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世界を揺るがす2人の戦士、天の使いを圧倒す

 食事を終えて指定場所に向かうと、当然ながらお嬢様が待っていた。

 その周りには彼女が何かする事に気付いたのであろう、暇な奴らが観客として数名。


「はーいお待ちして……って、イスルギさん?」


 俺に背負われたイスルギは、多分顔面蒼白になっているはずだ。


「…………飲み過ぎた……」


 調子に乗りすぎたとしても程がある。

 いつもよりだいぶペースが早かったから、じつは緊張してたのかもしれないが、それでもコレはないだろう……




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 お嬢様が、イスルギを膝枕で介抱しながらルール説明をする。


「皆さんには塔の兵器と一対一で戦っていただきます。破壊して構いませんし周辺に被害は出させませんので、全力でやっつけちゃってください」

「『出させません』って凄い自信だけど、どこまで大丈夫なの?」


 カグヤが聞く。彼女の戦法は魔法主体だろうから結構重要なところだろう。

 うっかり町に被害が出たら洒落にならないし。


「カグヤさんご自身が町の中に入ったりされなければ、魔法効果は全て私がどうにでも出来ます」

「え~と……じゃあ半径数キロにわたって更地にしちゃうようなの使っても?」

「その程度でしたら問題ありません」


 お嬢様は笑顔で答える。まるで問題にしていない。

 だが、そんな事を聞いたと言う事はカグヤも一撃で決める気のようだ。


「……酒……抜いて……」


 アレはもう頼りにならない。


「じゃあ俺からって事で――」

「ああゴメンなさい、リュウジさんの相手は準備がありまして」


 おいこれは、また俺がトラウマ作成する展開じゃないだろうな?


「なら、アタシからだね? 国を挙げて子ども扱いされる悲しみを叩きつけてあげよう」


 カグヤが前に出る。

 手を組んでバキバキ指を鳴らす――仕草をするのに音が鳴ってないのが微笑ましい。


「では、カグヤさんの相手はこちらになります」


 お嬢様が手を向けた先に、等身大デッサン人形が落ちてくる。

 どこから降ってきたのかと上を見上げると、デッカイ円形の飛行機が飛んでいる。あそこでずっと合図を待ってたのかよ。

 人形は華麗に着地すると簡単な演舞を披露、ビシッと構えて静止する。

 観客から拍手が飛んだ。


「機動力重視の格闘タイプです。カッコいいでしょう?」


 もしかして、彼女の趣味か。


「カグヤ、いけそう?」


 俺が聞くと、カグヤは余裕の笑みを浮かべる。


「本気になった私に機動性なんて意味ないんだよ」


 まあ確かに彼女の魔法は底が知れないから、範囲攻撃で一撃かもな。

 俺はお嬢様の後ろに下がる。


「では、開始してください」




 合図の後もカグヤと人形は動かない。


「何? こっちからやっていいの?」


 カグヤが右手を人形に向ける。掌に光が集い……

 ふっとんだ。

 カグヤは地面と平行に20mほど飛んで行き、ゴロゴロ転がって止まる。

 彼女がいた場所にて、蹴りぬいたポーズで止まった人形の、頭の向きだけが彼女の動きを追っていた。

 お嬢様が言う。


「試作機なのでリミッターが付いてないんですよ」


 どんな格闘漫画かと。

 カグヤはゆっくりと上半身を起こして呟く。


「何今の……」


 アレで傷一つないってのも凄いと思うが。

 だが、彼女の愕然とした表情は、俺の考えとは別の意味を持っていた。


「3回蹴られたんだ。寸止めされて、防御が残ってるか確かめられて、最後に当ててきた」


 彼女は震えながら立ち上がる。


「何なんだろう、凄くなめられてる気がする」


 カグヤはかぶりを振って気を取り直すと、再び右手に魔力を集中させながら前に飛び、同じく一瞬で間合いを詰める人形と交錯する。

 人形は大振りな回し蹴りをするが、彼女はソレを潜ってがら空きの腹に右手を伸ばす!


