保安隊海へ行く 98
要の怒鳴り声が耳からはなれない。そんな状態でゆっくりと目を開ける誠。ドアを叩きつける音にようやく気がついて起き上がると、そのままベッドから降りて戸口に向かう。太陽はまだ窓から差し込める高さではない。頭をかきながらドアを開けた。
「おせえんだよ!さっさと着替えろ!」
島田と菰田。珍しい組み合わせに誠は目を疑った。
「それとこいつ。返しとくぞ」
寝ぼけた目で菰田から渡された三冊の雑誌に目をやる。この前のコミケで買った18禁同人誌だと確認すると自然と意識が冴え渡った。
「どうしてこれを……」
「あのなあ、お前がよこしたんだろ?部屋にあると野球部の女性陣に見つかるとか言って図書館に持ってきたじゃないか」
誠はようやく事態が飲み込めた。
西館の二階の三つの空き間。そこは保安隊下士官男子寮に於いては『図書館』と呼ばれるエロの殿堂である。その手の雑誌、ゲームや動画のディスクなどが山ほど保存されている。
「あそこに来るんですか?西園寺さん達は?」
「だから急いでるんだ。お前は少ないから良いがこいつは……」
含み笑いをしながら菰田を見つめる島田。
「うるせえ、とっとと着替えて来い!」
そう言うと菰田が力任せにドアを閉めた。確かに何度か入ったことがある。どこの部屋だろうが平気で歩き回るシャムやエロ本を見つけると階級を盾に横領するアイシャ。ましてや誠が入部したことを口実に明石と一緒にやってくる明華なんぞに見つかればどういう制裁が待っているかわからない。
誠はとりあえずTシャツにジーンズと言うラフなスタイルで『図書館』に向かった。
「消臭剤はどうした!」
「西が買いに行ってます!」
「急げよ!島田!サラはどう動いてる」
「さっき電話した時は起きたばかりだったみたいだから3時間くらいはどうにかなるぞ!」
まるで戦場である。島田と菰田が仕切り、茹でたてのウィンナーを食べながらその様子を見守るヨハンが駆け回る隊員達に握り飯を配ってまわる。『図書館』の中に入る。畳の下からダンボールを次々と運び出す管理部の面々。据えつけられた端末のコードを巻き取っているのは技術部員だ。
しかし、それ以上に饐えた匂いが鼻についた。見たものの不信感を増幅させるような積み上げられたティッシュペーパーの箱。
「島田先輩。本当にここでいいんですか?」
誠はそう言いながら部屋を見渡す。
「大丈夫だって。この部屋の存在は寮の男子隊員共通の弱みだ。誰もこの部屋のことは知られたくないはずだからな」
「そうよねえ。知られたくないわよねえ」
島田と誠が振り向いた先には満面の笑みのアイシャと、消臭剤を買ってきたばかりの西からスプレー缶を取り上げている要。そしてこめかみに指を当てあきれているカウラの姿があった。




