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ツマの、生死をかけた戦い

 パイルバンカーの人は周囲に強風を撒き散らしながら着地すると、笑顔で挨拶をしてきた。


「どうも。256番の防衛を任されてるアリスです」


 なんか口調だけなら普通っぽい人だ。

 つまり口調以外は普通じゃない。

 大人になってショートカットになったカグヤの手足にメカパーツを着せてやるとあんな感じになるな。胸部の残念さも含めて。

 レオタードの上に軍服羽織ったような格好で、腿から下が黒く輝くスレンダーなメカ脚。腕も肘から下が同じくメカ。

 ただ、両の二の腕外側に、腕より太い金属製の杭と、ソレを動かすための機構がある。

 杭が手の動きを妨げないよう、かなり引いた状態になっているから、腕を下げた状態だと頭より上に杭の後ろが出ており、どう見てもアンバランスな重量配分に見える。

 多分、自身の重量より杭の方が重いんじゃないか?

 でも、重量過多系恥ずかしくないもんファッションか……イイネ!

 ちなみに背負い物とか副腕は無し。ゴテゴテしてないのも実によろしい。


「貴方も、塔の防衛機構の一部なんですか?」


 今までの奴らとあまりにも違う外見に、思わず尋ねる。


「そうですよ?」


 ちょっと考える。

 2000年前の人型兵器って、どう言った存在なんだろう。

 見た目はあまり脅威とは見えないが、今までと違い対話が可能なわけだが……

 その分内部構造に繊細さが求められるんだから、戦闘能力への比重が減って俺でも何とかなるのだろうか。

 何とかならないと俺が何とかされて困っちゃう訳だが。


「とりあえず、さっさと始めましょうよ」


 アリスはガシャガシャ手を振って俺を呼ぶ。

 確かに考えても何も進まないな。

 おれは促されるままに前に出た。




「じゃ、お手柔らかにお願いしますね? 俺、強い訳じゃありませんから」


 そう言いながら、俺が自分の刀を構えると、パイルの人が手を前に出した。


「ちょっと待って、強くないのに刀抜かなくっていいの?」

「錆び付いてて抜けないんですよ」


 そう言いながらポン刀を振る。

 シャラリと音を立てて鞘が抜け落ちた。陽光を受けた刀身が、ギラリと輝く。


「………………あれ?」


 鞘を拾って眺めてみる。逆さに振ると、パラパラと鉄粉が落ちた。

 刀身を見て、そっと触れてみる。艶やかな輝きの中に俺の指が跡を残し、(にじ)んで消えた。


「あ、昨日の内に錆は取っておきましたので」

「ライゼラン……そう言う事は先に言ってくださいよ。でも、どうやったんです?」

「その刀って、魔力を持った人間が持つだけで勝手に最良の状態を維持する機能があるんですよ」


 考えてみれば手入れとかやった事ないから助かるけど、魔力マジ万能だな。


「そうでしたか……でも、俺も時々持ってたんだけどなぁ」


 2~3時間持つだけじゃ落ちなかったんだろうか。


「魔力の絶対量の差ですよ。私が持った瞬間錆が全部落ちて、床が大変なことに……リュウジさんを起こす訳にもいかないし、あんなの使用人に見つかったら叱られちゃうし、もう、もう……」


 お嬢様が思い出し涙目。漫画の婿養子みたいに立場の弱い決戦存在だな。

 でも俺は平均的な魔力量らしいから、お嬢様パネーって事は確かだ。

 俺は刀を持ちなおすと、軽く振って具合を確かめてから、パイルの人に向きなおって構えた。


「じゃ、気を取りなおしていきますか? えー……」

「アリスって呼んでね」

「はい、アリスさん」

「……それでリュウジ君は、今度は峰打ちで私を倒すつもり?」


 現在俺はそう言う持ち方をしてる。


「だってアリスさんナマモノっぽいですから」

「私ナマモノじゃないから頭潰したぐらいじゃ止まんないよ?」


 なんか例えがえぐいんだが。


「斬ったらオイルとか飛んで、服が汚れちゃうかもじゃないですか。止まんなくても負けを認めてくださいよ」

「別に殺しあえって訳でもないから、別にいいけど……」


 言い方が悪かったか? アリスの表情が微妙になってきた。カグヤみたいなキレ方しないといいんだが。

 そんな事を考えていると、彼女は棒立ちのまま言った。


「私も本気は出さないでおこうかな」


 ――むしろ、そうしてもらえると助かります。

 そんなセリフを吐こうとした瞬間、ドドドンと爆発音がして、視界がぶれた。


「つっかまぁえた」


 アゴが掴まれている。何に? 指だ。

 アリスが俺の口に、右手の指を2本突っ込んでアゴの骨を掴んでいる

 視界の半分が鉄杭に、もう半分がアリスの笑顔で占められている。

 彼女のもう片方の手が俺の頬をそっと撫でる。

 耳の側で、ガチャンと音がした。そして――


「……っくぅ!」


 ――とっさに頭を前に出す。直後に爆発音。

 後頭部に何かが掠める感触があった。

 展開したはずの盾が、豆腐みたいにブチ抜かれたのが解る。

 頭を動かしたことで指が離れたので、慌てて距離を取って叫んだ。


「こっ……殺す気かぁっ!」


 マジ死ぬかと思った。つーか今の奇襲はなしだろう?

