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使者の黙示録  作者: 左門正利
第二章 噛み合う歯車
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現れた使者

 数日後──


 占い師の女性は、シスター・マヤを占ったときと同じ場所で、机を前にして座っている。

 最近占ったそのシスターのことが、どうも気になる。


 ──このままでは、彼女は……


 確実に命を落とすだろう。


 シスター・マヤの心配をしている最中に、いきなり彼女の頭の中で、ピキーンと目が覚めるような閃光が走った。それは、世の中に変革をもたらす運命を背負う人間が、近くにいることを知らせている。

 夢のまどろみから現実に引きもどされたようにハッとした彼女は、それほどの運命を背負っている人物が誰なのか、心の目で探そうとする。


 占い師は、意識を心に集中させる。彼女の心の目が、道ゆく人々のなかから探そうとする人物を瞬時にとらえた。

 思ったよりも簡単に見つかったのは、その人物が発散しているオーラが、ふつうの人たちとは全然ちがうからだった。彼女が心で感じるそのオーラは、とてもまぶしく光輝き、また圧力を感じるほどに力強い。これほど強烈なオーラに出会ったのは、はじめてだ。


 占い師の女性は、己の意識を自分の心から切りはなす。そのとき、彼女の目に飛び込んできたのは、見るからに独身で無職だと思われる、ひとりの痩せこけた男だった。

 占い師の顔に、驚きと困惑の想いが浮かび上がる。とにかく、彼女はその男を占ってみようと、彼に声をかけた。


「そこの御仁」


 男が彼女の声に反応する。占い師の女性の目と、男の目が合う。

 すると、男はなぜか左右をキョロキョロと見まわす行動をとる。


「いや、あなただよ、あなた!」


 占い師が彼に向かって声をはりあげると、男は「俺のことか?」と、右手の親指を自分に向ける。

 占い師はコクンと首を縦にふり、まるでペットの犬を呼び寄せるように「来い、来い」と、男を手まねきする。

 男は、その占い師が美人なためか、ニンマリしながら彼女の方へ近づいて行くのだった。


 ──軽い感じのするお人だ


 占い師がそう思う間に、男は彼女の机の前までやってくる。


 近くで見たその男は、ボサボサの髪にヨレヨレの服を身にまとい、三十歳くらいに見える割には、歳相応のしっかりした様子が感じられない。

 痩せた身体は、力強さというものがまったく伝わってこない。


 一般人にはあり得ない強烈なオーラを放つその男は、とても世の中を変革させるほどの運命を背負っているとは思えない。


 ──なんだ、このギャップは?


 彼女の頭の中は、はてしなく困惑の色に染まり続ける。

 これが、占い師の女性と茅島団司との、最初の出会いだった。


 なにはともあれ、占い師である彼女としては、団司の未来に興味がある。


「あなたを占いたいのだが」


 その言葉に、さっきまでニンマリしていた団司の顔に陰りが差す。

 彼女は、すぐに団司の心を読みとった。


 ──占いを、うさん臭い商売だと思っているのだろう


 しかし彼女は、なんとしても団司の未来を知りたい。


「料金はいらない。私が占いたいのだから、タダでいいよ」


 彼女がそういっても、団司の顔色はさえない。


「お願いだから、ちょっとだけ付き合ってもらえないかな」


 独身男性にとっては、なかなか強力なセリフである。占い師は、苦笑いを浮かべる団司を前にして、机においてある白い巻物をひろげる。


「そこに右手を置いてくれないか」


 彼女は、ボディーガードの男やシスター・マヤを占ったときと同じように、白い布きれの左上方部を、自分の左手の人差し指で示す。

 団司が、それに応じる。


「えいっ」


 ダンッと、右手の掌をその箇所に思いきり叩きつける団司に、占い師は眉をゆがませる。


「そんなに強く叩かなくてもっ」


 直後、占い師の彼女だけが読める青い文字が、団司の右手が置かれている横の空白の部分に浮き出てくる。それは、文字というより記号といった方が良いかもしれない。

 いずれにしろ、その文字は占い師である彼女しか見ることも読むこともできないものだ。


 ──これは……


 彼女がそれを頭の中で、集中力を極めるかのように読んでいるときだった。「まさか!」と驚愕するような言葉が、団司の口から出てくる。


「へえ、おもしろいね。なんて書いてあるの?」


 団司の声にガバッと顔を上げた彼女は、目を大きく見開き、内心おののいている表情をそのままに団司に尋ねた。


「あ、あなたには、この文字が見えるのか?」


 団司は当たりまえのように「うん」と、うなずく。


「でも、どこの国の文字かわからないから、読めないや」


 団司はそういうが、占い師の女性以外にこの青い文字が見えるのは、彼女の一族の人間だけである。

 しかし、それなら見えるだけでなく、読めるはずなのだ。


 団司を呆然と見つめていた彼女は、文字が浮き出ている布きれの方へ、ふたたび視線を落とす。


「…………」


 真剣なまなざしで文字を追う彼女は、やがてその疑問を解くに至った。


「そうか」


 落ち着いた顔で団司を見上げる彼女は、待ち焦がれていた人物に、ようやく会えたといった心境で語るのだった。


「あなたが、使者だったのか」



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