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転移装置、起動

 結局大きなお嬢様は町に残り、ちっこい方が塔に向かう事となった。

 彼女も、基本的亜人種の思考に引きずられて番号制で名乗るかと思われたが、自身をリーゼと名乗った。

 でもやっぱり適当な名前だな。お嬢様の名前をちょっといじっただけじゃね?

 最終ダンジョン直前で5人パーティーとなった俺達の前に、アリスが呼びだした、小型の輸送機が到着した。

 外見は、どう見ても翼の面積が足りてないSF系飛行機で、あえて例えるなら『タイヤがバーニアになった装甲車』か。

 ……世界観間違えてね? 2000年前は超文明だった、とか言っちゃうの?


「ここで待ってるから宿に戻って……あれ? 誰も準備とかに戻らないの? 別に急ぎじゃないんだから――」

「ああ、俺達って、基本手ぶらなんですよ」

「だな」「だね」

「お主ら、その無計画さで良く死なんのう……」


 イスルギに肩車してもらいながら呟くリーゼは、今後ロリ婆キャラでいくらしい。

 名前の件と言い、なかなか常識の範疇から逸脱した感性の娘だと思う。

 宿には空っぽのリュック以外は荷物なんて何もないから、俺達は武器だけを持つと、そのまま輸送機に乗り込んだ。




 輸送機は僅かほどにも揺れる事なく浮かび上がり、塔への移動を開始する。


「ところでさぁ、この後どんな展開が待ってる訳?」


 カグヤはアリスに問いかける。

 確かにイスルギは目的があってココにいるようだが、彼女は詳しい事を聞いていない様だ。


「まずは、リュウジ君を本来あるべき場所に帰してあげないとね」

「お、出来るんですか。やっぱりリュックも持ってくりゃよかったかな?」


 ちょっぴり後悔する俺……を見るカグヤの目が見開かれている。


「えっ何? リュウジって人外とかだったの?」

「人外じゃなくて別世界の住人だと思うんだけど。アリスは詳しく解るんですよね?」


 解らずに送られて時空の狭間へ、とかやめてくれよ?

 なお、カグヤは黙って俺の髪を1本引っこ抜くと、じっくりと観察をはじめた。

 分子分解とかしてるみたいだから、異世界人と現地人の違いでも探しているんだろう。


「んー。そこんとこは暗号データ以外で開示出来ない情報なのよね。私達の製作者がいれば別だけど、彼らは1万年ほど前に全滅したみたいだし」


 無駄にスケールでけー。


「でもリュウジ君の戻るべき場所とかは全部把握してあるから大丈夫。向こうでは最悪の場合3ヶ月間昏睡状態だった、くらいの誤差は出るけかもしれないど、それ以上の問題が貴方の身体に起きる事はないから」

「え? 元の世界で問題が起こってるんですか? 目が覚めたら『夢落ちかよ』とか言いながら筋力と魔力だけ持ち帰れてラッキー、みたいなのを想像してたんですけど」

「お主はどこまでも気楽な男じゃのう……」

「リーゼ達には言われたくなかったな」


 苦笑する俺に向けて、リーゼが何か放ってきた。ソレをキャッチ。

 俺のリュックだ。中に何か入っているようなので、確認しておく。


「ますたーからじゃ。『忘れ物ですよー』とな。お土産入りじゃぞ」

「おぉう……何コレ、センス悪りぃ。魔道書とか?」 


 中に入っていたのは、ごついハードカバーの本だった。

 しかも全体に金メッキが施されて下品に光ってる。間違いなく真っ当な本じゃないはずだ。


「ますたーは光物が大好きでのう……まあ中身は普通の創作集じゃ」

「創作集?」

「お主が主催したアレの量産見本じゃ。昨日の内にますたーが1冊くすねてきた。元々お主にも渡される予定であったのだから、もらっておけ」

「何でこんな非道い外装に……離れるべきじゃなかったのか」


 うなだれる俺にリーゼが声をかける。


「ますたーが泣いておるぞ、『一生懸命夜なべしてメッキしたのにぃ』と」

「ライゼラン……視線を同調させているんですか?」

「待て、代わる……」『キラキラしてた方が綺麗じゃありませんか?』


 リーゼの表情が変わった。お嬢様に“代わった”のか。

 でも幼くなってね?


