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第61話 勝ち取った先にあるもの

 荒廃した大地の寂れた廃村、使われていない壊れかけの井戸。

 その近くで、僕はオークキングを名乗る変なヤツと対峙していた。

 別に僕は戦う気はない、向こうが勝手にやる気だしてるだけ。

 控えめに言って大迷惑である。


「もう一度攻撃を叩き込む、今度は本気のフルスイングだ。

 人間、お前が俺より強いなら避ける必要は無いよな?」

「まーいいけど、何度やっても無駄だよ?

 ってか、今の僕の姿を見てもまだ人間だと思ってるの?」

「角や尻尾の生えてる人間がいるかもしれないだろ」

「女王……僕の知り合いはそんな人間存在しないって言ってたけど」

「お前の知り合いなど知るか。俺は今まで人間を見たことは無かったが、違いくらい分かる。

 お前からは魔物ではまずありえない奇妙な匂いがする、着飾ったような人間臭い匂いだ。

 そんなんで魔物になりきろうだなんて、反吐が出るぜ」


 ……龍人の姿を見た女王からは「人間じゃない」と言われ、コイツからは「魔物じゃない」と言われた。

 なら、僕はいったい何者なんだ? 天龍か? 異星人か? それとも――


「隙を見せたな、ここだ!」


 一度考え始めたら、たまに過集中になるのは僕の悪い癖だろう。

 そして、そのせいで敵から目を切るのはもはや弱点だ。

 オークキングの振り上げたツルハシを、額で受け止める。

 別に受け止める気は無かったけど、気付いたらそうなっていた。


「うっ!」

「……ん? ああ、攻撃……したんだ。じゃあ、お返ししないとね」


 左手で相手の肩を掴み、もう片方の手に力を込める。

 考え事をしたいが、コイツが邪魔だな。しばらく眠ってもらおう。


「くそっ! 離れらんねぇ、どこにこんなパワーがあんだ?!」

「離れるなんて無理だよ。この最強形態なら、万力よりガッチリ掴めるから」


 息を吸って、拳を握る。

 殺さないように、かといって加減しすぎないように、拳を振りかぶる。


「や、やめ──」

「コウ様、手を離してあげて下さい!」


 後ろから聞こえた声で、不意に力が緩む。

 オークキングはその隙に移動して距離を開けた。


「ヨーム? どうしたの?」


 見ると、杖に映し出されたヨームとそれを持つマナ達がいた。


「お前……まさか……!」

「お久しぶりです。魔王様」


 オークキングがこっちに駆け寄る。

 だが、その顔にはもう敵意は無い。

 どうやらヨームとオークキングはお互いに面識があるらしい。

 ってか鉄の魔王ってコイツかよ。

 もっと知的な奴かと思ったわ。


「『犬ノ長』じゃねえか! なんだ生きてたのか! 他の奴はどうした?」

「皆無事です。というのも──」


 ヨームは事件から今までの事をオークキング語りだした。

 にしてもヨームの昔の名前が『犬ノ長』か。

 ありきたりというか、一周回って独特なネーミングセンスだ。

 この地方じゃ見た目や性格で名前が付けられるらしいけど……不思議な文化だね。


「貴様ら、やはり魔物と繋がりがあったのじゃな」

「良い魔物とだけね。てか女王、出てきちゃダメじゃないか。隠れてないと」

「信じると言うたじゃろう。コウの隣にいた方がむしろ安心じゃ。いつ魚が襲ってくるかも分からぬからな」

「一理ある」


 あんなデカい魚、もう嫌だけどね。

 しかし、女王の口から安心なんて言葉が出るなんて。

 少しは僕のことを信頼してくれたってことかな。


「その恐ろしい見た目も、味方と考えればむしろ頼もしく見えるものじゃ」

「恐ろしい見た目……あ、はい。解除したよ」

「ふっ、貴様は面白い生物じゃな」

「もしかして、僕のこと言葉を話す珍生物かなんかだと思ってる?」


 女王が僕のことをUMAとして見ている可能性あるな。

 もし仮にそうだった場合、速やかに誤解を解かないと。


「あー、お前たしかコウ……だったか? 悪いな、早とちりしちまって」


 オークキングが、武器であるツルハシをしまいつつ近づいてくる。

 よかった。こっちの誤解は解けたみたいだ。


「ああ、いいよ。けど、次からはこっちの言い分を聞いてくれると助かるかな」

「ホントすまん。よく考えれば、人間がみんな悪人ってのは極端だよな。

 魔物にも良い奴と悪い奴がいるしな」

「分かってくれればいいんだ。そういや君って鉄の魔王なんだよね?」

「一応な。種族自体はオークキングだ」


 彼も大魔王から力を貰っているのかな。

 あの感じを見るに、魔王になっても頭は良くならないみたいだ。

 あるいは、良くなってアレなのかな?


