第60話 めっちゃ荒れてる
女王と和解し、再び森の出口へ向かって歩く。
一旦休憩したい所だけど、その前にアメリを探すことに。
「あ、いた! おーい、アメリ」
森を少し歩いただけで、アメリを発見した。
しかし、彼女は声を掛けても振り向かない。
人違い……じゃないよな。
「アメリ!」
「ん? あれ、ボス」
近づいて再び声をかけると、やっと反応してくれた。
ただ、今の彼女はどこか上の空だ。
「大丈夫か?」
「ええ、はい。何かありましたか?」
「何かあったどころの問題じゃないんだけど……ちょっと前にも呼びかけたんだけど気付かなかった?」
「少し……心の世界に行っていました」
心の世界って、随分詩的な表現っすね。たぶん集中とか瞑想的なそれだろう。
やっぱり、いくら耳が良くても何かに集中してちゃ聞こえづらいのかな。
「まあ、無事で良かったよ」
「皆さんは……無事ではなさそうですね。何があったのですか?」
「もちろん説明するけど、とりあえず楽な姿勢になろうか」
腰を下ろし、アメリや皆にヌシとの激闘を話す。
その間に、マナに魔法でムサシを治癒するようお願いした。
「……んで、その隙に蹴りを入れて僕が勝ったってワケ」
「そんな事があったとは、申し訳ございません主様。
俺がもっと早く来れていれば」
「全然いいっすよ。ちなみに何があったの?」
「死合を……いえ、何もありませんでした」
「……しあい? 何?」
「すみません。こればかりは『約束』してしまったので」
言い訳にもならない言い訳、そういうのいいわけ?
でも気持ちは分かるわけ。
「はぁ? 何それ、ちゃんと説明しなさいよ」
呆れたようにため息をつくマナ。
ま、彼女には理解できないか。
「やれやれ、分かってないなぁ。これはそういうものなんだよ」
「なんだか腹が立つわね。じゃあコウ、貴方が説明しなさいよ」
「かー! 分かんない? マナには分かんないか。
これはね、男の意地ってもんなんだよ。
けど言ったところで君に理解を強いるのは無理か、かー!」
「……ええ、一生かけても理解できないわね。
けど、とても馬鹿馬鹿しいのは伝わったわ」
マナは再び大きくため息を吐く。
そして、治癒を終えたのか杖を置いた。
「はい、これで外傷はほとんど治ったわよ。
けど完治したわけじゃないから、しばらくは無理しないで」
「ああ、感謝する」
「いいわよ。私は何も出来てないし」
そういえば、マナってあの時なにしてたんだ?
「マナ、ネリーと何を話してたんだ?」
「ちょっとした近況報告と、雑談」
「僕の声は聞こえた?」
「ええ、私を呼んでいるのは分かったの。それで、すぐに向かおうとしたのだけれど……迷ってしまって。あの大規模な戦闘音が聞こえなかったら、今も迷っていたかも」
「君がそんな凡ミスするなんて、信じにくいね」
「自慢じゃないけれど、私けっこう方向音痴よ?
