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【笑え】笑ってはいけない貞操逆転世界!【おもんなくとも】  作者: ながつき おつ


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12/22

10話 あんまり僕を引き合いに出さないでよ 



――人の悪口は言わない方が良い。誰かが言った、有名な言葉。


 僕はそうは思わない。


 だってさ、悪口だって、コミュニケーションの一つだ。もちろん悪口ばかり言うのはダメだが、日常の中で1パーセントくらいスパイスがあったっていいじゃないか。


 僕は出汁の効いた健康的な和食だけじゃなくて、スパイスの効いた料理も好きだ。多少身体に悪くたって、たまには刺激的なのも食べたくなるのが人というものだろう。


 それに、芸人さんにかかれば、悪口だって笑いになる。


 そのことを、僕は姉達の漫才から知った――



「ふふっ、それにしても、今日の弓なりの漫才は面白かったなあ」


 よし、幸いなことに、予定まで少し時間がある。


 ようつべの公式チャンネルにあげるように撮った二人の漫才を、もう一度見て時間をつぶそうかな。


『はいはーい。どうもどうもー』


 にぱっとした笑顔で、元気いっぱいに登場したのが、僕の姉だ。


 栗色のショートカットを揺らしながら、飛び跳ねるようにマイクにやってきた。


 見た目は、まさにギャル。


 頬の上あたりに散りばめるように貼っているフェイスシールと、いつものへそ出しファッションが、よりギャルみを加速させている。


 ちなみに、ツッコミ担当。けど、その割には普段からよくボケることを、僕はよく知っている。


『昨日の夜、田んぼのあぜ道で“ニホンヌキ”を見ました!』


 まだ挨拶もしていないのに、突然こう切り出した姉の隣に立つ女性。


 このぼさっとした長髪をだらりと垂らし、いかにも暗そうな人が相方さんだ。


 ちなみに、ボケ担当。


『ほんと……こいつ、いじらしいでしょ? 先に()を抜いてくれたみたいです。弓なりです、お願いしまーす』


「ふふっ」


 ちょっとしたツカミだが、少しにやけた。


 姉は大げさな身振り手振り、豊かな表情を交えて漫才をするので、笑いを誘うのだ。


 ちなみに、漫才の本題が始まる前に行われるちょっとした一ボケ。こういうのを「ツカミ」と言うらしいよ。



 姉たちのコンビ、弓なりは、自らを「地下芸人」と名乗る、若手芸人だ。


 まあ、地下というには僕の影響でいささか知名度があり過ぎるが、このアングラな世界観が人気の秘訣でもあるので、姉達は一生地下芸人を名乗るらしい。


 芸人の世界は不思議なもので、芸歴が10年くらいあっても、まだ若手扱いされる。


 十年も真面目に働けば、サラリーマンなら管理職にまで昇進していることだってあるのに、ほんと、おかしな世界だ。


 そんなことを考えながら、続きを見る。


『家にいつ買ったかも分からないフライドオニオン、フライドガーリック、唐辛子が出てきたからさ、料理してみようと思ったのよ』


『お前、料理なんてできねえじゃん』


『大丈夫大丈夫、味にはこだわりがない方だからさ。火さえ通せば飯ってなんでも食えるでしょ?』


『間違いないね』


『とはいえ美味しいものを作ろうと考えた結果、油がいるって思ったんだ。でも、油なんてもちろん家にない。困ったぞ』


『やべえじゃん。どうしたの?』


『そこで閃いたわけよ。風呂場へ行こうと』


『ん?』


『我が家のシャンプーはさ“椿油配合”って書いてるのよ』


『おまえ……』


『そこで鍋にシャンプーをドン!』


『うっは、食べられないラー油じゃん』


『ここで隠し味!ほんのちょっと鰹節を入れる! 絶対に美味しくなるはずだと思ってさ』


『焼け石に水って言葉、知ってる?』

 

『ロウリュウのこと?』


『ほんとお前は……愛くるしいなあ! このこの!!』


「ふふふっ」


 いやあ……くだらないなあ。


 自然と僕の表情はにやけていた。

 

 こう、家で自分一人の時だと、ごく普通に、そして素直に笑えるんだけどなあ……


 二人の掛け合いは、いかにも悪友といったテンションで交わされる。


 女子高生が教室でじゃれあっている一シーンを切り取ったような掛け合いは、まったく緻密さが感じられない。


 ただ、そのテキトーさが、逆に癖になる。


 癖になるんだけど……


『で、何の話だっけ? あーしの弟の一物がビックサイズって話だったっけ?』


『ごくり……一旦ゆっくりその話題について話し合おうか。私のイメージだと小指程度だったんだけど……ふぅ、いっ、いい一旦、一旦落ちついてもろて』


『あっは、お前がな』


 悪ノリ癖。


 これが、姉の悪い癖だ。


 相方さんも姉の悪ノリを止めないので、どんどん悪い方向に加速していくんだよね。


 基本的に下ネタ、毒舌、偏見、タブーなどの話へそれていくが、今回は下ネタ系の方向へ、どんどん過激になっていった。


 ……まあ、女性二人で勝手に盛り上がる分には良いんだけどさ。あんまり僕を引き合いに出さないでよ。


『はあーあ。結局さあ、男の価値ってち◯ち◯にしかないよな』


『は? 男って弟以外、総じて存在価値皆無のゴミじゃん。何言ってんの?』


『……そうだった。こいつ、ブラコン過激派だったんだ』


『悠久ー! 愛してるぜ!!! 弟以外の男は、もうちょい悠久を見習えよー!!』


『無茶言うなよ……』


 今日はこんな風に下ネタからの、この世界でタブーとされる「男ディス」の話題で、会場を盛り上げていた。


 こういう毒舌が笑えるのは、姉なりのテクニックがあるから。


 姉が言うには、「悪口を言う時は、とにかく主語を大きくして、なおかつ振り切ってしまう。こうすると、笑える冗談になる」らしい。


 こうしたやり取りがしばらく続き、時間が来たので弓なりは唐突にネタに戻った。


『できたものをご飯にかけ、ションベンくせえ男のち◯ち◯二竿を箸にしてかっこむ。これは世界一美味いはず』


『ういー、ぐうシコじゃん。ありゃしたー』


 ……うん、ね。そりゃあ、地下芸人なんて名乗るのが普通か。


 最終的に今日の漫才の終わり、これだもん。


 劇場では人気だが、テレビではほとんど見ない若手芸人。ただ、僕の影響で知名度はやたらとある。


 それが今の姉達の立ち位置である。


 そんな漫才師である姉を、僕は自宅で待っているのだが……



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