゆく。


大小さまざまな肉片…いや赤い粒子が舞いちりながら失われてゆく。


崩壊のスピードはさらに早まり、腹、胸、喉元へと



これが、死…なの、か?



自殺したら、天国へはいけない、と何かの本で読んだことがあった。

自分は地獄にさえ…いけないのかもしれない…と、視界さえ赤くバラバラと崩れてゆくなか清輝はおもった。




『あなたが、必要なの。』




悲壮で悲しいほど希望と絶望がないまぜになったような声だった。



声?すでにもう耳さえない僕に…どうして声など聞こえるのだろう。



『お願い…来て!』



か細く、そして酷く切羽詰まった少女の声。

もう、自分は死んでいるのだから、放っておいてほしい、呼ばないでくれ。



『助けて!!』



ほとんど悲鳴となった叫び声が『僕』を揺さぶる。

見ず知らずどころか聞いたことさえないその声の主は一体なぜ『僕』に助けを求めているのだろう。

なぜだかわからないが、この少女は僕に助けを求めている。

ごめん、僕には何もしてあげられない。

僕は死人で、体さえないのだから。


僕は君に何もしてあげられない。



ごめん。






「ならば体があればよろしいかな。」


「ほう、こんかいは…若いな」


「あらぁ…若いっていいことですよ☆」


「こころの在り方が問題なのではないか?これではすぐに力におぼれるのではないか?」


「確かに、未熟な部分が目立ちますが…わたしはルミナを信じています。」



見えない、でも何かが僕を取り囲み…見ている。



「我らを目で捉えようとするな、魂で感じよ。」


緑の髪のギリシャ風の薄い衣をまとった男性

燃えるような赤い髪の妖艶な女性

金色の髪に花冠を載せた少女

流れるような青い髪をした気難しそうな婦人

そして黒いマントを纏った…性別不明の人物


いや、彼らだけじゃない何千もの人間が赤い靄の中から顔をのぞかせ僕を見下ろしている。

血も肉も失った僕を。


「風の精霊王シルフェイドの名においてお前に祝福を」

「火の精霊王ヴォルケリウスの名において祝福してやろう。」

「きゃは!地の精霊王ガイナスティアの名において祝福しちゃうんだよっ!わぉ!」

「水の精霊王ミディーネの名において…祝福をしてはやろう。」


「闇の精霊王ダルカネスのなにおいて…そなたの新しき生を許そう。」



これは何かたちの悪い夢に違いない。


粒子が僕の体を形作っていく。

まるで砂の崩れてゆくように失った血と肉が逆再生するように戻ってくるが、それとともに訪れたのは気の遠くなるような激痛だった。

肉が骨を砕き血が肉を穿つ。何もかもがぐちゃぐちゃにつぶれながら混ざりながら「僕」は「僕」になろうとする。

これは、そう




僕が間違いなく死んだときの痛みだ。



アスファルトの上に叩き付けれ、タイヤの下敷きになった「僕」の痛み。

与えられた生を自ら投げ捨てた痛み。


いやだいやだいやだいやだ!!!!

ぼくはもうしんだんだ!これいじょういたいのはいやだ!

やめてくれ!!

もういたいのはいやなんだ!!!


「おや、意外と根性がないな。だがな人間。お前はもう「願い」をかなえた。これはその代償だ。代償もなくすべてを手に入れられると思っていたのか?」


「あらあら、ないてるの?なかなくてもいいのよ☆大丈夫よぉあなたは「すべて」を約束されているんだから。」


「有れ!有れ!!契約はなされたり!いまこそ決別の時。」

「己が望みを叶えしものよ、その意思を示す時。」

「古き楔を砕き、真新しい楔を与える時っ!!」

「古き血を捨て新しき血で肉を満たす時。」

「異界の少年よ、我らは差し出そう新しき肉と尽きせぬ祝福を。」




「おなきなさいにんげんひとはみななきながらそこへゆくのだから」

じぶんでも信じられないくらい激しく泣き喚いていたものだから、痛みが収まったことに驚いて僕は気づかなかった。


僕は僕の体があった。

あった、というのは語弊があるかも知れないが。

あった、というほかない。それくらい僕の頭は回ってなかった。



体が重さを得たせいなのか、奇妙な浮遊感と、そして落下感を感じた。




「お行きなさい、約束された旅人。その旅の終わりを今度こそ後悔しないために。」





「僕」は痛みの終わった安堵で目を閉じた。




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