貴方達と最初に会った時も、迷ってた最中だったし」
「え、そマ? あんな堂々と出てきて? 『わたしは~マナ~』て堂々と宣言して?」
「黙りなさい! 過ぎた事でしょう、忘れて!」
マナは「行くわよ!」と先導に立ち、勝手にズンズンと歩いていく。
その無言の背中を急いで追いかける。
やれやれ、相変わらず難儀な性格してるぜ。
あれから三日、僕らは鉄の魔王が治めているという場所を歩いている。
ただ、今のところ言葉が通じる相手には出会っていない。
犬の魔物とか、鳥の魔物とかは定期的に見るけどね。
「全然景色変わらん、あとどれぐらいだ?」
「あと二三週間ぐらいですね、馬を使えればもっと早くなるのですが」
「馬なんていないし、土地もデコボコしてる、最悪だよ」
この一帯は、いわゆる丘陵。
迷う心配は無いが、その分何も無い。
果実や野菜のような食べ物が全然見つからないんだよ。
ビタミン不足で倒れちゃうかもー。
「ボス、あれ見てください」
「んん? あれって……家じゃね?」
アメリが指差す先に見えるのは、何らかの人工物。
石造りの家屋? それが幾つか建っている。
「間違いなく村です。けど……人の気配がしませんね」
双眼鏡を覗くアメリが報告する。
いや、そんな便利な物持ってたのかお前。
「その双眼鏡、いつから持ってたの?」
「え? ずっと前からですけど。それよりどうします? 見たところ廃村のようですが、何か残っているかもしれませんよ」
「寄ってみようか。久しぶりに家で眠れそう」
この村はやはり廃村だった。
少し調査してみたが、やはり誰もいない。
だが、色々と奇妙な点も見つかった。
「うーん、めっちゃ毛落ちてる。あっちの家はピンク色、こっちは緑色。
大型犬でも飼ってたのか?」
「主様、どの家も荒らされた形跡があります。
ここの村民は、何らかの事件に巻き込まれたのかもしれません」
「何か怪しい物はあった?」
「いえ、何も。いなくなってから、かなり時間が経っているようです」
ふむ、きな臭いね。
真相を知りたいって気持ちと、気味悪いから逃げたいって気持ちがある。
やっぱ今日野宿でいいや。
「……いつまでも、過去から目を背けていては駄目ね」
「マナ? 唐突に意味深な発言してどうした?」
「心当たりがあるの。貴方もおおよその予測はついているんじゃないの?」
「えっ、う、うん。あれだよね、あれ。もちろん知ってるけど」
「……モモカやモエギ、獣人の子達がなんで町に来たのか、覚えているわよね?」
「なんで今そんな話を?」
そういや、彼らって今でこそ町の住人として生活しているけど、元々は全く別の場所にいたんだっけ。
確か帝国に誘拐されて故郷と別れることに……あれ?
「もしかして……」
「そう、ここがあの子達の故郷よ。帝国の報告書を閲覧したから、間違いないわ」
意外な場所で、意外なルーツに触れたな。
しかし、そうか。じゃあ彼らに連絡しないと。
「……貴様ら、何の話をしているのじゃ?」
あ、そっか女王いたのか。
いちいち説明するのも面倒だ、後はテメエで勝手に想像しやがれ……ともいかないよな。
「女王、これはちょっとナイーブでセンシティブな問題なんだ。
少し外してもらってもいいかな?」
「むう……分かった」
「アメリ、ちょっと女王と外行ってきて」
僕の言葉に、アメリは見るからに嫌そうな顔をする。
「えー!? 私が子守をするんですか?」
「子守じゃなくて護衛。君が適任なんだ」
「信頼してくれるのは分かりますけど、けど……」
まったく、アメリは我儘だな。
まるで子供みたい……待てよ、そこを刺激してやればいいんじゃ?
「アメリちゃん、これは大人になる為に必要なことなの。
終わったら飴ちゃんあげるから」
「ボス、その言い方わざとですよね」
「おんやぁ? もしかして女王より子供なのかな?」
「……分かりましたよ。やればいいのでしょうやれば」
よし。アメリはプライド高いから、ちょっと煽ればこの通りよ。
さて、女王も行ったしあいつを呼ぶか。
「マナ、杖を使って町と交信してくれ」
「彼にこの光景を見せるの?」
「ああ。生まれ育った場所だし、きっと心残りのはずだから」
マナは「分かったわ」と言い、杖に魔力を送る。
しばらくして、杖の先端にある宝玉に一人の獣人が映し出された。
「こんにちは、コウさん。そちらからの呼び出しは珍しいですね」
「やあ、ヨーム。君に見せたいものがあってね。
ただ、見て喜ぶものじゃなくて、なんつーか、その……」
「そんなはっきりとしない物言いも珍しいですね。見せてください」
「オーケー、外行こうか」
指摘されるぐらいたぎこちなかったのか。
しかし、その後の事を想像するとなあ……
外に出ると、マナが杖を掲げる。
ヨームが今どんな感情を持っているか分からないが、少なくとも状況は把握したらしい。
「これは、私たちの……そう、そうですか」
ヨームがぽつぽつと独り言を漏らす。
少しして独り言は収まり、彼は何かを考えているような素振りを見せた。
「コウさん、使命があるにも関わらずわざわざ私達のかつての故郷に赴いてくださり、本当にありがとうございます」
「実を言うと、たまたま寄っただけなんだ。一応見せておきたくてね。
ご覧の通り、もう君達を脅かす人間はここにはいない。
恐らくもう来ることもないだろう、安心して帰れるよ」
「帰る……ですか?」
「あれ、別に帰りたいわけじゃないの?」
「ええ、そんなに。私達は既に新しい故郷を見つけていますから、もういいんです」
もういい……か、彼らはもう過去と決別していたんだね。
あれ、じゃあ僕がやったのは盛大なお節介焼きだったってこと?
