表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/66

第59話 真打登場

 相棒を手にして、再びレインと対峙する。

 身体から溢れんばかりの全能感……レベルアップの時に似ているが、それとは全くもって異なる。


「進化……? いや、急成長か。

 そやけど、その度合いは進化と同等かそれ以上言うても差し支えへんな」


 レインが呼吸を整えて、俺を睨む。

 そして、右手に持った刀を掲げた。


「奥の手の一つだけど、出し惜しみする余裕はなさそうや」


 奴の刀が水色に発光する。

 そのまま、奴は距離が離れているのにも関わらず、刀を振り下ろした。


「急流斬」


 直後、刀から何かが飛び出した。

 刀を触媒にした魔法攻撃、ゲーム的に言えばソードビームとかそんな物だ。

 速い、見てから避けるのは難しいだろう。

 なんなら、『超回避』のスキルを使う前に切られるだろう。

 だが俺には当たらない、予測していた通りの動きをしたからな。

 アドレナリンの影響か、今は妙に頭が冴えるのだ。


「避けられた……ほんまに奥の手の技なんやけどな」

「確かにとっておきとして隠しておくに値する技、でもないな。

 こんな物を奥の手にするな」

「身も蓋もない」


 レインは一瞬だけ落ち込むような素振りを見せた。

 だが次の瞬間には笑みを見せ、大地を蹴る。


「流刃速撃!」


 繰り出されたのは、先ほど対処できなかったあの技。

 速さのメカニズムには魔法が関係しているのだろう。

 肉体を強化しているのか、あるいは魔法を推進力としているのか。

 どちらにせよ、コイツは魔法使いとしても一級だ。


「だが、見えるな」


 斬撃に合わせ、こちらも太刀を振る。

 カウンターの形になったが、完璧では無かった。

 擦り傷がまた一つ増えてしまった。しかし、やる価値はあった。


「痛っつ……ウチの流刃速撃に合わすなんて荒技をやってのけたのは、アンタ初めてや」

「どうも」


 レインは再び距離を取る。

 いま確信した。俺はこの太刀によって成長したが、それでも不十分だ。

 まだだ……まだ成長できる。俺はもっと上を目指せる。


「さぁ、来い!」

「ええや、やめよう。これ以上は歯止めが効かへんくなる」


 レインは刀をしまった。奴の目にも、戦う意志は見えない。


「臆したか?」

「ちゃう。思い出した事があるんや。

 アンタさっき、『コウ』って名前を口にしたやんな?」

「ああ、俺の主だ」

「その人って、力の魔王をワンパンした人で間違いあらへんわなあ?」

「どこで知った?」

「秘密のルート。そないな事より、実は上司から接触禁止令出されとって、コウの関係者と戦うとったのんがバレたら、大目玉を食らう事になりそうなんや。

 ここは一つ、『なんも起きひんかった』っちゅうことで手ぇ打たへんか?」

「……まあ、いいだろう」


 実際、戦いを続けても俺が勝てるとは限らない。

 それに、今はもっと優先しなければいけない事もある。


「そら良かった。ほな、もう帰るわ」


 背中を向け、トボトボと歩くレイン。

 俺はそんな奴を見て、純粋な疑問が頭によぎった。


「そうだ、最後に一ついいか?」

「なんや?」

「その訛り、どこで?」

「転生者のオカン譲りやわぁ。

 まあ、オカン曰くどちらにも寄ってへん中途半端な訛りらしいけどなぁ。

 ……そやけどこの訛りで喋ると、オカン近うで見てくれてる気ぃするんや。

 別にオカン元気やけど」


 レインは今度こそ森の奥に消えていった。

 あの状態で生きて帰れるか怪しい所だが……別に心配してやる義理もないか。

 さて、俺も主様の下へ行かなければな。




 ーーーーーーーー




 いやー辛い、ツライですねぇ。

 このヌシ、正式名称『陸魚王』は控えめに言ってクソ強い。

 弱い魔法は跳ね返されるし、強い魔法や殴り蹴りも躱される。

 まあ、僕が戦闘の素人だというのも思いっきし関係していると思うけど。

 何せこいつ、神の書庫によると百年以上も生き抜いてきたツワモノらしいんだよね。

 片や歴戦の猛者、片や力を持ってるだけの一般人。

 うん、肩書きだけで勝てる気しねぇ。


「ま、勝たなきゃダメなんですけどね」


 ヌシは僕から目を絶対に離そうとしない。

 それこそ女王なんか眼中にない、ってレベルで。

 両手に魔力を溜めて、考える。

 こいつは強い、そして魔物だから油断もしない。

 僕が勝っている面があるとすれば、それは知恵だ。

 マナが前に言っていた『魔法の形は知恵と発想で決まる。だから理論上どんな難題も魔法で解決出来る』と。

 ……魔力は溜まったけど、ここからどうすれば?


