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第12幕

 シンシアは、まだ男を知らなかった。

 同じ年頃の女は、すでに結婚して子を設けている者も少なくない。だがそんな幸せな人生を送っている連中を、シンシアは心底軽蔑していた。

 なぜなら、反吐へどが出るほど男が嫌いだから。

 だが少年は別だ。無垢むくな彼らは、騙すことも裏切ることも傷つけることもしない。

 少年専門の男娼館に、シンシアは入り浸っていた。そこで気に入った少年に奉仕させ、夜通しもてあそぶのが至上のよろこびだった。

 しかしその日のシンシアは、見るからに虫の居所が悪かった。

 店に来るなり、お気に入りの少年を部屋に呼び、奉仕を楽しむ暇もなく少年自らの手で何度も精を放出させた。

 やがて少年が文字通り精も根も尽き果てると、替わりの少年を呼んで同じことをさせた。

 むせ返るような精液の匂いのなかで、シンシアは眉にしわを寄せ、壁の一点を睨みつけていた。

 昨夜のリヨネッタとのやりとりを思いだす。

『母様、御者を始末してきましたわ』

『……どういうことですか?』

『レラです。あいつが匿ってたんです。あいつ、母様に嘘を吐いてたんです!』

 憎らしげに、テーブルに拳を叩きつけるシンシア。

『そうですか』

 だが、リヨネッタの反応は淡々としていた。

『魔術が弱まっているのかもしれませんね。戻ってきたら、すぐにでもかけ直しておきましょう』

『母様、まだそんなことを!?』

『あの子には、まだ利用価値があります』

『ですが……』

 なおも反論しようとして、シンシアは言葉を飲み込んだ。母の言うことは絶対だ。逆らうことなどあってはならない。

『あなたには気苦労をかけますが、もう少し様子を見て下さい』

『……はい、母様』

 シンシアは承諾しょうだくするしかなかった。

 母はいつまで、あの子を生かしておくつもりなのか。手駒なら自分とデイジアがいれば充分ではないか。

「レラの奴……母様の恩情も知らずに」

 母の人生を壊した憎き女に、レラは日毎に似てくる。その顔を見ているだけで、憎しみがふつふつと湧き上がってくる。

 次の少年を呼ぼうとしたが、さすがに部屋の匂いがきつすぎて窓を開けた。

 まだ日も高い。娼館の客はまばらで、風もさわやかである。

 最近、血の匂いを嗅がないと落ち着かなくなっていた。精液の匂いで代用してきたが、それも限界に近付きつつある。

「そのうちきっと、あんたをなぶり殺しにしてあげるからね、レラ」

 シンシアは舌なめずりをすると、窓を閉め、次の少年を呼んだ。

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