余計な事したかも……とか考えていると、今度はマナが口を開いた。
「貴方たちは帝国を、恨んではいないの?」
「恨む……怒りの感情はありますが、復讐をしようとまでは考えていません。
何故そのような話を?」
「私も、帝国の共犯者だから。贖罪の義務があると思うの」
あーそういや前に罪がどうとか言ってたわ、これの事だったのか。
にしてもバカだねぇ、そんなの引きずってたのかよ。
「そんな事、私は望んではいません。マナさんは私たちの仲間です、なんの罪も犯してはいません。
それでも、自分を許せないのなら、私があなたを許します」
「…………そう、ありがとう」
ほらね、思った通り。
彼らが帝国を恨んでたら、こんな穏やかに暮らしてるはず無いんだよなぁ。
「一件落着。んじゃヨーム、またね」
「ええ。そうだ、もし鉄の魔王様にお会いしたら――」
ヨームが何かを言いかけると「ボス!」と誰かの声がそれをかき消した。
声の方向を見ると、二人の少女が駆け寄ってくる。
「ボス、魔物の集団がこっちに来ています。
見たところオークのようですが、先頭の者が少し怪しいです」
「コウ、どうするのじゃ?」
アメリと女王が僕を見上げる。
あれ? こうして見ると、若干顔似てるな。
いやいや、そんな事どうでもいい。
とりあえず、その集団と接触してみよう。
「ムサシ、一緒に来てくれ。それ以外の皆は隠れてて」
皆が家屋に隠れたのを確認した後、僕とムサシで正体を見に行った。
アメリの言った通り、それは十何人かのオークだった。
彼らは熊か狼のような魔物を従えている、恐らく馬のような移動に使う家畜なのだろう。
ただ、その集団の先頭にいる者は少し不思議だ。
周りのオークに比べて背が異様に高いし、角も立派だ。
多分、特殊な進化をしたオークだね。
「犯人は必ず現場に戻るとはよく言うが、俺が来たタイミングでいるとは好都合だったぜ。
よう人間、俺様はオークキングだ。
ここの獣人族達を連れ去ったのは貴様だろ?」
「はぁどうも、僕はコウと申します。あの、それは冤罪で……」
「問答無用! 死ねぇ!」
なんだコイツ、自分から話振ってきて問答無用とか無茶苦茶だな。
理性的な相手だと思って対話をしたのだが、どうやらそれは間違っていたらしい。
オークキングとやらはいきなりツルハシを振りかぶり、僕にめがけて攻撃をしてきた。
「危ないな。僕はお話しがしたいだけなのに」
その攻撃を、龍人の姿で受け止める。
困ったなぁ、まず誤解を解かないと。
「貴様、俺様の攻撃を受け止めただと!?」
「あのー話し合いをしませんか?」
「黙れ! 今のはまぐれだ、絶対に認めん!」
「認知して」
手を挙げて戦う意志が無いことを示しているのに、オークキングは次の攻撃の態勢に入っている。
あーもー面倒くさい、なんでこうなるんだよー。