「ま、魔物め! わらわの前から消えよ!」


 睨み合いの最中、女王の声と石が飛んだ。

 それがヌシの体に当たり、一瞬ヌシの気がそっちに引き寄せられる。


「ナイス、女王!」


 その一瞬の隙で、右手の魔力を地面に押し当てる。

 するとヌシを中心に広範囲の炎魔法攻撃が飛ぶ。


「技名は……えっと……地面爆発!」


 即興とはいえ、我ながらあまりに酷いネーミングセンスだ。

 それに、ヌシは飛んで避けたからノーダメージだし。

 まあ、それは想定内だけど。


「空を覆うは無限の闇、地を昇るは怒りの炎。

 宙の狭間にて合い合わさり、新たな龍として覚醒せよ」


 ヌシよりも高く飛び、太陽を背にして闇の魔法を放つ。

 無論、ヌシは避けられないので受けの姿勢を取るが、そんなの織り込み済みだ。

 そこで、僕は地面の仕掛けを作動させる。


「……!」


 ヌシも気付いたようだね。

 そう、実は炎魔法は本命を隠すブラフ。

 ヌシは魔力量を見て判断したっぽいけど、実はその三割ぐらいの量しか使ってないよ。

 そして今、その残った魔力の全てを使って本当の攻撃魔法をぶつける。

 僕が使える二属性、炎魔法と闇魔法を掛け合わせた最強にカッコイイ魔法。

 名付けて──


「ドラゴンズフレア・F(フュージョン)


 二つの龍の形をした魔法が、ヌシと共に爆散する。

 完成した……というか使える場面があって良かった。


「…………」


 ヌシが地面に叩きつけられる。

 しかしそれでも立ち上がる、まだ戦う意志が残っている。

 だから、僕は次の作戦を行う事にした。


「女王! ────!」


 助走を付けて拳を振る。


「…………!!」


 だが、ヌシはひらりと躱す。

 ま、それも想定していたけどね。


「…………?」


 ヌシの体に弱々しい攻撃が当たる。

 それは、女王が投げた石。

 それがまた、一瞬の隙を生むんだ。


「跳ねっ返りの……キィイーーック!」

「…………!!!」


 ヌシの横っ面……というかヒレに当たる部分に蹴りが刺さる。

 ようやく応えたのか、ヌシは逃げていった。


「はぁ……なんとかなった」


 龍人化はあと少しで効果がなくなるところだった。

 毎度の事ながら、戦闘が綱渡りすぎる。


「女王……無事か?」


 周囲に気を配りつつ、女王を見る。

 目に見える脅威はないのに、彼女の顔は未だに緊張から抜けきっていない。

 それどころか、僕に対して敵対的な目を向けている。


「寄るな! この、裏切り者め!」


 僕が片足を一歩前に出すと、女王は二歩下がる。


「女王、どうしたんだ?」

「とぼけるでない! 貴様のあの姿は、魔物そのものじゃ!

 なにゆえ人に化けわらわに接触した!」

「違う、ちょっと変わっているだけで、僕は人間だ! それに、僕はただ君を助けたいだけで──」

「角も、尾も生えると言うのにか!? そのような人間は存在せぬ、存在してはならぬ!

 貴様の言葉は全て詭弁じゃ!」


 女王の言葉で、自分の中の大切ななにかが揺らぐ。

 いや……だって、あれはスキルの力で……僕は、これまでもこれからも人間で……


「何があったの?」

「主様……これは」


 タイミングが悪いことに、マナとムサシが戻ってきた。

 まずい、今の女王には彼らも敵に見えているかもしれない。


「貴様らも……わらわを……みんな……」


 女王が膝をついて、大粒の涙を流す。


「ひぐっ……わらわが信頼していた者は、皆裏切った。みんなじゃ!

 母上はわらわにずっと優しくしてくださった。じゃが、本当は……世界を陥れようとした悪人じゃった!

 ロースも……ぐす……ずっとわらわの姉の様に接してくれていた。わらわが女王になれば、もっと傍で支えてくれた。しかし、ロースもわらわに何の期待もしていなかった!

 コウ……貴様には、少しだけ信頼を寄せていたのじゃ。わらわを救ってくれたから。

 まさか魔物じゃったとは……なぜ……何故魔物などという相容れぬ存在に救われてしまったのじゃ……わらわは……」

「女王……」


 がっくりと肩を落とす彼女に、ゆっくりと近づく。

 なるべく目線を合わせるように、膝を曲げる。

 彼女が落ち着くまで待ってから、僕は口を開いた。


「ごめんね。

 本当は僕も全部話したいんだけど、信じてもらえるか分からないから。

 でも、君の助けになりたいっていうのは本心だ。

 どうか、信じてはくれないか?」


 泣きはらした少女が、僕を見る。

 その目は、睨むでもなく、安心するでもなく、ただ覗くように見ていた。


「その言葉を……わらわは信じても良いのか?」

「信じてほしい」

「……誓え。わらわを必ず守ると。そして、この先何があろうとわらわの味方でいると」

「ああ、誓うよ」


「その命を賭けてもか?」

「命を賭けても」


 僕が手を差し伸べると、女王は手を取って立ち上がった。

 気持ちに整理がついたからか、あるいは泣いたからか、彼女の顔は少しはれていた。


「……貴様がそこまで言うのなら、聞いてやらぬ事もないのじゃ」

「うん、ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