「改めて、俺様の名はオークキングだ」

「僕はコウ……名前と種族名が同じなんだね」

「俺達の間じゃそれが普通だ。むしろ、他の地方の奴らは名前が一人づつ違うから大変そうだな」


 異文化交流ってこういうのを指すのかな。

 自分とは違う常識を聞くのは新鮮だ。


「お詫びに、俺達の町に来ないか? そう遠くないし、飯ぐらいならいくらでも用意できるぜ」

「それはありがたい申し出だけど……」


 どうしようか。女王は魔物嫌いだし、魔物の町なんて行きたくないよな。

 断ろうか考えながら、女王を見る。

 すると彼女は僕の視線に気づき、口を開いた。


「わらわは是非とも行きたいと考えている」

「いいの? その……」

「うむ、魔物がどのように暮らしているのか興味があるのじゃ。

 それに、魔物も案外話が分かるようじゃからな」


 女王、明らかに考え方が変わっているな。

 前よりも柔軟というか、別の角度から物事を見ている気がする。

 それが良い変化だと信じたいね。


「連れて行ってくれ。そうだ、寝床も人数分頼むよ」




 ーーーーーーーー




「手前ら、飯と寝床を用意しろ! 俺様の客だ、丁重に扱え!」


 町に着いて早々、オークキングが怒号を飛ばす。

 それに対して、特に焦ることも無く淡々と仕事をこなす町の住人たち。

 あまり詳しい事は分からないが、少なくとも僕の町とは様相が違うようだ。

 ここにも文化の違いが、とか思っていると女王が服の裾を引っ張って僕を呼んだ。


「コウ、あの箱はなんじゃ?」

「トロッコ、物を運ぶ為に使うね。見た所、入っているのは炭だね。この町には炭鉱があるのかな」

「コウ、あの小さい者は? 髭が生えている故、子供には見えぬが」

「ドワーフって魔物、この町にもドワーフいるんだ」

「ではコウ、あれは? あっちは? あの装置は何に使うのじゃ?」

「待って待って、そんないっぺんに質問されても困るよ」


 また随分と急変したものだ。

 目もキラキラさせちゃって、年相応って感じ。


「変な訛りのガキだな。こんな普通の町がそんな目新しいか?」

「うむ。全てが人間の町や国のそれと違う、ましてやわらわの想像とも。このように好奇心をくすぐられるのは久方ぶりじゃ。

 しかし、このような町が母上……秘宝国の先代女王と取引したとはな」

「あ? そりゃ俺様じゃねえよ、先代の魔王がやった事だ」


 なんだ、魔王って変わってたのか。

 いや、よく考えれば分かるか。

 だって、この人は今日まで人間に会ったこと無かったんだから。


「その話、より詳しく聞きたいのじゃが」

「先代の女王の話か? それとも魔王の方か?」

「両方じゃ。両方の話が聞きたい」

「いや、そんな面白い話でも無えぞ」

「構わぬ」


 女王の真剣な眼差しに押されたのか、オークキングは頭をポリポリとかいてから、話を始めた。


「あれは確か5,6年前だったか。前に鉄の魔王やってた奴はとにかく横暴でな、気に入らない奴殺したり税をありえんぐらい上げたり、まあ無茶苦茶な奴だったぜ。

 んで、そういう事されると、下の奴は当然怒るだろ?

 だから、反乱を起こしたんだ。俺様を筆頭に、ってか矢面に立たされて」

「反乱とは、まるでわらわの国と……

 それはどのようにして成功させたのじゃ?