 そもそも実力を見たいって話なのに殺してどうすんだよ!


「戦いはいつだって理不尽なんだよ? それに頭の1つくらい藍の字がいるから大丈夫だって」


 アリスはウィンウィンと手を振って笑う。

 頭1つくらい大丈夫って事は、間違いなく軽いノリで殺しに来るって訳だろう? 

 ますます大丈夫じゃねえよ。

 俺をしとめ損ねた左腕の杭が、重い音を立ててリロードされる。

 視界の隅でお嬢様が俺に手を振っているのが見えた。安心させてるつもりだろうか。

 ……コレは腕の1本はへし折るつもりでやらないと死ぬな。

 覚悟を決めた俺は一つ深呼吸すると、アリスのお喋りに付き合わず一気に駆け寄る。

 アリスはその場で構えている。多分カウンター狙いだ。

 だから彼女の3歩前で地面を切りつけ、思い切り切り上げた。

 魔力制御も加えた大量の土砂がアリスの顔面に向かう。

 彼女が回避行動を取った隙に……って避けない! 前に出て来た!

 急制動をかけて全力後進、距離が離れたと思った瞬間にドンっと爆発音がして、彼女は一気に距離を詰めてきた。

 2発のパイルを回避し刀身で受け流すと、今度こそ距離を、必要以上に離す。

 アリスは顔を振って土を落とすと、ニヤリと笑った。


「着けてて良かったコンタクトレンズ」

「……ないわー」


 ひとまず落ち着こう。対策を考えるんだ。

 アリスは何らかの方法で、一瞬だけクレイジーな推力を出せるようだ。

 10m程度なら文字通り瞬く間に詰めて来る。

 だが、それだって今見たから判っただけで、彼女が急加速をどの程度維持出来るかは、現状正確には把握してない訳だ。

 武器は今のところ左右のパイルバンカーしか使ってこないが、あの脚で蹴られれば俺の盾は持つのだろうか。

 ……いや、弱気になるな、持たせてみせるんだ。

 考えてる間にアリスはリロード終了、こちらに歩いて来る。

 さーて困った。寸止めとかでカッコつけるとスルーして脇腹を打ち抜いてきそうだ。

 ……なら、完全に動きを止めないとダメか。

 もう色々と覚悟は決めたので、俺は引かずに構える。

 ソレを見てアリスは再びドドドンと急加速、一気に間合いを詰めてきた。

 今回は距離があるから観察できたが、彼女のメカパーツにクイックダッシュ用ブースターが付いているのに気付いた。

 爆発音はアレが火を噴いた音だ。連発は出来ないだろうし、この距離で3連発ならソレが限界か?

 右手パイルを盾で左に受け流し、左手パイルは右に避け、蹴り上げてきた左脚をギリギリの後退で回避、刀を捨てて左脚が降って来るのを肩でキャッチ! 思いっきり捻ったるあぁぁ!!

 膝からバキバキと嫌な音を出しつつうつ伏せに転倒した彼女の首筋に、素早く抜いた短剣で切りつける。刺突用だから当然切れないが、お嬢様には俺の意図が伝わるはずだ。

 そしてあたふたとアリスから離れて、ライゼランに叫んだ。


「これで全力! これで限界だから!」

「……え~」

「目的は実力の把握であってそれ以上は余興でしょ!?」


 俺は必死だ。だってアリスが俺の予想外の武器を隠し持っていて、フェイントを絡めた攻め方をしてきたら負けちゃうかもしれないし、“彼女の勝利イコール俺の1回死亡”は間違いない。