「消ぃえてなくなれっ!!」


 その手からあふれ出す闇の奔流!

 爆音と共に周囲が土煙と闇の粒子に包まれ、二人の姿は見えなくなる。

 こちらにまで届いた衝撃が、観客を守る巨大な防御結界を僅かに揺らしている。


「……すげえ」


 てか黒い光って発想がなかった。

 どんな効果があるのか知らないが、それがなんであれ、あの量が当たったらお終いだろう。

 そんな事を考えていると、お嬢様が軽く手を横にふった。

 土煙が割れていき、戦場の中心が見えてくると――

 黒い光を打ち出した姿勢のまま動かないカグヤと、伸ばされた彼女の腕に乗って逆立ちしている人形がいた。

 人形はヒラリと地面に降りると、バク転しながら距離をとって、構えた。

 両者の距離は、3m程度か。

 カグヤは無表情でパンパンと頬を叩き、大きく深呼吸する。そして――


「おい、ふざけてんのか? アタシをおちょくって……ああ、駄目だ、殺す」


 もう言葉にならないって感じでキレた。

 それに対して人形が示した反応は1つ。

 右手を前に出し、掌を天に向けると、指を揃えてこう……クイクイっと。

 ……アレだ、『御託はいいからかかって来いよ』のポーズだ。


「ふ……ふふふ……殺して殺す」


 カグヤさんめっちゃ怖いわー。

 そしてカグヤは空を見上げ、ただ一言だけ、叫んだ。


「ふっざっっけんぬあああああああああああああああああ!!!!」


 次の瞬間彼女の雄叫びに負けない轟音が響き、人形が消えた。いや、人形だけじゃない。カグヤを中心とした半径20mの地面が、深さにして3mほど陥没したのだ。

 陥没した地面を見やると、人形は半ば埋もれる形で、上から踏み潰した空き缶のように潰れて動かなくなっていた。




 顔を真っ赤にしたカグヤは手早く地均しを終えると、小走りで帰ってきた。

 なんか増えてる野次馬達の拍手につつまれる。


「……恥ずかしい、人が見てたのにあんな事言っちゃうなんて……」


 うつむいたまま、しゃがみこんでしまったカグヤを、復活したイスルギが迎える。


「昔よりはだいぶ落ち着いてるぞ。たまに見せるぐらいなら、むしろ可愛いから安心しとけ」


 ガシガシと頭を撫でてやるイスルギ。

 いいカップルじゃないか。俺にも機会を与えてほしいもんだ。

 お嬢様はちょっとしょんぼりしている。


「本気を見たかったのにぃ……」


 まさか一撃で終わるとは思わなかったんだろう。でもアレ本気じゃなかったのか?

 そんな彼女にイスルギが声をかける。


「ライゼラン殿、俺の相手は何かな?」

「へ? えと、アレになります」


 彼女の指す方向、上を見るが、鈍重な飛行機が旋回するだけで何も降りてこない。

 ……いや、飛行機そのものが高度を下げている気がする。


「……俺じゃ、あそこまで届かないな」

「大丈夫です、陸戦形態になりますので」


 そんな話をする間にも飛行機は――アレでかくね?