「何か面白い事してますね。でもそうは言われても、コレはやりすぎですよ」

『でも、宝石とか埋め込む場所もないですし、水晶の中に入れたら読めなくなっちゃいますし……』


 彼女はどこに向かおうとしているのだろう。


「そのままでいいじゃありませんか」

『そんなぁ……』「……逃げよった。まあ、ワシもあのセンスはないと思うがの」


 お嬢様に味方はいないのか。

 と、輸送機が揺れた。外を見ると、雲海をはるか下に見る高度で静止した輸送機の前方で、塔の外壁が開いていくのが見えた。


「こんな高いところに入り口があるんじゃ、誰も入れない訳だね」


 俺と同じように外を見てカグヤが呟く。


「ココだけじゃないんだけど、せっかく高度を稼いだし、ね?」

「え~? 違うの……」


 なんだ。俺もカグヤと同じ事考えてたのに。

 そんな事をしている間に輸送機は完全に塔の中に入り、外壁が閉じる。

 外壁には窓が一つもないから、残念ながらこの先外の景色を見る事は出来そうにない。

 塔の内部には明かりがなく、機内が真っ暗になってしまったので、リーゼが天井に魔力の光源を生成した。

 四方から伸びたアームに機体が固定されると、フロントガラスに2000と言う数字が浮き上がり、輸送機の上昇と共にソレが増加を始める。

 もしかしてココ2000階だったって事? すげー。

 しかも輸送機がそのままエレベーターになっちゃうとか。

 と、アリスが数字の前に立つ。


「このまま最上階に向かうけど、質問はある?」

「はい。なんで俺に協力してくれるんですか?」


 説明なしでサクサク事が進むのは楽だが、素直にありがとうで済ませる訳にもいかない。

 アリスは可哀想な子を見る目で説明する。僅かに苦笑しながら。


「本来誰もこんな年代に来るはずじゃなかったんだよ。君がこんな場所にいるのは、使い方を良く解っていない初心者の操作ミス」


 なんと言う事だろう。ついうっかりで俺はココに放り込まれたのか。


「ミスした人達はずっと昔に亡くなっているから、気付いたこっちで君を本来あるべき場所に戻してあげようと思って」

「うっわ……なら、その初心者って誰なんです?」

「そこらへんの詳しい事情は知らないのよね、議事録とかも取らなかったみたいだし。多分君がこんな事になってるなんて気付いてすらいないと思うよ」

「うわーうわー……」


 勇者とかそんなレベルじゃねえぞ。しかも俺を召喚した人間はもうこの世にいなって?

 マジで俺ココにいる意味ないじゃん……

 何かもうどうでもいいやって気分になってきたよ。

 正面の階層表示はなんか5桁になってるし、もう好きにしろって感じだ。

 アリスに誰かが質問してるけど右から左にって感じで聞き流されちゃう……って!


「何? カグヤ記憶なかったん!?」

「まだリュウジには言ってなかった?」


 全然聞いてねえし、流石にソレは聞き流せないだろ。

 カグヤはイスルギの胸に飛び込んだ格好で、目を輝かせながら答えてくれたが、すぐイスルギに視線を戻す。


「でも、イスルギがアタシの事考えてココまで来てくれたなんて、考えもしなかったよ」

「記憶が戻ったほうが楽しそうだからな。で、戻せるのか?」


 カグヤにされるがままの状態で、イスルギはアリスに問いかけた。

 アリスの表情は変わらなかったが、回答は明快。


「もちろん」

「ヤダどうしよう、今までイスルギの事ネジが全部外れたやばい人だと思ってたのに。まさかアタシのためだったなんて!」


 カグヤ、身体全体で感謝と喜びを表現してるけど、口にしちゃ駄目なセリフがこぼれてる。


「いや、お前の目に狂いはないよ。何にしても、ココに来たのは正解だったようだな」


 イスルギは否定しないのな。

 大型犬でも相手するみたいにカグヤをガシガシ撫でてやってる。

 ソレを眺めるリーゼは微妙な表情だけど……

 俺は背後からリーゼに忍び寄り、耳元で囁く。


「どうした? リーゼも撫でて欲しいの?」

「まさか。ワシがそんあぁふぁぁん……いきなり角を掴むなぁ!」

「弱点もマスターと同じ――」

「わー! わーー!! 貴様、貴様ぁ!!」


 俺のセリフに叫び声をかぶせながら、両手を大きく振り回すリーゼ。

 カグヤは嬉しさで何も聞こえない状態だろうから問題ないし、イスルギとアリスは気にしないだろうから、恥ずかしがらなくて大丈夫だと思うけど。


「ところで、もうすぐ最上階だけど、もう質問はないの?」


 そんなアリスの声に階層表示を見ると、1万9千と少々になっていた。

 きり良く2万階建てとか?

