14話 むき身で生きる君へ
――人は見た目が9割。誰かが言った、有名な言葉。
僕はそうは思わない。
だってさ、僕が心から好きになった人は、この世界じゃあいわゆる「ブサイク」と言われる人なんだもの――
姉と散歩をして、その帰りに夕食を振る舞った次の日の夕方。
それにしても、今日の仕事の出来については後悔が残る。
姉たちの【弓なりの歯ぎしりラジオ】にゲストで出させてもらったけど、弓なりって、本当に全力で笑わせに来るんだよね。
あの二人、僕が笑うことを恥ずかしがっているって知ってるから。
……まあ、僕を知っているほとんどの人は、僕が笑うことを恥ずかしがってるって知ってるんだけどね。
ほら、この世界の女性って、異性に対して本当に抜け目ないから。うん。
特に僕はあのコーナーに弱く、いつも笑いそうになる――
『二郎系脱法法律事務所! このコーナーは二郎系ラーメンがとにかく好きな私と、脱法系〇〇がとにかく好きな相方の二人が運営する、法律事務所です。今日も私達が違法か、合法かを判定していきたいと思います』
相方さんのコーナーの紹介を聞きながら、心の中で笑うな……笑うな……と強く意気込む。
『ラジオネーム:さらばまごころさんからいただきました。 センター試験中に、とにかくデカい屁をかましてしまいました。これ、犯罪になりますか?』
わ、笑うな。腹筋に力を入れるんだ。
『そんなの、臭けりゃ有罪! 臭くなけりゃ無罪だ! 簡単だな』
『間違いないね』
『ぴひょ――ッ!』
ここで、僕が笑いそうになる。
とっさに手で口を抑えるが、特殊な笑い声が少し漏れてしまった。
『おやおやぁ~? 悠久は、そんなまぬけな音を出して、どうしたのかにゃあ~?』
あっ、この流れはヤバい。
『ほら、悠久君。私の顔を見て見て! 今からイケメン彼氏が出来て、人生最高潮な女が、帰ったら家が燃えていた時の顔やるから! 見て!』
『ショートコント、逆吉高由里子。 銀行から出られなーい!!!』
一度緩んでしまうと、笑いを抑えるのがどんどん難しくなっていく。
流れをぶった切った二人の追撃により、ついに僕は……
『――ぷしゅっ! う、うぴぴぴぴ!!』
はあー、今日は久々に「第三段階」まで笑ってしまった。恥ずかしいなあ……
僕は自分の笑い方を段階別に分けている。てか、いつの間にか自然とそうなっていた。
第一段階は僕が作り上げたニコニコ笑顔。
第二段階は鳥のまぬけな鳴き声みたいな笑い声。
第三段階は可愛いうさぎのうんちが漏れたような笑い声。
第四段階は心からの最高の笑顔、と。
世間には第一段階、僕の親しい人にはギリギリ第二段階までと、僕は固く心に決めている。
……のだが、今日はそのハードルを飛び越えてしまった。
少し言い訳させてもらうと、ラジオって顔が映っていない分、少し気が抜けるんだよ。
あの後もさあ、
『ラジオネーム:火雷さんからいただきました。 聞くまでもないですが、仕事も恋愛も成功しているムカつく夫婦の元に、どぎついAVを送っても、そりゃあ犯罪にはならないですよね? あっ、自己解決したので、もう大丈夫でーす』
『まーーー!!!』
『珍しく弟が奇声を!? ついに壊れた!?』
また笑いそうになって、ああやって強引に切り替えたけど……
今後はあんな見苦しい姿を見せないように、もっと気をつけよう。はい、反省終わり。
「そんなことより、今は料理に集中しなきゃ」
今日は仕事の都合で、そばかすちゃんが帰ってくるらしいからね。
いつも彼女はろくなものを食べていないから、今日は精のつくものを大量に食べさせないと。
「ふふふっ、この日のために無理言って調理師免許を取得させてもらったといっても……過言だ」
うん、全然過言。食に救われた経験があるから、僕もそうなりたかっただけだから。
でも、気持ちの面ではやっぱり過言じゃないんだよ。男心ってそういうものってことで、さあ、頑張るぞ!
僕は愛する人の顔を思い浮かべながら、料理の手を止めない。
芸名、そばかすちゃん。僕の幼馴染であり、初恋の人。
そうだな、僕が一言で彼女を表すなら、「むき身で生きる女性」かな。
むき身で生きるのは、さぞ痛いことだろう。それでも彼女はむき身で生きる。
毎日繰り返される日々を、自らの価値を示そうと、戦うように生きている。
そういう部分に、僕は惚れたんだ。
(会うの久々だなあ。もう1週間近く会ってない。でも、ようやく会える!)
嬉しくて嬉しくて、つい口角が上がる。
彼女の暮らしの一部は、動画配信サイトの「ようつべ」で投稿されている。一方的に視聴させてもらっているので、久々という感じもしない気もするが、それでもやはり会えるのは嬉しいのだ。
チャンネル名は「非モテ3人シェアハウス」といい、売れない若手芸人三人が同じ部屋で暮らす日常の風景を切り取った動画が主だ。
ぶっちゃけかなり「ようつべ」の底辺を彷徨っていた。
ただ、最近ではそばかすちゃんがほんのり売れたことによる影響と、他の二人がお笑い以外の道で活躍しだしたことで、つい最近登録者が一万人にまで至ったチャンネルだ。
(でも、非モテってなあ……僕はこんなにそばかすちゃんのこと、好きなのに。 ……まあ、世間の声的にはしかたないかもしれないけど……)
この三人は、いわゆる「ブサイク」なんて扱われる芸人だ。
そのことがどうしても僕は納得できない。
ただ単に、そばかすがあったり、身長が低かったり、足が短かったり、顔が大きかったり、巨乳だったり、小さくて丸い鼻だったり、一重だったり……
「別にそんなのさ、どうでもよくない!?」
おっと、つい心の声を叫んでしまった。
この国では、美醜の価値観が前世とは全然違う。
前世の感覚を持つ僕としては、非モテ3人シェアハウスの3人とも、余裕で顔は整っていると思う。
端的に言って、可愛い。
ただ、男女比が偏った影響か、それとも貞操が逆転している影響か。
やはりこの国では、彼女達はブサイクなのだ。
「うーん……やっぱり納得できない! そばかすちゃんは、世界一かっこいいのに!」
多少そばかすがあろうが、低身長だろうが、巨乳であろうが、関係ない。
彼女は最高に魅力的だ。頭の先からつま先まで、余すところなく素敵なのだ。
特にあの目。あの力強く輝く瞳に、僕はずっと心奪われてきた。
で、だよ。そんな彼女が、今日はこの家に帰って来る。
「今日こそ、そばかすちゃんに好きって言ってもらうぞ!」