「お互い楽しめるといいんだがな」

「あんまり不安にさせないでください……」


 イスルギは背負っていた鉄塊のような両手剣を持つと、前に出た。




 地面をえぐりながら着地した元円盤は、20mほどの楕円のモナカに四本の蟹脚をつけた、宇宙人の侵略兵器のような形になっていた。

 緑豊かな草原に、砂漠仕様のデジタル迷彩が映える。すげぇ目立つなおい。

 楕円が、長い脚に似合わない鈍重な動きでイスルギを正面に捉える。その先端から石臼のような音と共に巨大な砲塔がせり出し、イスルギを見つめた。


「アレは流石に痛そうだな」


 イスルギは笑いながら楕円の足元に駆け寄ると、反応出来ないでいる巨大な右脚の内側に向け鉄塊を振り下ろし――振り上げた。

 金属が軋む不快な音を立てながら、まるで何かの冗談の様に巨体が裏返る。

 圧倒的な質量がひっくり返った轟音に僅かに遅れて、大地が大きく揺らいだ。

 観客が程よく盛り上がる。


「これで終わる訳でもあるまい?」


 このまま一気に終わらせるのかと思ったが、イスルギは距離を取った。

 手早い勝利より娯楽性を重視したと言う事だろう。

 楕円は暫らく脚をジタバタさせていたが、やがてソレも止まる。

 前脚をぐっと縮めて、ソレを思い切り広げて地面に叩きつけると、その衝撃で何とか起き上がる。

 スローモーションのように前脚が地面に降りて、その衝撃が――


 ……右の足先が折れた。


 イスルギがアレを転倒させるために攻撃した部分だ。

 楕円はつんのめるようにバランスを崩したが、何とかボディーを水平に戻し、横を取ったイスルギを捉えようとぎこちなく旋回を始めた。


「何アレ? 図体だけの廃棄物じゃない」


 カグヤが酷評するが、お嬢様は笑顔だ。


「でも、300t近くの質量を人間1人で転がす姿なんて、滅多に見られませんよ?」


 重いだろうとは思ったが、そんなにか。


「ライゼラン、流石にアレは重量過多じゃないですか?」

「そんな事ないですよ」


 お嬢様はそう言うが、楕円が旋回するよりもイスルギが横を取るスピードの方が速い。徒歩で。


「……ライゼラン殿、もう終わりでいいんじゃないか!?」


 イスルギが立ち止まってお嬢様に呼びかける。


「壊しちゃってくださ~い!」


 お嬢様の答えを聞いたイスルギは、鉄塊を大上段に構え腰を沈める。

 楕円は今だに旋回中だが、あえて見栄えの良いタイミングを待つ。

 そして楕円が最後の一歩を終え、中央の砲塔がイスルギを狙うべく下を向いた瞬間、真正面へ跳び、その先端に鉄塊を振り下ろした。

 ――シュイン、と。

 今までにない音をたてて、楕円が滑るように後退した。

 鉄塊は空を切り、全身隙だらけになったイスルギの眼前に、素早く、それでいて繊細な動きで主砲の先端が向けられた。


「や――」

 轟音。


 チャージ時間ゼロで撃ちだされた圧倒的な光が、イスルギを飲み込む。

 光は徐々に収束していき、糸のように細い線となる。

 だが光源のすぐ側、イスルギの居た場所は光の量が多く確認できない。

 手で光を遮りながら問う。


「ライゼラン! イスルギは!?」

「いい感じです!」


 どんな感じかと。

 とりあえず生きているって事だと思っておこう。

 楕円から伸びる光線は未だ健在。自分ならアレをどう防いだかを考えながら眺めると、イスルギの姿が漸く見えるようになってきた。

 ……光線を右手で受け止めている。何アレ非道い。俺には無理だ。


「魔法防御が間に合わなかったので、別の方法を使ったんでしょうね」

「別って?」

「恐らく、体内に遺失技術を埋め込んでいるんじゃないかと思うのですが……」


 ライター知らないのにイージスの盾が作れるとか目茶苦茶だな。

 主砲からの光が消えて、地面に降り立ったイスルギが大きく息を吐いた。


「完全に騙されてたよ。だがもう油断はしないからな?」


 そう告げると、彼は次の瞬間黒い閃光となって楕円に肉薄、剣戟を繰り出す。

 イスルギが鉄塊を振るう度にその剣圧が大地すら抉り取るが、こちらも本気モードになった楕円は巧みなステップで攻撃をかわし、更には脇に付いた機銃から大量のホーミングレーザーを撒き散らす。

 もうなんて言うか、高速弾主体のシューティングゲーム?