 他に質問者がいないようなので、せっかくだし俺が疑問を投げかける。


「しっかし外見から判っていましたけど、凄い高さですね?」

「埋まってる部分も入れれば、全長は120km以上あるからね」

「中身は何なんです?」

「うーん……NGワードを避けて言うのであれば、“世界”かな」

「ああ、なんとなく解った気がします」


 この塔は恐らく、アリスの製作者達が造った巨大なシェルターなのだろう。

 ラグナロクより更に昔に起きた、歴史から消えてしまった戦争で、英知を結集したシェルターに逃げ込んだ人間が全滅したのではないだろうか。

 皮肉にもシェルターの外に捨て置かれた者だけが生き残り、生存者なきシェルターを守るガードメカを止める術を持たない彼らは、やがて各地に点在するこの巨大な建造物が、何のために造られた物であるかも忘れてしまった。

 ……うん、正解には当たらずも遠からず、くらいには来てるんじゃないかな。

 アリスは僅かに笑うと、背後の階層表示を見やる。


 ――20000


 数字はもう動いていない。

 モーター音と共に輸送機の扉が開き、更にその向こうにあるエレベーターの扉も開く。

 流石に扉の先には明かりが点いている。

 ソコは、天井がドームになった、野球場のように広いホールになっていた。

 その中心に、増設を繰り返して外観が目茶苦茶になった、巨大なパソコンのようなものが置いてある。

 そして、PCの側に立っているのは――


「お待ちしてました、ココが君達の願いを叶える場所です」


 ――アリス。


 輸送機の中に1人、PCの側に1人。


「どうも。256番の中央管制を任されとりますアリスです」

「……せめて、名前は変えろよ」

「昔は1人だったのよ。でも、権限の一極集中は危険だって気付いて。でもやっぱり元は1人のアリス、改名は嫌だって事で、気がつけばアリスが1ダース。他のアリスも呼ぶ?」

「いやいいから」




 管制アリスと防衛アリスが並ぶと、人間部分は全く同じ外装になっているのが解る。

 違いは肘から先の部分だけらしい。

 防衛アリスは武器を装着するハードポイントが付いており、管制アリスには隠し腕のようなサブアームが内蔵されている。

 現在、防衛のハードポイントには、何も装着されていない。


「じゃあ、リュウジ君からチャッチャとやるとしようか」


 管制がそう言うと、床が開いて大きなカプセルがせり上がって来た。

 立ったまま入る、映画で中の怪物が突然目を覚まして飛び出してくるようなアレだ。


「この中に入るんですか? 失敗とかしませんよね?」

「ん? 分裂とか合体とか、する?」

「冗談でもやめて……」


 カプセルの前面、ガラスの蓋がスライドする。

 後は俺が入るだけ。


「そうだリュウジ君、持ち帰る物には限度があるんだ。刀とリュックの中身だけが持てるよ」

「こっちの剣はダメなんですか?」


 入場無料ソードを見せる。

 答えてくれたのはリーゼだった。


「家紋付きの剣が行方知れずとなれば、誰かが責任を取らねばならん。ワシからシオウに返してやろう」


 成る程。バイツに迷惑かける訳にもいかないし……


「……なんじゃ?」


 はよう渡せと手を踊らせるリーゼを見ながら考える。

 お嬢様とシオウの関係って、良好なのかな?

 この世界の権力者達の利害関係って、全然解ってないんだよね。

 かと言って他の人に渡しても…………まいっか。

 リーゼに剣を渡し、彼女はソレを両手で抱えこんだのを確認すると、管制に聞く。


「リュックに入れたものが、持って帰れるんですよね?」

「だね。チャックは閉じてね」


 ソレを聞いて荷物を整理。リュックに入れたのは創作集と骨の短剣。

 翻訳の首輪はどうするか。悩んだところにリーゼが言う。


「ソレは要らんじゃろ。元の世界での使い道などなかろう? それに、あの機械に入ってから転送が始まるまで、リュウジが考える以上の時間が必要じゃ。その間ワシらの戯れ言が理解できぬと、つまらんぞ?」