 魔王が相手ならば、一筋縄ではいかないじゃろう?」

「そりゃあな。強かったぜ、アイツは。

 俺の同志も沢山死んでったからな。けど、俺達は勝った。文字通り三日三晩戦い続けて、勝ったんだ」


 いわゆる下剋上ってやつか。

 そういやヌイコも前の魔王を倒してなったって言ってたし、案外珍しくもないのかも。


「……今でも、あれは奇跡だったと思うぜ。大魔王様が俺達に微笑んだんだろうな」

「大魔王とは?」

「人間で言うとカミみたいな御方だ。滅多に会えない伝説の存在だな」


 大魔王様、やっぱり凄い存在だったんだ。

 天龍しかり、大魔王しかり、僕は対人運が良いらしい。


「んで、あれだな。クリスカの女王。あの人間は、俺様が正式に魔王になってから知った。どうやら、秘宝と交換でこの地方の金やら希少な鉱物やらを輸入してもらおうとしてたらしい。つっても、やろうとしてただけで実際にはせずに終わったけどな。

 ……それ以上のことは知らん」

「ふむ、こちらで書物等を調べる事は可能じゃろうか?」

「あー悪ィな、アイツに関する物は全部燃やしちまった。だから、無え」

「左様か……」


 女王がため息をついて肩を落とす。

 それを見たオークキングが、大げさに手を振って口を開く。


「まぁ、その、あれだ。俺たちは過去に縛られない生き物なんだ。

 辛い過去も、悲しい経験も、全部ひっくるめて今を生きる。

 そして、明日も良い日になると思って寝る。

 それが俺たちの生き方なんだ」

「ほう、それは素晴らしい。咄嗟に出た言い訳にしてはな」

「だろ。俺様も随分カッコイイ言い訳を思いついたもんだと…………いや、その」

「よい、貴様の気持ちは伝わった。

 話は終わりじゃ、これ以上傷口を広げる必要もないじゃろう」


 女王の大人びた言葉に、オークキングは苦虫を嚙み潰したような顔で頷いた。

 話は終わったが、女王の顔は未だに暗い。

 彼女は先代に、自分の母親にどんな思いを持っているんだろう。




 ーーーーーーーー




 深夜。何故か寝付けないので、貸してもらった屋敷を散策する事にした。

 そのうち眠くなるでしょ、とか考えて廊下を歩いている。

 歩いていると、ドアが開いている部屋を見つけた。

 なんとなく、人の気配もする。

 おかしいな、あそこは空き部屋のはずだけど。……幽霊、とか?


「……そこ、誰かおるのか?」

「だ、誰もいませんよ」

「なんじゃ、コウか。入れ、隣に来ることを許す」


 言われるがままに入ると、そこにいるのは死んだ事に気づかない可哀想な少女……ではなく死んだけど生き返った変な少女だった。


「君も眠れないの?」

「そんな所じゃ」


 窓辺で黄昏る女王の横に座る。

 あ、なんかエモい雰囲気。悲しい感じのBGMが似合いそう。


「……コウ。わらわには、女王としての才能があると思うか?」

「んー、はっきり言って無いね」


 最初に謁見した時から、薄々感じてはいたんだ。

『あ、この子、女王として振る舞おうとしているんだな』って。

 なんとなく、板についていない感じがあった。


「はっきり言い過ぎじゃ」

「ごめんごめん。でも、なんでいきなり?」

「ずっと考えていたのじゃ。母上と同じ過ちを犯すわけにはいかない、しかしわらわに才能はない。

 ならばいっそ、あの男に国を統治してもらう方が良いのかもしれぬ。とな」

「ふうん。君はどう考えてるの」

「レオンには、国を良い方向に導きたいという信念と、自分なら出来るという自信に溢れていた。

 少し過激すぎるようにも思えるが、民を思えば身を引く事もやむなしじゃろう」

「いや、そうじゃなくて、()()どう考えてるの?」


 僕の質問に、彼女はとても困った表情をした。


「わらわ……わらわの考えか」

「はいどうぞって渡したくないんでしょ?」

「そうじゃな。本音を言ってしまえば、わらわの手でクリスカを引っ張って行きたい」

「なら、最初っから答えは決まってるじゃん。

 アイツらに言ってやれ『この国自分のなんでとっとと返してください。愚民の皆様は黙ってついてきて下さい』って」

「ふっ、確かに。それだけ堂々と言い張れたら、さぞかし清々しいじゃろうな」


 女王の顔が柔らかくなる。

 一つ大きなあくびをして、彼女は廊下へと歩きだした。


「眠い、寝る」

「そうした方がいい、ガキはもうとっくに寝ている時間だ」

「まったく、貴様というやつは……」


 女王は「ふっ」と笑い、扉に手をかける。

 それを閉める前に、僕を見て言った。


「相談に乗ってくれたこと、感謝する。それと、あと少しの間護衛を頼む」


 扉が閉まり、いよいよ独りだけの空間が生まれた。

 さて、どうしようか。まだ眠気は来ない。

 いっその事、朝まで起きていようかな。

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