 秒間3発程度の射撃を弾き、回避しながら攻撃を続けるイスルギは凄いが、ジャンプすると空中で無防備になってしまう彼は、地面から離れる事が出来ずに決定打を与えられない。


「何か俺詰んでないか?」


 イスルギはそんな状況でも呟く余裕があるようだ。

 お嬢様から野次が飛ぶ。


「本気で行ってくださいよー!」

「あんまり見せたくないんだがなぁ」


 そんな事を言いながらイスルギは楕円から大きく離れた。

 楕円も攻撃の手を止め、相手が次の手を準備するのを待っている。

 お互いに相手の本気を待ちながらの戦闘は、まるでショーを見せられているようだ。

 イスルギが鉄塊を地面に刺してそっと手を添えると、刀身に鎖のように絡みついた、大量の文字が浮かび上がる。

 文字が完全に鉄塊を包み込むと、ソレは光へと変わり、粒子となって空へ消えていく。

 光が消えたとき、ソコには1本の直刀が残った。彼と同じ地味な色の鞘。

 ――俺を助けてくれた時の刀だ。


「コレ使うと消耗抑えるの大変なんだよ……」

「どうせすぐ使うと思いますし、いいじゃないですか」

「やっぱりそうでしたか、塔に入ろうってんだから覚悟はしてましたけど。でも、ココでは少しも抑ませんよ?」


 2人は今後の予定について、ある程度の見通しが立っているのだろうか。

 イスルギは刀を手に取ると、ため息と共に鞘を抜く。

 そして片手でもったソレを、適当に2~3回振った。

 そして、乱暴に鞘に戻す。

 刀の(つば)が鞘に当たり、涼やかな金属音が鳴った。

 僅かに遅れて響いた、今度は耳障りな金属音に視線を向けると、中心から見事に両断された楕円が、倒れこんでいく最中だった。




 イスルギが拍手に迎えられて戻ってきた。


「まさかココまで追い詰められるなんて思ってなかったな」

「ウチの小型機を両断するなんて、面白い物を見せていただきました」

「いえ、防御結界を展開してなかったから、何とかなったんですよ」


 お嬢様は笑顔だが俺には何が起こったのか解らない。

 カグヤがイスルギに駆け寄って聞く。


「また鞘作るの? 半日もらえればやっておくけど」

「いや、今週中は必要ないな」


 あの鉄塊は鞘だったのか。


「イスルギ、色々一体どうやったんです?」

「……いい剣ってのはな、射程範囲が無限なんだ」


 そんな無茶な。


「音速を超えて振るとだな、切り裂かれた空気がこうブワッて」

「成る程。空気がブワッで鋼鉄が真っ二つですね?」


 教えてはくれないらしい。

 多分、刀身からマジカルな何かが伸びたって事なんだろう。魔力相変わらず万能だな。

 どうせ考えたところで判らないし、今はそんな物考えてる場合ではない。


「それでは最後にリュウジさん、前へどうぞ?」


 お嬢様が笑顔で促す。

 だが、俺には戦闘が始まる前に言わなくてはならない事がある。


「ライゼラン、ちょっと待ってください」

「どうしました?」

「俺には隠された能力とかないんですからね? ちゃんと手加減してくださいよ?」


 そこんところはキッチリ判っておいてほしい。

 俺はあの二人とは桁が違うんだ。悪い意味で。


「大丈夫、リュウジさんの相手は2000年前の近接格闘しか出来ない人型タイプですから」


 ならいいんだが……でも2000年ってのがロートルって事か完成されてるって意味かで、だいぶ変わってくると思うんだよね。


「……ほら、来ましたよ」


 お嬢様の視線の先を見ると、俺の相手が見えた。


「……ライゼラン殿、何か随分と可愛らしいのが出てきましたね」

「2000年前ですから」

「アレで格闘するの? 両腕にデッドウェイトがあるから、リュウジでも楽勝じゃない?」

「……思えば俺達って、いつも楽観論しか言わねえのな」


 俺は二人の意見に何も応えなかった。

 ……爆音と共に飛んできたのは、パイルバンカー装備、7割生身のメカ少女でした。

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