 じゃあ、この2点で十分かな。

 チャックを閉じようとするタイミングで、カグヤが小物を放っててきた。


「ほら、リュウジ!」

「おわっと! ん、コレは指輪か! もしかしてプロポーズ?」

「はいはい笑った笑った。リュウジの世界で魔法が使えるか解んないけどさ? アタシからのお土産も持ってってよ」


 地球ではサイズ合わせが出来ないだろうから、この場で号数を合わせてリュックに入れる。

 コレでお土産は3つ。


「……ところでイスルギ?」

「なんだ?」

「イスルギは何もくれないんですか?」

「うーむ。まあ、形あるものはいずれ壊れる。俺がお前に贈った物は、お前の心の中にある、この世界での思い出ってやつだな」


 大きく頷くイスルギ。その横でカグヤが笑う。


「イスルギ、『いま俺カッコいい事言った』って思ってるでしょ」

「惚れ直しただろ?」


 イスルギも笑って、続ける。


「ソコのカプセルに入ったら、俺がお前と旅した理由を教えてやるよ。アリス、その中でも会話は出来るんだろ?」

「外から中への呼びかけは可能だけど、逆は無理なんだ」


 ソレを聞いたイスルギが更に嗤う。


「くくっ……いいね。互いに余計な事を詮索出来ないってのが最高じゃねえか」

「イスルギ、目が輝いてますよ。なんか嫌な予感がしてきた」


 苦笑しながらカプセルに入る。

 そして、イスルギたちに向き直った。


「イスルギが何企んでるのかは知りませんけど、ココまで送ってくれて、ありがとうございました。カグヤも、俺の命を救ってくれた事、感謝してるよ」

「アタシもリュウジの事忘れないよ。元の世界でも頑張りなよ?」

「リュウジ。お前に会えて良かった。本当にだ」

「イスルギが何でソコまで言ってるのか解りませんよ」


 イスルギはただ笑うのみ。

 俺は管制に目をやる。彼女と視線が合ったので、頷く。


「お別れはお終い? じゃ、閉じるよ」


 シュッと音がして蓋が閉まると、低い音と共に転移装置が起動。

 ソレを確認したイスルギが、アリスに質問した。


「じゃあ、始める前に1ついいか?」

「プロセスが動き始めてからは私も忙しくなるから、先に終わらせちゃってもらえる?」

「解った。カグヤ、刀をバラすの手伝ってくれ」


 そう言って直刀を抜く。

 カグヤが文句を言いながらも手早く持ち手部分と刀身を分ける。

 刀身を持ったイスルギは俺に、刀の銘を見せてくれた。


 ――がんさく こてつ。――


 ちょ、マジ平仮名で書いてある、しかも読点付きで。

 しかも自分から贋作ってマジか。せめて漢字で――


「やっぱり読めるか」


 何でこの世界に日本語があるんだ。


『イスルギ! ソレは一体何ですか!?』

「……改めて見ると、リュウジは口の動きが全く違うんだな。どうやって翻訳出来てるんだその首輪?」


 クソッ! 聞こえてないのか。


『リーゼ! アリス! どうにか出来ないのか!?』

「何じゃリュウジ、よく解らんが無駄に騒ぐでない」


 おいおい話が動き始めたらこの仕打ちかよ。

 全ては俺の手の外で動く決まりでもあんのかよ。

 ため息と共に天を仰ぐ俺は、イスルギがカプセルを叩く音で再び前を見る。

 イスルギが銘の反対側に書いてある文字を見せていた。

 日本語と現地語で同じ意味の事が書いてある。


 ――魔力無き者を塔へ導け――


 もうどうでもいいやコレ。よく解んない事が解ったから。

 イスルギが、現地語と日本語の意味が同様であるか聞いてきたので、頷いてやる。


「そうか。言語すら異なる俺の知らない誰かの願いは、しっかりと叶えられたみたいだな」


 満足そうに笑うイスルギ。

 誰か俺の事も納得させてくれよ……


「な? お前に会えて良かっただろ?」


 笑顔のまま下がるイスルギが、管制アリスに手を振る。

 ソレを見たアリスは、俺に告げた。


「じゃ、そろそろ始めようか」


 ま、後は元の世界でゆっくり考えればいい。

 俺が管制に手を振ると、転移装置から響く低いモーター音が、少しだけ大きくなった。

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