 だいたい復活したとしても魂のありかが云々で納得できなくなっちまうよ。

 ……ゴメン、よく解んなくなってきた。


「まあ……そうですけどぉ」


 お嬢様はちょっと困惑顔だ。


「相手の脚をねじ切っておいて、よくそんな事が言えるもんよねぇ」


 声に振り向くと、アリスが座った姿勢になって俺を見ている。

 良し! 左膝が変な方を向いてるけどリロードはしてない。

 アリスは続いてお嬢様を見やる。


「だけど、私が人間なら死んでたし、コレでいいんでない?」

「でもアリス、大技出す前に終わっちゃいましたし……」


 ――お嬢様は不満そうだったが、結局アリスの敗北宣言により、無事戦闘は終了した。

 まだ隠し技が残ってたとかありえん。短期決戦でマジ良かった。




 アリスは関節の向きを強引に直して立ち上がると、俺に笑顔を見せた。


「まさか投げ技を使ってくるとは思わなかったわ」

「格闘技とか習ってないんで、どんな技でも相手に致命傷を与えるんです」

「成る程……そんな考え方もあるのね」


 腕の方向とか安全な投げ方とか考えないからね。

 関節の動きを確かめながら言う彼女の膝は、もう自己修復が済んでしまったようだ。

 カグヤと戦った人形のような華麗な演舞を披露して、脚の動きを確かめている。

 いつの間にか現れた2体目の人形が、観客席からおひねりを貰いはじめた。

 金なんか貰ってどうするつもりだろう。警備だけじゃ給料足りないのか?

 そんな事を考えながらお嬢様の隣に戻ると、俺は一番重要な事を聞く。


「ライゼラン、多少思うところはあるでしょうけど、通してもらえますか?」

「仕方ありませんね、アリスがいいと考えるなら……」


 そこまで言ってポンと手を打った。


「いい事思いつきました! 私も一緒に行けばいいじゃありませんか!」


 え?……って何がいいの?


「その方が色々楽しそうですし、イスルギさんの本気も間近で見られますし……ね?」


 俺に笑顔を向けられても困るんだが……

 助けを求めてイスルギを見る。


「……ライゼラン殿は、町を守らなくてはならないでしょう?」

「大丈夫! 100kmも離れてないから掌の範囲内ですし――」


 キロメートルの単位が軽い。


「――私の欠片を残していきますから」


 そう言ったお嬢様の横に光が集まったかと思うと、その光は人を形作り、服装もそのままに小さな彼女になった。

 ――つまりエロ衣装の幼女だ。

 子供は親を選べない、なんて聞くが、ソレがいかに恐ろしいものか、思い知らされた気がする。

 せめてお嬢様も…………いや、青肌悪魔っ娘に合う子供服って何!?……まあいい。

 本体の半分くらいのサイズで固定された幼女ライゼランは、ゆっくりと自分の身体を観察すると、本体に告げる。


「んぅ……ますたー! このサイズなら新しいプレイを開拓出来る!」

「おお! 確かにコレは大発見ですよ!」


 ……こいつらがこの世界で最強の存在なんだぜ?

 でも400年もあったんだから、合法ロリごっこの二度三度はやってたんじゃないかと思ってしまう自分が、今一番くやしい。

 雑念を振り払ってから幼女を見ると、彼女は笑顔でこちらを見ている事に気付いた。

 何だ? 俺の春は犯罪から始まるのか?


「……………………ぷ」


 笑った! あの幼女笑いやがった! 哀れみ全開の愉悦MAXな表情で!

 畜生! 俺が何考えてるか全部解ってやってたんだろ!?

 華麗な失意体前屈を披露する俺をスルーして、カグヤがミニライゼランに近寄る。

 彼女は笑顔で見返すミニを撫でながら、お嬢様にたずねる。


「こんなちっちゃい娘に町を任せて大丈夫なの? お嬢様が残ったほうが、いいんじゃありません?」

「そうですか? じゃあ、そうしようかな……」

「塔に入ったらこの娘を守ってやれるか判りませんよ? ライゼラン殿」

「ええっ!? じゃあ、じゃあ……」


 何て流されやすい世界最強だろう。

 あうあう言ってるお嬢様に助け舟を出す。


「ライゼラン、この幼女は弱い訳じゃないのでしょう? なら、どちらが町に残っても問題ないのではありませんか?」

「非道い! リュウジさんまで私に決めさせようって言うんですか?」

「幼女って……」


 カグヤが何か言いたそうだが、ソコは今重要な部分じゃない。

 いいから決めてもらわないと。優柔不断っぷりが最強でも誰もほめないぞ。

 自分の身を守れるのであれば、もうどっちが来ても――と、そこで挙手する幼女。


「さすればますたー、ワシが塔へ参ろう」

「……青肌悪魔っ娘ロリ婆ぁは属性が多すぎて逆に駄目だろ」

「……………………属性って。ぷ」


 やられた! やぁられた! まっったやられた!!

 ああ神様……俺はあの幼女の操るままに踊るしかないのですか?

 立てひざついて神に祈る俺をスルーして、イスルギがミニライゼランにたずねた。


「何が起こるか判らんが、君は覚悟が出来てるんだな?」

「何が起きたとて僕が遅れをとるはずもないし、役目が終われば主人の下に還るのみさ」

「おい幼女、キャラはちゃんと固定しろよ」

「リュウジ君は何を言ってるんだい? 意味が解らないよ」

「ぐっはぁ」


 ……俺は、もう、駄目だ。

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